最大イベントカウントダウン!3
僕は帰れるはずだった。そう、帰れるはずだったのである……何故帰れない!?
他校の生徒を招いての、交流会の話し合いの席に、何故か僕等はいる。僕と八雲くん、そして……
「何で俺まで…」
京藤冬至くん!! 可哀相に、彼も巻き添えを食っている……僕のせいでね! と言いたいところだけど、僕のせいじゃない!!
勢いよく手を上げ、起立し、質問する!!
「生徒会長!! 何で僕達居るんですか!?」
「こっちが聞きてぇよ……」
部外者出てけな生徒会長だったけど、そのお隣の御方が、まぁいいじゃないって感じである。
犯人、見っけ!!
「皆で楽しく、残業しようよぉ~ねぇ~?」
すべてはこの、面倒くさいことが大っ嫌いな生徒会副会長のせいである。珍しく僕から帰るって言ったのに、それを遮って、そうなんだぁ~二人はお友達なんだね~、じゃ~一緒に会議しようかぁ~って!! 要らぬお世話だよ!!
てか、オトモダチじゃないからぁ~!! 一ミクロンの血の繋がりだからぁ~!! 僕にとってはそれすらも煩わしい事実だけども!!
副会長は、ただ単に道連れが欲しかっただけに過ぎない。くっそう、悪魔さえいなければ、天の助けっと思うところなのに。
生徒会長からは無言の圧力で、余計なこと言うなよと念を送られ、不良くんからは、お前何してくれてんだと無実の罪を着せられている。
悪魔め、ただそこに居るだけで僕を不幸にしやがって!! しかもさっきから、じぃ~っと見られている……
「帰りたい!! 帰りたい!! 僕帰りたい!!」
あの視線に耐えられなくなって再び挙手し、宣言したんだけど、その瞬間悪魔が口を開く。
「ところで…さっきココに入って来た時に見つけたのですが……コレは、ボイスレコーダーですよね?」
「!?」
そ、それは!! 僕のボイスレコーダー!! しっかり隠してたのに、何で見つけられちゃったの何ナノお前!?
どうしようどうしようと慌てる僕だったけど、生徒会長は冷静だった。
「あぁ、すまない。多分、教師の誰かが忘れて行ったんだろう。ありがとう」
「そうですか。それはよかったですね。結構お高い品みたいですし、無くしちゃったらショックですもんね」
そう言いながら生徒会長のところまで行って受け渡すまでの一瞬、チラッと僕を見る悪魔。絶対見透かされていると思う!!
生徒会長も、冷静を装うためか一切僕の方を見ないけど、オーラでお前覚えてろよと訴えかけている気がする。うぐぐ…僕ピンチ!!
「僕帰る!!」
「何泣きそうになってんだ未来。小学生かお前」
「むぅ~!! 僕のどこが小学生なんだバ会長!!」
見たまんまだろと面倒くさそうな態度の生徒会長を目掛けて、パンチを喰らわそうと副会長越しに頑張ってみる。
因みに席順、生徒会長・副会長・僕・八雲くん・不良くん、です。てか、届かない。全然届かない!!
「お前のその短い前足じゃ、どう頑張っても無理だから諦めろ」
「前足じゃないよ! 手だよ!!」
「未来くん元気だねぇ~。その調子で、俺の代わりに会議やっていいよ~? 一日副会長!! ってのどう~?」
「1日って、残り2時間だけですよね!?」
副会長、横着しすぎ!! 帰りたいオーラが僕といい勝負じゃないか!!
面倒くさいからって、体よく僕を身代わりにしようとしないでよと思っていたら、会議室の扉がノックされた。許可もなく勢いよく開かれた扉から現れたのは……
「すんません。ここに未来来てませんか」
長身気だるげイケメン・栄くん!! バスケのユニフォーム姿のまま、そこに立っていた。
生徒会長と争う姿勢のままの僕を見咎めると、やっぱりかと言いたげにげんなりされる。
違う!! 今回ばかりは無実だ!!
