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第七話 試練をぶち抜き、この手で運命掴み取る! これぞ熱血乙女道!(二)


 互いに宙を猛進し、真っ正面から激突するタイタニアとアーディ。


 タイタニアの右拳と、アーディの外殻機動装甲の右拳が正面からぶつかり合う。


 接触の瞬間に猛烈な閃光と火花が発生。


 間髪入れずに急激な気圧変化が起き、衝撃波が周囲に同心球状に伝搬した。


 全推進力を右腕に乗せて、熾烈なつばぜり合いを繰り広げる。


 二人の拳がガチガチと小刻みに震えては、途切れなくパチパチと火花をまき散らせた。


《あぁ、すごい……こんなにすごい力、その身体のどこから来ているのかな? あははっ、後で中身確かめるのが楽しみ!》


「あら、この程度で驚いてもらっては困るのだけど?」


 タイタニアは余裕の笑みで答えた。


 身体の中に、有り余るほどの力が渦巻いているのをしっかりと感じていた。


 まだまだ引き出せる、もっと力を引っ張り出せる。


 出し惜しみなどしていたら、溢れんばかりの力で自家中毒になりそうな感覚だった。


 身体の中でのたうち回っている、この熱くてねっとりとした力の塊を放出したくてたまらなくなる。


「ふふふっ――そんなことでは、私のこと狩れないわよ!」


 タイタニアの背中の翼がムクっと膨張し、ひときわ明るく輝いた。


 翼が排出する熱気流の勢いが、いきなり上昇。


 アーディ機の推進力を凌駕し、どんどん前進し、競り押してゆく。


 タイタニアは己の右拳を、アーディの拳にゴリゴリとねじり込んでいった。


《わ、わぉ……なんて馬鹿力なの!》


 アーディの声に、少しずつ焦りと動揺の色が混じり始める。


 次の瞬間、バァン!と金属的で激しい衝突音が発生、アーディ機の拳が弾き飛ばされた。


 さらに勢い余って、アーディ機が後方に投げ出される。


「どうだ、見たか! さあ、お仕置きはこれから――」


 タイタニアはその光景を見て、ガシッと右の拳を握り、力こぶを作った。


 しかし、


《なーんてね! そこ、勝った気になるの早すぎるってばよ!》


 ひらりと宙で姿勢を立て直したアーディ機、間髪入れずに反撃に転じる。


 突如として、雷鳴のような炸裂音が鳴り響いた。


 何かが高速でタイタニアの身体めがけて飛来してきたのである。


 タイタニアは咄嗟に腕を交差し、防御態勢を取る。


 いくつもの火花がタイタニアの装甲思念体表面で弾け、鋭い擦過音が発生。


 装甲思念体ごしに、痺れるような強い衝撃がタイタニアの肉体に伝わってくる。


 片目でアーディ機の方を見ると、右腕のガントレット状の追加装甲を前方に突きだしている。


 アーディ機が、ナノマシンを実弾化して機銃掃射してきたのだ。


 電磁気的に実弾を加速しているため、掃射するたびに、ガントレット型追加装甲の砲身が青白い閃光を放っていた。


 闇雲に乱れ撃っているように見えるが、タイタニアの頭部や心臓部をキッチリ狙い定めている。


 防御している腕を通して、頭や胸部にガンガンと衝撃が伝搬していた。


「何なのあれ――って、痛たたたっ! くそっ、やったわね!」


 とりあえず避けなければならない。


 タイタニアは、先ほど宙を突進した際の感覚――翼を操作した際の感覚を思い起こす。


 現在は、翼を構成する思念科学素子の自律機能のおかげで、無意識的に姿勢制御が効いている。


 今度は、その翼の角度を変え出力を変え、アーディの機銃掃射を回避するのである。


 さっそく、上を目指すべく翼の角度を修正し、翼を力んでみた。


 ところが、


「ちょ、ちょっ――んぐおおおおっ!」


 どうやら加減を間違ってしまったようだ。


 一瞬にして、重力加速度の数百倍の勢いで加速し、鉛直方向に超音速で急上昇してしまう。


 両手足が見えない鎖で引っ張られ、量感満点の乳房に大きな鉛の塊をくくりつけられたみたいな感覚だった。


 それこそ、全身余すところ無くが強く引っ張られるものだから、痛いのもさることながら、不謹慎な感覚まで強くわき上がってくるから始末に負えない。


「うあ、んががが――ど、どこ引っ張ってるのおおおっ?」


 これはたまらん、いろんな意味でたまらん――思わず翼の角度を急転換。


