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爆走腐男子くん  作者: らんたお
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王子様と僕で、街ブラってきました!2

 八雲くんと電車に乗ったのはいいけども…何なんだこの、人・人・人!! ラッシュじゃないはずなのに、何でぇ~?

 僕等が乗った時、座席は空いてなかったけど立っている人はまばらだった。それなのに、次の停車駅で物凄く人が乗って来ちゃったのだ。

 このままじゃ潰されちゃうかもって不安だったけど、八雲くんが僕を庇うように壁に手をついて立っててくれてるおかげで何とか潰されずに済んでいる。

 けどやっぱり、人の多さでだんだんと息苦しくなってくるわけで…


「未来くん、大丈夫?」

「うん…なんとか…」


 もう一駅までの辛抱なんだから、と自分に言い聞かせながら、なんとか耐える。

 八雲くんから漂ってくるシトラスの香りが、少しばかりの爽やかさを放ってくれているおかげで頑張れそうな気がする…って、変態か僕は!!

 いや別に、クンクン嗅ぎまわってたわけじゃないからね!? 香ってきただけだからね!? そこんとこ、勘違いしないでね!?


 しかし、この密集度。不快指数を上げる以外に、ある弊害をもたらしてしまう。

 身長が一人飛び抜けちゃっている八雲くんの美しさに、気付いちゃった人達が居たのだ。

 そのひそひそ声が、僕等の所にまで届いてしまう…


「ちょっと、あそこにイケメンがいるんだけど!!」

「ホント! ちょっ、ヤバくない!?」

「てかあの制服って…南校じゃない?」

「ホントだ!! てことは、あの美形もしかして…」

「そうよ、絶対そう! 漣八雲よ!!」

「あの王子様の!?」


 って、後半もう、ひそひそじゃなくなってるんですけど!?

 しかし、八雲くんに気付いちゃった彼女達の興奮を止められる者など、ここにはいない…ガッデム!!

 それどころか、彼女達の話を聞いていた周りの人達までもが八雲くんに注目し始めちゃうものだから…こんな密閉空間内で、視線の集中砲火を浴びてしまっていたりします。

 い、居たたまれない! 最高に居たたまれないんですけど!!

 それだけに止まらず、電車の揺れによって僕を見つけたらしい彼女達は、僕にも注目したようで…


「ねぇ、王子様と一緒にいるのって誰なんだろうね」

「友達じゃない? 同じ制服じゃん」

「でもあの顔、どこかで見たことあるのよねぇ」

「え、どこで?」

「それが分からなくて……あ、思い出した! ミルキーちゃんだ!」


 ちょっ、声大きいよぉ~!! てか、なんでそのあだ名知ってんの!? それ、中学校の時に付けられたあだ名じゃん!! 某キャンディーが似合いそうだからって、おふざけで付けられたやつ!!

 聞けば、彼女の幼馴染が僕と同中だったらしい。

 しかも、だ。僕が文化祭の時に無理やりやらされた、女装のことまで大声で暴露してくれちゃって…


 八雲くんに向けられていた視線は、僕にも向けられるようになって…恥ずかしさがこみ上げてきて、思わず鞄に顔を埋めた。

 それを見たからなのかどうなのか、八雲くんが動いた気配がして鞄から顔を上げる。すると、彼女達から僕が見えないように、体をずらして隠してくれていた。

 なっ、なんて紳士的!! しかも、僕と目が合うと、おとぎ話の王子様のように微笑んでくれたのだ!! まっ、眩しいぃ~!!

 僕、何度八雲くんに目潰しされてるんだろう。もう数えきれないよ!!


 そこへ、突如としてやって来た急カーブ。

 彼女達の言葉に耳を傾けて気を抜いていた人達は、遠心力に勝てずに人津波となって押し寄せてきた。駄目だ、潰される!!

 目前には、知らない人の背中があるだけ。その背中が、どんどん僕の方に迫って来るわけで…衝撃を覚悟して、ギュッと目をつぶった。

 なのに…一向に、押しつぶされる様子がない。何でだろうと瞼を開いたら…八雲くんが、腕一本で必至に耐えてくれていた。

 背中を向けている人も、倒れないようにと踏ん張って耐えていたこともあってか、その距離約10cmというところで背中が止まる。

 恐る恐る八雲くんを見上げると、いつでも爽やかな微笑みを絶やさない甘いマスクの王子様は、何事もなかったかのように平然とした顔で、どこに行きたいのと聞いて来る。

 ちょ、超紳士的!! え、これが素だって言うんなら、本当におとぎ話の中から出て来ちゃってるんですけど!!


