日曜は決戦日!4
最初の相手は、発案者の生徒会長!!
何をやってくれるのかと期待してたら…ただ、こんなことをするぜ、と説明するだけだった。……なんでだよ!!
僕だけじゃなく栄くんまでも、あんたなぁ…、と冷ややかかつ、殺気の視線を送る。
自分で言い始めたことなんだから真面目にやれよと思っていたら、俺のデートは相手を選ぶんだから仕方ねぇだろ、と返って来た。
確かに、生徒会長が言ったプランは今すぐどうこう出来るってものではなかったけども…
待ち合わせ場所で彼女の車に乗り込み…この辺は、年上の女性だからってことだろう…そのまま彼女の趣味のショッピングに付き合い…言い方から、かなりの高級店とみられる…夕飯は予約したレストランで食べ…これも、相当な高級店とみられる…そのままホテルへ直行し……って!!
「ふじゅんいせいこうゆうぅ~!!」
「どこがだ!! 真っ当な付き合い方だろ」
「いや、生徒会長の口ぶりから、中学からそれだったでしょ!!」
犯罪だよと言うと、中学ん時は大学生としか付き合ってねぇよ、と帰って来た。とっ、年上キラー!?
何威張ってんのと反論するも、実践のしようがねぇよな、と勝ち誇った笑み。
いやしかし君、それはおかしくはないかい? そう思ったのは、僕だけではなかった。
「未来を好きな相手と思って口説くんだろう? だったら、未来に合わせてやるしかないだろ」
「お前…何でそのことに気付くんだよ」
せっかくうやむやに出来ると思ったのに、と風紀委員長の指摘に罰が悪そうな生徒会長。
こんなことで僕を騙せると思ったら大間違いだよ!! 僕だって体を張るんだから、それ相応の報酬を貰わないと働かないんだからね!
私腹を肥やすためなら何でもやるけど、やるからには僕の心を満たしてくれないと!!
風紀委員長に窘められて降参したのか、んじゃあやりますか、と心を入れ替えた生徒会長。
一体どんなことをしてくれるんだろう!? ドキドキワクワクしていたら……何故か僕、生徒会長に小脇に抱えられた。
「ラブホ行くぞ」
「いやぁ~!!」
その単語、聞きたくない!! てか、ムードなさすぎ!!
コレ、デートだよね!? 生徒会長のデート観っておかしくない!?
しかもちょっと、僕を抱えたまま歩いてるし!! まさか本気!?
怖いよぉ~と思っていると、慌てた栄くんと八雲くんに救出される。
「あんた、マジに何考えてんすか!」
「未来くん大丈夫!? もう怖くないからね!」
よしよし、と八雲くんに慰められながら、生徒会長の恐ろしさに慄いた。この人、狂ってる!!
しかも、考え抜いた結果がこれなんだけどな、とあっけらかんとしているではないか。普通ってものを知らないのって恐ろしい!!
「お前は…好きな女性をホテルに連れ込むことしか考えてないのか」
拒否される可能性だってあるだろ、と風紀委員長。それを生徒会長、んなことあるわけない、と自信満々だ。
あまつ…
「この俺が好きになったってのに、拒むとか有り得ない。大体、俺のもんになるしかないのに、なんで拒むんだ?」
俺が好きになった時点で俺のもんだろ、と仰った……THE 俺様!!
え…ちょっと…? この人、普通の感覚を持っていないのかな!?
いやでも、俺様生徒会長って最高!! それを素で行ってくれてるって嬉しいけども!!
なんか感覚がおかしい様な気がするのって僕だけかな!? もっと、デートらしいデートを期待したのにぃ~!!
生徒会長のは極端すぎて、僕には刺激が強すぎるよ…
げんなりしていたら、じゃあ今度は俺がエスコートするね、と八雲くん。デートと言わずエスコートって言うあたりが八雲くんらしい。
まぁ、八雲くんなら安心だよね、と思っていたわけだけど、思えば僕、エスコートは普段からされているような?
実際、可愛らしいショップやらクレープ屋さん、歩き疲れたら休みがてらのジュースなど、普段八雲くんと遊びに行く時のいつもの行動をなぞっただけだった。
いやでも、デートってこういうものだよね!
時間がないからって水族館や映画はなしだったけど、僕の考えるデートってこんな感じだ。つくづく、生徒会長のが普通じゃないんだと気付かせる。
「想像通りの光景だな。なんか逆に安心したわ」
「俺からしたら、ままごとデートだがな」
「お前のが特殊なんだろう。しかし、実にスマートなエスコートだった」
栄くん、生徒会長、風紀委員長と、三者三様の意見で締めくくられた八雲くんとのデートを終え、じゃあ次は…と皆の視線が栄くんに固定される。
途端、深いため息で苛立ちと疲れを逃がした栄くんは、文句言うなよ、と念押ししてさっさと歩き出してしまった。
えっ、もう始まってる!? 3人を振り返りながら戸惑っていたら、生徒会長が頷いて、行け、のジェスチャー。
始まってたのか!! 慌てて栄くんについて行った。
歩幅が違うんだから、もっとゆっくり歩いてくれてもいいものを…と思いながら、前を歩く栄くんに必死でついて行くこと数分。急停止した背中に、思いっきりぶつかった。
へぶっ、とかいう変な声が出ちゃったんだけど!! 何、予告なく止まってんの!? びっくりするじゃん!!
