『疫病神』は仲間に恵まれる~彼だけ知らない秘密の能力~
「それじゃあ、パーティのSランク昇格を祝って……乾杯!!」
『乾杯!!』
乾杯の音頭を皮切りに、グラスのぶつかる音とみんなの嬉しそうな声が店内に響き渡ります。今日は店を貸し切りで、お世話になった方を招待して、僕の所属するパーティの昇格祝いの真っ最中です。
僕の名前はテンス……この度、Sランクパーティとなった『安らぎの止まり木』の一員で……役割はなんでもやる雑用係です。特に決まった仕事は無く、何でもやらせてもらってます。それ以外にできることも無いので、仕事に不満はなく毎日充実した生活を送らせてもらってます。
今日は皆でお祝いなんですが、雑用係の僕がこんな凄いパーティにいて良いのかと……隅っこの方で一人でちびちびお酒を飲んでいようかと考えていたんですが、なぜか僕は主役のみんなに囲まれて一緒にお酒を飲んでいます。
「おいおい、テンス! 今日の主役の一人がなにしかめっ面してんだよ!? もっと嬉しそうにしろよ!」
「あ…ガインさん……いや、僕なんかがここにいることが信じられなくて……取り立てて僕なんて役に立ってないですし……主役なんて恐れ多くて……」
肩を組んできた剣士のガインさん。パーティの中でも最年長で、リーダーをされている方です。
ちょっとガサツですけどとても頼れる方で、僕は一人っ子ですけど兄がいたらこんな感じなのかなと思ってたりします。もしくは、お父さんかな?
彼は、僕をこのパーティーに入れてくれた大恩人です。いつも感謝しています。
「おいおい、お前は役立たずなんかじゃねえぞ? いっつも頑張ってるじゃねえか、俺たちがSランクになれたのもお前の……普段の頑張りあってなんだ。胸を張れよ!」
「そうよぉ、だから自分なんかとか言っちゃダメよぉ?」
ガインさんの横から、セクシーな魔法使いのミュルさんが頬を赤らめながら現れて、僕の頭を撫でてくれます。
いつも薄着で露出の高いその姿に僕はドキドキしっぱなしで……空気中の魔力を感じるために薄着らしいですが、こればっかりはいつまでたっても慣れそうもありません。
他のメンバーの皆も、僕を囲んで楽しそうにしてくれています。
女の子が好きなお調子者の盗賊のギルさん。よく、女の子のナンパに誘われます。残念なことに成功することは全くありませんが……。それでもいっつも笑っています。
友達と馬鹿なことをしているみたいで、すごく楽しいです。もしくはお兄ちゃんですかね、感じとしては。
いつも優しい回復職のミーネさん。僕より年上らしいのですが、どう見ても年下……子供にしか見えません。でも、一番お酒が大好きな人です。全員が潰れても一人飲み続けられるという凄い人です。
元聖職者らしく、よく僕は悩みを聞いてもらっては励ましてくれてます。でも、頭を撫でられるのは複雑です……。
とても希少と言われている鑑定能力を持つ鑑定士のフィズさん。メガネをかけた知的な雰囲気の女性で、あまり笑うところを見たことがありませんが、今日は彼女も笑顔です。
一見冷たい印象がありますが、とても優しい人です。鑑定士として忙しいでしょうに、よく僕の雑用をお手伝いしてくれます。
みんなの笑顔を見て、つられて僕も笑顔になります。それと同時に、やっぱり僕はここにいていいのかと自問自答してしまいます。暗い顔をしたらみんなに心配させちゃいますから、それは表に出しませんが……。
少し前まで僕は『疫病神』と言う呼び名で呼ばれていました。
僕にはなんの才能もありませんでした。剣も、魔法も使えず、この世界で必ず一人一つ以上は持つと言われている特殊能力すらも持たず……鈍間で身寄りもなかったのと……お前がいると村は不幸になる『疫病神』は出ていけと……村長から着の身着のままで追い出されてしまいました。
そして、必死に辿り着いたこの町で冒険者になりました。
それしかなれなかった……と言うのが正しいですね。身寄りもなくボロボロな僕を雇ってくれる店は無かったので、誰でもなれる冒険者くらいしか選択肢が無かったんです。
