プロローグ④ フライング転生 そしてこの世界でやるべきこと
俺が公式かませキャラ天内傑に転生したのは、メガシュヴァの物語本編が始まる約1年前であった。
現実を受け入れるのに、しばしの時を要した。
だが、それも時間は掛からなかった。
この世界の風景をこの目で見て俺は心が躍ったからだ。
スーパーでレジ打ちするエルフのお姉さん。
郵便配達をする獣人のおっさん。
浮遊する都市。
世界各地にあるモンスターが湧くダンジョン。
何よりこの世界には魔法が根差していた。
俺が知る自然科学とは別に魔術という概念が深く浸透した世界。
そんな世界に俺は感動したんだ。
不覚にもあまりの壮大さに泣いてしまった。前世の世界より遥かに夢がある世界なのだと。
そして確信した。
この世界がメガシュヴァの世界ならメインヒロインが絶対に居るのだと。
決心した。俺にはやらねばならない事があると。
……必ず全ヒロインをハッピーエンドにして見せると。
最高のエンディングの結末、一枚絵を見るんだと、それが俺の夢になった。
だから俺は全てをかなぐり捨てて強くなってみせると。
それは俺がこの世界で唯一プレイヤー視点の目線を持つ故できる事だから。
「やるべき事は決まった。ならあとは最短のルートを行ける青写真を描くだけだ」
俺は物語開始の1年前にフライングして転生したようなのだ。
つまり、この1年で俺は強くなれる。あまりゲーマーを舐めない方がいい。この1年でかなり強くなる予定だ。
そして2大鬱ヒロインのバッドエンド回避の布石を打つ事が可能であると。
メガシュヴァの物語は、主人公風音がマホロ学園という魔術学園に転校してくる所から始まる。
マホロ学園。世界唯一の浮遊都市オノゴロ府オノゴロ市にある四年制の魔術学園。
天内というキャラは主人公と同じく高校二年時で転校してくるキャラクターであり問題児でもある。
公式設定では元不良だった気がする。
その不良である天内は、優男の主人公に因縁をつけ初回の模擬戦でフルボッコにされる。
その後主人公に事あるごとに突っかかりボコられる。そしてなんだかんだ取り巻きAになるキャラクターだ。
その後は言わずもがな、圧倒的に成長する主人公とヒロイン達に戦闘能力で置いて行かれ解説役に落ち着く事になる。
口癖は何だったか。
確かこうだ。
腕を組みながら脂汗を流し、
「やはり、天才か。とか、風音は俺が育てた。とかだったか」
一応練習しておく必要があるな。
天内がグレた理由は確か、両親の死が原因だったはずだ。
転生したてで記憶が入り込んできた際にもこいつの両親が死んでるビジョンは視えた。
それなんてエロゲ?
天内が学園に入るきっかけは、街で魔法を使い不良? チンピラ? をボコボコにしていた所、学園にスカウトされたらしい。そんな設定のはずだ。
そしてまさに雑魚キャラのように「俺には才能がある」と勘違いしてしまうそんなキャラである。
「突っ込みどころ満載すぎないか?」
なぜスカウトされるのか? 街で不良をボコボコにしてたら通報しなさいよ。
いやいや良くないな。
ギャルゲに突っ込みを入れたらキリがない。切り替えよう。
確かこれは学園本編が始まる一か月前に深夜のアダチストリートに行き、これがスカウトのきっかけとなるという設定のはずだ。
これを逃すと俺は入学できなくなってしまうと思われるのでこの日は要注意だ。
公式設定ではわからなかった事もあった。
例えば、天内の家は比較的裕福だったらしく、預金通帳を確認したらとんでもない額の預金が入っていた。
相続という形で多額の遺産が転がりこんできたようである。
まぁそれらはレベリングの為に全て使うつもりであるが。
「さて」予定を組む必要がある。
買ってきた予定帳に予定を書き込む準備をした。
「まず、半年間ギリギリまでレベリングとスキルの習得。そしてあの前日譚にまで間に合わせる」
本編開始前の半年前に当たる前日譚。
ここでとあるヒロインキャラが鬱ルートまっしぐらの布石を打たれる事になる。
確か屋敷蟲姦モノ。実家の屋敷で男どもに犯され、淫蟲を身体に寄生させられるのだ。
その虫に蟲死の刻印が刻まれており膨大な魔力と特異な肉体を有するヒロインの体を母体にするのだ。
物語の終盤でヒロインの母体から生まれたこの蟲が凶悪なボスキャラクターとして現れ多くの仲間を皆殺しにする。そんな鬱ルートである。
これを回避する必要がある。
そして前日譚で布石の打つ必要のあるキャラはもう一人居る。
これは時系列的に言えば学園本編が開始される4か月前に起こる。
こちらもヒロインキャラであるが、こちらは身売りされる少女の話だ。非常に危険な種付けおじさんモノである。
彼女は人身売買され下種に従順に従う敵キャラとして、主人公の前に幾度となく立ちはだかるキャラになるのだ。しかもこのヒロイン特殊な魔眼保有者である。
このルートも中々なハードな内容になっており攻略に骨が折れる。
このルートも回避する必要がある。
だが問題ないだろう。
物語一年前に俺が転生とかタイミング良すぎワロタわ。
「ここには俺が居る。すべてを変えられる存在であるこの俺がな。フハハハハハハハハハハ!!!」
ひとしきり笑ったところで、俺はスケジュール帳に事細かに詳細を書き込んで入念な計画を練った。