表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
愛している人は近くて、遠い  作者: ギリゼ
第1章 柔和な日差し
47/145

第47話VSコアントロー



 10分後、休憩を終えた三中知努とコアントローは庭の中央で向かい合っている。その様子を玄関の扉付近で2人が見物していた。



 実力を確かめ合う前に彼はレモンジュースことユーディットと一緒にこれから何を行おうとしているか訊く。



 若い頃、不良3兄弟の喧嘩っ早い娘と呼ばれていた彼女の母親と違い、白木文月はオシャレを楽しむ所謂ギャルだった。



 今でこそ生活安全課の刑事へなっている知努の叔父も昔は姉や鶴飛火弦と同じく非行に走っていた過去がある。



 2人のせいで三中忠文も若い頃、とんでもない悪行を重ねていたと周りから誤解されるが単なる女装好きの変態だった。



 スタンガン、鉄パイプを所持している従姉2人は何かとんでもない計画を立てているようにしか見えない。



 コアントローに謝罪しなければ教えないと言われ、渋々、彼は指示通り謝罪する。ふざけているようなゴムマスのせいか笑わずに出来ない。



 「あんたの監視。コアントローとかレモンジュースってコードネームはノリで付けただけ。服装も一体感を出すために貰っただけだし」



 目的が分かった事で武器を持っている理由も彼はおおよそ理解した。もし、問題行動を起こせば力づくで彼女らに止められる。



 基本、血の気がほとんど荒くない泣き虫な三中知努は他人と争う事を嫌っていた。彼が鶴飛火弦と喧嘩した理由は仕方なくだ。



 2人の思惑を知った彼はポケットから分銅鎖を取り出してコアントローとの試合が始まった。



 剣豪と名高い二天一流(にてんいちりゅう)の宮本武蔵が行った60余りの試合で唯一、夢想権兵衛(むそうごんのすけ)神道夢想流状術しんとうむそうりゅうじょうじゅつだけ、敗れたと言われている。



 コアントローが持つ鉄パイプもまた使い方次第で様々な戦い方を繰り広げられる危険な武器だった。



 幼い頃からコアントローこと白木文月とよく遊んでいた彼は喧嘩の際、いつも泣かされている。菓子の取り合い、玩具の取り合いなど様々な理由で喧嘩して全敗だ。よく意地の悪い姉と内心思っていた。



