ベタのものってオイシイです!
爆走腐男子くん番外編の『最上級生の風格!!』を読んでからこちらを読むことをお勧めします。
ルンルンル~ンな気分です! 何故ならば、今日はお昼を作らなくていいからね! テストは大っ嫌いだけど、早く帰れるのは嬉しいよね!
因みにテストは……捨てている。だから勉強などしないのだ!!
「威張んなよ」
「痛!」
ちょ、それ辞書じゃないかって忌み嫌われてる国語の教科書じゃないか!! テスト終わりで出席番号順に座った状態でホームルームを待ってたら、栄くんに辞書…じゃない教科書で頭を叩かれた。児童虐待で訴えてやる!!
「児童虐待っつーか、教育的指導の範囲だっつーの」
そもそも同級生だろがと栄くん。でも僕等の位置付け的には栄くんは保護者なので、決して言い間違いではないのだ!! そんな僕の頭を八雲くんがにこにこしながら撫でてくれるわけだけど……う~ん、これはこれで微妙だなぁ。嬉しくないわけではないけども、同級生によしよしされるのが良いことかと言うとそうでもないわけで。保護者じゃなくて、庇護者ってことならギリセーフなのでは、と考え始めたところで担任が現れホームルームが始まる。
テスト終わったぞイエーイ!! というわけで、八雲くんと、今日は部活がお休みだという栄くんを伴ってご飯を食べに行くのだ!!
しかしその前に、バ会長のところへ致し方なく向かわなければならない事情があるので、足を引きずるような気持ちで生徒会室へと向かっていると、その道すがら、どこかで見たことがある気がする人が前から歩いて来て、目が合うとニコッとされる。
笑顔を向けられたら笑顔で返さなきゃと、どう見ても上級生だし挨拶をと思ったのに、栄くんに左腕で後ろに押しのけられ、八雲くんも僕の視界を塞ぐように栄くんとの距離を詰めたから、二人という巨大な壁に阻まれる形で上級生と距離が出来た……って一体ナニゴト!?
にも拘らず、上級生は全く気にすることなく僕に挨拶をしてくるのだ。僕の姿の見えない状態で。
「やぁ、未来くんこんにちは。久しぶりだね~」
「こんにちは。えぇっと、どなたでしょうか?」
というか、この壁越しの挨拶ってどういう状況なの? 何なの平安時代なの!? 頭の悪い僕でも知ってる。貴族の御姫様か、帝ぐらいでしょ、蚊帳越しの会話っていうのは。ていうか恐ろしいのは、あの上級生もこの状況で普通の態度っていうことなんですけど。僕だけなの!? なんか変だよこの状況って思ってるの!!
相変わらず声だけしか聞こえないけど、俺のこと忘れちゃったの、と寂しそうな声である。いや、忘れるも何も、あなたの顔一瞬しか認識できなかったんだよ思い出せないよって思っていたら、俺ら用事があるんでどいてくれますと敬語を使いつつもどけよと言わんばかりの口調の栄くん。しかしこの上級生、めげなかった。
「そっか、忘れちゃったかぁ。じゃあ、空き教室、山吹色のお菓子って言えば思い出せるかなぁ~?」
栄くんの言葉など聞えなかった呈で言ってくれちゃって……あれ? 山吹色のお菓子? んんん?
「あぁ!! あの時の!!」
思わずがばっと、栄くんと八雲くんの間から顔を出す。勢い余って、八雲くんを押しのける形になっちゃった。あ、ごめんね八雲くん。
そう言えば、あの時の上級生だ確かにぃ~と思っていたら、再び栄くんに後ろに押しのけられた。なんなんだこの腕は!! もしかして僕に喧嘩売ってる!?
むぐぐぅ~っと押し返そうとしたけど、そもそもの鍛え方が違うのでビクともしない。うおぉ~非力ぃ~!! 腕と格闘していたら、遊んでんじゃねぇんだぞと栄くん。じゃあなんなんだよ!!
「未来くん、お願いだから大人しく俺達の後ろに居てね。危ないから」
「え!? この連絡通路っていつから危険地帯になったの!?」
床が抜けそうなの!? 耐震補強しなきゃなの!? と八雲くんを問い質していたら、栄くんの深い溜め息が聞こえて来た。底が抜けてんのはお前の馬鹿さ加減だろ、と。それってつまり、底抜けに馬鹿って意味かぁ~!?
