僕はご遠慮させて頂きます!
いつものようにお弁当を持って生徒会室に行ったら、生徒会長と前生徒会長と前副会長が既に席に座って待っていた。生徒会長が横柄に座っているのはいつものことだけど、何故前生徒会長と前副会長が居るのかな? 風紀委員長と、風のように現れ嵐のように学級担任に攫われる副会長は何処だろう?
「久佐賀だったら、剣道部の連中と全国大会についての話し合いがどうとかって言ってて居ないぞ。綾武の野郎は、学級担任に首根っこ掴まれて連行された」
「お昼も食べさせてもらえずに? 一体、何をやらかしたんですか?」
「知らねぇ。でもどうせ、反省文書かされてんだろ」
いつものことだ、と呆れるでもなく言い放つと、飯だ飯っと我関せずな生徒会長。まぁ、心配してもしょうがないよね、とお弁当を広げながら何故二人がいるのか尋ねたら、たまたま生徒会の仕事を手伝っていたお二人と、風紀委員長や副会長が居ないからおかずが残るかもしれないという生徒会長の配慮だったらしい。なるほどなぁ……ところで、何故空いた席がこの形状なの?
前生徒会長と前副会長の間が空いていて、逆側に座っている生徒会長は真ん中に座っているという謎のトライアングル状。どこに座れば? と思った矢先、僕の隣においで未来と前生徒会長の笑顔に促されて素直に従う。すると、自然と栄くんや八雲くんは生徒会長のお隣に座ることになる。
お弁当を広げながら、何故生徒会のお仕事を手伝っていたのかと尋ねたら、交流会の件で僕等も手伝っているんだと前生徒会長。前副会長も、本来引退しているはずの俺達が駆り出されているのも、他の学校の生徒会が三年生を中心に動いているから仕方なくだと捕捉。なるほど、生徒会長だけでは荷が重いからなのかぁと思っていたら、心の声が漏れたのか、目の前の生徒会長に頭をはたかれる。痛いよ! 暴力魔!!
人にお昼作らせといて、ありがたみもなく人を叩くとは。むむむとしたけども、前生徒会長が美味しそうだねぇいい旦那さんになれるねと言ったことから、生徒会長の悪戯スイッチを押してしまう。
「旦那? むしろお嫁さんだろ?」
俺には花嫁修業にしか見えねぇなとニヒルな笑み付きで馬鹿にする。反撃したいけど手は届かないし、机にはお弁当が広げられている。だったらと足を蹴ってみた。脛に当たったらしく、悶絶する生徒会長に気を良くしていたら、後で覚えとけよ未来と邪悪なオーラで応戦! で、でも、僕悪くないし!!
僕は悪くない、僕は悪くないと自分に言い聞かせながら、生徒会長の報復に怯えつつ箸を進めた。
腐男子とは何か、な疑問を前生徒会長から投げかけられたことから始まるBL談義を前生徒会長に熱く語りながら食べ進めていたら、BLの属性と作品の傾向についての話をしていた時、生徒会長がふと、思いついたかのように言った。
「思ったんだけどよぉ。その総受け? とかってやつ、もうお前がなっちまえばいいんじゃねぇか?」
ほら、ここにイケメン二人いるんだしなと栄くんと八雲くんの肩を叩きながら面白がる生徒会長……なぬ!? なんだすとぉ!?
驚愕していると、栄くんは嫌そうに顔を歪め、八雲くんは困ったように笑った。二人の反応でハッとした僕は、全力で拒否する。
「とんでもない!! 僕は見るの専門!! 脇から主人公の喜怒哀楽を見つめられたら充分なんです!!」
実体験なんて必要なしと傍観者万歳な僕に、不可解なものを見るような目を向けて来る生徒会長。どうやら、あくまでも部外者の立場でいたんだという思考を理解できないようだ。その辺が、その辺が一般人と僕等の違いなんだよねぇ!!
