1-2 見られちまった!by卯月
今回はもう一人主人公の卯月君視点です。
びくぅ!
マジでびびった。
先輩が去って、ふと真横に設置されていたロッカーを見たら、
そこから人間の髪の毛がはみ出てるじゃないか!
あれだ、その、なんだ。よくいじめられっ子が閉じ込められて夏休み明けに変わり果てた姿で発見とかいう……。
ぞぞぞっ!
さっきまでの甘い余韻が一気に消え去り、目の前の正体をどうしようか立ちすくんだ。
俺は卯月晃。この緑王高校に入学したての15歳。仲間作ってバカ騒ぎするのが大好きな、まぁありふれた人間だとは思う。
まずはさておき、これ(ロッカーから出てる毛)の正体を確かめるのが先決だ。
まさかオカルトな展開に……いやいやいや、俺はそういうのは信じない。
ゆっくりとロッカーへ近づく。やべぇ、すっげー心臓バクバクじゃんか俺。
目の前まで歩み寄った時。
おぅわ!
謎の髪の毛がひゅるっと中へ入っていった。
これは……。
1.ますます怪しい、正体を確かめる
2.自分の身が大事、見なかったとこにする
どうする、2択だ、どうするオレ!?
でも、もしかしたら開かなくて誰かが困っているのかもしれない。純粋に助けなくちゃいけない状況なのかもしれない。
よっし、意を決して俺はロッカーに手をかけた……が。
「あれ?開かねぇ……」
軽く引っ張ってもびくともしない。少し強く引っ張ると、ぐらついたが、まるで誰かが反対側から引っ張ってるような反動で頑なに開くことを拒んでいる。
「は……入ってます……」
か細い女の声が聞こえた。
は!?
え?ここはトイレか!?
もしや、最近の高校は各教室にトイレを設置することにより「先生ーちょっとトイレ行きたいですけどー」と言って授業を抜け出す生徒を防止しているのだろうか。
だとたら、ノックもせずに開けようとして申し訳なかったな。
「あぁ、悪ぃ、って、んなわけあるかー!」
このふざけた応対で一気に恐怖は吹き飛び、力任せにロッカーを蹴っ飛ばす。
中で音が響いているのか「ふぎゃあああ!」という色気のない悲鳴が聞こえてきた。
今度こそロッカーを開ける。すると、真っ黒い塊が転がり出てきた。
いや、体の半分以上が髪の毛で覆われているけれど、女生徒だ。
「ひうぅ……その攻撃はひどいよぉ」
目をぐるぐる回しながら上体を起こしたそいつは、見覚えのある顔だった。
同じクラスの……確か結崎だ。話したことはねーけど、ケツまである長い髪はそれだけで存在感がある。
てか、コイツ何やってたんだ?
つーか見られた!? 先輩との……を見られた!?
お互いに気まずい空気が流れる。
「そいじゃ、ま、そーゆーことでー」
めっちゃ視線を明後日のほうに向けながら結崎は教室を出て行こうとした。ひいてる、ドン引きオーラが結崎を包んでいる!
「ちょっと待て!お前、このことは誰にも――」
「い、言わないわよ。そんな……空き教室でAとかBとかCとか禁断ワールドとか」
「そこまでやってねーよ!てめーには何が見えてたんだよ!」
結崎の華奢な両肩を掴んで壁に押し付ける。やばいやばい、これは絶対にやばい。
「ほんっとーにこのことは他言無用で頼む!」
俺のあまりにもの剣幕に大きい目をまんまるくしながら驚く結崎。
「それは……教師の耳に入ると学校生活が危ういという意味でか?」
「…………」
それもある。この学校は私立だけあって無駄に校則が厳しい。さすがに恋愛禁止なんて時代遅れなものはないが、校内でいちゃついていれば即効『不純異性交遊』という名目で処分が下る。
でも、それだけじゃなくて……。
「……ふぅん。ま、君の事情は興味ないからいいよ」
かわいい顔に似合わず冷たい言葉をはなつ。俺の手をうざったそうにどかして教室の外に出ていってしまった。
つーか、あいつ言葉遣いおかしくね?
