1-3 熱血男は苦手だなぁ。by結崎
思いついた感じで書いてるので話の論点が自分でもわからない(笑
「あぁ……私の相棒が……はう〜」
色々見た。帰り道も見た。教室も見た。
なぜ!?
どこに行ったの私の相棒ペンシルーーーー!
力なく机に突っ伏す。頭の上で「おはよー」「今日の数学の担当ってさー」と初々しい会話が聞こえる。
まだ入学して1か月もたたないからみんな互いを観察するように声をかける。そいやぁ来月オリエンテーションだっけ? 今からグループ作らないとさみしいんだろうなぁ。
別に私には関係ないけど。
そんなことより相棒よ……君はどこへ行ったんだよ。あれまだ消去してないから見つかるとなぁ……。
「おい、結崎、ちょっといいか?」
まぁあれ見た目ただのペンだし、落ちてるペンを使う人もいないだろうし平気かなぁ。
「おい!結崎!」
あのペン8000円もしたんだよなぁ……8000円はいたいよ……。
「うぉい! てめぇシカト3連発かよ!」
「まだ2連発ですー。残念でしたー」
「て、てめぇ…聞こえてんなら返事ぐらいしやがれ」
顔をあげると、つり目をますますつらせている少年がいた。ずいぶんご立腹のようだ。
「何か用です? エロ塚くん」
「……俺は卯月だ」
「あぁ、そうだった。んで、エロ月くん、なんです?」
「うぜぇ女だな……」
顔を真っ赤にして腕を震わしている。
昨日の男はこいつだったのね。クラス一緒だけど、『卯月』と『結崎』じゃあ座席が対角線に近いぐらいに離れてるから昨日は気づかなかったわ。まだ15だというのに発情真っ盛りだこと。放課後の教室であんなことやそんなことをするような輩に優しくするほど私いま機嫌よくないしぃ。
卯月はギロっと私を睨んだけれども、一度咳払いをして、勝ち誇ったような顔をしてきた。
「なぁ、俺昨日ある物を拾ったんだけど、これお前のじゃねーの?」
ブレザーの胸ポケットから黒いペンを出して……。
あ、あ、ああああぁぁぁ!
「あたしの8000円!」
「は……は? はっせんえん?」
おっと間違えた。
「それ探してたの、ありがとう」
差し出してくれたペンを受け取ろうとしたら……。
卯月くんはひょいっと自分の頭の上までペンを上げる。
……へ?
「ちょっと顔かせ」
そう言うと私の腕を引っ張って学校の外まで拉致られた。
「お前、これどういうつもりなんだよ!」
ずいっとペンを突きつけてくる。
無論返してくれるわけではない。
「どうと言われても……。それはペン以外の何者でもないんだけど」
「これ……盗撮の道具じゃねーのかよ!」
あら、さっそくばれてるのね。あーあ、失敗。厳密に言えばそれは盗撮用ではなく、重要な会議の記録を手早く行う為のペン型ビデオカメラなんだけどね。ちょろっと改造して画質と音質を良くしてあるけど。
「興味ないとか言っておきながら、俺の……を撮りやがって」
肝心なところの言葉を濁している。お前は少女か? 乙女か? 最近乙女チックな男が増えてるって聞いたけど、こういうやつのことを言うのだろうか。
「って、んなことはいいんだよ! 恥ずかしいこと言わすな!」
私は何も言ってないんですが。
「この中に入ってた動画。うちの学校の男子トイレで生徒が喫煙してた」
「……」
「掲示板で貼られてた停学者の写真と同じだった」
「……」
「お前が撮ったのか? 新聞部ってお前のことか?」
面倒だなぁ。何で微妙に鋭いんだろうこの卯月は。
うーん、やっぱりしゃべるわけにはいかないよなぁ。一応約束だし。でもこの剣幕だと、絶対見逃してくれそうにない。卯月は今にも飛び掛ってきそうなぐらいのオーラでこっちを見ている。
なんかおかしい。
確かにあんな映像が流出すればただではすまないだろうし本人たちも恥となるだろう。
でも、果たしてそれだけでこんなに焦るだろうか?まるで誰かにばれたら終わりだとでも言うかのように。昨日もこの違和感は私の中に残っていた。まだ昨日の時点では私が、ついいつもの癖で撮影していたのを知らなかったはずだ。けどこいつはあの時も「誰にも言うな」と必死で訴えていた。恋人同士なら堂々としてればいいのに。
恋人同士……。
ふぅん。
ま、いいや。
私には関係ナッシング。
とりあえず相棒を返してもらいましょっと。丁度目の前にあることですし。
「オッケー、わかったわ。事情を話せば満足?」
首を曲げて上目遣いに卯月のことを見る。私の身長じゃあほとんどの男子にたいしてこうとるしかないんだよ。ぶりっ子風であんまり気に入らないんだけど。
「お、おぅ」
上ずった声で返ってきた。何を焦っているんだろう?
