季節外れのサンタさん!2
可笑しい。可笑しいぞ? これじゃあまるで……
「おい未来、飲み物」
「あ、俺も」
「俺のも頼む!!」
「あ、じゃあ俺のもね」
「僕は家政婦か!!」
自分で入れろよー!! てか、何しに来てんのあなた達!! 生徒会長と栄くんはまだしも、キャプテンや飯田先輩がいるのは何故!? あなた達、バスケ部とサッカー部のキャプテンのくせに、何サボってんの!?
八雲くんが、俺も手伝うよと言ってくれなければ、完全に家政婦だったよね僕!!
驚くことに、衝撃的事実はこれだけでは終わらない。
「こういったこじんまりしたお家もいいねぇ」
「人の家に上がり込んで置いてその言い方はないだろう」
「未来くんのお家って、整理整頓が行き届いてるんだねぇ~俺、眠くなって来ちゃったよぉ~」
「整理整頓と眠気の因果関係がないんだが」
前生徒会長に前生徒会副会長と、生徒会副会長と風紀委員長まで!! 君達何してんの!? 我が家にいるかの如く寛がないでよ!!
君達、ここをどこだと心得る!? 僕の家であらせられるぞ!!
「あーはいはい、そうですね」
「知ってるっつの」
「……すまん」
横柄な生徒会長とか栄くんは反省しろ!! そして最後のバスケ部副キャプテンの大善先輩の謝罪。
いえ、いいんですよ先輩! あなたはそんな縮こまらなくていいんですよ!! この馬鹿を止められなくてすまんと、キャプテンに一瞥をくれながらも謝罪しなくていいんですよ!!
というか、今家にいる人間のスポーツマン率高くない? キャプテンと大善先輩と栄くんはバスケ部だし、飯田先輩はサッカー部だし、風紀委員長は剣道部で、生徒会副会長は部活じゃないけど空手やってるもんね。
屈強な男達が集結しているぅ~!! ていうか、なんなのこの状況!? テーブル席もソファーも足りなくて、物置部屋から椅子を持って来ないといけないぐらいの人の多さなんだけど!?
まさかこんな大所帯になるとは思わなかったから、最初は同級生二人と先輩一人が家に泊まるって言うんだけど泊めてもいいってお姉ちゃんに聞いたからね。お姉ちゃん、スマホ越しに鼻息を荒くして、全然オッケイよって許可してくれたんだ。
まさかその後、未来親衛隊登場っとか言ってキャプテンが現れ、未来の家を見てみたいと興味深々に飯田先輩と生徒会副会長が言い、心配だからと前生徒会長と前生徒会副会長と風紀委員長が来ることになるだなんて!! 因みに大善先輩は、暴走するキャプテンを必死に止めた上で力尽きてしまった……もっと頑張って!!
彼等を引き連れて家に帰る時、道行く人達にすっごい見られたよ。イケメンがごろごろ居る上に身長の高い男子高校生達という凄い団体さんだったもんね。そりゃあ二度見しちゃうよね!
買い物もすることなく直行で帰ってきたから、男子高校生の胃袋を満たせるほどの量の材料だって全然ないのにぃと思って冷蔵庫を開けたら、何故か今朝見た時は無かった大量の食材達が!! いや、知ってる。何でこうなっているのかは知ってるけどね。
お姉ちゃんったら、編集担当さんの稲田さんに食材調達を頼んでおいたからとか言ってたから!! というか、稲田さんは担当さんであってパシリではないのに可哀相……
真面目だから、浅夢様の創作意欲のためなら出来る限りのことは協力させて頂きますとか言ってそう。でもそれって、仕事の範囲内で協力すればいいんだと思うんだよね。私生活レベルまで協力しちゃうことを人はパシリと言うよ。
にしても、例えこれだけの食材があっても彼等の胃袋を満たすには至らないよ絶対。何故かお菓子類とか飲み物とかが箱で置いてあったし、ちゃっかり氷まで買ってあったけどね……稲田さん、ご苦労様です!!
