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爆走腐男子くん  作者: らんたお
13/23

オイシイ話大歓迎!2

 伸びてきた手に驚いて身を縮めたのは当然のこと。その手の人物は、ミートボールを摘まむとパクッとお口に放り込み、美味ぁーいと言いながら僕の右隣に座った。

 俺も食べていいかと聞いて来たので、どうぞどうぞと取り皿とお箸を手渡し……って副会長じゃないか!!

 お久しぶりですって言ったら、久しぶりぃと笑顔と共に間延びした返事を返す。この雰囲気から勝手に遊び人という称号を与えた僕だったが、何だかんだで面倒くさがりな人でもあるので微妙な遊び人という認識を持っている、生徒会副会長の綾武稲実先輩。

 いなみ、なんて女の子みたいな名前……とか言ったらシメられるから気を付けてね。

 楽しいことには積極的に参加するけど、それ以外の面倒事は一切しない副会長。ゆえに、何度かそれで生徒会顧問に怒られている。懲りてはいないけども…

 ところで何の話ぃと聞かれたので、転校生くんが来るんですってね、と興奮冷めやらぬ様子で詰め寄ったら…少し思案した後、そうなんだぁ、とたった今聞いたといった様子を見せた。


「副会長、是非とも転校生くんを正門まで迎えに行って下さいね!?」

「俺、これ以上欠席するとマジでやばいからぁ」

「ど・ん・だ・け!?」


 まさか、面倒くさすぎて授業にも出てなかったって言うの!? 面倒くさがりの境地に立ちすぎでしょう!? まだ一学期も半ばに入ったばかりだよ!?

 そろそろ中間テストも始まろうかという時期である。それなのに出席日数ヤバいとか、大丈夫なの!?

 うちの学校は基本留年はないから、その分休みの日に登校して補っているというスタンスだ。それはそれは、教師にとっても該当生徒にとっても最悪なことなので、皆出席日数だけはちゃんとしようと心がけていると聞くのに。

 副会長は、それでいいのか? いや、良くないから言っているのかぁ……

 それに、と副会長の話は続く。


「めんどくさいぃ」


 別に楽しそうじゃないよねぇ、と溜め息交じりだ。だけどそんな表情も一変、でもこのお弁当美味しい、まるでピクニックだぁ、とニコニコと食べ続ける。

 どうしてこんなにも緩いのか。いや別に、遊び人なチャラ男ってことなら生徒会役員大歓迎って個人的に思うんだけど、なんて言うか、ぽやんぽやんしすぎっていうか。

 まぁでも、彼はやる時はやる男である!! 普段はこんな感じだけど、空手道場ではキビキビとしていると、彼の後輩でありクラスメイトのたつきちくんは言っていた。

 因みにこのたつきちくんってのは本名ではなく、副会長が彼に付けたあだ名である。

 道元龍紀ってのが本名だ。

 にしても道元って、昔の偉いお坊さんの名前じゃないか凄過ぎる!! とまぁ、それは置いといて。


 副会長と転校生くんのイベントはどうやら発生しない様子。悲しいと思ったけども、その後からでも十分巻き返せるのではないか、と思い直す。

 そのためにも、是非とも僕と同じクラスになって貰わなくては!! べ、別に、間近で彼等の接触が見たかったとかそういうことではないよ!? 傍観するにしても、生徒会と接触させるお手伝いを僕がやらねばならないかなって思っただけだよ!?

 まぁ、出来ればその場面を傍で見られたらなぁとはちょこっと思ったけども…


 あ、でも、そうすると栄くんや八雲くんが僕のことを見捨てるかも……だって、転校生くんと仲良くなるのはイケメンばっかり。イケメンは皆転校生くんにホイホイされるはずだから…

 悲しいけれど、そこは受け入れるしかないかもしれない。と沈んでいると、八雲くんが慰めるように言ってくれる。


「未来くん、俺達そんなに薄情じゃないよ?」

「つか、イケメンホイホイって……怖ぇよその転校生」


 勝手にホイホイされる側に認定すんなと栄くん。

 つか勝手にホイホイする側に認定すんなよ転校生をと生徒会長。

 まだ来てもいないのに勝手にイメージを作られたら可哀相だろうと風紀委員長まで。

 というのであれば、お願いです!!