「ちょっとあんまり大きな声で言えないんだよね」
ちょいちょいと卯月を手招きして耳を貸すようにジェスチャーする。
「あ? な、なんだよ」
少し屈んでもらい、その耳元に手をあてがい、
「ねぇねぇ」
こう、耳打ちする。
「有紀先輩の唇はやわらかかったです?」
ぼんっという音をたてて、卯月の顔がポストのようになった。
あ、予想通りすぎてこいつ面白いかも。
「な、あ、だ、え…」
どうやら状態異常『言語障害』になったらしい。
ポストマンになってるうちに力の緩んだ右手から相棒を奪い返した。
「あ!てめえ!卑怯だぞ!」
卯月が正気に戻った時は、私は既に校舎の中に入って教室に向かう階段を上っていた。
ふふん、結崎ちゃんは身軽なのさ、多少引き離せば撒くのは容易い……。
って。
「ぎゃ!あいつはやっ!」
何あいつ、陸上部!? 階段を5段飛ばしぐらいで追いかけてくる。
このままじゃ教室にたどり着く前に追いつかれちゃうよー。
「うー、しゃあないなぁ」
私は逃げることをやめて階段を上りきったところでくるりと振り返り、卯月がこっちを見ていることを確認して、私の相棒を……。
制服のシャツの中へ放り投げた。
「……あっ! おまっ!」
卯月の手が目の前で止まる。
これをとるには、私の”制服を脱がせる”しかないわけですよね。
それをやってのけたらさすがに
「くっそー! 卑怯だぞ!」
打つ手をなくしたのか、階段でがっくり膝をつき『挫折ポーズ』をとる卯月。
「まぁこれもとより私のだしね。確かファイル削除はパスが必要だったからデータは丸々残ってるわね、うんうん」
さて……、とりあえず吹聴されたら私も困ることだし。
「ねぇ、卯月。そいじゃあ一つ取引しよっか」
にっこりと笑顔を向ける。卯月は「はぁ?」と眉間にしわをよせる。
「停学者の写真については他言無用ってことで。もしもあんた以外の人物が知った場合……」
ちらっと制服から相棒を見せる。
「次にあの掲示板に載るのは君かもしれないね♪」
「あ……う……わ、わかった……」
「物分かりがよくてよろしい、それじゃあね」
挫折ポーズの卯月を背に、軽やかに階段を駆け上がった。
あーあ、しっかし入学半月でばれるたのはしくじったなぁ。この学校で3年間やっていけんのか私?あいつになんて言い訳しよう……。
「……ん?」
3階まで上りきったところで自分の教室に向かおうと思った時、さらに上の段に人が歩いて行くのが見えた。「もしもし?」と携帯で誰かと話しているみたいだ。丈の短いスカートをふわりとひるがえしながらさらに上……屋上へと上がっていく。
……。
ふぅん。
…これはコメディと言えるのかどうかわかりません。
作者、笑いを書くのは苦手かも知れない…。
この「ペン型ビデオカメラ」っていうのは本当にあります。やはり会議とかを録音、録画するものだそうです。みなさんは決して盗撮につかってはいけませんよ。