当事者という立場は、恋愛という観点からいけば楽しい面もあるだろうけど、辛いことも多い。何より、感情に左右され過ぎて言動に余裕がなくなってしまう。その点、第三者という引いた立場から物事を見ることは、広い視野で観察でき、且つ、余裕をもってその状況を楽しめるのだ。あくまでも部外者だけど、人様の恋愛模様にドキドキワクワク出来るっていうメリットこそが醍醐味なんじゃないか!!
そんな僕の力説も、皆ポカーンとするばかり……どうにも、分かっては貰えないようだ。いいもん、いいもん、僕は楽しいからね!
そんな中、思い出したかのように八雲くんが言った言葉で、今度は僕が絶句することになる。
「でも確か、脇役が主人公なお話もあるんだよね?」
主人公の脇役という立場だったはずなのに、いつの間にか皆に愛されるようになっちゃうっていうお話があるって妹のお友達に聞いたよ、と八雲くん。
What!? なんて言った!? 八雲くんが、脇役主人公を語る、だとぅ!? 妹さんのお友達、何余計なことしてくれちゃってんの!? 王子様な八雲くんにそんな知識を与えちゃいけません!!
「八雲くん!! 洗脳されちゃ駄目だよ!!」
今このタイミングでそれは不要な情報だから! せっかく、僕イコール総受け主人公を否定したのに!! 生徒会長がまた、余計なこと言い出すから止めてぇ~と思っていたわけだけど、その不安も杞憂に終わった。洗脳、という言葉に二人が反応してくれたおかげで。
「いや、むしろお前の方が酷いだろ。インフルエンザ並みに広がって、洗脳して回っただろうが」
「一生知ることなく平和に生きていけたはずだったんだがな。お前のせいで、一生忘れられそうにねぇよ」
軽くトラウマだわと呆れる栄くん。な、トラウマとは心外な!! 崇高な趣味だろう!?
「お前の言う崇高って、なんか俺等の認識と違うな」
「お前はちんすこうでも食ってろ子リス」
そして口ん中ぱっさぱさになれとダジャレのつもりなのか何なのかよく分からないけど、呆れて半目になる栄くん。もう、栄くんには何度呆れられたか分からないぐらい呆れられてるね! その内、本当に育児放棄されそうである……それは嫌!!
「よく分からないけど、恋愛ドラマを見ているのと同じような感覚ってことなのかな?」
「そうです!! その通りです!!」
さすが前生徒会長様!! 柔軟な頭を持っていない生徒会長とは大違いである、という心の声も漏れていたのか、軽く足を踏まれた。痛い! 軽くだけど痛い!!
男同士である必要は皆目分からないけど、未来が幸せならそれでいいんじゃない? と言ってくれる前生徒会長、さすがである!!
それに対して生徒会長、いや既に学校内に大いなる被害が出ています、未来の幸せのために甚大な被害が、と畳みかけるように被害被害と! 僕に言わせれば、それは被害でも何でもない。BLを意識するいい切っ掛けになったのだ!!
これは終わりではない、始まりなのだと言ったら、お前一人で初めて、お前一人で生きて行け、そして二度と戻って来るなと生徒会長。
俺を巻き込まないところで勝手にお前を中心に生きろと栄くん。
僕はスンッと真顔になり。
「いえ、僕はご遠慮させて頂きます」
傍観者はあくまでも傍観者ですのでと相変わらずの真顔と感情の無い声で返せば、お前の思考回路が意味不明と生徒会長、男が好きなんじゃないんなら何でBLは好きなんだと栄くん、未来くんはあくまでも疑似体験がしたいだけなのかなと八雲くん、腐男子って深いんだねぇと前生徒会長に、俺の許容できる範囲内を超越し過ぎていて何とも言えんと前副会長。
楽しかったはずのお昼は、皆の呆れとも関心ともつかない感情だけを残して終わったのだった。
因みに、そのやり取りをどこかで知った同級生や先輩達に、自分でBLしてみればと軽口で問われる度に、真顔とローテンションの声で返すというやり取りがしばらくの間学校内でブームになってしまったのはまた別のお話である。