「皆、転校生くんを好きになってよ!!」


 BL学園ものを完璧にするためにっ、とお願いしたら…全力で拒絶されました。なぁぜぇだぁ……悲しい。

 机に突っ伏して打ちひしがれていたら、生徒会長、栄くん、風紀委員長、八雲くん、副会長の順に言い聞かせられた。


「前にも言ったが、お前のために犠牲にはなんねぇぞ」

「いい加減学べよ。んなもん、この学校ではありえねぇって」

「あったとしても俺達には関係ないことだな。諦めて他所を探せ」

「ごめんね未来くん。そういうことには協力できないから…」

「よく分かんないけどぉ、俺もイケメン認定されてるってことでオケ?」


 って、副会長は違ったな!! 本当によく分かっていないみたいで、照れるねぇ、なんて言っている。

 いや、あなたイケメンですからぁ!! ちょっとは自覚して~!?

 イケメンがイケメンを自覚しないってことがどういうことなのか、僕は知っているぞ! お父さんが正にそうだからね!!


「お前のお父さんって、倉橋のことか? 漣のことか?」

「僕のお父さんのことだよ!」


 生徒会長ってば何を言っているのやら。 って!! 2人共、僕のお父さんなの!?

 キラキラした目で2人を交互に見てみたが、八雲くんには苦笑され、栄くんには舌打ちされた。なんかもう、めんどくせぇよお前、な態度が隠しきれてないよ栄くん!!


 まぁそれはさて置き、僕のお父さんは無自覚イケメンだ。纏う雰囲気は八雲くんに似ている。

 しかし、己のイケメン具合を全く理解していないので、寄ってくる女性のほとんどがヤキモキさせられているのだという。そもそも、家庭のある男性に言い寄ろうだなんて、その時点でその人達おかしいけどもね。


 まぁ、今は海外暮らしなのでそういうのは減ってるみたいだけどさ。

 日本にいた時は、職場内が修羅場になったから! 本人は全く自覚してなくて、何が起こったのやら最初から最後まで理解してなかったけど。

 因みに、その修羅場を巻き起こした原因はお姉ちゃんなんだけどねぇ。

 ふぅ~と溜め息を吐いていると、生徒会長や副会長が固唾を呑んで見守っている。何?


「早く続きを話せ!」

「ねぇねぇ、どんな修羅場だったのぉ? 教えてぇ?」


 おや、どうやらまた僕は口に出していたみたい。

 続きは続きは!? と、そんな目でワクテカされては、話すしかなさそう…

 まぁ、話して困ることもないし別にいいかぁ。



 僕のお父さんは、別に顔がすっごくイケメンってわけではない。ただ、纏う雰囲気が八雲くんって言えば分かると思うけど、性格イケメンなんだよ。

 紳士的で優しく、穏やかで仕事も出来る。家庭を大事にするその姿は、世の女性達の憧れの的になってしまうようで、密かに憧れていた女性達がたくさんいたのだ。


 でも、家庭持ちの男性で、浮気と誤解されそうな行動は絶対しないって姿勢を見せていたから、女性達は憧れるばかりでどうにもお近付きになれなかったらしい。

 普通に話すぐらいなら出来てたみたいだけど、飲みに誘っても家庭第一って感じでいつも断ってたみたいなんだよね。


 なのに、そんなところに私服だと十代には見えないお姉ちゃんが、お弁当を持ってお父さんを訪ねてしまったわけだ。

 しかもお姉ちゃんは、普段からお父さんのこと名前呼びだったから、お互いが名前呼びし合うというその光景を皆が誤解しないわけがなく…


 とまぁ、そこまで言えば分かるだろう。皆の誤解を解く前に、女性達のタガが外れてしまったのだ。

 お姉ちゃんのことを画像で見て知ってる同僚の男性社員達は初めから娘だと認識しててくれたから誤解してなかったけど、女性達はそもそもそこまでお父さんと親しくしていなかったから、お姉ちゃんのことを知らなかった。


 あの女は何だ、愛人かなにかなのか、と誤解してしまったようで…お父さんへの猛アタックがとてつもないことになったのだ。

 飲みに誘う彼女達を拒否したいけど出来ない雰囲気で詰め寄られ、どうしたらいいのかとお父さんは途方に暮れつつ同僚や上司に相談。一体何が起こっているんでしょうか、と本人だけがよく分からない状況で女性達はヒートアップ。


