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愛している人は近くて、遠い  作者: ギリゼ
第3章龍に成れなかった鯉
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第134話猟奇妃


 サバンナに生息する動物達の展示場はライオンで終わった為、知努はその旨を伝えて、ユーディットを降ろす。染子が公衆の面前で不適切な苦情を出すと、絹穂は秋菜の両耳を手で塞ぐ。


 体重の事より匂いを気にしていたユーディットが、彼の後頭部は彼女の癒される匂いが付いたと弁解する。しかし、知努は動物達の獣臭い匂いが付着しているかもしれないと受け流してしまう。


 ユーディットに頬を抓られながら、彼はピューマの展示場へ連れて行かれた。こちらに背を向け、就寝している。顔が見えず、ユーディットは雌ライオンと見間違えていた。


 ドイツのスポーツ用品銘柄のロゴに採用されており、大きな瞳が愛らしい。頬を解放された知努はピューマが熊や猪と同じく危険な動物である事を説明した。


 彼の身近にも体毛の薄いピューマは生息していると冷やかし、京希がスマートフォンの画面をユーディットに見せ、数秒もしないうちに知努の足は踏まれてしまう。


 無言でユーディットが彼にも動画を見せる。長身長髪の女子は巻いていたタオルを解き落としながら知努の元へ駆け寄り、飛び付く。一糸纏わぬ姿が物の怪のようだ。


 京希と交際している頃、祇園家の廊下で撮影された。ユーディットは同じ抱擁を今度する事を伝え、彼が絶句してしまう。すっかり狩りの標的となっていた。


 品の無さを予想して、絹穂も動画を再生する。そして、痴女の奇行から芸能事務所の喜劇に出演した女優を思い出す。男性共演者の股間へ指を弾いている印象が強く、知努はすぐ察した。


 以前、この動画を京希が知羽に見せてしまい、しばらくストリート出身のぬいぐるみを隠される。雌ピューマは三中兄妹の仲を幾度と無く、悪化させた。


 猛獣らしからぬ様子を撮影し、彼らが猛禽類の展示場に進む。鳩や雀と違い、鳴き声は全く聞こえない静かな場所だった。一帯の檻に何もいない可能性を染子が疑う。


 しかし、その予想を裏切り、近くの檻は使用中だ。メガネフクロウが檻の止まり木に立ち、こちらを見ている。左右の半円を描く白い毛は眼鏡のようだ。


 横の丸太に3匹の餌用鼠が置かれていた。まだ食事前なのか、形状の崩れは見られない。道端で事切れた猫の惨たらしい死骸を連想し、小学生が泣かずに済む。

 

 小型哺乳類を餌にする現実を受け入れられない忠清と秋菜は、知努の背後へ隠れた。桃色の肌を露わとしている鼠の姿から染子が生まれたばかりのクーちゃんを連想する。


 ユーディットはしゃがみ込んで、口元を押さえた。只ならぬ様子に、知努がしゃがんで彼女の背中をさする。幸い朝食を吐き戻さなかったが、怯えは怒りへと変わり、彼女が立ち上がって硬く拳を握った。


 京希に説教されている染子は、ブラックジョークだと言い訳し、反省しない。そして、絹穂が精神疾患女子と加虐性愛女子を甘やかす知努の接し方を非難した。


 「その2人は俺を困らせて楽しむ悪い娘達だから、厳しくしても無駄だよ」


 幼少期から彼の気を引きたがる絹穂の性分は変わっていないと文月はからかう。頬を少し赤らめ、彼女が目を反らし、それ以上何も言わなくなった。


 メガネフクロウと同じく、小型哺乳類を好むソウゲンワシやニホンイヌワシの展示に行き、彼らは撮影する。まだ餌を与えられていないのか、鼠が見当たらない。


 儂より小柄なセーカーハヤブサの檻は、野生の現実を教えるかのように、背中の皮膚が広がった餌の鼠達を置いている。カマキリに捕食されたバッタのどす黒い内臓は、この光景と比べると、カニ味噌同然の認識を知努が抱く。


