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愛している人は近くて、遠い  作者: ギリゼ
第1章 柔和な日差し
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第13話人使いが荒い家系


 20分後、3人の暴走により、台無しとなった親睦会が終わりを迎える。男子達は甲斐性を見せようと、女子達より多く会計時に支払う。


 店を出ると、近くの駐車場に停めていた黒い乗用車の傍で、黒い羽織姿の人物が立っている。下は灰色の男性用袴を穿いており、任侠映画の主役にしか見えない。


 双眸に力強さを持ち、厳かな雰囲気を醸し出している。待ち人の姿すら銀幕の世界を彷彿とさせた。かつて多くの男性が、不器用で孤独な生き様に、惹かれる。


 文月はその人物の元へ駆け寄り、催しの終了を伝えた。乗用車の前方に、3つの光芒で有名な標章を付けており、男女問わず、その車体を撮影する。


 知人なのか、染子が胸の膨らみで女性と判別出来た人物に、送迎を頼んだ。風貌通りの重低音の声でその女性は拒否した。


 「オメーの席()ぇから! 吐いた唾飲まんとけよぉ!」


 染子は振り向き、知努に乗車の説得を命ずる。しかし、彼がどこからか出した黒のサングラスを掛けて腕組みし、部外者を装う。


 文月と着流しの女性は乗り込んで、彼らに後部の標章を見せながら駐車場の出口へ向かった。


 「去勢して、胸にシリコン入れているカマ野郎! チ〇コしゃぶってろ、ボケが!」


 周りの視線を気にせず、染子が巻き舌で悪態を吐く。豹変のあまり、彼女の機嫌取りをする男子生徒は誰1人としていなかった。


 大人への反抗心が強い知努すら、着流しの女性に刃物のような眼光を向けられると、怯えてしまう。彼や櫻香にとって、もう1人の父親同然の存在だ。


 幼少期から2人と強固な信頼関係を築き上げ、支配していた状況は染子にとって屈辱的なのか、わざと何度も喧嘩を売る。実力行使に出られた場合、また幼馴染を盾に使うつもりだ。

 


