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朝ですか? いいえ、お昼前です

「きゃあああああっ!?」


 昼前になるとベッドの方から女子の悲鳴が聞こえて来た。


「えっ? なんで? なんで、あたし下着着けてないの? 意味分かんない!」


 どうやらサンドリヨンが目を覚ましたらしく部屋の中でギャーギャーと騒いでいる様だ。


「目が覚めたのかサンドリヨン。身体の調子はどうだ?」


 寝室に入りサンドリヨンに話しかけると挨拶代わりに枕を投げ付けられた。


「入ってくんな蒼井の変態! バカ、むっつりスケベ! なんなのよあたしのこの格好は!?」


 そう言って毛布で自分の身体を隠すサンドリヨン。毛布の隙間からは色白の生足が見え隠れしていた。


「すまない。流石に裸は不味いと思って適当な服を着せたんだが……」

「だからってなんで『裸ワイシャツ』なの!? しかも彼シャツとか完全にあんたの趣味でしょ!」

「いや、俺はどちらかと言えば女子の寝巻きはモコモコのパジャマ派なんだが」

「いや、あんたの好みは別に訊いてないから!」


 顔を赤らめて騒ぐサンドリヨンは尚も不満の声を上げる。


「それになんかあたしの身体から石鹸の良い匂いがするし。あんた、もしかしてあたしの身体洗ったの?」

「ああ、血が大量に付いていたからな」

「信じらんない! 乙女の柔肌に許可なく触るとか極刑もんの重罪なんだからね!?」

「安心してくれ。直には触っていない」

「そういう問題じゃないから!」


 会話の最中で昨夜の風呂場でのシーンが脳裏をよぎったが、邪な劣情でしかないので脳内から全力で掻き消した。


「あわわ、蒼井にお姫様抱っこで連れて行かれて優しい感じの手つきで身体を洗われてたのって、やっぱり夢じゃなかったんだ……ヤバイ、死にたいほど恥ずかしい」

「…………」


 どうやらサンドリヨンの方も微妙に意識が残っていたらしい。お互いのためにもその記憶は忘れて欲しいところだ。


「だいたいなんであたしの服を脱がしてるの!? そこからキチンと説明して欲しいんだけど!?」

「手当てに邪魔だったし、何より血みどろの服を着させているのが不憫ふびんでな」

「だからって下まで脱がす必要あった? 怪我をしてたのは胸の辺りよね!?」

「いや、上下ともに血でドロドロだったんだ。それに着せたまま寝かせるとベッドと部屋が血で汚れるから」

「だからって……」


 事情を説明してもサンドリヨンは納得していない様子だった。


「ねえ、蒼井。あんた、あたしの(もにょもにょ)……見たでしょ?」

「…………」


 顔を赤らめたサンドリヨンが俺に何を問いたいのかはおおむね察せられるが……それを話すとパートナーシップに溝が生まれそうなので全力でスルーした。


「……安心しろ。君の怪我は古傷以外全て完治した。君の綺麗な肌は今も健在だ」

「いや、そうじゃなくて──えっ? 嘘? 傷跡が残って無い?」


 衣類ワイシャツの下にある自分の胸元を覗き込んで怪我の有無を確認するサンドリヨン。


「言われてみれば痛みも全然無い……そもそもあんな大怪我をどうやって治したんだろ。ねえ、蒼井。これってどういう事?」


 サンドリヨンの問いかけに俺は冗談混じりに答える。


「通りすがりの魔法使いがシンデレラに魔法をかけたんだよ」

「いや、それだと魔法が解けたら傷が元に戻るやつじゃん!」


 サンドリヨンの的確なツッコミに俺は「大丈夫だ」と返す。


「君の傷の治癒は“経験者”の俺が保証するよ。後遺症の類は一切無いから安心してくれ」

「……蒼井が治してくれたの?」

「そうだとも言えるし、そうじゃないとも言える。少なくともこの治療は俺個人だけでは出来ない芸当だ」

「…………」


 ポツリと一言。サンドリヨンは俺に意外な質問をする。


「……ねえ、もしかして蒼井も『改造人類リノベイター』なの?」


 その青い瞳には少しばかり恐怖の色が浮かんでいる気がした。


「自分がそうであればと願ったことは何度もあるよ。願った回数の分だけ自分の無力さを嫌というほど思い知らされてきたからな」

「……そっか。そうなんだ」

 

 今度は納得したらしくサンドリヨンの口から安堵の溜息が漏れる。


「はぁ、なんかバカみたいに叫んだら頭がクラクラしてきた。しんどい」


 おそらく貧血を起こしたのだろう。サンドリヨンはそのままパタリと倒れベッドに横になる。


「無理はするなよ。怪我は治せても損失した血液までは戻せてないからな」

「……今何時? ていうか、あたしどのくらい寝てたの?」

「おおよそ半日だな。もうすぐ正午になる」

「学校は?」

「一日くらい休んでも問題ないだろ?」

「くぅ、皆勤賞取り損ねたっ」


 中途半端な時期に転入してきた生徒に皆勤賞が適用されるかはさておき、今はとりあえずサンドリヨンが無事に目覚めたことを喜ぶべきだろうか。


「君もそろそろ腹が減ってきただろ? 何が食べたい? リクエストが有れば可能な限り応えるよ」

「……とりあえず肉。出来れば分厚いステーキで」

「……分かった。材料を調達して来るから暫く待っていてくれ」


 そう言って部屋を出ようとするとサンドリヨンから「べつに急がなくて良いから」と断りが入る。


 てっきり催促されると思っていたが──


「ごめん。ちょっと一人にさせて」


 俺はその言葉の真意を察せれないほど鈍くないと自分では思っている。


 あんな事があったばかりだから。色々と考える時間は必要だと思う。お互いに。

 

「……分かった。夕食までには間に合わせるよ」


 そう言って背を向けた時にサンドリヨンは一言。


「翔太郎」


 俺の名前を呼んで。


「助けてくれてありがと。借りはちゃんと返すから」


 そんな、照れ臭そうな調子で感謝の意を伝えた。


「気にするな」


 急に苗字呼びから名前呼びに変わった心境の変化とか、色々と訊きたいことはあったのだが。


 まぁ、自分で気にするなと言ったんだ俺も深いことは気にしないで良いだろう。


 いや、一番の問題はむしろ『こっち』の方か。


 俺はタワーマンションから出た後でこっそりと財布の中身を確認する。


 残金はおよそ千五百円くらい。


「……どっかにステーキ肉の特売とかやってる店ねーかな」


 真に一番気にしなければいけない事は主に俺の金銭面なのかもしれない。

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