 今度は斜め下方に急降下である。


 またしても、体中をこれでもかと言うほど、慣性の力で引っ張り上げられる。


 無数の指であちこちの肌を強くつねり上げられ、そのまま思い切り振り回されているみたいだった。


「ふん、うくくっ……ああっ、あっ……ダメっ……そこ、そんなに強く……と、止まってえええっ!」


 顔が真っ赤になり、理性が吹っ飛びそうになるのを堪える。


 普通に回避したいだけなのに、どうしていらん所まであちこち引っ張られ、この修羅場にそぐわぬ変な感覚に苦しまねばならないのか。


 『なんて理不尽なことか!』と憤るものの、急には止まれない。


 もう、がむしゃらに翼の角度を変えながら、必死に減速する。


 タイタニアの翼から排出される熱気流が、緋色に輝く軌跡を描いてゆく。


 派手に乱れ飛ぶ花火が、夜空を鮮やかに飾り立てているみたいだった。


《な、何? あたしのバルカン砲、全部避けてるっていうの? や、やるじゃない、ティナお姉ちゃん!》


 アーディの悦びと驚愕の声が、闇夜に拡声される。


 どこからどう見ても、喘ぎに喘ぎ、悶えに悶えながらめちゃくちゃな曲芸飛行をしているようにしか見えないタイタニア。


 しかし、ものの見事にアーディの機銃掃射を避けきっていたのである。


 タイタニア本人にとっては、たまったものではないが。


「う、うあああっ! と、取れる! 本当にお乳が取れちゃうううっ! あっ、そこだけはっ……」


 タイタニアは最初こそ、手足や乳房を引く力の強さに、もぎ取られてしまうのではないかと思うほどだった。


 だが、悶え苦しみながら飛び回っているうちに、徐々に感覚を掴み始めていた。


 全身に覚える痛みや不謹慎な感覚にも、次第に慣れてきて、あれこれ考える余裕が出てくる。


「ふう、ふううっ……だ、大丈夫みたいね……私の身体、ちぎれてない……これって、もっといけるかしら?」


 正確に言うのであれば、数百Gの加速度で全身を力任せに引きちぎるような力に、ゾクゾクとする心地よさを覚え始めていた。


 いささか問題がありそうな気はするが、恐るべき適応力である。


 怖いもの見たさにも似た気持ちで、背筋を振るわせるような心地よさを味わってみようと思い立った。


 急激に方向を転換し、激しい重力加速度に身を任せる。


 不規則に飛び跳ねるゴム球みたいに、弾力的に軌道を変更。


 紙一重のところで、アーディの機銃掃射を回避してのけた。


《あはははっ! やるじゃない! ならもーっと激しいのプレゼントぉぉおっ!》


 機銃掃射がいっこうに当たる気配がないアーディが、今度は左腕に装着した大型ミサイルポッドを掲げた。


 四×四、合計十六発の熱源探知型ミサイル弾頭が、白煙を噴き放ってポッドから飛び出す。


 鋭角的な曲線軌道を描き、ミサイル弾頭の群れがタイタニアに肉薄した。


「今度は何? ふ、ふふふっ……あれを避けろっていうの?」


 大丈夫、きっと自分の肉体なら耐えきれる――タイタニアは口元に艶のある笑みを浮かべ、唇をわななかせた。


 整然と並んだミサイル弾頭の群れが、今にも食らいつかんばかりに、タイタニアの眼前に迫る。


「そおりゃあああぁ――っ!」


 意を決したタイタニアが、一気に翼の出力を上げ、急加速。


 ほぼ垂直方向に飛行回避した。


 全身を襲う強烈な慣性。


 激痛と快楽を同時におぼえながら、ミサイル弾頭群をぐんぐん引き離す。


 より強く、より濃い緋色の輝く軌跡を夜空に描きながら飛翔した。


 ミサイル弾頭群が慌てて方向を転換、大きな弧を描きながらタイタニアを追跡する。


 空けられた距離を縮めるべく、加速してきた。


 ミサイル弾頭群が、タイタニアを猛追してくる。


「――うあああっ、しつこい! まだ追ってくるの?」


 しっかりと追尾してくるミサイル弾頭群に、タイタニアは一瞬驚く。


 だが、すぐさま楽しげに興奮しながら次の回避行動に移った。


 翼の角度を調節し、振り子のごとく大きく左右に軌道旋回を繰り返す。


 ミサイル弾頭群も、間髪入れずに軌道を適合させて追いすがる。


 緋色の軌跡と白煙の軌跡が絡みあいながら、夜空をジグザグに駆け抜けた。


「――ふふっ、ふあはははっ! 何これ? 避けてる、私全部避けてる! すごいじゃないの!」