 食欲旺盛な白い獣達と共生する京希は、彼に餌の値段を訊く。フクロウを飼育する一般人がいた為、猛禽類を取り扱う店舗で餌の鼠は販売している。


 1匹当たりの値段が、猫達と千景に大人気の間食、数本より高いと彼は説明した。稀にクロマグロの赤身を食べるカナコとヨリコより贅沢な食事環境だ。


 背開きの鼠に畏怖を抱いていない絹穂が、昼食の話題を出した。常人と違う価値観を持つ彼女に、文月は『猟奇妃』の渾名を付ける。しかし、話の腰を折れなかった。


 「もうお腹空いたのかな? お昼は串カツだよ。1ヶ月の食費がライオン並に要りそう」


 「ほざいてろ、女誑しミーアキャット」


 彼の上着からスマートフォンを抜き取り、絹穂がSNSで彼に成りすまして、『カリンニングシューズ』になりたい願望を投稿する。数秒もしないうちに、反応された。


 『俺が右側になるから、チー坊は左側な』


 先月末、夏鈴の伴侶になる事が決定した従兄、斎方櫻香だ。靴に欲情する彼の性癖が理解出来ず、事態の収拾を諦めて、絹穂はスリープモードにして戻す。


 猛禽類に飽きた小学生2人が次の動物の檻へ向かう。そこでいた動物を気に入り、立ち止まる。絹穂と知努は後を追い、動物の正体を確かめた。


 チョウゴクオオカミが右前足に顎を置き、眠っている。ピューマと違い、素早く起きられる体勢だ。秋菜は以前観たアニメ映画の影響で、オオカミは人語を介すと勘違いしている。


 目の前のチュウゴクオオカミに、他の仲間達が日々、赤子をカゴに入れて色んな家庭へ配達していると話し掛けた。二田部家ではコウノトリの代わりに、山犬が赤子を運ぶと吹き込んでいる。


 怪獣や熊の幼体と呼ばれていたクーちゃんの正体を忠清は疑う。毛の色合いや丸みのある顔立ちが狼より熊に近い。成長し、田畑を荒らしたり、人を襲ったりしないかを心配している。


 猟犬として、熊や猪にも立ち向かう犬種の為、育て方を間違えた場合、事故に繋がってしまう。知努はクーちゃんを安全な家族として育てる事を忠清に約束した。


 数分が経ち、LIFEにヘラから画像とメッセージを送られる。端午の節句らしく、床へ伏せていたクーちゃんの頭に白い折り紙の兜を乗せて、記念撮影している画像だ。


 『ミニラ役のオーディション、お待ちしてます』


 かつて、秋田犬の飼育を反対していた女性は、息子のように子犬を溺愛しており、愛犬が銀幕へ出る日を夢見ていた。クーちゃんが登場する新作の入場者特典は、着ぐるみを着た『ゴジクーちゃん』のキーホルダーだ。


 忠清に画像を見せながら妄想を話していると、ユーディットが酷評した。しかし、過去の入場特典は同じ格好のハムスターのキーホルダーだ。


 チュウゴクオオカミの寝姿を見ながら忠清は、アニメ映画の残酷な描写で笑う染子の異常性を話す。侍の両腕が弓で射られ、千切れてしまったにも拘らず、彼女はそれを楽しむ。


 知努が同じ場面を観て、発情した女子から接吻を迫られる経験を打ち明けて擁護した。京希は2人の狩猟本能を原因として考える。時折、白猫達も玩具で遊ぶ最中、狩猟本能を刺激されて凶暴化した。


 「クーちゃんに悪い影響を与えるから、害獣2匹は駆除するべきよ」


 ユーディットの大腿部へ染子が膝蹴りをする。片足の力を入れられなくなってしまい、彼女は座り込む。すぐさま知努がしゃがんで、介抱をした。


 ユーディットは治療を理由に接吻を求めたが、断られる。彼の甲斐性の無さを責めながら肩へもたれ掛かった。


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