「テストが返ってくるまではまだ未確定だよ!!」
「いや、知能の問題じゃねぇよ」
じゃあどんな問題なの!? 知能以外の馬鹿ってどういう意味だよ! 納得いかないとぷんすかしてたら、上級生さんは、はははっと笑い始めた。
「あぁ、ごめんね? 随分と可愛らしいもんだから。いやぁしかし、納得したなぁ。守りたくなるタイプってやつなんだね君は。でも、俺からしたら……壊したいタイプ、かな?」
笑っているのに目が笑っていない表情で見つめられると当時に、栄くんの腕に力が入り、八雲くんも僕を護るように抱きかかえる。なんか背筋が凍るんですけど、あの先輩の視線!!
「でも、従順な子には優しくするタイプだからね俺は。心身共に可愛がってあげるから俺のところにおいで子リスちゃん」
にこ~っと笑う上級生。それに対する栄くんの言葉は、やらねぇよクソがっとドスの効いたもので、こういう展開って漫画で読んだことがあるのだ。ただその時は、子猫ちゃんって言っていたような? それが何故子リスなのかと言うと、十中八九生徒会長のせいである。って、そんなことよりも!!
「僕、人生で初めて、ベタな漫画のセリフを耳にした気がする!!」
凄い凄~いっとドキドキワクワクしていたら、終始余裕を見せていた上級生が虚を突かれたように驚いて見せる。すぐに立ち直って、更に紳士然とセリフを続ける。
「この一万本の薔薇の花束を君に送ろう」
「うぉ~!!」
「この満天の星空を集めても、君の瞳に映る輝きには叶わない」
「あるあるそういうの~!!」
「どうか俺と、共白髪になるまで添い遂げて下さい」
「古風な感じもいいですよね~!!」
興奮して瞬きも忘れるぐらい身を乗り出していたら、呆気に取られていた栄くんが、ちょっと待てちょっと待てと再び僕を押し返し、八雲くんも思い出したかのように僕を元の場所に引き戻した。一体何が起きてるんだ、なんなんだこの茶番はと栄くん。八雲くんも、目が血走ってるから瞬きしようね、落ち着こうねと深呼吸を促す。
いやだって、聞いたでしょ今のセリフ! こんなん身近で聞いちゃったら、興奮するに決まってるじゃないかぁ~!!
「未来は馬鹿だからいいとして、あんたは一体何やってんだ」
急に何スイッチが入ったんだと栄くん。って、馬鹿とは何か、馬鹿とは!! 後で馬鹿を何回言ったか集計するぞ! は置いといて……
上級生は、思案しつつ言った。
「口説いて、いる…?」
何故に疑問形? いや別にいいんだけど、先程のセリフの破壊力。さすがだね!! これを淀みなくスムーズかつ自然に…って全部同じ意味だけど、言えちゃうこの人一体何者!? これが世に言う、ナンパ師なのかな!? 本物のナンパ師って始めて見た~と感動してたら、お前の感想それでいいのかと栄くんが呆れ、もっと身の危険を感じでもらわないと困るよと八雲くんは心配顔。二人の反応には疑問が残るけど、一先ず余は満足であるぞよ!!
ってそんなことより、この連絡通路、耐震強度大丈夫なの? 今度もお世話になるのに、歩いている間にドッカーンと落下しちゃったら悲惨だよと、しゃがみ込んで床をコツコツ叩きながら言ったら、もうお前今すぐ黙れ、二度と口を開くなと栄くんに頭を鷲掴まれ重力を加えられる。な・ん・で・だ!?
児童虐待で訴えてやると言ったら、同い年で虐待は成立しねぇよと返され、だったらDVって言ってやると言うと、これは教育的指導だからセーフだと言われた。それは虐待する親の常套句じゃないかと反論すれば、残念でした俺はお前の親じゃない、と水掛け論に。
これはもう八雲くんにジャッジしてもらうしかないかと判定を頼めば、じゃれているの範囲だけど、未来くんが嫌ならやめるべきかな、と可とも不可とも言えない判定。中立的過ぎるよ!!
そんなやり取りをいつもの如く行っていたので、結局あの上級生は何だったの、な疑問だけが後に残りましたとさマル