 できた、本当にできたのだ。


 脳裏に思い描いたように飛翔して、ミサイルの群れを避けてみせたのだ。


 タイタニアはいつの間にか笑っていた。


 自分の身体に秘められた力を使いこなせていることに、そして、空を飛び回るという今まで味わったことがない感覚に、堪えきれないほど喜びを覚えていたのである。


 新鮮な感動に心震わせて高速飛翔するタイタニア。


 躍動感いっぱいに、夜空を飛び跳ねるように軌道を変え、肉薄するミサイルをヒラリ、ヒラリとギリギリのタイミングで避け続ける。


 接触寸前のところまで引きつけては、急に旋回してミサイル弾頭の群れを振り切った。


 敢えてミサイル弾頭の群れの中に突っ込んでは、コマのように回転し、メビウスの輪を描くように飛行して、全弾を鮮やかに回避する。


 視界に映る夜空と地面が、めまぐるしくひっくり返った。


 揺さぶりに揺さぶられる平衡感覚に、心地よいトリップ感を思える。


 四肢と乳房を引きちぎらんばかりの猛烈な慣性は、苦痛ではなく、もはや快感以外のなにものでもなかった。


 背筋がぞわっとするほどのスリルに、身体の芯が、じわっと熱く湿ってくるのが分かる。


 タイタニアはもう、すっかり心ゆくまで楽しんでいた。


《わお、楽しんでるねティナお姉ちゃん! えへへ……じゃあ、アーディも楽しんじゃうぞっ、と!》


 嬉々とした声を上げるアーディ。


 左腕に装着された、重厚な大型ミサイルポッドを前方に構えた。


 流体状ナノマシンがポッド内に流れ込み、ミサイル弾頭を次々と形成。


 追加ミサイル十六連発を惜しみなく発射してきた。


 噴き放たれる白煙が大蛇のごとくうねり、タイタニアめがけて猛進する。


 さらに右腕のガントレット型追加装甲を前に構え、機銃掃射をたたみかけた。


「何の、これしきっ!」


 タイタニアは飛行軌道を左方向に急旋回、後方から肉薄するミサイルを回避。


 そこに、軌道を先読みするアーディが、狙い撃定めたように機銃掃射してくる。


 タイタニアの眼前を横切るように打ち込まれるバルカン砲の弾幕。


「――ふんぐぐぐっ!」


 タイタニアは、身体にかかる負荷などお構いなしに、直滑降する。


 飛行軌道が九〇度下方に折れ曲がった。


 背中を戦槌で打ち叩かれたような衝撃が走り、肺腑がビリビリと痺れる。


 タイタニアの背中の翼をかすめるようにして、狙いを外してゆくアーディの機銃掃射。


 急激な軌道変更が間に合わなかったミサイル群の一部が、アーディの機銃掃射弾幕に接触した。


 即座に爆発、オレンジ色の火球が膨張・拡散する。


 地上を明るく照らし出した。


「ふふふっ、やった! やった! さあ、お次は――って、あれえええぇっ?」


 『ざまあみろ!』と言わんばかりに誇らしげに笑いを見せるタイタニアだったが、すぐに顔から笑みが消え失せる。


 アーディのミサイル弾幕・第二陣が、タイタニアを待ち受けていたかのように、真っ正面から迫っていたのである。


 ミサイルの追尾をかわし、不意打ち的な機銃掃射を回避したと思いきや、それらは誘い出すための仕込みだったのだ。


「こっ……こなくそおおおっ!」


 タイタニアは半ばやけっぱちで回避を試みた。


 直角的な軌道変更は難しいと判断、大きく渦を巻くように軌道を修正する。


 光の螺旋階段を描くみたいにして、地面へ向かって急降下していった。


 しかし、一発のミサイル弾頭が右肘に接触、爆風が発生。


 衝撃波が、背後からタイタニアの身体を押し飛ばす。


 大きく姿勢を崩し、軌道を乱してしまうタイタニア。


 クルクルと宙返りを数度繰り返し、体勢を立て直す。


 キッと上空をにらみ据えた。


 多数のミサイル弾頭群が、ここぞとばかりに迫り来る。


《さあ、どうする、どうするするぅ? このまま仕留めちゃうぞぅ?》


 アーディは弾んだ声を上げ、ワクワクを押さえきれないと言った様子だ。


 アーディ機が、地上近くのタイタニアめがけて急滑降を開始した。


 タイタニアは瞬間的に思考する。


 逃げるだけではダメだ。


 避るだけではジリ貧だ。


 あの魔法の筒みたいなやつがどんどん増えて、確実に逃げ場が無くなってゆく。


 あの空飛ぶ筒は壊せるのか?