 八雲くんの言動に驚愕しながら、行きたいところかぁと考えていた。正直、行きたいところなんて特に決めていなかったけど、無難なところで本屋さんと言ってみることに。

 そしたら八雲くん、俺もちょうど欲しい本があったんだよね、と言って…

 なんか、理想的恋人像を体現している人が目の前にいるんですけどぉ!? 王子様な容姿な上に、相手に気を使わせないよう話を合わせちゃう徹底した紳士ぶり!!

 これは、女性達がこぞって八雲くんを欲しがってきたわけだよ、と納得してしまうところである。


 この世に本物の王子様がいたぞと喜んでいる間にも目的の駅に到着して、僕等は電車を降りた。のはいいんだけど…八雲くんに、手を引いて貰っている。

 僕、八雲くんの中で一体何歳児に見られてんですかね!? 同じ高校の制服着てるはずなんですけど!? 八雲くんの子ども扱いはいつものことだけど、今回ばかりは最高に疑問です!!

 そりゃあ、これだけ人がいると、はぐれちゃいそうに見られててもおかしくはな…いや、おかしいよ!!

 てか、僕の方が3ヶ月ほどお兄ちゃんのはずなのに!! 誕生の早さよりも人格と人生経験の方が重要、なんて絶対認めないんだから!!


 とは思うけど、終始嬉しそうにしている八雲くんに水を差すようなことは言えず、渋々そのままにしておく。

 さすがに、本屋さんに着けば放してくれるだろうことを信じて…





 本屋についてすぐ、迷いなく歩いていく僕に付いて来る八雲くん。


「未来くんは、普段どんな本を読むの?」

「BL」


 即答である。僕が答えた瞬間、八雲くんのカッコよさに遠巻きながらキャッキャしていたざわめきが一瞬停止した。

 そりゃそうだろう。何せ、BLが何たるかは、少女漫画や少年漫画コーナーが目前のこの一体の人達には、何となく悟れてしまうだろうから。

 八雲くんなんて、まさか直球で言われてしまうとは思わなかったようで、笑顔が固まってた。

 僕等のことを遠巻きに見てキャッキャしてた女性達も、凍結しつつもニヤニヤしていた…って、多分その人達、お・な・か・ま!! いや、うん、僕だって何も、それだけじゃないんだけどさ。


「偉人の名言集とかも読むよ。後、参考書!」

「参考書? 学校の?」

「ううん。BLの!!」


 シィーンッ…再び!! ただし、あの女性達はひそひそしながらもハイテンションになっていたけど。

 うん、僕も腐男子だから、彼女達が何を考えているのか分かるぞ。さては君達、僕と八雲くんをカップリングしているな!? 違うからね!? 僕等お友達だからね!?

 腐男子受けジャンルがあるのは知ってるし、嫌いじゃないけど、僕は違うから!!


 八雲くんも、一瞬硬直してたけど気を取り直し、いつもの笑顔に戻る。うん、さすがは王子様だ。驚き方にも気品があり、立ち直りも早い。


「そう、今日はそれを買いに来たの?」

「ううん。お姉ちゃんに頼まれてたグルメ本と旅行雑誌。後、料理本が欲しくて」


 少年漫画コーナーを抜け、文学コーナーの前を通って料理本コーナーへと向かうと、目線の高さでディスプレイされた料理本をいくつか手に取って見てみる。

 僕の勘が間違いでなければ、あの女性達の歓喜の悲鳴が微かに聞こえた気がしたけども…

 って、もしかしなくても、彼氏に手作り料理を振る舞うために料理本を買おうとしているとか勘違いしてる!?

 腐女子ならあり得なくもないな、なんて若干落ち込みながらも、まぁ僕もよくやる妄想だしと諦めることにする。


 そう言えば、と思い出して八雲くんを見ると、八雲くんも僕と同じように料理本を手に取っていた。

 あれ? 八雲くんが欲しい本って、料理本だったのかなぁ?