そんな僕を親切にも入れてくれた過去のパーティは……今はもう全て解散してしまっています。
一番最初に僕を入れてくれたパーティの方々は、強い魔物に全員が大怪我を負わされ、引退を余儀なくされました。
次のパーティの方々は遺跡の罠にかかってしまい……その際に何人かは亡くなってしまいました。
三番目のパーティの方々は僕を残して全員が行方不明です。今もどうしているか分かりません。全員が泊まっていた宿から忽然と姿を消していたんです。
その頃からでしょうか、僕はパーティにいる人間を不幸に導く『疫病神』と言われはじめ……完全に一人になりました。ここでも僕は村と同じく『疫病神』と呼ばれるようになったんです。
一人でいれば『疫病神』の力は発揮されないため、僕はその日その日を小銭を稼いで何とか凌いでいました。そして、無能な僕はこのまま一人で死ぬしかないのかと一人落ち込んで悩んでいたところで……ガインさんに出会いました。
僕の事を『疫病神』だと知っていながら、唯一声をかけてくれたのがガインさんです。
彼は「行くところないならうちに来いよ。全員、やさぐれてて燻ってるような奴らばっかで悪いけどな」と、笑いながら僕をパーティに暖かく迎えてくれました。その時に『疫病神』の事も伝えましたが、それならそれでパーティ解散に踏ん切りがつくから構わないとまで言ってくれたのです。
そしてみんなに紹介されて……みんなも僕を温かく迎えてくれて、嬉しかったのを覚えてます。情けない話ですが、皆の前で泣いてしまいました。村を追いだされた時も泣かなかったのに……その時は堪えきれませんでした。
……でも僕はやっぱり何もできなくて、パーティの足を引っ張ってばかりで……。だらかせめて、皆の為に雑用係をさせていただいてました。それでも皆は雑用の間に僕に色々な事を教えてくれました。非常に覚えが悪いのですが、なぜかみんな僕に良くしてくれます。
そんな時に、恐れていた事態が起きてしまったのです。ある日突然、フィズさんが原因不明の高熱を出して倒れてしまったんです。……僕はとうとう『疫病神』としてこのパーティに迷惑をかけてしまったのかと、初めて彼等のパーティに入ったことを後悔しました。
でも、僕のせいだとパーティから出ていこうとするのを、みんなは僕のせいじゃないと引き止めてくれました。高熱を出しているはずのフィズさんも、これは自分の不摂生が原因と、苦しいでしょうに笑顔を浮かべて僕を引き留めてくれたんです。
本当に嬉しかったです……僕は……ガインさん達と別れたくなんて無かったですから……本当に嬉しかったんです。だから、僕は許されるならとパーティに残ることを選択しました。
あれから数年……色々な事がありましたが、このパーティでは僕の『疫病神』の力がそこまで大きく出ることは無く……ガインさんのパーティは、とうとう最高ランクであるSランクにまで上り詰め、僕もその姿を間近で見させていただくことができました。
僕は迷惑ばかりかけてて、ガインさん達の足を引っ張ってばかりで……こんな凄い人達の集まりに、僕はいてもいいのか常々疑問ではありますが……みんな僕を必要だと言ってくれます。
だから僕は、みんなに必要とされなくなるまでは、必死に頑張ることを決めました。みんなに恩を返すために、皆の前では弱音を極力吐かないように頑張っています。相変わらず物覚えは悪いですが、皆さんも根気よく付き合ってくれています。
その日の楽しい宴は夜遅くまで続き……気が付いたらベッドの上で朝を迎えていました。僕はいつの間にか寝てしまっていたようです。
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「テンスは寝たか……?」
「えぇ、ベッドに運んできたわ。……幸せそうな寝顔よ」
ガインの言葉にミュルは微笑んで、テンスの寝顔を頭の中で反芻する。
貸し切っていた店は引き払い、既にパーティで購入した家に戻ってきていた。今ここに居るのはパーティのメンバーだけ……テンスを迎える前の五人のメンバーだけだった。