 いや、壊せるかどうか試す価値は十分ある。


 壊し方さえ分かれば、戦況をひっくり返せる。


 それならば――


「こうなりゃ、ハエ叩きってしゃれ込むわよっ!」


 裂帛の気合いと共に、両腕の装甲思念体を操作する。


 前腕の内側から、帯状の装甲思念体が追加的に産み出された。


 みるみるうちに、分厚く、幅広いブレードが形成され、腕と一体化する。


 旧世界で『カタール』と呼ばれた武具に類似した形状である。


 だが、刀身の幅は四十センチ、長さは一メートルもある巨大なものだった。


 前腕部もその刀身を固定すべく、装甲が屈強に強化され、ボリュームが増している。


 タイタニアは、両腕に装着した巨大なアームブレードを頭上に掲げ、ずばっと下方に振りかざした。


 アームブレードが急速に加熱され、明るいオレンジ色に輝き始める。


 準備万端、これで迎え撃ってやる――緊張でやや身体を固くするも、闘志は十分だった。


 背中の翼の推進力を一気に引き上げ、加速し、迫り来るミサイルの弾幕に自ら飛び込んでゆく。


「今夜はっ! まとめてハエ叩きっ! そおりゃああああぁっ!」


 腹の底から雄叫びを上げ、両腕のアームブレードで前方を薙ぎ払った。


 高温の刀身がミサイル弾頭に接触。


 接触面が瞬間的に融解、弾頭が真っ二つに溶断される。


 一拍おいてから、閃光を放って爆発。


 周辺を飛行していた弾頭も数発巻き込んで連鎖的に誘爆した。


 まばゆい光が発生し、タイタニアの勇姿を鮮やかにライトアップする。


 斬り払いを見せた両腕は、左右に斜め下四五度にびしっと伸ばされていた。


 直角二等辺三角形的なシルエットを作っている。


 まるで、タイタニア自身が炎の刀身と化したみたいだった。


「斬れた……本当に斬れた! 行ける、これは行ける! 行くしかないいいっ!」


 戦闘意欲が沸き立ち、さらにミサイル弾幕の中を突進する。


 きりもみ回転しながら、アームブレードを振りかざし、すれ違いざまにミサイル弾頭を次々と溶断していった。


 アームブレードとミサイル弾頭が接触する瞬間の、『カツッ!』という乾いた感触が、何とも言えない充実感をもたらす。


 『よし! きたきたっ!』と言わんばかりに、心の中で何度もガッツポーズを取った。


 切断されたミサイルが若干のタイムラグをおいて爆発。


 それらの爆発がどんどん連なって、炎の大蛇と化してゆく。


 爆炎の壁を突っ切るような形で、アーディに肉薄するタイタニア。


《ミサイルを真っ二つって……あははっ、これは予想以上だよ! その無茶っぷり最高っ! こっちも負けてらんないよねええっ!》


 『もはや出し惜しみなど無しだ!』と言わんばかりに、アーディは機体の武装を総動員する。


 右腕の機銃掃射、左腕のミサイルポッド、両太もも部のサブ・ミサイルポッドも動員して発射、火力を総動員。


 真っ正面から突き進むタイタニアに、それら全弾があやまたず狙いを定めて襲いかかる。


「さあ来いっ! 来いいいいっ!」


 勇ましく叫び、タイタニアは両腕のアームブレードを縦横無尽に斬り払った。


 アームブレードを振るう腕の速度が上がってゆく。


 肩から先が、速さのあまり残像が消え、ついには常人の視覚ではとらえられなくなった。


 心地よい接触感、衝突感がアームブレードごしにタイタニアに伝わってくる。


 猛然と迫るミサイル弾頭群が、次々とタイタニアのアームブレードに切断され、一瞬の間を置いて爆発散華。


 文字通り、強力な火力の弾幕を刃で斬り開き、アーディめがけて猛進するタイタニア。


《は、ははっ? な、何それ? こ……これならどうだっ!》


 アーディは、徐々に余裕を失っているみたいだった。


