日曜は決戦日!
待ちに待った日曜日! 今日この日をどれだけ待ち望んだことか!!
でも、一つ大いなる問題が…
場所は、駅前のオブジェの前。後5分もすれば待ち合わせ時刻となるその頃、長身でイケメンな2人の男子が横並びで立ち尽くす様に、通行人達は釘付けだ。僕も、自販機の陰から釘付けだ!!
栄くんが腕時計に目をやり、何事か八雲くんに話しかける。それに答えるように、スマホに目をやっていた八雲くんが微笑みながら何事か話していて…うひょお~~~~!!
ちょっ、ちょっ、ちょ!! 今、声が聞き取れなかったのか、栄くんが少し八雲くんの方に頭を傾けたよ!? もうっ、もうっ、そのままキスすればいいのに!!
いや、さすがに外野が多すぎてここでは駄目だな!! ムードがなさすぎるよ、ムードが!!
とかなんとかやってる間に、刻一刻と時間が迫る。
5分前に到着したのに、その時点で既に来ちゃってる彼等をこれ以上待たせるのは申し訳ない。さすがにそろそろ行かないと…
いやでも、しかし……
この格好で彼等の前に出るのは、拷問以外の何物でもないだろう!? それもこれも、すべてお姉ちゃんのせいなのにぃ~!!
葛藤している間にも、2人は数人の女性達に囲まれた。
逆ナンか? 逆ナンなのか!? リア充爆発しろ!!
栄くんは面倒くさげに、八雲くんは困り顔に、二人が迷惑そうにしているのがここからでも伺える。そりゃそうだ、2人の時間を彼女達が奪ったんだからね!!
ていうか、女子!! イケメンのツーショットが台無しだから、早くどいて!!
彼等を囲んで騒ぎまくる彼女達は、あろうことか彼等の腕を取ってアピールしまくっている。
そんなことをしても、栄くんや八雲くんがなびくわけないのにね!! って、僕が速やかに彼等の元に行けば丸く納まる話しなんじゃ……いや、納まる気がしない!!
彼女達気が強そうだし、それでなくてもこの格好で二人とご対面するのは……憂鬱だ。
うぅう~~、お姉ちゃんのせいでぇ…
もう、こうなってしまったら仕方がない。ここまで来たからには、どうやって彼等を奪還するか、ということにだけ集中しよう。
そして……僕は笑い者になろう!!
僕の覚悟が伝わったわけではないだろうけど、煩わしさの頂点に達した栄くんから電話がかかる。
遅ぇな、何してんだ、な顔でスマホを耳に当てる栄くんに答えるように、携帯に出た。
「あ、未来。テメェ何やってんだ? もう時間になってんぞ」
「うん、ごめん。実はもう傍にいるんだけど」
「は? どこに…」
彼等の正面まで歩いて行くと、栄くんが気付く前に八雲くんが気付いた。辺りをさっと見た拍子に栄くんも気付いて、2人の驚愕した顔とご対面する。
今の僕を形容するなら、きっと……
「…は? どちら様?」
「え…未来くん? 未来くんなの!?」
スマホをポケットに仕舞って、2人と対峙する。彼等に付きまとっていた女性達も、その拍子に彼等に絡めていた腕の力を抜いた。
横断歩道は青。今しかない!! 2人の手を握り、全力疾走!!
「ダッシュだ2人共!!」
2人から、驚きの声が上がる。けれどもう……走り出したら止まれないぃ~~!!
僕等が渡り切った後、信号機は赤になった。
そのまま走り続け、公園まで来たところで……死んだ!!
「ゼハァ~、ゼハァ~」
「み、未来くん、大丈夫!?」
「お前マジに未来か? いやでも、その身長と頭の大きさ…確かに未来だな」
「頭と身長で認識するとか酷くない!?」
栄くんは友達を頭のサイズで見分けているのかと怒ったら、今のお前見てそれ以外の何でお前と認識すればいいんだ、と言われた。
はっ、そうだった!! 今更ながら、己の格好を思い出す。
「あ、穴があったら入りたいぃ~」
「未来くん落ち着いて! 洋服が汚れちゃうよ」
洋服とかどうでもいいよ!! 大体、僕のじゃないし!!