ここからは、テンスに内緒の彼等だけの飲み会だ。テンスはいつも、この会には参加していない。彼に聞かせられない話をするというのもあるが……そもそも体力の無いテンスがその時間まで起きていられないというのも理由の一つだ。
「私達がSランクですか……とうとうここまで……長かったですね……」
聖職者のミーネが胸の前で両手を合わせ、感慨深げに呟く。次の瞬間にはその両手にグラスを持ち祝杯だと言わんばりにあっという間に中身を飲み干した。先ほどもガバガバ飲んでいたくせに、まだまだ飲めるその姿に周囲は呆れを含んだ視線を送る。
「旦那が『疫病神』と言われてるやつを仲間にするなんて言い出した時はどうなるかと思ったけどよ……。ホント、あん時は旦那のお人好し加減にはビビったよ、これで俺等も終わりかってな」
両手を広げながら戯けた様子で、盗賊のギルは適当なつまみを口に運ぶ。当時を懐かしみながらも、心境を思い出したのかほんの少しだけ身体を震わせた。
「……彼を『疫病神』にしていたのは周囲の自業自得……彼は何も悪くないわ」
「分かってるよそんなこと。ただ、当時を懐かしんだだけだよ」
メガネを指で押し上げながらフィズはギルを睨み付けるが、ギルは気にした様子もなく彼女につまみを分け与える。受け取ったつまみを、フィズはそのまま口に運んだ。
テンスがこの町で『疫病神』と言われるようになった原因を調査したのはギルだった。だからフィズに言われなくてもそんなことは百も承知で……ただ自分の性分でそんな言い方しかできなかっただけだった。調査した結果は非常に胸糞悪くなるような事実だったからか……ギルはその事を思い出して顔を顰める。
テンスを最初に誘ったパーティは、テンスを囮にして自分達だけが助かろうとしていた。パーティに誘ったのも、いざと言うときの囮役、盾役が欲しかっただけだった。
次のパーティは罠を確認するための人柱に使おうとしていたが、逆に自分たちが罠にハマってしまったらしく、むしろテンスは彼等を助けていた。なんとも間の抜けた話だ。
最後のパーティは人身売買をしていて……テンスをバラして売るつもりだったようだ。何故か手違いで逆に彼等が売られていき……彼等の部品がどうなったのかは今はもう誰も知らない。
どれもこれもテンスの周りの自業自得であるのだが、僅かに生き残った奴らが唯一無傷のテンスの悪評を広めていき……結果的に彼は『疫病神』と呼ばれるようになった。
彼を追い出したと言う村が、既に滅んでいるという事実もその噂の信憑性を高めてしまったのだろう。彼が関わった者を全て不幸にする『疫病神』だと。
それを最初に不思議に思ったのは、ガインだった。
テンスは確かに剣も魔法も使えないが、本人がいう程には物覚えはそこまで悪くない。練習すればきっと使えるようになる。自信がないからか少しおどおどとしているが、自分から買って出た雑用も常に慎重な仕事をして、作業も全て丁寧だ。ミスらしいミスはほとんどしない。
確かに、少しどんくさかったりはするけれども……『疫病神』なんて言われるほどのものではないのは確かだ。
そんな彼が何故に村を追い出されたのか。そして……『疫病神』なんて言われるようになったのか……。それは、彼以外に問題があるような気がしたのだ。だからガインはフィズに頼んでこっそりとテンスを鑑定させた。変な特殊能力が隠れていたら、それを彼に告げずに治してやるか、その対策を考えてやるためにだ。
当初はこっそりと鑑定することを渋っていたフィズも、しつこいガインに根負けして鑑定をする。だが、結果は特殊能力無し……世界で一人一つは持つ能力を彼は持っていなかった。それ以外にも、テンスには何もなかった。……何も無さすぎた。
……だけどフィズはそこに違和感を覚えた。何もないのに、その奥に何かが隠れているような感覚があるのだ。それは優秀な鑑定士であるフィズだから気付けた違和感で……だから彼女は鑑定能力を限界以上に酷使して……結果的に高熱にしばらくうなされることにいなるのだが、そこまでやって、ようやく彼に隠された特殊能力を見つけ出した。