 焦燥がにじむ調子の声でわめき、全火力をタイタニアに集中する。


 機銃掃射の速度が四十%向上、ミサイル弾頭が狙う標的半径が五十%縮小、単位面積当たりの火力が四、五倍になった。


 獅子奮迅の勢いで、迫り来るミサイル弾頭群を斬り落とし続けるタイタニア。


 だが、アーディ機の機銃掃射が、アームブレードを弾き始める。


 タイタニアの斬撃軌道がだんだんと乱れてゆく。


 そして、一発のミサイル弾頭がアームブレードの斬撃をくぐり抜けた。


「あっ……」


 タイタニアが小さく叫んだのと、ほぼ同時だった。


 装甲思念体に覆われておらず、肌がむきだしの腹部に一発の弾頭が接触。


 回転しながら、白い肌にめり込み、胴体を突き破ろうとする。


 零距離でミサイル弾頭が炸裂した。


 爆風で、タイタニアの四肢がはりつけにされたかのごとく開かれて、伸ばされる。


 顎を下から撃ち抜かれたような衝撃が発生。


 大きく仰け反ったところに、機銃掃射、後続するミサイル弾頭が全弾命中した。


「ぐああっ……くかっ……んぐっ、うええっ……」


 全身を、無数のハンマーで滅多打ちにされたみたいだった。


 肺が押しつぶされ、カエルみたいな悲鳴すらなっていない声を上げる。


 強烈な痺れ、激しい振動、焼け付くような痛みが、止まることなく波状的に押し寄せた。


 連鎖的に発生・拡大する爆炎の壁が、タイタニアを飲み込む。


《これで……これで飛んでいっちゃえええっ! あはっ、あはははっ――!》


 アーディが哄笑し、追い撃ちとばかりに機銃掃射でタイタニアの身体を狙い撃った。


 弾丸形成に使えるナノマシン残量が一気に減ってゆく。


 アーディはここぞとばかり勝負に出ているようであった。


 弾道周辺に発生する衝撃波が、爆炎をかき乱し、穴を空け、タイタニアの身体を穿ってゆく。


 そして、アーディの右腕のバルカン砲が火を噴くのを止めた。


《はあ……はああぁっ、ちょっと焦っちゃったかな? あははっ、あたしらしくないぞ、アーディ……》


 興奮冷めやらぬ、といった様子で、アーディは呟く。


 未だに夜空を染め上げ続ける爆炎の塊を、見据えていた。


《あっ、いけない! やっちゃったかも……ティナお姉ちゃん、バラバラになっちゃったかなぁ

 ……あぁ、探さなきゃ。子宮、ちゃんと残っているといいんだけど……》


 バルカンヌから言いつけられた言葉を思い出したのか、声の調子に動揺の色がにじみ出しているようだ。


 地上にある熱源を探知しながら、タイタニアの身体の残骸捜索を開始する。


 ほんの数秒間、熱源探知で周辺地上を走査。


 爆発に巻かれ熱を帯びた肉塊なら、赤外線の強さから一瞬に探知できるはず。


 しかし、よほど細かく砕かれ、爆散してしまったのだろうか。


 人間の身体の一部らしきものが検知されないのである。


《熱源が無い? 肉塊ひとつすら落ちていないの? そんなはずが――》


 と、その時、弱々しくなり、今にもかき消えそうな爆炎の塊から、何かが飛び出してくる。


 まるで、いびつな鍾乳石を連想させる形の金属の塊だった。


 一度融解し、再び固体化したと思われる金属が、べったりと表面を厚く覆っているようだ。


 どうやら、アーディが探している熱源は、その金属塊の中にあるようであった。


《うわぉ……熱源が地上に無かったのって、まさかそんな……》


 アーディ機が、いびつな形の金属塊の方を振り向くのとほぼ同時。


 金属塊内部の温度が急激に上昇し始めた。


 みるみるうちに金属が融解し始め、白銀色の液体がせせらぎのように流れ落ち始める。


 そして、金属塊の中から、少女の肢体が現われた。


 全身を緋色の甲冑に包み、背中に六枚の翼を背負う姿――タイタニアであった。


