日曜は決戦日!2
「やべー、マジ腹痛ぇ~。こんなに笑ったの久しぶりだわ!」
ありがとな未来、って……どういたしまして!?
ひとしきり笑った後、生徒会長はあくどい笑顔を浮かべながらからかい始める。
「にしても未来、似合ってんじゃねぇかよ。お前、女に向いてるな。そのまま女装家になっても、お前ならファンが付くぜ?」
なんなら俺がファン第一号になってやろうか、とニヒルに笑う生徒会長を見れば、この先ずっとこのネタでいじられることになるのは明白だった。
くそうっ、くそうっ、くそぉ~う!! 最悪だ…
一番知られちゃいけない人物に知られちゃうだなんて……がっくりと肩を落としていたら、八雲くんが慰めてくれる。
そうだ、僕にはまだ見方がいる!!
「八雲くん!!」
「はい!!」
落ち込みテンションから急に食い気味になったから、驚いて一歩身を引いた八雲くん。
それは、今までに見たことがないようなびっくり顔であった。
シャッターチャーンス!! とばかりに、勝手に手が動いてスマホをかざしたのは不可抗力!! って、そんなことをしている場合ではない!!
目の前の悪魔を指さしながら、八雲くんに言い放つ。
「八雲くん、君に決めた!! あの悪徳生徒会長をやっつけろ!!」
「えっ、え? 俺が? というか、何故さっき撮られたのかな?」
凄く俊敏な動きだったね、なんて、随分と余裕のご様子。
いいから、そんなことはいいから!! 早く、そこの悪徳生徒会長をやっつけてよ!!
背中をぐいぐい押しながら、戦地に送り出す僕。
え? 友達を悪徳生徒会長と闘わせようだなんて、酷くないかって? 当然、酷いことは自覚済み!!
そんな中、僕等を見ながら呆れていた栄くんの、お前がマスターのつもりかよ、どう見てもモンスターはお前だろ、のツッコミに思わず感動。
元ネタ、分かってくれたんだね!! 嬉しいよ!!
しかし、お前ならポケットどころか摘んで持ち歩けるぜ、ってのは何さ!! そんなにちっさくないよ!!
失礼なことを言うなと思っている傍らで、栄くんに便乗し生徒会長まで、さすがにキャリーケースに詰め込むのが限界じゃね、とか言ってる始末。
密入国!! その方法、密入国だから!! 閉所恐怖症になりそうだから絶対に嫌なんですけど!?
いやその前に皆、何しれっとモンスター扱いしてくれちゃってんの!? 僕のどこがモンスターだよ!!
そこに風紀委員長までが加わって、会話が大変混雑し始める。
「モンスター? モンスターペアレントの略か?」
って、何言ってくれちゃってんのさ風紀委員長!? 栄くんの呟きを、すっごい最悪な方面に受け止めないで!?
僕のどこがクレーマー!? 強いて挙げるなら、理想のBLが見られないことをクレームしたけど、ペアレントが付くほどのモンスターになった覚えはないから!!
最終手段として、八雲くんに助けて光線を送ってみた。
笑顔で頭を撫でられた……違う、そうじゃない!!
僕等のそんなやり取りを、道行く人々がクスクスと微笑ましげに見つめて通り過ぎて行く。
ねぇ…僕等、すっごく目立ってない? 何のために公園からここまでやって来たのかな?
もう…むくれてやる!!
ぷくーっと頬を膨らませて不機嫌を露わに着席中の僕。
始めこそ、ハムスターかよ、とからかっていた生徒会長も、今や僕のご機嫌取りに必死である。
お前甘いの好きだよな、このパフェとかすっげー美味そうだぞ、とメニュー片手に薦めて来るが、完全無視!!
八雲くんも、パンケーキとかどうかな、美味しそうだよ、と右側から薦めて来るが…以下同文!!
僕はとっても怒っているのだ!!
しかしそこはさすがの生徒会長、何を言えば僕が喜ぶのか、熟知していらっしゃるわけで…
「そういや、保健委員長と副委員長、前にキスしたことあるらしいぞ」
「なにぃ!? その情報、もっと詳しく!!」
ズダンッとテーブルを響かせながら、目の前の生徒会長に食いついた!!
キッス!? キッスですと!? それもう、カップル確定で御座いますね!?
お願い生徒会長もっと詳しく教えてぇ~と懇願すると、生徒会長が引いた。怖ぇよお前…、と引いた。
大きな音を立てたせいで、周りの目もより一層強くなった。美形ウマ―な熱視線が、一変した……って、何口調なのよこれ!!
とにもかくにも、そこんとこ詳しくと懇願する。とっても大事なことだからね、聞き流しては置けないよ!!