 「うちがあんたに勝ったら1ヶ月、うちの言う事を何でも聞かないといけない罰ゲームを用意しているし。まぁ、頑張んなよ」



 三中知努が着ている大事な衣類を汚すように彼女は片手で砂を投げてくる。なかなか距離を詰められない。



 2人の試合を見ながらユーディットと染子は賭けをしている。ユーディットが知努、染子が文月の勝利に賭けた。



 的中した人間がゴールデンウィークの大阪旅行で泊まる旅館で彼と同じ布団に寝られる権利を貰える。当然、彼の許可は得ていない。



 「チー坊が勝ってくれないと私、あなたと一緒に旅館で眠れないわ。だから頑張って!」



 「あの、ディーちゃん? ちょっと色々端折(はしょ)りすぎてて僕、全く話が見えてこないんですけど」



 彼女が投げる砂を片腕で振り払いつつ不意打ちを狙い振ってくる鉄パイプの攻撃も避ける。



 宮本武蔵が天草の乱で一揆衆の投石で脛を負傷させられた話は有名だ。それだけ、遠距離の攻撃は難儀させられる。



 従弟の体は丈夫と思っているのか文月の攻撃は容赦なかった。もし、投げた砂が目に入り、目くらましされている中、鉄パイプを当てられると流血してしまう。



 距離を取ってから彼が唐突に彼女へわざと軽蔑されるような発言をした。とても従姉に言う内容でない。



 「俺ってさ、ギャルはあんまり好きじゃないけど、あの白いルーズソックスから少し見える黒いハイソックスだけはそそるんだよね」



 幸い、今の文月は黒いストッキングを穿いているため彼の欲情を誘う心配がなかった。しかし、普段からルーズソックを履いている。



 動揺しているのか鉄パイプを持っている右手が震えていた。従弟に性的な目で見られる事は複雑な心境だ。



 「こ、この脚フェチ変態馬鹿従弟! 2度とそそれないような体にしてやるし!」



 鉄パイプを両手で持ってから頭上へ構えて彼の元に突き進む。さながら牛か猪かパキケファロサウルスだ。



 この勢いで振りかぶる鉄パイプを分銅鎖で何も考えず受けようとすれば力に押し負け頭上へ直撃してしまう。



 しかし、この単純な攻撃こそ彼が待ち望んでいた手段だった。わざと避けようとせず両端を持った分銅鎖を頭上へ構える。



 上手く受け止め切れず脳天を叩き割られると思ったのかユーディットが悲鳴を上げつつ両手で顔を覆った。



 一瞬、半歩後ろへ下がり、鉄パイプの衝撃が弱い先端付近を受け止めてそのまま巻きつける。



 引き離そうと彼女が必死で引っ張るも彼に主導権を支配されて難なく手元から奪われてしまった。



 手持無沙汰へなってしまった彼女に合わせて知努は武器を片付ける。喧嘩らしい素手の戦いへ移った。



 「こういうアツいのもなかなか悪くないんじゃない? ユーディット、染子が出来ない様な愛の確かめ方!」



 彼女の中に眠っている母親譲りの血の気が多い性分を目覚めさせたのか彼の横腹を殴る。苦悶の顔になりつつも彼が少し戸惑う。



 勝手に試合を無粋なものへ変えられてしまう。彼自身、文月に対して全く恋愛感情を抱いていない。



 幼少期から何度も彼に喧嘩で勝ち征服感を得てしまい、気づけば禁断の恋愛感情へ発展してしまったようだ。



 彼女が彼の所有権を1ヶ月間、握ろうと企てていた理由は恋愛感情からくる独占欲に他ならない。



 「馬鹿っあのなぁ、好きだの抱かれたいだので動かないと格好付けていた奴はどこのバニー服部だ?」



 スカートの中に道具を隠している彼は迂闊に蹴りが繰り出さないため何度も足ばかり回し蹴りされる。



 全力で殴ってしまえば無事で済まないため手を抜いていると悟られない強さの打撃で頬や鳩尾へ反撃する。



 下腹部を蹴ろうとして拳が鳩尾へ入れられた彼女は呼吸困難に陥り、地面へ蹲った。口から涎が垂れつつ何度も咳き込んだ。



 必死に呼吸しようと1分間、奮闘し正常な呼吸が戻った彼女は降参した。彼の体中へ痣が出来ている。



 おぶりを彼女にせがまれて仕方なく従い、見物人たちがいる玄関付近へ向かう。賭けに負けた染子が心無い一言を浴びせる。



 「お前が勝ったせいで私、大阪旅行の旅館でお前と添い寝出来ないじゃない! ホント、空気が読めないわね」



 「俺が負けていたら君は一体、どうやって重症患者と旅館で添い寝するつもりなんだい?」



 ユーディットに試合の賭けをしていたと教えて貰い、普段、体罰を加えない彼は2人の頭を軽く叩いた。



 レモンジュース、コアントローとの試合が終わった彼は開放感を得ていた矢先、3人と同じ服装の女性が現れる。



 右手には模造刀か真剣か分からない鞘へ納められている日本刀を携えていた。厄介事が向こうから訪れる。



 「私とあなたが再会する事は運命だったのよ。会いたかった、ずっと、ずっとこの日を待ち焦がれていたの」



 帽子に付いたベールで隠されている不気味な豚のマスクから歓喜に満ちている美しい女性の声が聞こえた。

 

 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