彼の隠された特殊能力……それは『天の恩恵』と言う名前だった。
フィズは高熱を出すほどに鑑定能力を酷使したのだが、それでも能力の全容は不明だった。……それでも、辛うじて分かった点がある。鑑定時にフィズの脳裏に浮かんだ能力の一部分に、皆は驚愕する。
『悪意を持って彼を利用しようとする者、裏切る者、傷つける者には天よりの罰が下る。この能力は本人が知ることは絶対に無い』
彼の周囲の不運は確かに彼がもたらしたものだった。フィズの鑑定はそれを証明してしまった。
しかし、それと同時に分かったこともある。彼の能力は周りを写す鏡みたいなものだ。悪意を向ければ悪意が返る。それの究極系と言うだけで、それはごく当たり前の話とも言える。
誰かが彼に善意を持って接していれば、決して彼は『疫病神』なんて汚名を着せられることは無かったはずで、彼によって不幸な目にあった人間は、全て自業自得でしか無かったとも言えるのだ。
滅んだと言う村での彼の扱いも容易に想像できる……自信がないのもきっとそのせいなのだろう。
その事実を知った時、テンスの今までの人生で起こった不幸な出来事は、全てが周りの悪意によるものなのかとやりきれない思いをそれぞれが感じ、自分の境遇と彼の境遇を重ね合わせた。
圧倒的な実力を持ちながら、周囲から卑怯な手段によりはめられて騎士団にいられなくなった騎士。
尊敬する師から裏切られ、自身の生涯をかけると誓った研究の成果を全て奪われた魔法使い。
盗賊団で信じていた仲間から冤罪をかけられ、仲間達に殺されかけながらも命からがら逃げてきた盗賊。
祝福と称して身体を要求され、それを断り告発するも、逆に教会から汚名を着せられ追放された聖職者。
高い能力を持ちながらも周囲の嫉妬から疎まれ、能力以外を奪われ最後は閑職に追いやられた鑑定士。
このパーティにいる者達は全てが周囲の悪意から孤立してしまい、既に自分の人生は意味がないと、半ば人生を諦めた者たちの集まり……それがガイン達だった。
だからこそガインは、孤立してしまった自分達と同じ境遇であろうテンスをパーティに引き入れたのだが……。彼に比べれば自分たちのなんと恵まれていることかと、自分たちの性根が情けなくなった。
彼等は精神的に燻っていたものの、自分達はまだ他の能力があり、日々の生活自体は問題なくできていた。何なら気ままで自由な生活だと開き直っていたくらいだ。
だけどテンスは、その恩恵以外には何も持っていない。それどころか負の連鎖によって、徐々に日々の生活もままならない状況にまでなってしまっていた……。
彼の能力を知った時、どこが恩恵だ、こんなものは呪いじゃないかと、誰もがその天とやらに対して憤る。
その憤りがきっかけだった。彼等の中て燻っていたものに、改めて火がつけられた。
彼等は誓った。
周囲から悪意を向けられた結果『疫病神』とまで言われた彼が、幸せに暮らせるような居場所に自分たちがなると。情けなく燻り続けるのはここまでだと、全員が誓い合い、奮起した。
いつかは、彼に能力を与えたその天とやらに、彼に悪意を向けた結果不幸になっただけなのに、それでもテンスの足を引っ張る奴らに目に物見せてくれると、それを原動力に再び彼等は動き出す。
それからは今までの後ろ向きだったパーティ名を『安らぎの止まり木』に変えた。ここがテンスと自分たちの居場所だと言う意味を込めて。彼等なりの決意表明を行った。
周囲も最初は『疫病神』が次のパーティを解散させるのはいつになるかと賭けが行われ、テンスを迎え入れたガイン達を笑っていた。心配する者もいたが、テンスを追い出すよう言うだけで自分達が引き取るという発想をするものは皆無だった。
ガイン達はその周囲の声を実績で黙らせることを選択する。いつまで経っても『疫病神』がパーティを解散させることは無く……それどころかどんどんとランクを上げていくガイン達。
最初は偶然だ、まぐれだ、何か汚い手を使っているんだと、半ばやっかんだ意見を言う者も大勢いたが、その周囲の声もガイン達は実力で黙らせていった。