友達にこんな…こんな恰好を見られるなんてぇ~!!
「つーか、なんで女装してん」
「シャラップ!!」
普段の僕からは想像も出来ない地を這うような重低音で、これ以上僕を惨めにするなぁ~と威嚇すると、さすがの栄くんも押し黙った。
ていうか、瞬間移動ばりの素早さで栄くんの口を両手で抑えたからしゃべれなくなった、というのが真相。
そんな僕の手を口から引き剥がし、左手を掴んだまま納得する栄くん。
「このちっさい手は、間違いなくお前だな。つか、爪まで完璧って女子か」
「僕のせいじゃないよ~!!」
すべてはお姉ちゃんの策略なんだと言うと、すべてを察した八雲くんが、もしかして…と呟いた。
そうだよその通り!! 今日この日を僕がどれだけ楽しみにしていたか知ってるくせに、お姉ちゃんときたら!!
「だからさっき、未来くんの写真を絶対撮ってきなさいねって姉さんから連絡が来たのか」
お、お姉さん!! 八雲くんのお姉さん!! そんなところでもお姉ちゃんと結託しなくていいから!!
しかも、ツーショット、スリーショットも必ず、と念を押されたらしい…
そうか、すべて仕組まれていたのか……初めから!!
それは、早朝に遡る。
僕が目を覚ましたのは、セットしたはずのアラームではなく、お姉ちゃんの声でだった。
「…らい。未来」
「んう…」
何か聞こえる。呼ばれている気がする。でも眠い。もう少しだけ…
「今日、お友達とお出かけする日なんでしょ?」
「!?」
お友達、お出かけ…そうだった!! 起こされるまま飛び起きて、おはようなんて言う暇もなくベットから降りる。
昨日作ったクッキーを包装しようと、リビングに準備してたんだった!!
早く早くと逸る気持ちのまま、顔を洗い、歯を磨き、服を着替えようと部屋に戻る途中、お姉ちゃんに呼び止められる。
「未来、待って! ちょっとお願いがあるのよ。先にクッキーの包装をして、私の部屋に来てくれない?」
「お願い? 急ぎなの?」
「えぇ、新作の資料にしてたものが紛失しちゃって、でも今日中に揃えないと脱稿にも影響が出ちゃうのよ」
新作、資料、という言葉に、僕は思わずおーまいがっ、と叫びそうになった。だってそれは、今僕がハマってるシリーズもののBL小説のことだろうから。
最近ずっと、それを書き上げることに全力を傾けていた姿を見て知っている。そのために僕が、一肌脱いでいたのだから…
ていうか、それってつまり……
「え、でも…今日は栄くんと八雲くんとお出かけする日で…」
「すぐに済むわよ! 車で送って行くし!!」
お願いよ未来と懇願されては、断れるはずもなく…仕方なく、お姉ちゃんに言われるがまま、クッキーの包装を終えた後、お姉ちゃんの部屋に向かった。
あれでもないこれでもないと着せられ、メイクされ、カツラや付け爪を付けさせられ、ポーズを取らされ写真に取られること数時間。
時計を確認して、まだ時間があるし大丈夫という僕の仏心は、それからすぐに発せられたお姉ちゃんの言葉で敢え無く粉々にされてしまうのだった。
「さぁ、未来。そろそろ行きましょうか」
「あっ、そうだね! そろそろ着替えないとね!」
カツラを取ろうと手にかけた瞬間、それをお姉ちゃんに阻止され、にっこり微笑まれる。微笑まれているのに、なんだろうこの、蛇に睨まれた蛙状態。
背中を薄ら寒いものが駆け上って来るんですけど…
「未来? 悪いとは思ったんだけどね、もう本当に時間がないのよ。それこそ、着替えてる時間なんてないほどに」
「っ!?」
え…だってだってっ、部屋の壁に掛けてある時計の時刻は、まだ全然余裕のある時間で…
お姉ちゃんはおもむろに、普段枕元に置いてあるはずの電波時計をベットの下から引っ張り出す。それは、約束の時間40分前の時刻を示していた。
え…ちょ…えっ…? どういうことなの、掛け時計壊れたの、それとも電波時計の方が壊れたの!? 本当にギリギリ!! ギリギリ過ぎるにもほどがある!!