 まるで水浴びているみたいな心地よさを覚えながら、四肢を広げる。


 白銀の液体が、髪から頬、首から鎖骨へ、乳房から脇腹、そして下腹部へと伝い落ちて行った。


 顔を覆う融解金属を手のひらでぬぐい、さっと首を振って、髪をなびかせる。


 指先にまといつく白銀の融解金属を、唇と舌で、ツツーっとぬぐいとった。


「ふふふっ、結構痛かったけど……慣れって怖いものね。すぐ、気持ちよくなっちゃった」


 タイタニアは不敵な笑みを浮かべ、指先を唇でぬぐいながら、アーディに視線を向ける。


 アーディの機銃掃射をそれこそ全身に浴びまくったはずだった。


 しかし、強い外部刺激は思念科学素子を活性化させ、身体が高温状態となり、超音速の弾丸を体表面で溶かし尽くして受け止めていたのである。


 融解した弾丸が、タイタニアの身体を覆い尽くし、あのような鍾乳石のようないびつな形を作ったのであった。


《あれが、気持ちよかったって……? あははっ……この悪魔!

 さ、最高だよ……ティナお姉ちゃん》


 まだ強がっている様子が見受けられるアーディ。


 だが、先ほどよりも確実に勢いを失っているのが声の調子からも伝わってくる。


「ふふふっ……そろそろ仕上げかしら? さあ、構えなさい! 今度はこちらから行くわよ!」


 タイタニアは戦意で双瞳を燃え上がらせ、勇ましく告げ、両腕のアームブレードを振るい、構えた。


 白銀の飛沫をほとばしらせながら、アーディめがけて一直線に斬り込んだ。


《接近戦だって? 望むところだよっ! はたき落としてあげるっ!》


 アーディ機が、咄嗟にして右腕のガントレット型装甲及び左腕のミサイルポッドの形状固定を解除、ナノマシンに戻す。


 流体状ナノマシンがうごめき、両拳に絡みつき、拳と一体化したグリップを形成、刀身らしきシルエットがぐんぐんと伸びてゆく。


 またたく間に、幅広の短刀を思わせる近接格闘用ブレードができあがった。


 突進するタイタニアめがけて、アーディ機が右腕の近接格闘用ブレードを振り下ろす。


 右のアームブレードを上方に斬り払い、アーディ機の斬撃を受け止めるタイタニア。


 せめぎ合う二つの刃が、細かく振動し、電動切削器にかけたみたいに盛大に火花をまき散らした。


 アーディ機が背中の推進駆動部の出力を高め、プレッシャーを掛けてくる。


 タイタニアも翼に操作し、噴き放つ熱気流の出力を上げ、負けじと競り合った。


 アーディ機の近接格闘用ブレードが、じりじりと押し返されてゆく。


《……あたしが押されてる? ねえ、ちょっと待ってよ……接近戦であたしが、押されてるって言うの?》


 『信じられない』といった風に、うろたえぶりが声ににじむアーディ。


「ふふふ……本懐を遂げるまで、一度死のうが生き返る!

 これぞ不屈の乙女道! 気合いと根性の出来が、決定的に違うってことよ!」


 タイタニアの右腕の装甲思念体に力がみなぎり、ぶわっとボリュームを増してゆく。


 力を満タンにため込んで、一気に放出。


 大きく右腕を振り抜き、アーディ機のブレードを押し切った。


 大きな金属的激突音と同時に、アーディ機の右腕がしたたかに弾き飛ばされる。


 タイタニアのアームブレードから熱衝撃波が放たれ、刃のような形となって虚空を駆け抜けた。


《……そんな! 競り負けたの? あたしが?》


 呆然とした様子のアーディの声が、拡声された。


「――さあさあ、ここからが本番! アーディちゃん、あなたの気合いと根性、見せてご覧なさい!」


 タイタニアは、アームブレードを振りかざし、勇壮なポーズと共に口上を決める。


 そして突撃を再開、アーディ機に猛然と肉薄した。


 


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