僕の気迫に気圧されるように、生徒会長も重い口を開く…の前に。コトン、とテーブルの上にセットする。だってこれは、とても大事なことだからね!
「…なんだこれ?」
「え? ボイスレコーダーですけど?」
「いや、知ってるし! 何、そんなことも知らないのって顔してんだ! なんで置いてんだって聞いてんだよ」
「え? 一字一句聞き漏らさないためですけど?」
「何、当然でしょって顔してんだ! 怖ぇぞお前! どんどん得体が知れなくなってくぞ!」
ちょっとお馬鹿ぐらいが丁度いいんだから、不気味な方面に行くなっ、と力説される。
心外である。色々な意味で!!
「だって、メモるより確実でしょ!?」
「メモる気でいたのかよ」
腐男子ってのは恐ろしい生き物なんだな…と左側から胡乱げな目で言ってきた栄くん。
なっ、腐男子が皆、こんな食い気味な生き物だと思うなよ!? それこそ、腐女子だって千差万別!! ほどんどの人が、僕みたいにオープンじゃないんだから!!
「だったらお前も、落ち着けや」
「無理です!!」
冷ややかな視線を送ってくる生徒会長の呟きを断固拒否。だってこれは、僕の生き甲斐だから!!
天を見上げて小さなガッツポーズを決める。が、パラソルに護られた僕の視界には、パラソルしか映らなかった。
数分ほどの沈黙の後、八雲くんが、とにかく何か頼もうか、と話題を変えた。
勿論、注文したものが届くまで、保健委員長と副委員長の馴れ初めを、ちゃっかりしっかりじっくり聞かせて頂きました!!
う~ん、美味しい!! ウッキウキで待ってたパンケーキは、ふわっふわでとっても美味しい。 幸せすぎて、笑顔が止まらない!!
反して、生徒会長は少々げっそりしていた。ビーフシチューを食べる手が、億劫そうに義務的動作を繰り返すばかり。
咀嚼すら面倒くさそうにしていたと思ったら、数秒僕を見つめた後、急に元気になった。
何か嫌な予感がしたけど、まぁいいや、元気になったなら、とパンケーキを頬張り続けていると…
「うぅ~ん、幸せぇ~!!」
カシャッとシャッター音。え、と思っていると…
「女装家未来のベストショットだな。こりゃあ、学校の奴等に広めてやんねぇと」
「!?」
な、なんですと!? はっ!! 今の僕、女装だった!! すっかり忘れて普段通りにしていたけど、そうじゃなかった!!
ていうか、え…、バラすおつもり? だったら…
「生徒会長と風紀委員長は、休みの日にも一緒にいるほど仲睦まじい関係だってバラしちゃうぞ!」
「はっ、その程度で弱みを握ったつもりか? 別に仲が悪ぃわけでもあるまいし、一緒に出かけることに何の疚しさがあるってんだ?」
「くっ…じゃあ、キスしてたって言っちゃうぞ!!」
「してねぇよ!!」
嘘はよくねぇぞ嘘は…と言いながら、僕の頭を鷲掴みつつ邪悪な笑顔で脅される。
サ、サタン様の降臨か!? しかし、どっからどう見ても女の子な格好の僕にそんなことしちゃっていいのかな!?
あんまりこの作戦はやりたくなかったけど、窮鼠猫を噛む、だ!!
生徒会長が、ぎょっとする。当然であろう。これは、お姉ちゃん仕込みの究極の業だ。
何かあった時にこうすると、皆怯んで隙が出来る。その間に形勢逆転を狙うのよ、とは、姉の言葉である。
つつーっと、僕の頬を涙が伝う。とても悲しげに…周りの同情を誘うように…
「ちょっ、未来!? えっ、痛かったのか!?」
俺が悪かったから泣くな~、と慌てる生徒会長。八雲くんも大慌てで、栄くんもぎょっとする。
ただ一人、涼しい顔をしているのは風紀委員長だ。って、どんだけ冷静ボーイなの。
以前から落ち着き方が大人顔負けだと思ってたけど、この分だと肝試しをやっても驚いてくれなさそう…つまんないな!
まぁ、いい。今の今までホントかどうか分からなかったけど、涙を見せた方が勝ち作戦は本当だったからね!
ピタッと、急に皆固まった。え、どうしたんだろう?
「お前さぁ~。全部口に出しちゃう癖、マジで止めた方がいいと思うぜ?」
どんなに卑怯な作戦も、その口の軽さで相殺だぞ、と…
な、なにぃ!? 生徒会長の顔が、見る見るうちに真っ赤になっていく。
拳がぶるぶる震えているのですが、もしかしてそれ、僕の頭にホールインワンするおつもりじゃありませんよね!?