「さぁ未来、早くしないと遅れちゃうわよ?」
あ、悪魔!! これ以上ないほどに凶悪な悪魔が、ここにいる!!
僕が一体何をされちゃったのか、すべてを悟った瞬間だった。
「ぶっ…」
分かってる。分かっているさ。そうやって、笑うがいいさ!!
腹を抱えつつ、声を殺し肩を震わせ笑う栄くん。ちょっとは八雲くんを見習えー!!
僕を憐れみいっぱいに見つめる八雲くんを……見るなぁ~!! 見ないでくれぇ~!!
例え同情してくれていても…いや、だからこそもっと辛くなるよ!!
絶望感から、再びしゃがみ込んで嘆きのポーズ。しばらく立ち上がれずにいると、八雲くんも同じようにしゃがみ込み、苦笑を浮かべながらも肩をポンと叩いてくれた。
「でも、とっても可愛いよ」
「全然慰めになってない!!」
「ぶっくっ…」
「そこもっ、笑うなぁ~!!」
本格的に笑い出したいのを堪えるあまり、歩道用防護柵のガードフェンスに突っ伏し震える栄くん。
ムキィ~!! 超馬鹿にされてるぅ~!!
「まぁまぁ、落ち着いて未来くん。それより、早くここから離れよう? 注目を集めちゃってるからね」
言われて初めて気付いたけど、確かに注目されている!!
公園だからそれほど人も多くないとはいえ、何をやっているんだあの人達、な注目を集めている。もしかして、僕が男の子だってバレちゃってたりしてないよね!?
あわわあわわと青ざめていると、八雲くんが震える僕を立たせてくれる。
明らかに男の子ですな会話してたけども、大丈夫だろうか!? 気付かれてないだろうかぁ~!!
ど、どうしよう…
「栄」
「くっくっくっ……はぁ~、了解。とにかく、どっか店入ろうぜ? 俺腹減ってんだわ」
軽い腹筋運動もしたしな、とニヒルに笑われ…嫌味かぁ~!!
栄くんに掴みかかりたいのを八雲くんに制され、公園を出て脇道に連れて行かれた。
僕のライフポイントは、ゼロである。
いやしかし、八雲くんがただ名前を呼んだだけなのに了承しちゃってるこのやり取り何なのデキてるの!? この二人の会話に超絶萌えるよ!!
出来ればもっと、言葉少なげなやり取りで分かり合っちゃってる方が萌えるけどね!!
路地裏に入って少しすると、西海岸な雰囲気のテラス席のカフェを発見する。
お店の雰囲気がいいなぁと思いながら四つ角に差し掛かったところで、聞き覚えのある声が聞こえてきた。
「まったく、やってらんねぇ。なんだってこんな休日に、んな面倒な事やらされてんだよ」
「別に構わないだろう。そもそもこちらのミスなんだ。お詫びを兼ねて窺うぐらい、どうってことないだろ」
「んなわけあるか! あれ、絶対わざとだぜ? 最近の女子校は、マジで怖ぇよなぁ~」
そちらが送った書類に不備がありましたっつえば、男子校の男前がわざわざ女子校まで訂正書類持って来てくれると思ってやってんだろ、と毒を吐く。
それに対し、もうよせ、済んだことだろ、と宥める声。
私服でもいいってことだけがせめてもの救いだぜ、と相変わらずグチグチ言っていたのだが…
声に聞き覚えがあり過ぎて、ビックリするというかビクリとする。この人達にバレたら、かなりYA・BA・I!!