急に止まるなと思っていたら、栄くんが振り向いた。
「お前、何やってんだ?」
「栄くんこそ、止まるならそう言ってよ!」
「いや…赤信号だろうが」
「そんなの、栄くんの身長で見えないし!」
んなにでかくねぇよ、と呆れられ、前見ないと轢かれるぞ、と注意された…って!! こっちは栄くんについて行くのに必死なのに、そんな余裕あるか! 文句言うなと言われたから言わなかったけど、歩くの早いよ!!
「で? 何処行きたいんだ?」
「え? 行きたいところがあるから歩いてたんじゃないの?」
いや、当てもなく…、と一気に疲労感が増した。
ちょっと、そういうのは決めてから歩いてよ!!
こりゃあ、文句言うなって最初に言うはずだわ…と思った。こんな行き当たりばったりで自分勝手じゃ、文句言わない人の方が稀だよね。
きっと、今まで言われ続けてきたに違いない…いや、言うでしょ!!
「じゃあさぁ、行きたいとこ決めようよ」
「だから聞いてんだろ?」
うおぃ!! 我が道を行きすぎだよ!? 生徒会長よりはマシだけど!!
栄くんは行きたいとこないのと聞くと、少し考えた後、CDショップぐらいかと言った。じゃあそこ行こうと促したら、お前はいいのかと返って来る。
いいもなにも、当初の目的だったゲームセンターは行ったし、その他に行きたいところも特にないしなぁ。
いいから行くよと催促したら、栄くんはついて来た。
お店に着いて早々、栄くんは自分の目的を果たすためにさっさとどこかへ行ってしまった。ポツーンと一人、残される僕。
んなっ、こんなデートありえない!!
しばらく待っても戻って来ない。探すべきなのか待つべきなのか、何が正しいか分からず、ただ呆然と立ち尽くすばかり。
ナニコレ…
痺れを切らした3人が、近付いて来たのは当然のことだった。
「あいつ…消えちまったな」
「どこ行ったんだろうね?」
「ここは広いからな。迷子になるから、どこにも行くなよ未来」
呆れ声の生徒会長に、苦笑する八雲くん、僕に忠告する風紀委員長。ここにいるはずの人がいない、ということ以外、いつもの光景。
「デートって、こういうものじゃないよね…」
僕を置いていくなんて酷い、育児放棄だ…と零したのは至極当然の結果である。
その呟きに、真っ先に反応したのは生徒会長だった。
「なんだ。ママがいなくて寂しいって? 安心しろ、パパがいるだろ」
と、八雲くんの背中を叩く生徒会長。パパって俺がですか、と困ったように言う八雲くん。
てか何、そのパパとかママって美味しいワード!! 栄くんがママなの!? パパが八雲くんなの!?
やっぱり、生徒会長にも二人は只ならぬ仲に見えるんですね、とお星様が見えんばかりに期待に胸を躍らせて生徒会長に詰め寄ったら、後ろからガシッと頭を掴まれた。
何やらとんでもない圧力が、上から加えられている!!
「潰されたいのか? 未来」
「…モウシワケゴザイマセンデシタ」
後ろを見なくても分かる。なんか凄まじい闇を背負った御方が、僕の後ろにいる!!
でも言っておくけど、僕が言い出したことじゃないからね!!
「生徒会長が言ったんだよ!! 僕じゃないよ!」
「育児放棄とか言うからだろが」
「だってホントの事だもん!」
僕を置いて行ったじゃないかぁ~とポカポカ叩いたけど、お前も見たいもん見りゃあ良かっただろ、と反論されるだけ。そういう問題じゃないのに!
大体、デートのはずなのに放置って…彼女作る気ないよね!? 女の子はそういうの絶対駄目だよ!? 構って欲しいってのが一番だから、放置なんてされたら、即さよならだよ。
僕だったから良かったもののねぇ~と文句を言えば、だから女は面倒なんだよ、と返って来た。女は面倒…ならば!!
「八雲くんがいるじゃない!!」
「お前…いい加減にしねぇと野生の森に返すぞ!!」
「僕はリスじゃない!!」
「まぁまぁ二人共、落ち着いて」
喧嘩になった僕等を八雲くんが仲裁。それはいつもの光景だった…のだけど。
生徒会長にとっては目新しいものだったようだ。
「お前等、なんだかんだで息合ってんな。今度は、子供と喧嘩するパパを仲裁するママに見えるぞ」
楽しい楽しい一家団欒の一幕か、と笑う生徒会長。
まさか、僕を挟んだらそういう風に見えるだなんて!! 新しい発見!!