 現地解散し、幼馴染と別行動中の知努は、誰かの荷物持ちをさせられている。その隣で歩く彼女が肘で彼の脇腹を突いた。


 「チー坊は私の恥ずかしい姿を描いて楽しい?」


 知努は盗まれている絵の行方を察し、作品の意図を話す。しかし、従姉の怒りが収まらず、彼の肩へ寄り掛かりながら淡泊な返答をする。


 住宅街まで来て、多少の機嫌を取り戻したのか、従姉は絵の感想を呟く。


 「だらしない染子みたいで嫌だけど、髪を梳いている裸の私、ナルシストになりそうな位、《《綺麗》》」


 彼女の更なる詮索を避けたい知努は微笑んで感謝し、話題を終わらせようとした。従姉の絵より刺激的な裸婦素描ラフデッサンが、彼の部屋に隠されている。


 没収した作品を他の人間に見られないようにする名目で、彼女が所有権を主張した。彼はそれを認め、秋田犬の話題に変える。


 新たな秘密を暴かれず、知努は彼女を家の前まで送った。従姉が立ち止まって目を閉じ小刻みに跳ねながら《《オーストリア式の挨拶》》をせがむ。


 従姉の要望通り、知努は目を閉じて屈み、唇同士を軽く重ねる。彼女の両腕が襟首へ回り、腰を両足で挟まれた。


荷物を地面に置き、彼も両手を腰へ持って行く。互いの首筋や頬を舐めて、昂る気持ちを解放した。知努の耳朶を甘噛みし、彼女は額を重ね合わせる。


 頬が桃色に染まり、上気していながらも彼女は目を伏せた。そのまま、耳に纏わり付くか細い声でいざう。


 「貴方の《《想い》》、確かめたいわ。ずっとこの日を待っていたの」


 彼が従姉の耳に口付けし、頷いた。地面へ降ろし、荷物を持ち上げて彼女を知努の家に連れて行く。従姉の家は昼寝中の子犬がおり、《《飼育に悪い声》》を聞かせられない。


 すっかり情欲を制御出来なくなった2人は浴室でシャワーを浴びている最中も、口付けを交わす。唇を離した途端、彼女が彼の硬い砲身を両手で掴む。


 それを路面バスの《《シフトレバー》》に例え、右方向へ振る。知努はバックギアの切り替えを指示しながらシャワーを止めた。


 脱衣所でバスタオルで体を拭き終わると、まだ従姉が駐車の練習と呼びつつも彼の砲身を股に挟む。先程の熱を取り戻し、彼は2人だけの愛に浸る。


 「私の恥ずかしい秘密、全部教えちゃったわぁ。でも、チー坊との初体験、とても良いぃ、幸せぇ」


 数十分後、2度目のシャワーを済ませ、制服姿の彼女が夢見心地で女装中の彼に体を委ねていた。知努は従姉の性的嗜好を把握しており、行為の主導権を握る。


 甘美と程遠い女体を貪り尽くす内容だった。その結果、彼女が彼の支配を受け入れている。淫靡な笑みを浮かべ、彼の顔を見上げた。


 「貴方の優しい笑顔は愛おしい、ちょっと意地悪だけど、貴方になら全てを曝け出せる。だから、いつまでも私を愛して」


 「もし、三中知努の心が私から離れた時は、《《貴方の幸福を奪うわ。》》」


 知努は微笑みながら頷き、涙を零す。脱衣所を後にして、彼が再度、従姉を家まで送る。子犬が目覚めて、家族の姿を探す頃合いだ。


 塀の横で知努は別れの挨拶をして、従姉に《《ドイツ式の挨拶》》を受ける。頬を打たれても情けない声を出すだけだ。


 彼女が玄関に向かう様子を確認し、スマートフォンを取り出した。1件のメッセージを受信している。


 午後7時から動物病院へ飼い犬を連れて行く予定の男子中学生が、急遽行けなくなったようだ。


 『今バーニングチヌラと、デストロイソメコーが隣で大暴れているから行けなくなった』


 『必要な書類は靴箱の上に置いてあるよ。後、興味本位で取ってきた姉ちゃんの(ブラ)》をその下へ隠しているから戻して欲しい』


 メッセージの送り主、鶴飛庄次郎は、飼い犬の予防接種と間抜けな行為の尻拭いを要求していた。


 鶴飛家の人間が一体、三中家の嫡男をどのような存在だと思っているか、彼は1度訊かなければならない。


 姉の下着で何を企んでいるか同性の知努は分かっていたが、やはり嫌悪感を抱いてしまう。盗みを働く人間に情けなど与えないと考えていた。


 しかし、庄次郎に説教出来る固い貞操概念を持っておらず、黙認するしか無い。


 染子の部屋へ下着を戻す最中に彼女と遭遇すれば、泣くまで痛めつけられるか、身ぐるみ剝がされ、晒し物となる。


 まだ染子は下着を見つけていないのか、怒りの着信が無かった。知努は、憐れな成犬を動物病院へ連れて行かなければならない。


 『代わりに連れて行くけど、知らないよ? もしシャーマンが急に起き上がれなくなって、もっと動物病院へ連れて行けば良かったなと後悔しても』


 『約束すっぽかしても、下着泥棒してもシャーマンは庄次郎の味方なのに』


 彼の罪悪感を煽るような返信をして、知努は鶴飛の家に向かう。庄次郎が姉の暴力を受ける運命から救い出す役目は引き受けない。



 見慣れた庭付き和風住宅の前に到着して、緊張しながら門を開け、玄関の扉へ近付いた。


 匂いと足音で分かっているのか、玄関から離れた犬小屋の鎖に繋がれているロットワイラーは吠えない。


 生きた金庫と呼ばれているロットワイラーだが、少なくともこの犬は日中、小屋に籠っている。


