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真夜中の舞踏会III

「でぇぇぇりゃああっ!!」


 やけくそ気味な雄叫びをあげて獅子奮迅の活躍を見せるサンドリヨン。神がかった足技で次々と犯罪者たちを固い地面に沈めていく。


「これでラスト!」


 鬼神めいたサンドリヨンは貨物倉庫に待機していた責任者リーダーらしき巨漢の頭にムーンサルトキックを喰らわせて新体操選手顔負けの鮮やかな着地を披露する。


 戦闘開始から一時間未満で累計十人の犯罪者を殺害した。


 社会のゴミ掃除としては上々だが任務の戦果としては微妙なところだ。


 結局のところ、この麻薬密売組織は『奴隷市場マーケット』の多重下請けで自分達の元請けが何者かすらも誰一人として知らない様子だった。

 

「ふぅ。これで撃墜スコアはあたしが六人で蒼井より二人多いから……勝負はあたしの勝ちね!」


 テンション高めなサンドリヨンは勝ち誇った様なドヤ顔だった。


 倉庫に突入する際に「撃墜数で勝負よ!」と言っていたが……どうやらあれは冗談ではなかったらしい。


「負けた蒼井に何を要求してやろうかしら。ヤッバ、何だか急にワクワクしてきた!」

「罰ゲームをするならお手柔らかに頼む。出来れば金銭面は遠慮して欲しいな」

「ふっふーん。そう言われると余計にやりたくなるわねー」


 意地の悪い笑顔でニヤニヤと笑うサンドリヨン。君までアイツの真似をするのか勘弁してくれ。


「……なるほど、君はSの素質があるな」

「丁度いいんじゃない? 蒼井がMだからwin-winの関係になるわよ」

「勘弁してくれ」


 戦闘が終わり気が緩んだのかサンドリヨンは懐からスマホを取り出して現時刻を確認する。


「おっ、ギリギリだけど今日中に片付いたわねー。後は処理班に連絡して事後処理を頼むだけね」


 終わってみれば呆気ないものだった。

 半年ぶりの空白期間ブランクで対人戦闘に支障が出ると一抹の不安を感じていたのだが……どうやら射撃の腕はまだび付いてはいないらしい。


「何はともあれこれで任務完了ね」

「お疲れ。君のおかげで早く片付いた」

「ふ、ふん。とーぜんよ、あたしがいれば百人力なんだからね?」

「ああ、すごく頼もしいよ」


 俺がそう言うとサンドリヨンはポツリと何かを呟く。


「……あたし達って意外と相性良いのかな。援護も的確ですごく戦いやすかったし」


 俺をまじまじと見詰めるその碧眼はどこか好奇心を抱いている様に見えた。


「何か言ったか?」

「な、何でもない。蒼井がMだから嫌がらせしたら逆にご褒美にならないかなって心配してただけ」

「OK。君の中での俺のイメージが変態と遜色そんしょくない事だけは分かった」

「えっ、蒼井さんって変態だったんですか? 申し訳ないですけど気持ち悪いんで半径一メートル以内に近寄らないで下さい。よろしくお願いしまーす」

「サンドリヨン。君は唐突な敬語が時に人を傷付けることをもっと知っておいた方がいい。日本の格言に『親しき仲に礼儀あり』という言葉があるが逆にかしこまられ過ぎると過度な疎外感を覚える場合もあるんだ。今後は留意してくれ」

「いや、まず変態を否定しなさいよ。何あっさり受け入れてんの……」


 そんな他愛のない会話をしながら二人で倉庫から出ようとした瞬間だった。


「いやはや、随分と楽しそうな御様子ですね。羨ましい限りです」


 俺とサンドリヨンの間にいる『人影』からそんな言葉を投げかけられた。


「「……っ!?」」


 おそらくは同時。コンマ数秒のズレも無く、俺とサンドリヨンはバックステップで距離を取り、自分達の間に立っている『見知らぬ人間』に対して最大級の臨戦態勢に移行する。


 俺はリボルバーを構え、サンドリヨンはレッグホルスターからナイフを引き抜いた。


 声を掛けられるまで全く気配に気付かなかった。しかもこんな近距離まで接近を許してしまった。

 その事実がゾワゾワと全身に悪寒を走らせる。

 その感覚が脳内に悪いイメージを刷り込ませる。


 もしも敵なら殺されていたかもしれない、と。


「……ふむ。どうやら、パーティーには間に合わなかった様ですね。私は『間の悪い人間』だと他人に良く言われるのですが……その見解はあながち間違ってはいないのかもしれませんね」


