季節外れのサンタさん!
突然、僕の頭に降って湧いた閃き。そう、BLしないなら、BLさせちゃえばいいじゃないか大作戦、である!
「なんかまた、傍迷惑な事考えてんのか」
「パンがないならお菓子を食べればいいじゃない、みたいな言い回しだね?」
いつもの如く、ガッツポーズで高らかに思った事を口にしていた僕に、栄くんと八雲くんが反応する。ターゲット発見!!
「と言う訳でぇ…」
「それ以上口を開くと潰すぞ」
むぐっと思わず噤んだのは、決して栄くんが怖かったからではない! 殺すぞオーラに気圧されたからではない!!
栄くんがぁ栄くんがぁとめそめそしていたら、八雲くんが頭を撫でてくれた。僕の見方は、いつだって八雲くんである。
なので……鉄の心で、期待を込めた瞳で八雲くんを見る。
「八雲くん!!」
「ごめんね」
まだ何も言ってないよ!? どうして断られるの!?
改めてお願いがあるんですと言ったけど、飴をあげるからちょっと落ち着こうかと返された。僕は子供ではないよ……でも飴は貰う。
どうしてお願いを聞いてくれないんだぁ。グレてやるぅ!
いい作戦だと思ったんだけどなぁ。恋のキューピットになって、学校中をBL化するという壮大なBL学園計画!!
「お前の野望は無謀だな」
年中そんなことしか考えてないのかこの小さな頭は、と僕の頭を突く生徒会長。何故、僕らの教室にいるの!? てか、色々ツッコミ所ありすぎるけど、取りあえず小さい頭っていうのは余計だよ!
わざわざ僕を馬鹿にしに来たのか暇人!
「俺だって来たくて来たわけじゃねぇよ。次の交流会の日程が決まったから、教えに来てやっただけだ」
僕の漏れ出た心の声を拾い上げながら、ほらよっと、紙を投げて寄越す生徒会長。ひらひらと在らぬ方へと舞って行く紙を両手でキャッチ出来たことに胸を撫で下ろしていたら、フリスビーをナイスキャッチする犬みたい……と何処からともなく聞えた。
誰!? そんな失礼なことを言うのは!! リスの次は犬って、僕は動物か!!
キッと辺りを見渡すが、誰の呟きだったかは特定できず。まぁいい、今回は許す。
それにしても、次回の予定とかありがた迷惑。アイツに関わりたくないから行きたくないのに…しょんぼりしながら、A4用紙に書かれた文字を読む。
「来週の土曜日、北高にて重大発表……カミングスゥーン!!」
……何? Coming Soonって書いてある!! 思わずその文字だけ野太い声で読んじゃったけど、これは一体何なの!? てか、一体何を近日公開するつもり!?
そもそもこの内容、A4用紙にでかでかと走り書きする内容でもない。
曜日は指定されてるけど、時間が書かれていない。これでは集まりにくいのではと疑問に思っていたら、左下の隅っこに小さい文字で、添付資料に詳細明記ハートって書かれてあった。凄いお茶目さんが作ったのかなぁコレ。
とんでもない衝撃だったぁと汗を拭うジェスチャーをしたら、ぽかーんんとした顔が教室内で並ぶ中、ただ一人生徒会長だけが腹を抱えて笑っていた。あんたの仕業かい!?
僕をからかったのかとポカポカ叩いていたら、笑いを堪えながら否定した。
「それは綾武が作ったんだ。眠すぎてどうでもよくなってたら、こんなダイイングメッセージを残していた。ってな」
左下の文字は後で付け足してたとのこと。てか、ダイイングメッセージだったのか!!
確かに、重大発表の文字までは普通の大きさなのに、カミングスーンだけヤケクソ感のある大きさだもんね。しかしコレ、他の学校にも送られているのなら、一体どんな反応になっているのやら。
「久しぶりに聞いたぜ。お前のその低い声」
「無理に出したみたいだし、喉が枯れないように気を付けてね」
栄くんは呆れながら、八雲くんは心配しながら言ってくれたが、そんなにも僕のカミングスーンは衝撃だっただろうか。思わず、字面を感情で現した感じで言ってみただけなのだけど。
副会長の死に際の言葉だったならば、僕の読み方は正しかったわけである。合掌。
「おい、勝手に殺すな」
「ホントに死んでんなら、左下の文字は誰が書いたんだ」
「縁起でもないことを言っちゃいけないよ」
生徒会長、栄くん、八雲くんと、各々何か言っていたけども、今はそれどころではない!! 僕は、この交流会に期待を込めている。ドキドキワクワクしたBLな展開を!!
合掌したポーズのまま開眼すると、三人に対して念を送る。神でも仏でも悪魔でもいい!! どうかこの僕に、潤いあるBLを垣間見るチャンスを下さい!!
「自らじゃなくて、垣間見たいってのが無理難題だな。神様もお手上げじゃね?」
「俺に期待するのはいい加減止めろ」
「未来くんのために言うけど、無理なことは永遠に無理だから」
念攻撃失敗……ガクリ。ふん、いいもんねいいもんね。拗ねてやる!!
席に戻って、鞄から画用紙とクレヨンを取り出す。画用紙とクレヨンって幼稚園児か、と嘲笑う生徒会長を無視して、BL学園計画書と書いた。この、季節外れ過ぎるサンタさんのプレゼントの画用紙とクレヨンで、なんとしても計画を遂行してみせるのだ!!
「お前、まだサンタとか信じてんのか」
「天然記念物は健在だな」
「そうだね。サンタさんはフィンランドにいるもんね」
再び三人が、何時ぞやの黒歴史以来の微妙な反応をする。だけど僕は納得がいかない。だって本当にいるんだもん!
「昨日の夜、喉が渇いて部屋を出ようとしたら、部屋の外に置いてあったんだよ?」
どうだそれ見たことかと自慢すると、三人とも不思議そうな顔をする。それはお前のお姉ちゃんが置いたんじゃないのかと生徒会長。しかしそんなことはない。何故ならば、お姉ちゃんは昨日から出張で一週間、鹿児島に行っているんだから!!
朝から家に居ない人が僕が夜部屋にいる間にプレゼントを部屋の前に置いていけるわけがないと主張すると、三人の顔つきが変わった。あれれぇ?
真剣な顔で、三人が聞いて来る。
「お前の両親って、まだ海外だったっけ?」
「そうですけど?」
「他に合いカギ持ってる奴は居るのか?」
「田舎に住んでるおじいちゃんとおばあちゃんぐらいかなぁ?」
「それ以外に合いカギを持っていそうな人は本当にいないの?」
「いないよ? ねぇ、皆どうしたの? サンタさんは鍵なんかなくても入って来るものでしょ?」
そう聞いても、誰も返事をしない。それどころか、クラスメイト達まで心配顔をするのだ。何故?
変な空気が流れる中、休み時間が終わってしまう。次の授業は国語だったよねと思い教科書を取り出していたら、生徒会長に肩を捕まれた。
「今日はお前ん家に泊まるわ」
「……はい?」
ピリピリしている栄くんまで、今日は部活どころじゃねぇわと言いながら、お前ん家どこだっけと聞いて来る。八雲くんに至っては、怖かったねもう大丈夫だよ俺もいるからねと、慰めモードながら目が潤んでいる。
何でしょう。何が起こっているのでしょう。皆さんの御様子がおかしいです。
怖い空気を放つ二人と、心底心配そうな一人とクラスメイト。国語の先生が入って来た時、なんだなんだと不審がられたのは言うまでもない。
まさかそれから6日間。彼等が僕の家にお泊りすることになろうとは、この時の僕はまだ知らない。