しかし事情を知らない彼等にしてみれば、この大量の食材達を見ての感想は当然こうなるわけですよ。
生徒会長曰く、さすがリスだな、木の実を溜め込んでるのか。
栄くん曰く、胃がちっせぇくせに食い切れんのかコレ。
八雲くん曰く、お弁当のためにこれだけ食材を買ってたんだね、今までごめんね、食費もっと出すね。
風紀委員長曰く、冷蔵室の収納率は7割が理想だぞ、これは入れ過ぎだ。
違うし!! いつもはこうじゃないし!! でも、まさか稲田さんの存在をつまびらかにするわけにもいかない。何が切っ掛けでお姉ちゃんの明かしてはならない秘密が漏れるか分からないからね!!
というか、八雲くんは別にお弁当代とかいらないのに毎回くれちゃうんだよね。それなのにもっと出すとか、本当に要らないから!!
それにしても、最初の三人以外は夜には帰ると言うから招き入れたけども、むさ苦しくて堪らないよ!!
大体ムカつくのはねぇ、生徒会長だよ!! ゲームも何もねぇのかのこの家、とさっきからグチグチ言うの! 文句を垂れるな!!
「未来、腹減った」
「僕は生徒会長のお母さんではない!!」
正直、これだけの食材を使ったところで間に合わないからと、僕の手料理アーンド出前ということになった。ピザが無難だよなと、手慣れた様子でオーダーする生徒会長。皆の意見も聞かずに勝手に決めるのはどうなの?
僕の方は、八雲くんのアシストを受けながら、ニラ玉やら焼肉野菜炒めやらだご汁やら、パパっと作れるものを作っていった。家の炊飯器は五合炊きだから、早炊きにして炊けたら木桶に入れて、次を炊かないといけない。まぁ、それを繰り返したとしても足りるかどうかは分からない。あまり大きくはない土鍋ならあるんだけど、こっちでもご飯を炊こうかな?
土鍋ご飯だけ炊き込みにして、後は明日のお昼用に付込んであった唐揚げも揚げて……としている間にピザが届く。ピザの合間にご飯とおかずを並べて、皆には先にご飯を食べてもらうことにする。
「未来くんも先に食べておいで?」
「僕はまだお腹空いてないから」
「そう?」
八雲くんは本当に優しいなぁ。どっかの誰かさん達とは大違いだよ!!
炊き込みご飯が一番好評だったけど、土鍋で作るのは結構大変だったからもう作らないよ。それにしても、どんだけピザを注文したんだよ。サイドメニューのも含めて箱が積み上がっちゃってもう。
脂っこい匂いが立ち込めて、嗅いでるだけで食欲がなくなるよ。換気扇付けとかなきゃね。
大体の料理も作り終えたし、洗えるものは先に洗っておいて僕もご飯食ぁ~べよっと。テーブルに座って、皆から少し遅れて食べていたら、生徒会長がそろそろ本題に入るかと言い始める。
「未来宅に不法侵入する変質者対策なんだが」
「それなら、戸締りはちゃんと確認しときましたよ」
裏口も何もかも施錠はバッチリですと栄くん。だけど、さすがに両親の部屋やお姉ちゃんの部屋には入れないって言うから、僕が確認したんだけど……何でそんなことをする必要があるのか分からない。
6月現在にサンタさんが現れるのは可笑しいってのは僕も思うけど、現に現れたんだからあわてんぼうだったんでしょと言ったら、皆に白い目で見られた。
皆って言ったけど、白い目で見てきたのは生徒会長と栄くんだけ。他の人達は、何とも言えない憐れみやら慈愛やらの目を向けていた!!
「不法侵入は例えサンタクロースでも犯罪だから。まぁ、馬鹿な未来は放っておいて、施錠は大丈夫ってことは侵入経路はやっぱり玄関か?」
「それ以外に考えられないな。相手がカギを持っているとなると厄介だな」
こちらの動きを察知して今回は何もせずに帰るとしても今後が心配だと風紀委員長。深刻そうに皆話しているけど、サンタクロースを変質者やら不法侵入やら言っちゃうなんて、クリスマスの時にプレゼントを貰えないぞ!
皆あーでもないこーでもないと言っているのを聞くのも面倒になって、僕は早々に彼等の会話から離脱した。とは言え、お姉ちゃんに言われてスマホの録音機能はオンにして置いたけども!!
結局、彼等の話し合いの結果、日替わりで家に泊まるということになった。用意できるお布団が4つしかないからと、多くて四人で家に泊まると……ちょっと待って。これっとどう考えても美味しい話じゃないかい?