 俺は淡々と自分語りをする乱入者を観察する。


 身長はおよそ160センチ後半くらいか。俺よりもだいぶ低く、サンドリヨンよりも少し高い。


 黒の燕尾服にシルクハット、顔には髑髏ドクロ仮面マスク、片手には銀色のステッキ。その奇怪な装いは『怪人』と呼称しても問題がないほど不気味な存在感を放っていた。


 中背中肉。ボディラインだけでは男女の判別が困難なほど中性的な体格だった。


 声も仮面マスクを通しているせいなのかどこか合成音声の様な機械的で人間味のない声だった。


 ただ一つだけ言えることは、知り合いにこんな怪人めいた不気味な存在は一人もいないという事だけだ。

 間違いなく味方ではない。


「……誰よあんた。どこの組織の者なの? まさかこの状況で実は仮装パーティーの参加者で会場を間違えたとか言わないわよね?」


 それは対面で怪人に質問を投げかけるサンドリヨンも同じ様子だった。


「これは失敬。自己紹介がまだでしたね。名乗るほどの者ではありませんが……そうですね、あえて名乗るなら『劇場の怪人(ファントム)』と申し上げましょうか」


 ファントム。亡霊というよりもオペラ座の怪人の方がニュアンス的には近いだろうか。


 まぁ、不気味さという観点ではどっちも大差ないが。真面な人種ではない事だけはハッキリしている。


「職業は『便利屋』とでも言っておきましょうか。私に依頼が入れば時には人を殺し、時には物を盗み、時には舞台で奇術マジックを披露する。神出鬼没の奇術師マジシャン、それが私ことファントムでございます」


 礼儀正しい所作で深々と頭を下げたファントムは言う。


「以後御見知りおきを、死に急ぐ少年少女の御二方」


 便利屋。奇術師。どれも胡散臭い肩書きだ。


 ファントムは組織アストライアに敵対する勢力の一人なのだろうか?


 敵意があるなら自己紹介なんて悠長な真似はしないだろう。

 裏社会に生きる住人なら名前と顔は知られていない方が都合が良いはずだ。


「ファントム。君の目的は何だ? 自己紹介を聞いた限りでは特定の組織に属している様には思えないが?」


 率直な疑問を投げるとファントムはこちらを向いて質問に答える。


「はい、その通りでございます。私はどこの組織にも所属していない自由契約フリーランスの便利屋でございます。ああ、そうだ。一応、一言だけ断りを入れますと私はこう見えても仕事と依頼人は割と選り好みするタイプなんですよ」


 どうやらファントムは見た目に反して饒舌じょうぜつな人間らしい。


 どうせならここに来た目的も喋って欲しいところだが。


「不敬を承知で私からも一つ、あなた方に質問してもよろしいでしょうか?」

「……俺が答えられる内容なら」

「感謝します。ではお言葉に甘えて、あなた方はどこの組織の暗殺者アサシン……いや、諜報員エージェントの方が正しいですかね?」

「……暗殺者ではないとだけ言っておくよ」

「なるほど。末端の下部組織とはいえアジア圏、ならびに大陸をも牛耳る悪名高き『奴隷市場マーケット』に手を出せる組織は限られてますからね」


 ファントムは俺たちの正体が気になるらしく、ペラペラと推理の真似事を始めた。


「例えば、同じ三大組織の一角であり北米を中心に各国の主要企業を束ね経済圏の要である『企業連合ユニオン』。同じく殺しを専門にする傭兵と暗殺者を統括する南米大陸最大の商社『自由兵団フリーカンパニー』。後は、G20加盟国の警察組織と独自のコネクションを持ち世界警察の異名を持つ『正義の天秤(アストライア)』。奴隷市場マーケットと敵対出来る組織はそれくらいでしょう。そうは思いませんか、少年?」