悪魔さえいなければ、副会長のナイスアシストに諸手を上げて喜び、感謝し、崇め奉るのだけど、今回は事情が違うんだぁ~!!
「お前、マジいい加減にしろよ。正門でお前を見かけたって聞かされたキャプテンに連れて来てくれって泣き付かれた俺の傍迷惑な境遇を少しは分かれ」
「それ、僕のせいじゃないじゃん!!」
キャプテンが悪いんじゃん!! てか、キャプテン一体どうしたの? なんで栄くんに泣き付く状況になってんの!?
聞けば、つい今しがた体育館の傍の木の下にネズミの死骸を発見してしまい、それを見て触発されたキャプテンが男泣きして練習にならなくなったとのこと……やっぱ僕関係ないじゃん!! てか、いい加減キャプテンもみるくちゃんの代わりを飼いなよ!!
僕はみるくちゃんの代わりじゃないんだぞとぷんすかしてたら、それ以前にお前は何してんだこんなところでと呆れられた。
だから、僕のせいじゃないんだよ!!
「僕だって帰りたいんだよ!? だけどねぇ!!」
「……は? 何だ未来? 木の実食ってる時にカラスに突かれて枝から落ちた上に石ころに頭ぶつけて人格変わったのか?」
「僕はリスじゃないよ!!」
皆、僕の設定をリスに固定するのいい加減にしてくんないかな!? って、いくらなんでもそんな間抜けなリスはいないよ!! じゃなくて、失礼じゃないか!!
何、BLのためなら何でもする腐男子だと思ってんのさ! その通りですけどね!!
今日に限っては遥か彼方の宇宙へと敵前逃亡したいほどだけど!!
「つーかもうお前ら、マジ帰れ。会議進まねぇから」
「よっし!! 僕等帰ります!!」
「あ、じゃあ後よろしくね、厚木」
「って、何どさくさに紛れて帰ろうとしてんだ綾武ぇ~!!」
自然な仕草で席を立つ副会長を生徒会長が一括する。当然ながら、帰らせては貰えない……合掌。
よっしゃ帰れる~と浮かれる僕の耳に、クスクスクスッと聞こえてくる。声の先には、西高の代表の方々。中でも、最もお上品に笑っていた女性は正にお嬢様って感じのオーラを纏っていた。
「ごめんなさい? お話に聞いていた未来くんって、本当に噂通りに可愛いのね」
一体どんな噂が流れているの!? 僕、慎ましく生活しているつもりだったのに!?
そうしたら生徒会長、お前全然慎ましくねぇぞと僕の心の声がポロリと口から洩れたのを拾って、指摘してきた。
おだまりっといつもなら返すところだけど、今はそれどころではない!! 腐男子ってことが他校でバレるのは一応マズイ気がするので、そうではないことを祈りたいものだがと思っていると、どうやらそうではなかったらしい。
多分だけど、うちの学校の生徒も僕みたいな腐男子の存在を他校に知られるのはリスクが高いと、口を噤んでくれているのかもしれない。
或いは、生徒会長が何か裏で手を回しているのかもしれない……は置いといて。
「私達のOGの方が、かの有名な純文学作家の輪廻人さんだというのはうちでは有名なお話なんです。繊細で独創的な文体で、引き込まれる世界観をお持ちな作家さんですよね? そんな方がお姉さまだなんて、とても羨ましいです」
「輪廻人? え!? 聞いたことあるぞ!? お前の姉ちゃんなのか!?」
「うん、まぁねぇ」
生徒会長のリアクションに、一応反応して置く。僕としては、その情報からBL作家ということまで繋げられたくないから気の抜けた返答になっちゃう。とは言え、一応別名で別の社に出してるし、顔出しNGだからまぁ大丈夫かもしれないけども。
いずれはバレるかもしれないけど、今はまだOLやりたいみたいだからしばらくは黙っとかないとねぇ。
「文体からも人となりが垣間見えて、同じ学園に通う生徒として、とても誇らしいです。やはり、作風通りの方なのでしょうか?」
「う~んと~、実はあんまり読んだことなくて……」
そうなんですねと微笑む西高の生徒さん。どうにも、この手の話題には慎重になる。
う~んと、え~っと、みたいな反応を返していたら生徒会長が、本読むの好きだろうになんで読まねぇんだと聞いて来る。
だってさぁ~
「お姉ちゃんの書いた小説読むと、頭痛くなるんだもん……」
「お前馬鹿だもんな」
「馬鹿だからな」
「シャラップ!!」
失礼な生徒会長と栄くんに思わず噛みつく!! どうせ馬鹿ですよ!!