何か女らしくないというか……男らしいわけでもないけど、何か中性的な感じがする。
つーか、やべぇ、もしもあいつが誰かにしゃべったら……。
「ん? なんだこれ?」
足元に黒いペンが転がってる。万年筆ぐらいある太くて黒い形状だ。
結崎のか? これまた女らしくないボールペンだな。
そのまま置いていってやろうかと思ったけど、同じクラスだし、明日もう一度念押すために話すし、持って帰ることにした。
廊下に出たすぐの掲示板をふとみる。
『以下のもの、校内での喫煙により2週間の停学処分とす』
簡潔に並んだ文字の下には、鮮やかなカラー写真が一枚印刷されている。
男子生徒が二人、楽しげに会話をしながら口に白い棒…煙草をくわえている。場所は恒例の男子トイレだ。
「つーか、『以下のもの』って名前じゃなくて顔写真かよ」
告知紙の下には「By 新聞部より!」とハイテンションなアピールがしてある。
どういうカラクリでこの写真撮ったんだ?まさかトイレに隠しカメラ……いや、それは違法だよな。
もしかしてさっきのも捕られてたりする可能性あんのかな。
「ま、いーや、帰ろ」
〜〜〜
「あーーー!今日は焦ったぁ……」
まさか先輩があんな大胆にくると思わなかった。
今日! 俺のファーストキス完了!
先輩のやわらかい唇。甘い香り……はあぁ、俺今日死んでも絶対後悔しない。
くっそー、あの電話さえなければ……なければ……。
『しよっか?』
「うおおおおお! それはあれか! やっぱりあっちの意味かああぁぁぁ」
ベッドに倒れこみゴロゴロと転がる。もしもあのままいってれば……もう一つ卒業できたのに!
いや、でもそしたら大変なところを結崎に見られるところだったし……あれでよかったのかもしれない。
制服を脱いで床に放り投げたら、カランと音をたてて黒いものが飛び出してきた。
拾ったボールペンだ。
真っ二つに割れてる!
「やべっ、俺こわしちまったか!?」
転がった時に体重かかったのかもしれない。
「……ん? なんだこりゃ」
壊したわけじゃなく、二つに分かれる形状のものらしい。
あれか、芯をとりかえる時用のやつか。
って? は?
このボールペン……手で握る側に銀色の端子が埋め込まれてる。
これは……パソコンにつなぐUSBケーブル?
「何で結崎がこんなものを?」
つーか、これ本当に見た目ただのボールペンだったぞ。いまどきのメモリースティックはこんなタイプまで出てるのか。
中身……何入ってるんだろう。
「拾ったの俺だし、もしかしたら他のヤツのかもしれないし、見てもいっかな」
いいかな、いいよな。なんせ拾ったの俺だし。
好奇心に負けて、俺は自分のパソコンを立ち上げ端子を差し込んだ。
数秒たって、ピロンっと端子を読み込む音が聞こえる。
中にはファイルフォルダが二つ入っている。「2xxx0414」と「2xxx0420」となっている。
これって日付だよな。4月20日は今日だ。
クリックしてみる。
動画?
クリックしてみる。
画像の上と下は黒くなっててよく見えない。隙間のようなところから何かが動くのが見える。
『…ねぇ』
甘い女の声が聞こえる。
え? ちょっと待て、これって…。
『しよっか?』
バタンッ!
画面が叩き割れるほど勢いよく閉じる。
……。
えっと
今のは……はい?
先輩と……俺。
フラッシュバック?
え? 俺の余韻が実体化?
「って、そうじゃない! 何だよこの映像!」
安全な取り外しとか関係なく端子を引っこ抜く。
結崎……あんのやろう……!
興味無いとか言ってた癖にばっちり盗撮してんじゃねーか! てゆーかこれってただのメモリースティックじゃねーのかよ!
どういう仕組みだ……? これ。
しげしげとボールペンを眺める。
まったくわからん。
「……もう一つのファイルは何だ?」
やっぱり気になる。
もう一度端子を差し込んで、今度は「2xxx0414」のファイルをクリックする。
やっぱりまた動画ファイルだ。
クリックする。
……。
……。
「え? これって……どういうことだ?」
意外と早く書けた。
この卯月君は実は初期設定では美男子カリスマ完璧生徒会長で、結崎ちゃんをも押し倒すというとんでもないエロ設定でした(笑)というか、この話は元々エロ小説にする予定だったんです。
けど、作者はエロシーンが書けないのであえなく却下。じゃあボコボコに崩そうと決めて今の卯月君が生まれました。
トイレで煙草は吸っちゃいけませんよねぇ。