BL教へようこそ!
束の間の休み時間中、どうやったらあの悪魔と遭遇せずに交流会を乗り切れるだろうかと考えていたら、八雲くんが今更だけどと前置きして聞いてきた。
「ずっと疑問だったんだけど、未来くんはどうして俺と栄をカップルに認定しているの? 友人だったら他にもいるでしょ?」
「確かに。そもそもお前経由でダチになってるからなぁ」
「え? 二人は仲いいじゃない。それに、イケメンとイケメンがくっつくのは王道でしょう?」
疑問に疑問で返したら、何言ってんだコイツな顔をする栄くん。コイツには何を言っても始まらねぇのかと少々呆れ気味に見えないでもない。
「何が王道なのか俺にはさっぱり分からねぇんだが。つか、お前の中で俺と八雲はどういう扱いになってんだ? なんか、やたらと八雲可愛い説を打ち出してっけど」
その瞬間、僕の無い頭で作戦を絞り出そうっとフル回転だった思考が一気にスパーク!! 思わず後ろの席でくつろいでいる栄くんに詰め寄った!!
「やっぱり、八雲くんは可愛いよね!?」
「何を食い気味に宣言してんだお前? つか、目から期待と感動が溢れ出てんぞ」
「可愛いのは未来くんの方だよ」
怖ぇよお前な栄くんに、にこにこ笑顔で僕の頭を撫でる八雲くん。君達、状況が分かっているのかね!? これは好機!! 絶好のチャンスなのだよ!? お互いを意識し合ういい機会ではないか!!
まさか、僕が皆まで言わないとお互いを意識できないのだろうか? だったら一肌脱いで進ぜよう!!
「八雲くんは可愛いところがあるよ? イケメンだけど、物腰柔らかで笑顔がキラキラだし! 何よりね! 僕は見たことある!! 照れ笑いがね、最っ高に可愛いんだよ!?」
「あ~そうですか。どうでもいい情報ありがとさん。で? お前の頭ん中で、俺と八雲はどっちがどうなってんだ」
聞きたくねぇけど、聞かないのも怖ぇから救えねぇ……と少々お疲れ気味だ。この瞬間、僕は悟った。これは、僕がキューピットにならなければいけない状況なのだと!!
そう思っている間に、八雲くんが栄くんの疑問に付け加えて更なる脳内大フィーバーが巻き起こる僕。もう、ここが教室という公衆の面前であることとか二の次である!!
「えっと確か、受けと攻め? だっけ?」
「うん、受けっていうのはね! 要するに女の子のことだよ! 攻めが男の子なの! でね、僕としては、リバ希望かなぁ~」
「あ~そう言えば、受けと攻めってそういう意味だったんだっけ……って、リバってなんだよ。新しい言葉を急にぶっ込んで来んな」
「え? どっちも受け攻め出来るって意味だけど?」
「何、そんな当たり前のことも知らないのって顔してんだお前。知るわけねぇだろが!」
「というか、どっちも出来るってつまり……」
宙を仰ぎ見る八雲くん。それに対して答えたのは栄くんだった。
「つまり、オカマとオナベって意味なのか?」
「違うよ!!」
それにオカマなんて言い方は失礼だよ。せめてオネェとか女装家とかドラァグクイーンとかって言わないとね! すると栄くん、そんな些細な違いが失礼って何でなんだと言い始める。
おじさんって言われるかお兄さんと言われるかは大きな違いでしょと反論すると、俺は別にどっちでも好きに呼べよって感じだけどなと言い返される。
そこまで言うならと、栄おじちゃんと呼んでみると……お前と俺は同い年だから認めぇよと頭を鷲掴まれた。やっぱ怒ってるじゃん!!
ていうか、今はそういう話ではない!!
