王子様と僕で、街ブラってきました!
ふぅ~今日も色々あったなぁ。担任に説教されたのが一番堪えた一日だった。
まぁ、それは置いといて…今日は大収穫だったよ!! 生徒会長と風紀委員長が、只ならぬ仲であることを発見したしね!
って、それはともかく、今日は重大な決意を胸に秘めているのだった。
男子校に通い始めて早1ケ月、同じクラスにイケメン2人という美味しさから2人とお友達になり、今の今まで実行せずにいたことがある…それは!! 放課後街ブラである!!
中学まではずっと、お姉ちゃんに言われて放課後街ブラ禁止されてたので、友達と遊びに行くのはいつも休みの日だけだったんだよね。
でもそれも高校生になったからと解禁され、僕はやっと放課後街ブラを友達と出来るのだ。
ずっとチャンスをうかがっていたけど、今日ならそう、八雲くんの用事がないことはそれとなく探って確認済み!!
栄くんは、いつもの如く部活があるから無理みたいだけど、八雲くんだけでも誘って街ブラを決行しようではないか!!
ささっと帰り支度を済ませて八雲くんの傍に駆け寄ると、僕は勇気を出して八雲くんに声をかけた。
「や…やや、八雲くん!」
って、何どもってんの僕!? 恥ずかしくなるよりも先に、八雲くんの神々しいまでの…
「ん? 何? 未来くん」
王子様のビューティースマイル、キタ~!! 八雲くん、なんでいつも誰に対しても神々しいの!?
ここ男子校だよ!! 狙われちゃうよ!! 栄くんだけの魅惑の微笑みは、栄くん以外には見せちゃ駄目だよ~!!
「未来くん?」
「こいつ、また一人で暴走してんじゃね?」
気にすんなよ、と横を通り過ぎざまに栄くん。この状況、どう見ても僕をダシに八雲くんに話しかけたんだよね!?
そうだよね、栄くん!? って、感動してる場合じゃない!!
教室にはもう、ほとんど人がいなくなってて、僕と八雲くんだけが佇んでいる状況。
八雲くんは僕の次の言葉を待ってくれているし、教室にちらほら残っているクラスメイトも僕等を気にしつつもどこ寄って帰る、なんて話し合っている。
そうか、どこ寄って帰るって聞けばいいのか!! いやでも、いつも行ってる彼等とは違って、僕等は放課後街ブラしたことないし。
どうしよう…なんて切り出せば…
焦ってる間も、八雲くんは気長に待ってくれている。
うん、このままじゃ埒が明かない。 スパッと言ってしまえ、未来!!
「あのね! 僕とね!」
「うん」
言ってしまえ、言ってしまうんだ未来!! と念仏を唱えている間、クラスメイトの呟きが聞こえてきた。
え、もしかして…告白? って、違うよ!? 違うからね!? 何で僕が、八雲くんに告白するの!? そんなの有り得ませんから!!
って、脳みその片隅シャラップ!! 今は、八雲くんに言わなければいけないことがあるんだから。
「ほ、放課後街ブラしてほしいの!!」
って…なんで直球で言っちゃったの僕!? ここは、この後暇なら、どこか寄って帰らない? って、言うとこぉ~!!
あまりに恥ずかしすぎて、両手で口を塞いだ僕。放課後街ブラって、普通言わないよ。
クラスメイトも、放課後街ブラって…、つか意を決して言う言葉がそれなのか、デートのお誘い…にしておかしい、と呆れ返ってるぅ~!!
というか、デートのお誘いって何さ。違うんですけど!
うぅう~…穴があったら入りたいぃ~
言葉をミスって変な誘い方しちゃった。でも、もう一回誘うのはもっと恥ずかしいから無理ぃ~
しょんぼりしてたら、僕の頭にポンッと手のひらが乗せられる。よしよし、と頭の上を行き来する優しさに見上げると、八雲くんが史上最強の王子スマイルで破顔していた。
にゃ!? ま、眩し!!
「遊びに誘ってくれたんだね。ありがとう」
キラキラ王子スマイルと後光炸裂ぅ~わぁ~!! ミサイルの爆心地並みに眩しいよ~!! 目がぁ~目がぁ~!!
視覚的目つぶしに僕が呻いていると、本当に嬉しそうな弾んだ声が聞こえてくる。
「姉や妹に、殺傷事件に発展するかもしれないからって今まで友達と遊びに行くのを許して貰えなかったんだよね。だから未来くんに誘ってもらえて、とっても嬉しいよ」
極上の笑顔キタァ~!! って……え? 殺傷事件? 友達と遊びに行くのに、一体全体どんなリスクを背負っていたの!?
えっ、じゃあ僕、殺傷事件になりかねないリスクを自ら背負った感じ!?