その結果、徐々にテンスを『疫病神』と呼ぶ者は少なくなっていった。
そして今日……とうとうパーティはSランクにまで上がることができた。
「……テンスがきっかけとは言え……俺達がここまで来れるとはななぁ。でも、テンスがいたからだ。あいつを幸せにするって原動力だけで、俺たちはここまでこれたんだ」
感慨深げに言うガインの言葉に全員が同意し……改めてグラスを打ち鳴らす。
それからグラスの中の飲み物を全員が飲み干した後……ガインは至極真剣な表情を浮かべた。
「さて……改めて今日の議題だ……俺たちもSランクになったんだ……そろそろテンスに彼女くらいはできてもいいんじゃないかと思うが、どう思う?」
その一言に……全員の顔が真剣なものへと変わる。
テンスのためにと活動をし続けたこの数年で、彼等はテンスのことを完全に保護者の目線で見るようになっていた。それもかなりの親バカな部類であり、このようにテンスの為の会議はいつからか延々と続けられていた。
「私は賛成よぉ。でもそうねぇ…やっぱりテンスには包容力のある女性がいいと思うの。私みたいな優しいお姉さんタイプの子とかいないかしらね?」
「私は反対です。まだまだテンスは姉の庇護下にあるべきです。お姉ちゃんとして、反対します。せめて、私よりお酒が強い子じゃ無いと認めません」
「……どちらでも良いですか、私のメガネにかなうような女性でなければ許しません。弟を任せるなら、私以上の能力を持つ方で無ければ」
女性陣はそれぞれの意見を好き勝手に言うが……根底にあるのはテンスに相応しくない女性は排除するという思いだ。かなり過保護である。しかも全員が、自分を基準に考えていた。
自分がテンスと付き合うという考えではなく、自分以上の者にテンスを幸せにしてもらいたいという親心だった。
そんな中で、ギルが余計な一言を呟いた。
「あれ、でも……テンスのやつ、ギルドの新人ちゃんと結構良い雰囲気だったぜ、兄としては応援してやりたい……」
「……ギル……その辺りを詳しく聞かせなさい」
そこで初めて余計なことを口走ったと気がついたのだがもう遅く……ギルは顔を青ざめさせる。彼は徐々に、女性陣に詰め寄られていく。
ギルはガインに助けを求めるもの、ガインはぶつぶつと「新人……ふむ……今度話をしてみるか」と、全くギルの方を見ていなかった。
こうして、テンスの為の会議をし続ける彼等の夜はふけていく。こんな会議はもう何回も繰り返され、結論が出ずに会議が終わることもしばしばだった。おそらくだが、今日の会議も結論が出なさそうだった。
……彼等は知らない。フィズが全力を出しても鑑定できたのはテンスの能力のほんの一部分だと言うことを。辛うじて認識ができた部分には……実は後半部分のみで、前半の説明があると言うことを……。
その内容はこう言うものだった。
『善意を持って彼に接する者を天は祝福し、最大限の恩恵をその者に与える。悪意を持って彼を利用しようとする者、裏切る者、傷つける者には天よりの罰が下る。この能力は本人が知ることは絶対に無い。』
天からの祝福と最大限の恩恵とは言っても、それは決して大袈裟なものではなく、本来であれば努力に相応しい幸運をもたらす能力で、テンスの能力は本来であれば他人を幸せにする能力のはずだった。
それが人の悪意で歪められ、彼の能力は一見すると周囲に不幸を撒いているようにしか見えなくなってしまっていた。
テンスの能力はガイン達の手によって、ようやく正しく機能するようになった。それをテンスが知ることは無いが、テンスはこれからもガイン達のために努力を惜しまない。
そして、悪意のために努力が報われず、燻っていた彼等にとって、テンスは『疫病神』どころか『幸福の神』と言ってもいいくらいだったが、彼等もそれを知ることはない。ただただ彼等は、自分達がテンスの居場所となるように日々を過ごしていく。
やっとの思いで作った居場所を守るために、みんなで幸福になるために、これからもお互いを思い合う彼等は、日々を楽しく過ごしていくのだった。