「…………」


 ファントムは自由契約フリーランスの便利屋と自称する割に随分と裏社会に精通している様子だった。


「まぁ、あなた方が暗殺者や傭兵でないのなら消去法で『企業連合ユニオン』か『正義の天秤(アストライア)』の二択になるのですが。はたしてどちらの組織の諜報員エージェントでしょうね?」

「俺たちが組織に所属しているとは限らないだろ?」

「御冗談を。十代の少年少女が後ろ盾も無しに個人で殺しをやるなど不可能ですよ」


 俺とサンドリヨンの手元に視線を送りファントムは指摘する。


「それにあなた方は丸腰の私に対して凶器を向けている。私がこんなに友好的に接しているのに警戒心を解く素振りがない。察するに、かなりの数の死線を潜り抜けているとお見受けします」

「…………」


 嫌な人物評価だと思った。骨の髄まで見透かされている気がして酷く心がざわつく。


「……不審人物が目の前にいれば誰だって警戒すると思うが?」

「違いますね。あなた方は私を本能的に敵、しかも格上だと認識しているんです。私は是非ともその『理由』を知りたいんです」

「悪いが答える義理は無い」

「分かりました。では、こうしましょう」


 高らかに両手を広げ、ファントムは俺たちに挑発めいた誘い文句を言い放つ。まるでお手並み拝見と言わんばかりに。


「どうですか、手合わせのつもりで私と一曲踊りませんか?」


 その挑発に先に乗ったのは俺よりも好戦的なサンドリヨンだった。


「人のことナメくさって!! でぇぇぇりゃ!!」


 地を揺らす様な咆哮の後。大地を蹴り上げ、サンドリヨンは顔面狙いの回し蹴りを繰り出す。

 風を切って飛ぶツバメの様なその足蹴あしげは確実にファントムの顔面をとらえていた。


「ふむ、勇ましいですね」

「…………っ、この!!」


 しかし、ファントムは木枯らしの季節にひらひらと舞う枯葉の如くサンドリヨンの足技をことごとくかわしていく。


「どうしましたか? 先ほどまでに魅せていた技の冴えが今の貴女からは感じられませんよ?」

「ごちゃごちゃとうるさいわね!」


 ファントムの言う通り今のサンドリヨンの足技には違和感が有る様に感じられた。

 ただ闇雲に威力があるだけの雑な蹴りを放っている様子だった。

 戦闘の疲労が今になって現れたのか、明らかに精度が落ちている。

 

「ふむ、どうやら貴女の『強さ』には時限性の制約か何かがあるみたいですね?」

「蒼井! 援護!」


 質問に一切答えず俺に援護要請を出すサンドリヨン。

 援護をするべきだとは思う。

 だが、しかし──。


「無理ですよ。射線軸上に貴女がいる限り彼は私に手出し出来ない。先ほどの戦闘でもそうだったでしょう?」


 そう、万が一にも流れ弾が当たる可能性がある以上、俺は援護射撃を行えない。


 どんな理由であれ味方撃ち(フレンドリーファイア)は二度とごめんだ。


「分かりませんか? 彼はポジショニングも考えないで馬鹿みたいに突っ込む貴女にずっと気を遣っていたんですよ。私だったらそんなパートナーは願い下げですけどね」


 その発言は俺たちの戦闘を影からずっと観察していたことの裏付けでもあった。


 通りすがりを装っていたのは俺たちを油断させるブラフだったのだろうか?