 視線に気付いた八雲くんは、何かおすすめの本はある、と聞いて来る。


「八雲くんも料理するの?」

「うん。家ではいつも、夕飯は俺の担当だよ」


 うちは共働きだから、普段から交代で家事をやっているんだよ、だそうだ。

 僕のとこと同じなんだなぁと、今更のことながら知る。

 まぁ、僕の家はお父さんとお母さんが海外出張してるから、歳の離れたお姉ちゃんと2人きりの生活ってこともあって、必然的にそうなっちゃってるんだけど。

 お姉ちゃんはOLを遣りながら作家もしてて、普段は文学系の小説を書いてるんだけど、その傍らBLも書いてるんだよね。

 小さい頃から教え込まれたせいか、僕の趣味はBL一本!!

 少女漫画も少年漫画も、読むには読むけどBL以上に熱心には読まないかなぁって感じ。とまぁ、それは置いといて。


 男子たるもの、料理の心得があって当然というのがお姉ちゃんの口癖だったおかげで、小さい時から料理を習わされたんだよね。

 だから本屋に来ると、必ず一冊は料理本を買うようにしてるんだけど…このキャラ弁とか、すっごく興味あるな!!

 キャラ弁は、好みが分かれるからってお姉ちゃんに言われて作ったことはないんだけど…今度、作ってみようかなぁ。

 って、今更だけど、好みが分かれるからってどういう意味だったんだろう、お姉ちゃん。

 自分が食べるんだから、好みなんて関係ないのに…


 八雲くんにおすすめするなら、こんなのはどうだろうと、低カロリーだけど食べ応え充分、と書かれた本をおすすめしてみる。

 お姉さんと妹さんがいるらしいし、低カロリーという謳い文句は女性には嬉しいはずだしね。

 じっくり中を見てみた八雲くんは、美味しそうだね、ありがとう、と極上の笑顔でお礼を言った。

 し、視界が神々しいものに覆われるほどの勢いの笑顔キタァー!! 八雲くんの笑顔は破壊力が高すぎるよホント!!

 今度サングラス買おうかな、と密かに思いつつ、あの女性達の歓喜に打ち震える姿を見た気がした。

 って、まだこっち見てたの!?



 八雲くんと僕、お互いに欲しい本を買って本屋を後にすると、途端小腹が空いて来てしまった。

 そうは言っても、ご飯を食べて帰ったらお姉ちゃんに何て言われることかと思い、我慢しようと思っていたんだけど…食べ物屋さんの前を通った時、チラチラと視線を彷徨わせてしまった感がある。

 だって皆、美味しそうな匂いを漂わせてたんだもん。

 後少しでこの苦行ともおさらばだ、と食べ物屋さんコーナーが終わるか終らないかの所で、八雲くんが聞いてきた。


「未来くん、お腹空かない?」


 俺、お腹空いちゃって…と照れて見せる王子様。

 やばい、シャッターチャンスを逃した!! って、違う違う!!

 八雲くんもお腹空いてたのかぁ…僕は、どうしようかな。

 軽食程度なら許されるかな、と八雲くんと一緒にファーストフード店に入る。が、その際、まるでレディーファーストだよと言わんばかりにドアを開けてにっこりされたのは何故なのか。

 これが八雲くんの通常運転なのかもしれないし、ためらうのもためらわれる。

 ひとまず、恐縮しながら先に入店させてもらうことにした。


 時間が時間なだけに店内には結構人がいたけど、なんとか席は確保できそうな感じだ。

 八雲くんに尋ねられるままに食べたいものを伝えると、代わりに注文しておくから先に席を確保しておいてくれるかなと言われる。

 ざっと見たところ、ゴミ箱は近いけど窓際席な場所が開いていたので、解放感はあるしいいよねと思って、その席で待つことに。

 しばらく窓の外を見ていたら、八雲くんがおまたせ、とトレイを持って来てくれた。


「はい、サンドウィッチとアイスティー」

「あ、ありがとう。いくらだった?」


 さぁ、とにこやかにはぐらかされ、本当にそれだけでいいの、少なくないのと聞かれる。夕飯があるし、と返すと、そうだねと笑顔。

 その後は、電車内での出来事の話になり、八雲くんって有名人だったの、と僕が追及するまでに話が弾み、その拍子にミルキーちゃんと言われていた過去まで暴露する羽目となった。

 皆には言わないでねと念押したりと、色々な話で盛り上がった後、そろそろ出ようかとなってお店を後にする。

 雑貨屋さんに立ち寄ったり、ペットショップの前で立ち止まったり、友達と過ごす初めての放課後を満喫して大満足だったせいで、時が経つのも忘れていた。


 しかし、僕がペットショップのウィンドウに噛り付くように貼りついてにゃんこを見ている時に頭を撫でられたのは何でなのかな!?