 遂にはそこに、お姉ちゃんによる二度目のお弁当訪問という事態が起きてしまう。しかもその日は、一緒に食べるために自分のも持参していたというから尚ヤバイ。

 あの女ぁ、と女性達のボルテージは最高潮に達し、会社の敷地内の一角で、お日様を浴びながら一緒に食べているところに女性達は乗り込んできた。


 あんた鴻島さんの何なのよ、とお局さんらしき女性がお姉ちゃんに突っかかり、更に彼女は、鴻島さんは家庭一番のお父さんなのよと詰め寄ったそうだ。

 一瞬ナニゴト、と思ったお姉ちゃんだったが、彼女が言わんとする意味をすぐに理解したらしく、そんなの知ってるわよ、と冷たく言い放ち、その言い方にカチンと来たお局さん、古式ゆかしき方法で、目の前にあったお茶をお姉ちゃんの顔にバシャッと掛けたのだそう。


 それを見たお父さん、慌ててハンカチを取り出しお姉ちゃんを拭こうと立ち上がったそうだが、お局さん達に詰め寄られて椅子に逆戻りすることに。

 これは一体どういうことなんですか、家族が一番大事なんじゃなかったんですか、愛人を堂々と社内に入れるってどういう神経なんですか、こんな女より私達の方がいいに決まってるじゃないですか、ともうなんか色々皆ヒートアップしてたらしい。


 そんな中、唯一1人だけ冷静だったのがお姉ちゃんだ。ふふふ、なんてこの状況で笑えることが不思議なぐらい殺伐としていたのに、お姉ちゃんはそれはもう若さを武器にした無邪気な笑顔で彼女達に言った。

 その厚化粧でわ・た・し・の譲に迫っても無駄よ、ねぇ、お父さん?

 普段は決してお父さんなんて言わないのに、この時ばかりは心底おかしいって感じにお父さんと呼んだお姉ちゃん。

 家庭が第一なのは今も健在よ、私は娘だもの、とニコニコ。その発言に、一同硬直。お姉ちゃんとお父さんを見比べて、困惑していた。

 そして段々と状況を把握した彼女達は、自分達の早とちりだったと理解したのだ。


 その後、その出来事が社内で噂になり、一時は普段通りに戻ったのだが……一度火の点いた女性達の執念は、事実はどうあれそう簡単には消えず、お父さんを海外出張させることで、会社は幕引きを図ったのだ。


 と、ここまで言うとお父さんだけが火の粉を被ったみたいに聞こえるけど、実際にはかなりの大出世な仕事だったりする。成功すれば、それなりの地位を約束されちゃうお仕事なのだ。

 だからまぁ、家庭第一なお父さんだけは寂しそうだったけど、僕等としては大出世良かったねと笑顔で送り出したんだよね。


 その後、お母さんも仕事で海外出張が決まって2人きりになっちゃったけど、今年中に2人共日本に帰って来るみたいだから、また家族4人で暮らせるから、今からウキウキなのだ!!



 と、ここまで語って皆を見ると……

 皆、ぽかんとしていた。風紀委員長だけは普段通りだったけどね。


「お前ん家もかなり特殊じゃねぇか」

「お前の親父の画像ねぇの? そのすっごい修羅場を招いた強者の顔が見てぇんだが」


 生徒会長と栄くんは、呆れとも感心とも言えない微妙な顔で言った。その上風紀委員長も、世の中そんなことが起こるものなんだな、と微妙な感想。

 八雲くんに至っては、未来くんのお父さんも苦労してたんだね、と共感していた。共感…そうか、八雲くんは見た目も中身もイケメンだから尚更だよね! だから男子校を選んだんだもんね!

 副会長の反応はというと、俺にも画像見せてぇ、ととにかく上機嫌である。皆、思い思いの感想を抱きつつ、僕のお父さんの武勇伝に感心していた。


 って、そんなことよりも!! 転校生くんを好きになる計画はどうなのさ!?

 そこんとこどうなのと皆を見回すけども、お父さんの武勇伝を聞いた後だからか、完全に関心が薄れていた。

 そんな馬鹿な!! おーまいごっど!!

 打ちひしがれる僕を唯一慰めてくれたのは、八雲くんだけであった。

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