お泊りだよお泊り!! 男が男しかいない家でお泊りだよ!! 何か事件が起きる予感!! 僕のテンション、MAXテンション!!
「何もねぇよ。絶対に」
「脳みそやべぇなお前マジ」
「未来くん、お口の中のご飯を食べ終わってから立ち上がろうね」
こぶしを突き上げ立ち上がった僕に、生徒会長、栄くん、八雲くんの意見を述べる。そんな僕らを無視しているのかなんなのか、風紀委員長も何か言っていた。
「武術の心得のある人間が一人必要じゃないか? 残念ながら俺は無理だが」
「だったら俺が泊まるよぉ~一度でいいから暴漢に上段回し蹴りしてみたかったんだよねぇ」
素人はやっぱり吹っ飛ぶかなぁと生徒会副会長。そう言えばこの人、空手は空手でも極真空手だった気がする!! 防具無しの組手なんだよね!?
極真空手って、見ている分にはカッコいいんだけど、それと同時にハラハラするよね。時々目を背けたくなるような痛い場面もあるし。
あれ? だけど確か、素人に技をかけたら駄目なんじゃないかなぁ。普段からふにゃふにゃしてるからそんな凄い人に見えないけど、確か有段者だって聞いたことがあるのに。正当防衛だったらギリセーフ、なのかな?
結局、お泊り組は着替えを取りに一度家に帰っていったんだけど、その間のキャプテンがうざかった!! 大善先輩の肘鉄で沈んでくれたおかげで事なきを得たけど、リスに生まれたばっかりに変質者に狙われるとはとか言いながら男泣きしつつ頬ずりしてくるんだよ!! ちょっと髭が延びて来てて痛かったし!!
そんな彼等も、何だかんだで夜9時になると帰っていった。
お部屋の施錠はしっかりするんだよと前生徒会長は頭を撫でながら言い、無事でいるんだぞ未来ぃ~と大善先輩に引きずられながらキャプテンは帰って行く。それぞれが帰って行くと急に静かになる我が家。元々お姉ちゃんがいる時ですらそんなに賑やかでもないのに、急に静かになると変な感じだ。
「冷えちゃうから、お家に入ろうか」
「うん!」
生徒会長と栄くんは面倒だからと彼等のお見送りはしなかったけど、僕と八雲くんは礼儀正しいので!! ちゃんとお見送りをした。実は、皆が帰る少し前にお風呂に入ったからちょっと眠い。だって9時だもん。
眠そうにしながらリビングに戻ってきた僕を見て、生徒会長が笑う。
「僕ちゃん、お眠でちゅか。おやちゅみぃ」
「馬鹿にするでない!!」
「てか、綾武先輩はすでに寝てるけどな」
ムキィ―となって怒るけども、栄くんの言葉で思い出した。そう言えば、生徒会副会長はすでに寝ているんだった。あの人、上段回し蹴りがどうのと言っていたのに、その時になって起きれるの?
別に寝ずの番をしてくれとは言わないけども、単純に人ん家に寝に来ただけな気がするよ。というか、他人の家なのにぐっすり寝れることに驚きだ!!
家は客間が一階と二階に一つずつあるんだけど、一階にあるのは畳の部屋で、二階にあるのは子供部屋の予定だった部屋なんだよね。
子供三人がお父さんお母さんの理想だったみたいだけど、残念ながら二人しかいないから必要なくなっちゃって、今では親戚が泊まりに来た時の予備部屋になっちゃった。今ではそれもほとんどないんだけど、まさかこの日のために役立つとは!!
一階の畳の部屋に生徒会長と生徒会副会長、二階の部屋に栄くんと八雲くんという形になった。この部屋組、素敵なことが起きる予感しかしない!! お邪魔しない方がいいのは分かっているんだけど、お友達が泊まりに来ているのに僕だけ普通に自分の部屋で寝るとか嫌だなぁ……そうだ! 僕のお布団持って行こう!!
僕も栄くんと八雲くんの部屋で寝ると言うと、別にいいけど俺寝相悪いから潰すぞお前のことと栄くんの不穏な申告!!
さすがにそんなことはあるまいと、高を括って真ん中を陣取る僕に悲劇が訪れたことは言うまでもない。