なるほど、2人が結婚したらこういう光景が繰り広げられるかもしれないのか…楽しそう!
栄くんと八雲くんのことだから、きっと子供は2人だよねぇ~
「ちょっと待て。何、夫婦になる前提なんだよ。つか、子供とか無理だろ!」
「男同士の間に子供って…養子縁組って設定なの?」
お前何言っちゃってんの、な栄くんと、そもそも栄と結婚なんてしないよ~、な八雲くん。
君達こそ、何言っちゃってんの?
「赤ちゃんはコウノトリさんが愛し合う2人の所に連れて来てくれるんだから、男同士のカップルのところにも連れて来てくれるに決まってるじゃん」
自信満々に言い放つと、一同シーン……となった。賑やかだったはずの店内から、店内放送以外の雑音が消える。
って、え……何?
皆の視線が僕に集中する。呼吸音すら聞こえない。
え…一体何が起こっている?
この瞬間訪れた静寂を、僕はどう表現したらいいのだろう。
ただ一つ分かるのは、僕は今日この日の光景を、一生忘れることはないだろうということ。
「ま、待て未来!! 俺達を置いて、先に行くな!!」
「コウノトリに、どれだけの荷物を運ぶ能力があると想定されているんだ。大体、運ぶ能力があったとして、そのコウノトリはただの誘拐犯だろう」
「すげぇ~よお前。マジで天然記念物として日本政府に…いや、ユネスコに登録してもらえ」
「未来くんは、本当に可愛いねぇ」
な、なになになに!? 何なの皆!?
生徒会長、僕何処にも行ってません!! ここにいます!!
風紀委員長も、コウノトリを誘拐犯ってどういうこと!? それって、人を攫ってきた悪人に付けられる名前だよね!?
栄くんも、僕を絶滅危惧種みたいに言わないで!! 大体、ユネスコは絶滅危惧種を登録してるの!?
それから八雲くん、なんでそんな慈愛に満ちた目で僕を見るのかな!? その目がまるで、幼子を見るような視線なんだけども何故!?
皆の反応に、なんだかすっごく納得いかない。僕、何か変なこと言った? ただ、お姉ちゃんに教えられたことを言っただけなのに!
どうも、皆の反応を見る限り、僕の知識は間違っているらしい。
じゃあ…
「だったら、赤ちゃんは誰が連れて来てくれるの? お医者さん?」
コウノトリが違うなら、赤ちゃんはきっとお医者さんが連れて来てくれるのだろう。だって、妊婦さんは病院から帰って来た時に赤ちゃんを抱えているもんね!
でも…あれ? じゃあ、男の人に妊婦さんっていたっけ?
そう言えば、女の人の妊婦さんしか見たことないなぁって呟けば、何故か皆驚いたような顔をする。
どうして?
「お前…そこまで知っててなんで赤ん坊が産まれてくる過程を知らないんだ」
「妊婦が産む、という事実を知らずによくそこまで育ったものだ」
「駄目だ…俺の常識では量れない何かが、お前の中で起こっている。俺にはそれを止められそうにない…」
「未来くんは、今まで保健体育は教わらなかったのかな?」
唖然とした生徒会長、感心した風紀委員長。頭を抱える栄くんに、微笑みMAXの八雲くん。
え……僕、何か間違ってるの!?
僕の知らないところでショックを受けている彼等と過ごす日曜日は、もうなんか面倒だな、今日はこれで帰ろうぜ、な生徒会長の言葉で締めくくられた。
因みにお前のデートプランは何だ、と生徒会長に問われた風紀委員長は、図書館で小一時間、と答え、即行で生徒会長に、却下されていた。
皆の疲労感が凄まじいことは僕にも分かるけど、なんでそんなに疲れ切っているんだろう?
そんな彼等の疲労回復に少しでも役立てばと、解散の前に手作りクッキーをあげたら、お前の女子力凄ぇな、と生徒会長に感心され、八雲くんは嬉しそうに受け取ってくれた。
まさか、クッキーが割れることも想定して4袋分持って来てたことが、結果全員分渡せることになるとは思ってなかったけど、予備を持って来てて良かったなぁと心底思ったのが今日のハイライト。
いや、実はもう一つあるけどね!!
女子力の話が出た時、栄くんが、こいつ弁当も美味いっすよって告げ口したんだ! それを聞いた生徒会長、じゃあ明日の弁当ヨロシクなっ、と言ってきやがった!!
ついでにコイツのも頼むわっ、と風紀委員長を指しながら一言。
何の嫌がらせ!? そんなにいっぱい弁当箱あるわけないじゃん!!
大体何で作るの前提なのと怒ると、嘘泣きの件これで許してやるぞ、と言われた……脅しだ!! 僕だって、いっぱい生徒会長に嫌がらせされた気がするのに、何で僕だけ!?
とか言いつつ、翌日は御重を持って学校に行ったけどね!! 御重とか、運動会以来の再会だったよ…
前日の夜から仕込んだりしたんだから、これで美味しいって言わなかったら、絶対許さないんだから!!