八雲くんの何気ない暴露に血の気が引いていると、慌てたように八雲くんが否定した。
「あ、でもっ、それは中学までの話だからね?」
誤解しないでね、と…
いや、誤解も何も、言葉の破壊力が度を越えすぎだよ。ニュースや新聞のトップに載る見出しだよねそれ。
聞けば、男友達に誘われて遊びに行くと、必ずと言っていいほど女友達も同行しちゃって、物凄い団体行動になっちゃう上に、女の子同士のいがみ合いの火の粉を浴びるのが嫌で、男友達はさっさと帰っちゃってたらしい。
彼ら曰く、女子怖ぇ~、お前が悪いわけじゃないが俺等には無理だごめん、モテ男には同情してる、お前の周りの女怖すぎ、だったらしい。
えぇ~っとつまり…
「ここが男子校だから大丈夫ってのは、そういうこと?」
「まぁ、それも含めて、ね」
八雲くんにしては珍しく、歯切れが悪い。他にも何か、あるってことか! 八雲くんの武勇伝、俄然気になりだした!!
ノーマルのことには興味なかったけど、八雲くんの過去には興味があるよ!
今度絶対聞き出そうと心に決めている間、とても上機嫌になった八雲くんに手を引かれるまま教室を後にする。
その直後、まだ残っていたらしいクラスメイト達が…
「やつの過去に、一体何が!?」
「あいつを遊びに誘うのは止めとこう。まだ死にたくないから…」
「つーか、やっぱデートのお誘いなのか」
「手を繋いじゃってまぁ~微笑ましいこと」
だから、デートのお誘いじゃないってばぁ!!
で、上機嫌な八雲くんは、ずっとずぅ~っと僕の手を引いたまま。僕、子供じゃないんだけど…
迷子にならないから安心してって言ったら、やっと放してくれたよ。
「ごめんね? 友達とこうして遊ぶの久しぶりで、浮かれちゃって」
て、照れ笑い! 可愛い!!
八雲くんを可愛いとか、僕が言うなって感じなんだけど、本当に今その表現がぴったりしっくりきたんだよ! 今の瞬間、撮っとけばよかった!!
そして後で、栄くんにそれとなく送っておくんだ…って、そんなことしたら、僕栄くんに殺されない!? や、やっぱ今のなし!!
俺の八雲の可愛いとこ勝手に見てんじゃねぇよクズッ、とか言われたら立ち直れないよ僕。
今の所、2人がイチャイチャしている現場には立ち会えてないんだよねぇ。
でも絶対、2人は人目を忍んでイチャイチャしているに違いない! きっと、友達の僕に気を使って、隠れてイチャイチャしてるんだ。
僕のためと思うなら、むしろ僕のいる前でやって欲しい。
そんなことを思っていたら、いつの間にやら駅に到着していた。
ここから三駅先に地下街があるから、無難にそこにしようかなと2人で決めていたのだけど…
先程から、何やら視線が痛い。僕らのことを…いや、八雲くんのことを見つめる視線視線視線。
八雲くんは終始嬉しそうにしているので気付いていないんだろうけど、僕には分かる!! 女性陣の視線を独り占めしている!!
制服を着ているおかげで、同級生か兄弟に見られているのか僕への視線に悪意を含んだものはないけど、そうじゃなかったらどんなことになっていたか。だって僕、私服だと女の子に間違えられちゃうんだもん。
僕としては不本意だけど、どうにも姉の趣味で揃えられた服を着ちゃうとそう見えてしまうらしい…悲しい。
女の嫉妬は怖いものだと、姉情報と八雲くん情報で聞いているせいか、途端怖くなる。
やっぱり、美形な友人を作ってしまったことが間違いなのか。でも…
「未来くん? どうしたの? 気分でも悪い?」
先程まで、お花が咲いたように笑顔だった八雲くんの笑顔が陰る。心配そうに覗き込まれて、あぁ駄目、そんな顔させちゃと我に返った。
別に、顔で友達になったわけじゃないし、そもそも、クラスメイトも皆友達だもん。特に仲がいいのが美形な2人ってだけでね。
「なんでもないよ! 早く行こう!!」
「そう? じゃあ、行こうか」
「うんっ…って、待って! 僕、まだ切符買ってないから!」
自然な動作で僕の手を引いて改札口へ向かう八雲くんを、待って待ってと引き止める。
でも、振り返った八雲くんはにっこり笑顔で…
「切符ならここにあるよ。はい」
「ありがとう…って、お金!!」
財布を出そうとしていたら、八雲くんに制され、再び手を引かれて改札口へ。
そのまま八雲くんが先に行ってしまい、一瞬躊躇するも、後ろの人にも迷惑だからと八雲くんから貰った切符を使う。
でも、なんだろう…すっごい罪悪感。
昔から、友達とか近所の人とかに何か貰うと、お返しをしなきゃって思っちゃうんだよね。貰うばっかりでは、なんだか申し訳なくなっちゃって…
というのも、その度お姉ちゃんが、じゃあお返しをしなくちゃねって言ってたから、その影響でそう思うようになったのかもしれないけど。
大体は、お礼として日持ちするからってことでクッキーとか作って渡すんだけど、皆喜んでくれるんだよね。
でも、こういう場合はどうするんだろう? クッキーじゃあ、安上がりになっちゃわない?
八雲くんに手を引かれるまま、どうしようかなぁと考えていた。