 僕、可愛いなぁ、なでなでしたいなぁって言ってたんだよ!? なでなでされたいなんて言ってないんですけど!!

 その時の八雲くんが、とんでもなく王子様スマイルだったから何も言えなかったけども…なんか、納得いかない!!


 気付けば、駅に着いてから3時間以上も経っていて…さすがに帰らないとヤバい時間である。

 八雲くんもきっとそうだろうと思い、現地解散ということで別れようと思って提案したんだけど…


「じゃあ、家まで送っていくよ」

「えっ…でも、八雲くんと僕の家、逆方向だよね?」


 八雲くんの家まではここから2駅先だが、僕はその逆方向に4駅先の距離だ。バス通の僕とは違って、八雲くんは電車通。

 送ると言われても…


「もう外は暗いし、時間も遅いからね」


 終始笑顔を絶やさない八雲くん。

 こんな時間になっても疲れを見せず笑顔、なんだけど……なんだか、有無を言わせぬ雰囲気でした。



 結局家まで送って貰っちゃったんだけど、その道中、気になったことが一つ。気付くと八雲くん、右やら左やら、場所が移動しているのだ!!

 そのことに気付いてからよぉく観察してみると、何故か彼は常に車道側を歩いていた。そう、常に!!

 会話をしながら歩いているにもかかわらず、なんてさり気ない気遣い。よくよく考えれば、電車代だって、ご飯代だって出してもらっていたような…

 ぼ、僕、奢って貰っちゃってたんだよね!? いかんぞこのままじゃ!!


 家の前まで送ってもらってから、今日のお礼にと明日お弁当作って持って行くよと提案した。一瞬驚いた八雲くんは、そんなのいいよと遠慮したけど、僕は持って行くからねっと強く言う。

 すると八雲くん、じゃあお願いしようかなと言って、爽やかに帰って行った。

 まさか、さり気なく買っておいたキャラ弁本が、こんなにも早く役立つ時が訪れるとはっと思いながら、ウキウキしながら夜遅くまで読み耽る。





 翌日、事情を知ったお姉ちゃんのテンションの高いアドバイスを受けながら、可愛過ぎないキャラ弁を作って八雲くんに渡した。

 すると八雲くん、心底嬉しそうに微笑んで、美味しい美味しいと笑顔で食べてくれたのだ。

 人様に食べてもらうために作るお弁当は身内以外では初めてで、すっごくドキドキしたんだけど、喜んでもらえたみたいでホッとした。

 そのやり取りを見ていたらしいクラスメイト達は…


「遂にあいつら、夫婦に!?」

「昨日のデートが成功したのか。祝福しなくちゃだな!」

「そうだ、今日はお赤飯にしよう!!」


 って、君達何を言ってるのかな!? 夫婦じゃありませんけど!!

 てか、お祝い事にお赤飯って考え方、古いよ!?



 その更に後日談として、キャラ弁作りの練習も兼ねて時々八雲くんのお弁当を作ってあげることにしたんだけど、どうせならと栄くんにも作ってあげることにしたのだ。

 これならばきっと、夫婦がどうのと言われないだろうし、栄くんが美味そうだなと言っていたし一石二鳥だと思っていたのに…


「禁断の三角関係だ!!」

「夫が2人って…どんな夢展開だよ!!」

「未来は、いいお嫁さんになったなぁ」


 って言っていた。なんか皆、色々と染まっちゃってるんですけど!? もしかして、僕のせい!?

 僕の腐男子精神が、彼等にも乗り移っちゃったのだろうか。

 なんだか最近、とっても不本意な状況になりつつある気がするのです…


 あ、でも、放課後街ブラは楽しかったけどね!

 次回は必ず、栄くんも連れて行こうと決意しながら、クラスメイトの声は無視することに決めた。

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