「みぃ~らぁ~いぃ~~!?」
「うえ~んっ、ごめんなさい!!」
だってお姉ちゃんが、涙は女の最大の武器だって言って、自由に使えるようになったらお得よって、特訓させてきたんだもん!!
僕のせいじゃないよぉ~って言ってたら、栄くんがぼそりと。
「お前の姉ちゃん、お前をどうしたいんだ?」
やれ女装やら、嘘泣きやら、お前にそんなことをさせるメリットって何なんだ、と仰られました。
ギクリッ、とする。お姉ちゃんがBL作家なことは、決して口外してはならない究極の秘密!!
僕がこんなことをやらされているのも、そもそもがそこに繋がっているのだという事実を決して知られてはいけない!!
でも、なんて言えばいいというのか…と悩んでいると、思わぬ助っ人が口を挟む。
「まぁ、未来みたいに危なっかしい存在が一人で生きて行けるようにするには、有効な作戦と言えるな。女装は謎だが」
涼しい顔して、優雅にコーヒータイムを楽しむ風紀委員長。彼に助け舟を出した自覚があったかどうかは分からないが、超助かった!! ゴッド!! 一生ついて行きます!!
「はっ、だからって、嘘泣きの罪は軽くなんねぇぞ未来! 後で覚えとけよ!」
風紀委員長の言葉に納得したか否か、怒りで判断が鈍っていたのかは分からないが、信じてくれた模様の生徒会長。
未だお怒りモードながらも、許してくれたようだ。そこに、八雲くんも加わり…
「女装に関しては、俺の姉も容疑者の一人なんですよね。俺の姉と未来くんのお姉さんは友人みたいですし、今回のお出かけを知っていたので…」
可愛い者には可愛い格好をって人なので…と、苦笑する。
そう言えば、八雲くんのお姉さんがとんでもないミッションを八雲くんに与えていた気がする……うん、忘れよう! と、思ったのに。
「あぁ…そういや、八雲の姉ちゃんにツーショット、スリーショットを撮れって言われてんだっけ?」
んな!! そんな忘れちゃっていいことを、何故思い出す!? しかもこんなバットタイミングで!!
ほらほら、生徒会長が心底喜んじゃってるじゃないか!! 遊ぶ気満々になってるじゃないか!!
「なんだそれ? どういうことだ?」
面白そうじゃねぇか、ちょっと聞かせろよ、とニヤニヤ顔。栄くんがこれ以上何か言う前に、彼の口を両手で塞いだ!!
だけど、そんな慌てぶりこそが生徒会長の悪戯心に火を付けてしまったらしく、僕の右手は敢え無く生徒会長に取られてしまう。
でも大丈夫! まだ左手は死守してる!!
「倉橋、聞かせねぇとどうなっても知らねぇぞ?」
インハイ目指してんだろお前、俺様の鶴の一声って結構偉大だぜぇ~、とニヤニヤと嫌な笑顔で脅しに掛かる生徒会長。
ひ、卑怯だぞ!! バスケ部の栄くんをそんな言葉で脅すなんて!! そもそも生徒会長権限で何が出来るっていうんだ!? そんな権限、ありましたっけ!?
ていうか今、俺様って言った!? 生の俺様生徒会長!? うっひょー!!
って、違う違う!!
しかし、俺様な生徒会長に僕のような凡人は成す術なし…って、させるかぁ~!!
だけど、残った左手は栄くんに外されてしまい…
「すまねぇな未来…俺も、権力には逆らえねぇんだ…」
嘘付け!! 顔がにやけてるよ!? 面白がってるじゃないか!!
前から生徒会長と栄くんってどことなく似てる気がしてたけど、結託したら最悪な2人だったんだね!
生徒会長のニヤニヤと、栄くんのニヤニヤ…これは不味い、非常に不味い!!
八雲くん!! 最後の頼みの綱!!
八雲くんに視線を送れば…何故か、苦笑されました。
え…助けて、クレナイノ?
本当に、本当に申し訳なさそうに、八雲くんは言った。
「一枚だけ、撮ってもいいかな? 姉達には見せないから…駄目?」
かっ…可愛いもの好きを拗らせたぁ~!! むしろ、そのお願いの仕方の方が可愛かったわ!!
くっそう、両手を取られてるばっかりに、シャッターチャンス逃した!! って、んなことはどうでもいい!!
てことは、今の所風紀委員長頼りってことか。ゴッド!! お願いします!!
「ん? 記念に撮るのか? 俺が撮ってやろう」
ノォオォオオォ~~~~!!!! ゴッドッ、何故ですゴッド!! 彼等を止めてよ!!
神はいない…やっぱりそうなのか!!
本日何度目の絶望か…
あり過ぎて、何が絶望か分からなくなりそう……