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外伝 『時のよすが』 絶望は緩やかな死に向かう

外伝はランダムに出現します。いずれ本編とリンクします



 /3人称視点/


 ---1000年前---


 ある少女は特別な力を持ってこの世に生まれ出た。

 一つは、神剣と呼ばれるこの世界に二つとない、人々の希望が込められた世界の楔を振るう力。

 二つは、特別な魔術。

 三つは、この世界の運命を変えるほどの奇跡を呼び寄せる力。



 カノンと呼ばれた彼女は特別な力を使い、魔の軍勢を追い払い続けた。

 戦乱の世に突如として現れた迷宮(ダンジョン)

 その中に潜む魔物。

 世界を滅ぼす魔王とまで呼称された7人の魔人達。


 多くの仲間に出逢い、助けられ、国家の助けを借り、空に浮かぶ要塞を作り、世界を滅ぼしうる魔人を1人、また1人と長い年月を掛けて退け続けた。


 次第に彼女は勇者と呼ばれるようになる。 

 

 マニアクスと自らを僭称した魔人はそのどれもが強敵であったが、最後のマニアクスはその中でも最も厄介であった。何度退けても、倒す事が出来ず、撤退を余儀なくされた。

 王国の内部に入り込み、国王にすり替わった魔人。

 その策略により内乱が起き、遂には戦争が起きる事になる。

 

 開戦から戦争は長きに渡り膠着状態に陥る事になった。

 その戦火の焔は各地に飛び火し、

 行軍の行路上に住まう民草は虐げられ蹂躙されていった。

 略奪が起き、食糧供給は間に合わず飢餓が起きる。

 女子供は攫われ、互いが互いを憎しみ合うようになる。


 命令に従う罪なき兵は魔人の策略により死者へと変わった。

 論理でなく感情を揺さぶるように煽動されていく。

  

 多くの罪なき人々を殺めねばならない事態が否応なく起きてしまった。


 次第に内外問わず兵は疲弊していき、良識が失われていく。

 多くの者が狂い始めたのだ。



 カノンの仲間も戦死者が出てきた。

 生き残った者も次第に狂っていき、1人、また1人と彼女の下から去っていく。

 


 いや、愛する者と共に過ごす事を選んだのだ。

 愛する者と平穏な生活を送る為に、去るという選択を取った者が出てくる。

 それほどまでに悲惨な世の中になっていた。



 戦争に参加していなかった国の間では伝染病や疫病が流行るようになり、飢饉が起きた。

 生き残る為に大国は小国に進軍し蹂躙する状況。

 治癒の追い付かない風土病の風邪は空気感染を起こし、爆発的に広がった病は都市機能を壊滅させた。

 原因が特定できない疫病は動植物にまで広がり、食糧を即座に腐らせ、収穫できるはずであった穀物は毒になった。



 安全な動植物でさえ手に入れる事が難しくなり、物価は高騰し平民には食糧供給が追い付かなくなった。

 教会の病床は埋まり、戦争で疲弊した兵を癒す野戦病院では民間人を受け入れるほどの許容すら確保できなくなる。

 病に伏せる民は人知れず路上で死んでいく。



 そんな連鎖が世界中で起き始めた。


 

 世界は緩やかに滅亡に向かい始めていた。

 大地は血に濡れ、死体は無造作に捨てられる。

 死体には(ハエ)(たか)り、ネズミが死肉を(かじ)る。

 

 安息の地は徐々に失われていくと実感させられる。

 

 世界中で絶望が漂い始める。

 そんな状況にも関わらず、憎悪は蔓延し戦禍は激しくなる。

 世界が結束せねばならない時だと言うのに、人々は隣人を敬う度量すらなくなっていった。 



 そして、遂に根絶者と呼ばれる絶望の化身が顕現する事になる。

 


 国が落ちた。人が死んだ。

 大地は枯れ果てた。

 生きとし生ける全てが悶え苦しみ倒れていく。

 世界が灰色に染まるかのような絶望。


 ・

 ・

 ・


 戦況を把握する為に、カノンの仲間達は地下にある隠し部屋に集まっていた。 

「もう終わりだ」

 1人の男がボソリとそんな事を宣った。 


「終わらせないよ。まだ終わってない」

 カノンは踵を返してその場を離れる。


「どこに行くの?」

 人型ゴーレムである絶世の美女が問うた。


「夜風に当たりに行くだけだ」

 歯を食いしばりながらカノンはその場を去った。

 