「とにかくね、男同士の恋愛って素敵なの! だから、恋愛してよ!!」
「男は無理」
「ごめんね。俺も無理かな」
「そんなこと言わないでぇ~!!」
栄くんは頑なだけど、八雲くんだったら泣き落としでどうにかなるかもと思って縋ってみたけど、困った顔で頭を撫でられるだけで一向にうんとは言ってくれない。なぁ~ぜぇ~だぁ~
しくしく泣いていたら、栄くんが突如とんでもない単語を口にする。
「つかさ、お前子供が何処から来るか知らねぇで、セックスとかって知ってんの?」
「!? そ、それは、とても卑猥な言葉だから聞いちゃ駄目だって、お姉ちゃんに言われた!!」
「お前、まだ天然記念物のままだったのか!! つか、さっきの受けとか攻めとかリバってのはじゃあどういう意味なんだ」
「それも、ぼやっとしか知らないから、詳しいことは……」
「てことは、いつも妄想してるやつはそこまでじゃねぇってことか。だとしても気持ち悪ぃけど。つか、男同士の話にもそういうのがあんだろ? お前、マジに知らねぇのか?」
「それは、18禁は大人になってからじゃないと読んじゃ駄目だって言われてるから」
「真面目か! いや、間違っちゃいねぇけど」
「未来くんは、とても素直に育ったんだね」
「でもね! 大人になったら絶対読むんだ!! 未来にはまだ早いから駄目よってお姉ちゃんに言われて我慢してるけど、18禁にはBLの耽美な姿が描かれているんだって何かの本で読んだんだよ! 素敵だよね!?」
「そうだねぇ。可愛いね」
僕が必死に訴えると、八雲くんはにこにこして頭を撫でてくれる。いやしかし、会話が噛み合っていない気がするんだけど気のせいかな? と思ったら、どうやら栄くんもそう思ったらしい。
「少しは話を聞いてやれよ八雲……つかお前も、もっと未来の言動を嫌がれよな。お前が甘やかすから、こいつ懲りもしねぇで俺等で妄想すんだろが」
「う~ん。別に俺は、特に何を言われても気にしないからねぇ。それに、妹の友人に腐女子な子がいるんだけど、よくその子のネタにされてるらしいから」
「お前、どんだけゾンビ共に好かれてんだよ」
「でも、特にそれで被害があったわけじゃないし、その子が幸せなら別にいいのかなって思ってるんだ。だからかな? 未来くんみたいな子には耐性があるから、受け入れられるのかも」
「え!? 八雲くんは受けなの!?」
「お前も話を聞け!!」
ばっちーんっと栄くんに頭をはたかれる。何すんの、痛いじゃないか!! いやでも、生徒会長に叩かれるのよりも全然痛くないけども!! 思えば、栄くんに叩かれるのはこれが初めてかもしれない……は、置いといて!!
「ゾンビ共って何!?」
「お前等腐ってるんだろ? 立派なゾンビだろうが」
「腐るってそういう意味じゃないのに!! でも的を得ている!!」
決して腐敗臭を撒き散らしているわけではないけど、何かしらの影響を周りに与えてしまっている感は否めないし、それに普通なら男女の恋愛話を好むはずなのにあえて男同士の恋愛話にときめいてる辺りが普通ではないことは自覚している。でもこればっかりは誰にも止められないんだよ!!
男同士の恋愛のすばらしさや尊さを語りつくすべく演説を始めたら、栄くんは呆けた顔をし、八雲くんはへぇそうなんだと所々で相槌を打ち、クラスメイト達はまたなんか始まったぞと最初は興味津々になっていたけど段々と目を逸らし始め、気付いたら担任の先生が教卓に立っていた。
長かった演説が終わると、栄くんはぼそりと。
「なんか、人類が生み出しちまった腐の遺産を根絶やしにしねぇと人類が滅んじまいそうだな」
「そんなことないよ! BLは正義だよ! 平和の象徴だよ! それで世界が一つに成れるんだから、滅ぼしちゃ駄目だよ!!」
「世界が一つって……超コアな人種の間でだけだろ」
「大部分が一般人だからねぇ。やるなら、もっと別の方法で世界を一つにしないと駄目かな」
中には不純同性交遊を禁忌としている文化もあるしね、と八雲くん。ずっと相槌を打ってくれていたから理解を示してくれたのかと思いきや、そうではなかったらしい。しまいには、担任が。
「で、俺の授業を潰してまでもやりきった布教活動は終わりか? じゃあ授業始めるぞ」
教科書開けろ~と授業が始まってしまった。お前ももう座れよな栄くんや、未来くんの熱意は伝わったよな八雲くん、僕の存在完全無視で始まる授業……もう、泣いてやる!!
因みに、僕だけ宿題てんこ盛りだったよ。うわぁ~ん!!