ぷんすかしてたら、意外な人がそれに反応した。
「お前、マジに輪廻人さんの弟なのか!?」
マジかよっと不良くん、京藤冬至くんがリアクション。あの人の異邦人の瞳って本はすっげぇ感動したと興奮気味である。そう言えばそんなタイトルあったかも…?
てか、僕は君のリアクションの方に驚くよ。趣味・暴力、特技・決闘って感じなのに、よくあんな小難しい小説読めるなぁ~とか思ってたら、不良くんの顔が険しくなった。
「お前、馬鹿にしてんのか?」
おっと、また口に出てたようだ。いやいや別に馬鹿にはしてないよ、むしろ意外性があっていいんじゃないかなと親指立ててイイネッしたら、意外性って言ってる時点で馬鹿にしてるな、と生徒会長。おだまり!!
また脱線し始めた僕等に、東高の代表が遂に口を開いた。
「それで? 今日は話し合いをする気があるのか?」
ないなら帰りたいんだが、と重低音ヴォイスな代表さん!! 本人は別にそんなつもりはないんだろうけども、王様的威圧を感じずには居れない……さすが東高代表!!
うちの似非俺様会長とは違うなぁ~とか思っていたら、何かを察したのか生徒会長、お前今失礼なこと思ったろ、ボコるぞ、と脅してきた。
だってだって!!
「明らかに生徒会長とは貫禄が違う! これぞ正にって感じだよ!?」
「お前…マジで覚えてろよ。つか、俺の学校での影響力だって負けてねぇっての」
「えぇ~? 影響力って言うなら、風紀委員長じゃないかな?」
「あいつはあのキャラクターだからそう見えるだけだっての」
えぇ~、そうかなぁ~? いやでも待てよ? 一番の影響力って言えば…
「前副会長がいる!!」
「あぁ、粟森先輩な。粟森先輩にはさすがに勝てねぇわ……」
あの生徒会長ですら、歯切れが悪い。当たり前だ。何せ、この学園を牛耳っているのだから!!
「いや、牛耳ってはいねぇよ? 手厳しいってだけだからな?」
「未来くんの頭の中って面白そうだねぇ。もし映像化できる技術が発明されたら、一番に見てみたいなぁ~」
「やめてくださいよ。死んでもそんなもん見たくないっす」
「未来くんは空想と現実の境目が曖昧なのかな? そろそろ現実に戻っておいでね?」
「しらふでラリってんのかよ。救えねぇなぁ」
生徒会長、副会長、栄くん、八雲くん、不良くん、と各々反応してきたけども、そんな僕等を西高の代表は微笑ましく見守り、北高の代表は呆気に取られ、東高の代表は深い溜め息を吐いた。
そんなことを1時間近くやってたせいで、次の話し合いの場所である西高では、何故か僕も一緒に、ということになってしまった。
生き恥を晒したくない生徒会長は却下し続けたが、已む無く折れたのである。
そしてそれ以降、代表の話し合いの席には何故か僕の同席が義務付けられてしまったのであった…マル
って、ちょっと待って!! 何でそうなっちゃったの!? 嬉しいサプライズと言えばそうなんだけど、嫌な予感しかしないんだ!! だってあいつ、めっちゃヒールな笑顔してたよ!?
僕の精神が持たないよ!! 行きたくないよぉ~!!