「……くっ。さっきからうるさいのよ! あんた!」


 前蹴り、ローキック、ハイッキック、回し蹴り、ナイフによる斬撃。サンドリヨンはありとあらゆる攻撃を繰り出すもその猛攻は何一つとしてファントムに擦りもしなかった。


「挑発に乗るな! 誘われてるぞ!」


 警告の声がサンドリヨンの耳に届いた頃にはもう既に状況は悪い方へと傾いていた。


 遅いですよ、と怪人ファントムは嘲笑う。


「【舞台を壊す怪人に影は無いファントム・オブザ・エリック】」


 それは紛れもなく常軌を逸した怪奇現象だった。


 まばたきをした一瞬の間に、ファントムの身体がその場から文字通り『消失』した。


「嘘……消えた?」


 サンドリヨンは目の前で起きた怪奇現象に驚愕する。


「その場から離れろサンドリヨン! 相手は改造人類リノベイターだ!」


 ブスリと。一突き。


 ステッキの先端がサンドリヨンの胸を背後から貫いた。


「……あ、がっ……」


 ゴボリ、と。

 サンドリヨンの口から真紅の吐血が溢れ出した。


「ふむ。胸を貫かれても悲鳴をあげませんか。気丈ですね」


 ファントムは冷静にかつ冷酷に俺たちを観察する。


「なるほど、改造人類リノベイターをご存知ですか。ならば、なおのこと手ぶらで帰るわけにはいきませんね」

「ファントム!」


 感情に任せて銃口を向けるも引き鉄を引く事ができない。


「そうですね。私が彼女を盾にしている限り貴方は撃てない。分かりませんね……わざわざ『足手まとい』を生むリスクを作ってまでペアを組む理由が、私には到底理解出来ませんよ」

「…………っ」


 今更になって二人で闘う理由を問われるとはな。

 考えるまでも無い。二人で闘う方が圧倒的に強いからだ。

 俺は何があっても、誰かに否定されても、それだけは今でも信じている。


「……誰が、足手まといだって!」


 サンドリヨンは持っていたナイフを逆手に持ち、後ろ手でファントムの胸部めがけて刃を振りかざす。


「残念ですが見えていますよ」


 サンドリヨンの起死回生の一撃は二本指の白刃どりであっさりと防御されてしまった。


「やれやれ、手心を加えて心臓を避けて刺しましたが……暴れられると面倒ですね。貴女は捨てましょうか」


 刺していたステッキを引き抜いてファントムはサンドリヨンを雑に投げ捨てる。


「…………っ!」


 ファントムが離れるその一瞬に合わせて俺は迷わず引き鉄をひいた。


 無駄だと分かっていても撃たずにはいられなかった。


 発砲の後、キン、と金属めいた音が鳴る。ファントムが銃弾をステッキで弾いたことは目視で確認しなくても明らかだった。


「勿体無い。精密な射撃が逆に災いしてこちらの弾道予測を容易にしているとは。ヘッドショットを狙うなら正面以外から撃つべきでしたね」


 首を鳴らして余裕を見せるファントムは不気味な笑い声を上げる。


「ククッ。とりあえず、尋問の前に手足の一二本は潰しておきますか。【舞台を壊す怪人に影は無いファントム・オブザ・エリック】」


 再度その場から一瞬で姿を消すファントム。


 俺の目から見てもファントムの姿が影も形も無いのは明白だった。


 一か八かだが、試してみるしか無いな。


 懐から取り出した閃光手榴弾フラッシュバンのピンを抜き、それを背後に向かって放り投げる。


 耳を塞いで一秒にも満たない刹那の後、鼓膜が破れそうなほどの轟音が倉庫に鳴り響いた。


 煙が立ち込めている中で自分の足元だけを注視して自分以外の人影シルエットを探す。

 映った人影は一人分だけ。

 影すら映らないのなら答えは一つしか無い。


「……能力は差し詰め『認識阻害』ってところか? なぁ、そうだろファントム?」

「……驚きましたよ少年。二重の意味でね」


 ゆらりと、煙の中から現れたファントムの声にはまだ余裕が残っている様に感じられた。


「まさか、この短時間で私の能力を看破されるとは思いませんでしたよ。ちなみに『認識阻害』の見解に至った根拠をお訊きしても?」

「理由はいくつかあるが決定的な要素は『影』だ」

「ほう、影ですか?」

「ああ、背景に同化する単純な『透過』や『迷彩』なら使用者の周辺に影が発生するんだ。だけど今回はそれが無かった。それに気配も、いや呼吸音すらもまるで感じられなかった。だから俺は認識そのものを阻害していると思ったんだ」