 欧州で飼育されている個体より大人しく、ただ威嚇吠えする位しか番犬の役割が果たせない。老犬特有の毛並みの悪さと無縁だが、既に平均寿命の8歳だった。


 鶴飛家の人間に頼まれ餌やり、散歩、予防接種へ連れて行く事をしているせいか、すっかり家人と認識されていた。


 玄関へ入り、靴箱の上に書類らしき物が入ったファイルを見つける。そのすぐ横に飼い犬用の口輪とリードがあった。


 初めから庄次郎は、面倒事を知努へ頼む気でいたようだ。書類を持ち上げ、白い下着一式が現れる。幸い、染子の靴は掘置き場に見えなかった。


 脱衣所の洗濯機に下着を隠す方法が無難だ。下着を取ろうと手を伸ばし、背後から玄関の開閉音が聞こえた。


 「野良猫が入り込んでいるわ。それにしても随分大きいわね」


 知努は向き直り、スクールバッグを持っている染子の姿が見え、動揺した。言い訳を思い付かず、彼は咄嗟に謝罪する。


 庄次郎の間抜けな行動で、彼女の信用を著しく失ってしまうかもしれないが、誰の助けも期待出来ない。


 「魔が刺ししてしまいました。ごめんにゃしゃい」


 「どうせ庄次郎が洗濯機から盗んだんでしょ? それよりさっき知努に腰へイタズラされたせいで火照っているから、シたいわ」


 彼は男性物の服装で行いたかったが、頬を赤らめている染子の表情は先程の従姉と似ており、それを許さないだろう。


 知努が口付けし爪先(つまさき)立ちのまま、両腕を首の後ろへ回す染子の口内を舌で味わった。


 彼を苦しませて楽しんでいる節があった彼女に、わざと相手の思惑へ従わせる事は余程惹かれていないと不可能だ。


 普段の染子の性格なら無理やり屈ませようと脛を蹴る。知努の首を支えに、両足を腰へ回してしっかり抱き締めた。


 もし、倒れた時に染子が怪我しない為、腰を落としてから重心をやや後ろへ傾ける。


 事前に計画していたのか勢いなのか分からないが、こういった男らしい事を求めていたようだ。


 敏感な上顎を舐める度、半開きとなった染子の口から熱い吐息と共に、悦楽の声が出ている。


 今朝の洗面所で、妹の知羽がたじろぐ程、2人は長く唇を重ねていた。


 しかし、積極的な染子で無いが、1時間に1回鳴る時報のような感覚で口付けしなければ、知努の体はとても満足出来ない。


 悦楽の声を漏らしながら前後へ染子の腰が動き、彼は下部から舌の付け根を焦らすように舐める。


 素早く下半身の筋肉が伸縮し染子は、ゆっくり唇を離して甘い吐息をかけながら媚びるような細い目つきで見つめた。


 「知努は本当にスケコマシね。」


 「なぁっ!? 一番言われたくない言葉、スケコマシ!」


 雰囲気を壊す下品な言葉を言われた知努の顔が赤くなり、片手でスカートの上から彼女の尻を撫でる。


 床へ染子を降ろしてから首と腰を解放され、知努はいよいよ愛を確かめ合う作業へ入った。


 1時間後、ツインテールの知努がうつ伏せで倒れている。彼の父親から借りたストッキングの局部が何故か露出しており、破らずに済んだ。


 体勢を3回程変える度、人妻、弟、妹の演技で盛り上げるように指示され、何とか無事済ませられた。


 彼女の歪んだ嗜好の犠牲となり、知努は小さい頃以来、頑なに拒んできたツインテールを作られる。


 妹の演技をしていた時が、一番染子は嬉しそうな表情を見せており、児童性愛者なのかもしれない。


 同世代の女子を姉と呼ばなければならない状況も辛く、何より下着泥棒の弟や妹になっている設定が知努は屈辱だった。


 暴力と違い、本来の人格を無視して相手が好む人格へ変えさせられる調教は彼の肌に合うようだ。そうでなければ、強制終了させている。


 染子に2回目から主導権を握られたせいで、出す量が調整されて普段より優しく甘ったるい感覚を全身で感じてしまう。


 他人を支配する甘い毒のような感覚に成すすべ無く、知努の精神へ敗北感が植え付けられた。


 半狂乱になり、行為の最中、彼は女子のような嬌声を浅ましく上げる。


 口から舌と唾液をだらしなく出す知努の顔が何度も染子のスマートフォンに撮られた。それを不特定多数に公開しなければ彼は許容する。


 無理やり精力と気力を出した代償である虚脱感も加わり、肉体から知努の魂が本当に抜けてしまいそうだ。


 小学5年生の妹設定を付けた幼馴染が放心状態の為、染子はゴミのように彼を放置してから彼女の部屋へ行く。


 徐々に落ち着いてきた知努は起き上がり、カバンの中からスマートフォンを出して庄次郎へメッセージを送信する。


 『染子姉ちゃんに下着泥棒した事はバレています。庄次郎、天からシャーマンの事を見守ってね』


 身の危険を感じ、男子中学生が助けを求めた。彼は応じず、カバンの中にスマートフォンとファイルを入れる。


 リードと口輪も持ち玄関の扉を開けた。心地良い夜風が吹く。


 底が見えない欲望を表していたかのように青い空は、すっかり黒く染まっている。


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