1-4 30万かよっ!by卯月
話のオチが見つかりません。
あっんのヤロー!
チビの癖に人を見下ろしやがって!
何が取引だよ、ほとんど脅迫じゃねーか。
つーか、そんなに新聞部ってことがばれたらやばいのか? 確かに入学したての俺たちが入部をするのはまだ先だからおかしいっちゃーおかしいけれど。おおかた中学の先輩のつてとかで入ったクチじゃねえのかな。
「あいつ……先輩の名前言ってたな」
もうどこまで知られてるのかわからねえよ。結崎は一体何者なんだ? あんな怪しげなもの携帯してるし、ロッカーにいるし、髪がお化けみたいになげーし、チビだし、偉そうな話し方だし。
ヴーーー。ヴーーー。
ズボンのポケットから震動が伝わる。携帯のランプが誰からの電話かを示していた。
ま、まさか……!
「有紀先輩! 大丈夫ですか!」
『えっ!? 晃君? 大丈夫って何が?』
「あ、いや……なんでもないならいいんです」
まさか結崎がこの数分で有紀先輩にまで手を出したのかと一瞬思った。このタイミングで電話がきたら誰でもそう思うだろう!?
『あの……今から少し会える? 相談したいことがあって……』
相談? まさかあのことか?
「い、行きます! 今どこにいるんすかっ!?」
好きな人から「会いたい」と言われて断る男がどこにいるか!
『うん、じゃあ……焼却炉の裏で。あそこなら誰もこないから』
ぼーっとしながら携帯の通話を切った。
ドクン。
誰も来ないってところに心臓がリアクションをとる。まさか、昨日の続き……。
って、いやいや、「相談」って言ってたじゃねーか。それにいつまた覗き野郎がくるかわからねぇ。昼間から危ない妄想に入るところだった。
俺は小走りで焼却炉に向かうことにした。
到着したとき、まだ先輩は来てなかったから空を見上げながらぽそりと呟く。
「彼氏って……言われてぇな」
そういや、先輩と初めて会った時もこんな雲ひとつない空だったっけか。屋上にいけねーのかなと思って、階段にあった荷物やら資材やらをどかしながら、鍵のかかっていないドアノブを開けた。風が頬を叩き、思わず目を細めた俺の視界にうつったのは、住みなれた街と、その中央にたたずむ有紀先輩だった。振り返って俺を見つめるあの色っぽい瞳は、忘れようにも忘れられない。
一目惚れ……だった。
俺は待つのは嫌いだ。その翌日に告白をした。
結果は……。
「ごめんね、私が呼んだのに遅くなっちゃった」
息を切らせながら俺を見上げる先輩の瞳に俺の姿がうつる。そんなに急いでこなくても、いつまでも待ってるのに俺!
「あの……ね。ケンジと……もう少しで別れることができそうなの」
「ま、まじっすか!」
ケンジとは、先輩が今付き合ってる男の名前だ。顔は知らないが、先輩が言うには暴力的で不良で、とにかく最低なヤツらしい。
告白した瞬間に、驚いて目を丸くさせてた先輩だけど、その輝く瞳から、これまた輝く涙がこぼれおちた。
付き合いたい、でも自分には彼氏がいると。別れたいのに別れてくれない彼氏がいると。
その瞬間、俺はまた一目惚れ……いや、二目惚れした。
「でも……あの……」
俺の胸にこつんと頭をもたれさせた先輩は、消え入るような声で呟いた。
「付き合ってた間に使ったお金を返せって言ってきたの……ちょっとした食事代とか、電話代とかまで」
「は、はあああぁぁっ!?」
なんだよそれ、どんだけちいせぇ男なんだよ!
「でも、お金ですませられるなら安い問題かもしれない……早く晃くんと一緒になりたいもの」
い、一緒!? それはどこからどこまで!?
よし、一分一秒でも早くその男を抹殺しようじゃないか!
「い、いくらって言われたんですか!? 俺も手伝います!」
「えっと……30万……」
…………。
……え?
「それを1週間以内に払わないと、絶対に別れない、死んでも離さないって言われた」
30万……30万……。
俺はバイトをしていない。私立で校則が厳しいこの学校でアルバイトは至難のわざだ。そして俺の小遣いは携帯代を除いて5千円。5千円が何枚あれば30万だ?
「どうしてもっと早く出会えなかったんだろう。早く堂々と晃くんの隣にいたいよ」
うっ。
「俺……なんとかしてみます! 1週間ですよね!」
先輩にそう言って、俺は校舎へと駆け出した。
やべー、やべー、やっべえええぇぇぇぇぇ!
俺の脳内が沸騰して、あやうく場をわきまえずに男特有の妄想が駆け巡った。あれ以上そばにいたら理性がふっとぶところだった。
仕方ねーじゃん! 健康な15歳の男子なんてそんなもんだろ!
はぁ……でもどうするか。
さすがにそんな大金を1週間でかき集める術が思いつかない。アルバイトしようにも、月に10万が限界だろう。親に頼むにしても金額が金額だからやっぱり無理だ。通帳に貯金いくらあったかな……。それによっては、あとは友達から借りまくってなんとかなるかもしれない。
あんな悲しい顔をさせたくない。先輩には、好きな人には笑顔でいてもらいたい。
重い気持ちで教室の扉をあける。クラスの何人かが俺に声をかけてくる。それには明るく返答。俺は私情で空気を壊すような人間が嫌いだ。
つい、教室の隅のほうへ視線を向ける。
結崎はそこにいなかった。鞄もなく、まるで最初から登校していなかったかのようにポツンと机だけが取り残されている。
嫌な予感がした。もしかしてあいつさっきの俺と先輩の会話を聞いてたんじゃないか?
今ばらされたら、先輩が二股かけてるって噂が確実に流れるだろう。そしてそれをしった(器が)小さいケンジはますますエスカレートして先輩にひどい仕打ちをするだろうし、周りからの先輩のイメージもガタ落ちになる。それだけは絶対に避けたい。
くそっ、こっちも弱みを握っていれば……。
「あれ?結崎さんってさっき教室にいなかったっけ?」
おぉ、ちょうどいいところで俺が知りたい会話が隣で行われている。サンキュー女子たち。
「あ、私さっきトイレで会ったよ。体調悪いから保健室行くっていってたー」
嘘だ!
何堂々とサボってんだよ! さっきまであんな軽やかに走ってたじゃねーか! あのチビで華奢な体つきにみんな騙されてやがる!
まぁ、トイレにいたってことは会話は聞かれてないな、よかった。
今は結崎を信じるしかないな。行動を注意しとけばいいか。
それより30万だよ、どうしよう……。
1週間で30万。
どうやって解決すればいいんだああぁぁぁ!
卯月くんのキャラがどんどんぶっ壊れていきます。どうしよう。これただの変態じゃねーか?と思った。
やっぱりしっかり筋道たててないと話があっちゃこっちゃ飛びますねぇ。この話どうやって終わらせようかな。
つーか短編にするつもりがもう4話目だし。結局長編にウェルカムな私の作品…。