 この解に辿り着けたのもアイツと共に戦った経験のおかげだろう。


「ククッ。まるでカメレオンみたいな『能力者』と戦った事がある様な口ぶりですね。まさか御経験があるのですか?」

「言っただろ。答える義理は無い」


 もう一度、銃口をファントムに向ける。奇術マジックのタネが割れても現状では有効な打開策が無い。

 だが、それでも諦めるわけにはいかない。俺はまだアイツに会えていない。


「いやはや、つれないですね。しかし、ますます貴方に興味が湧いて来ましたよ。是非とも『体験談』をお話しして貰いたいですね」

「悪いが死人に口無しだ。次は道連れで『自爆』するぞ」


 虚勢ハッタリ虚言ブラフが通じる相手とは思えない。だが、やれる事は全てやるしかない。


 しかし、緊迫感で張り詰めた精神の糸は思いもよらない形でプツリと切れた。


「おや、失礼。電話が入りましたので少々お待ちを」


 戦闘中にも関わらずファントムはそんな断りを入れてスマホを片手に誰かと通話を始めた。


「はい、私です。ええ、はい。目的の品は現場にありませんでした。どうやら偽情報ガセネタを掴まされた様ですね」


 通話の最中でもファントムは油断する素振りがなく視線は常に俺に向けたままだった。


「いえ、サボっているわけではありませんよ。ただ、現場で面白い少年と出会いましてね」


 ピンと人差し指を立て「巻きで喋るからもうちょっと待って」というジェスチャーをするファントム。


「ええ、将来有望そうなので私が少々つまみ食い──分かりました。次の現場に向かいますよ。では失礼します」


 通話が終わるとファントムの仮面から深い溜息が漏れた。

 

「ふぅ。やれやれ、金払いの良い依頼人クライアント冗談ジョークというものが通じませんね。真面目過ぎると人生がつまらなくなるというのに」


 カツカツと、ステッキを鳴らしファントムは言う。


「名残惜しいですが舞踏会はこの辺りで御開きとしましょう。私は次の仕事に向かいますので失礼しますよ」

「この状況で逃がすと思っているのか?」

「逃がしますよ。貴方は私よりもそちらの彼女の方が心配でしょうから。そうですよね少年?」

「…………っ」


 何もかもお見通しみたいなファントムの言動がたまらなく不愉快だ。

 だが、それ以上に内心で安堵している自分に酷く苛立ちを募らせているのもまた事実だった。


「最後にお尋ねしますが……少年、貴方のお名前は?」

「……蒼井翔太郎」

「……ああ、なるほど。全てが腑に落ちましたよ。貴方が、そうだったんですね」


 ファントムは去り際に俺に向かって名刺らしきカードをトランプカッターのように投げ放った。


 それを受け取るとファントムは「依頼が有ればそこに連絡して下さい」と告げる。


「また会いましょう翔太郎くん。今度会う時は二人きりでじっくりと楽しみたいですね」

「……ファントム。次は俺が、いや“俺たち”が必ず勝つから首を洗って待っていろ」

「ククッ、それは楽しみです。では御機嫌よう」


 ファントムが視界から完全に消失してから暫くの間、俺は銃を構えたままその場を動く事が出来なかった。

 

 この短時間で恐怖を身体に刻み込まれた。そう理解した瞬間に自分が裏社会に戻ったのだと改めて実感した。


 俺が恐怖を振り払ってサンドリヨンの側に駆け付けた頃には──もう既に、彼女は大量出血により瀕死の状態だった。

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