しかし不幸にも、こんな目立つイケメン2人が、同じくイケメンな彼等に気付かれないわけもなく…
「お? なんだ、倉橋と漣じゃねぇか。お前等が揃って週末に街にいるなんて、なんつー出来すぎな女ホイホイだよ」
入れ食い状態じゃねぇか紹介しろ、とこっちがげんなりさせられちゃいそうなチャラ発言。
ていうか、生徒会長だって入れ食いでしょ!? 紹介とかして貰わなくても、自分で調達できるでしょ!? って、調達って言い方どうなの、と自主ツッコミ。
律儀にも、厚木先輩久佐賀先輩こんにちは、と八雲くんは笑顔で返し、あんたらだって、そこいらに突っ立ってたら女津波を体験できんじゃねぇですか、と栄くん。女津波って…言い得て妙だ。
因みにだが、厚木先輩っていうのが生徒会長のことで、フルネームは厚木柊吾先輩。
久佐賀先輩っていうのが風紀委員長のことで、フルネームは久佐賀雄之助先輩。
まぁ、それでも僕は、彼等のことを生徒会長と風紀委員長と呼ぶけどね!
ていうか、ちょっ、こっち見るな生徒会長!!
「つか、既に女連れてるな。お前等がナンパしたなら、かなりの上玉…いやでも、お前等がナンパとか、ねぇな。つーことは……どっちの妹なんだ?」
顔を背けたり俯いたりしてたから正面から見られていないとはいえ、こうもじろじろ見られると、見破られそうで怖い。
声を出しては駄目、ボロを出しては駄目、何が何でも、この場を丸く納めるのだ!
しかし、そんな努力を重ねても、八雲くんに助けを求めようとした拍子に顔を見られるという大失態を犯してしまったら意味ないよ!!
「へぇ、結構可愛いじゃん。漣、お前の」
「ぶっ…」
生徒会長が八雲くんに話しかけた途端、お隣の長身が吹き出した。ちょっと、また笑いのドツボに嵌ったの!? 背を向けていても、その背中が小刻みに震えてるよ!?
そんな栄くんを不審げに見つめた生徒会長は、何故笑われているのかと不思議がる。
仕舞いには、栄くんの背中を何度か叩いていた僕の行動に、これは何かある、と思ったようで…
「なんかおかしいな。君、漣だけじゃなく、倉橋とも知り合いなのか? ていうか、こいつらと知り合いでこの身長……まさか!!」
ギクリとする。まさか、悟られちゃったわけないよねぇ~
動揺を悟られたら終わりだ、と分かっていても、どうしても動揺を隠せない。
察してくれた八雲くんが話題を変えようとしてくれたんだけど…何を思ったか生徒会長、急にとんでもない爆弾を投下してくれた。
「そう言えばこの間、保健委員長と副委員長が保健室の同じベットで爆睡してたっつー報告が」
「マジですかそれ!? なんていうダークホース!! 予期せぬカップリングキタァ―!!」
いやいやいや、でも先輩達は普段から仲が良くて、お互いの家にお泊りし合う関係だってことは公然とされていたではないか!?
趣味が同じとか、ウマが合うとか、得意不得意な教科が同じだとか、色々理由はあるけど仲良かったもんね! 何故、何故僕は、彼等に注目しなかったのか!!
ていうか、それよりも何よりも!!
「写真!! 写真はないんですか!? 保健室で寝てたっていう証拠写真!!」
あったら下さい!! 絶対下さい!! 今すぐ下さい!! と、抑えきれない興奮のままに詰め寄ると…ニヤリ、と笑われた。
あ~……これは、アカン。血の気が引いた。
「やっぱり、未来だったんだな。女装なんかして俺を騙すとは、いい度胸じゃねぇか」
「ぼ、僕は別に、騙してない、ですよ…」
「つか、なんだその格好。お前、ホモが好きなだけじゃなくて、女装趣味まであったのか?」
「僕はホモが好きなんじゃなくて、BLを見るのが好きなんです!! それに、この格好は、お姉ちゃんに着せられただけで!!」
かくかくしかじか、なんて言葉ではもちろん通じないから、その辺は栄くん達に話したのと同じように、お姉ちゃんはBL作家、というワードは包み隠しつつありのままを話した。
勿論ながら生徒会長も…
「ぶっ…っ……くっくっくっ…」
ですよね!!
やっと栄くんの笑いが納まったかと思ったら、今度は生徒会長だ。取りあえず、地獄過ぎる!!
僕が何をしたって言うんだ…こんな仕打ちは酷い!!
仕舞いにはゲラゲラ笑い始めた生徒会長を前に、僕は絶望した。