 彼女は辛くなると日記を読み返す癖があった。

 楽しかった日々を思い出す為に彼女はページを捲る。

 幾たびの戦場を共にした日記はボロボロになっていた。


「この時は、アレックスがルミナに振られるんだっけか……。

 ああ。そうそう。これは僕が初めてドラゴンの召喚に成功した時だったな。ブラッドの奴は漏らしてたな」


 ページを1枚1枚丁寧に捲り、そんな冒険の記憶を思い出していた。

 最初は5人しか居なかった仲間は次第に増えていき、多くの強敵を退けた記録。 


「ああ。そして」

 この後の記録は書いていない。

 仲間が初めて死んだ時から記録をするのを止めた。

 空白をなぞる。

 


 最後の魔法。

 一度も成功した事がない魔術。

「奇跡の魔術か」

 カノンは夜空の星を掴むように天に手を(かざ)す。



「そんな便利な魔術があるなら、なんで」

(出来ないんだよ!)


 1人項垂れていると足元に巨大な真円の魔法陣が青白く光り輝くと砕け散った。


「召喚術が起動している? いや……」

 カノンは焦った。勝手に魔術が起動したのだ。


(召喚術が今までと違う)

 見た事のないほど複雑な文字が城内を侵食していく。

 今までの真円の魔法陣は砕け散り、その中に書かれた召喚式が記述された不規則な文字列が飛び出す。

 立ち消えては現れ、青白い色から、濃紺、緑、黄、赤と色が切り替わる。


「何が起きてるの!?」

 カノンは神剣の鞘に手を掛ける。

(僕は何を呼び出しているんだ。そもそもなんで魔術が起動している!?)

 夥しい魔力が吸われているのがわかった。

 彼女に立つことが出来ないほどの眩暈が襲った。


 すると、夜空から白銀の光が辺り一帯に降り注ぐと。

「デデンデンデデン。デデンデンデデン。パララーパーパーパー……」

 奇妙な鼻歌を口ずさむ片膝をつく男が目の前に現れた。


 魔力が殆どなくなったカノンは、息を切らせながら。

「えっと。キミは一体……何者……だ」


「すんません。少し待ってくれませんか。今いいところなんで」


「あ、はい」


「デデンデンデデン。デデンデンデデン。パララーパーパーパー。

 アイル……ビーバック。あれ? アイルビーバックっいつ言うんだっけ?」


「あの……」

 カノンは奇妙な風体の男に目を細める。


 男は立ち上がると。

「あれ? ここは誰だ? 私は誰だ……と言うのは置いといて」

 

「うん???」

 カノンは男が1人で寸劇をやり始めたのを、見つめる事しかできなかった。


「ふむふむ。なるほど。なるほどねぇ。

 てか、中世の世界観になってるじゃねーか!?

 マジかよ。整理しろ俺。いや待てよ。いやぁありえねぇつうの! 

 あるのか!? いやいやいやいや。え? やっぱある? 

 恐ろしすぎないか時空間魔法。こんな事が……舐めてたわ。

 心の準備が出来てないんだけど。こんなイベント知らねぇぞ!」

 

 身振り手振りで1人自分と対話する男は、奇妙の一言であった。


「何を1人でやってるんだ?」


「やば! いやぁここまで来ると、なんか……なんか俺、主役みたいじゃん。

 嘘だろ。おい。参ったなぁ~。

 まぁ……なんとかなるか。そう考えておこう。うん。そうしよう」


「あの~」

 カノンは恐る恐る不審者に声を掛ける。


「え? はい?」


「お忙しい所恐縮なんだが、君は味方なのか? それとも敵なのか?」

 

 カノンは敵意のなさそうな不審な男に問いかける。


「あれ。キミはあの時の……」

 

「なんだ? 僕の顔をマジマジと見て」


「ほら。会った事あるよね? 俺に脛蹴りしてきたヤバい人」


「はぁ?」

 カノンは意味不明な言動の不審者に呆れ返ってしまった。

「僕は君の事なんて知らないが」


「あのさ。知らないで済んだらポリスメンは不要なんだよ……

 ポリスメンに言いつけるぞ。未成年でも取り締まられるんだからな!」


「何をさっきから言ってるんだ。というか君は何者なんだよ。名乗れよ」


「俺の名前だとぉ~。キミはなんて言うのさ。先に名乗りなよ。無礼じゃあないのかぁ?」

 意地悪そうな顔であった。


 カノンはさっきまでの鬱々とした感情が馬鹿らしくなっていた。

「いいから!」


「なんだよ。怖い顔して……あ~。あの俳優の名前なんだっけ……ああそうだ!」


「なんだよ?」


 ポンと手の平の上を拳で叩くと。

「シュワルツェネッガーにしとくか」



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