表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【初稿版】愛しのあの方と死に別れて千年~今日も私は悪役令嬢を演じます~《第1幕》  作者: 夕凪ゆな
第8章 偽りの筋書き

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

46/48

04


 私はそう思ってルイスを見つめる。

 けれど彼はウィリアムの前であるからか、それ以上ライオネルについて言及することは無かった。


 それどころかルイスは私を気づかう様に、切なげに瞳を揺らし、頭を下げるのだ。


「アメリア様、本当に申し訳ございませんでした。昨日のアメリア様のご様子を知っておりながら、一時でもあなた様のお傍を離れた私をお許しください。

 あなたのお身体に傷をつける結果となってしまい、本当に……私は……」


 そう言ってルイスは声を震わせた。

 するとウィリアムは、そんなルイスを慰めるような優しい顔をする。


「あまり自分を責めるな。元はと言えば俺がアメリアの傍を離れたのが悪かったんだ。

 それに――お前がアメリアのもとを離れたのは、ライオネル卿の言葉を信じたからだろう?

 騎士道を重んじる彼に任せろと言われてしまっては、信用しない訳にもいかなかっただろう。仕方が無いことだったんだ」

「ですが……それでも私は自分が許せません」

「いいんだ。彼とて先ほどのやりとりで思い知ったことだろう。貴族を相手にすることの意味を、守るという言葉に……一体どれほどの重みがあるかということを」

「まさか……その為にライオネル様にあの様な言い方をされたのですか?私の為に?」


 ルイスは驚いたように目を見開く。

 するとウィリアムはそれに答えるかのように、ほほ笑みを泛べた。


 私はそんな二人のやりとりに、思わず肝を冷やす。

 だって、この二人の言葉のどこまでが本当でどこからが嘘なのか、全くわからなかったからだ。


 けれどそれでも一つだけわかったことがある。

 それはルイスが、ライオネルのことなど本当にどうでもいいと思っていること。

 彼はただ自分の目的の為に、ライオネルを利用したのだと言うことを。


 ウィリアムは、再び私を見つめる。


「アメリア……確かに俺はあのとき、卿を諫める為に、そして自分のプライドの為にあんな言い方をした。

 けれど君に言ったあの言葉だけは違うんだ。あれはただ、つい口をついて出てしまった言葉。

 あの時俺は思い出してしまったんだ。君が彼に、アメリアと――名を呼ばれていたことを。

 それに無性に腹が立って――それで……つまり本当に八つ当たりだった。すまない」

「――っ」


 深い葛藤に揺れるウィリアムの瞳。それは彼が自分自身の気持ちに戸惑っているような表情で。


 私は思わず呆けてしまう。

 だってそれは、つまり……嫉妬?


 でもそれこそあり得ない。

 だって一昨日(おととい)までは、本当にウィリアムは私の事など何とも思っていなかった筈なのだ。


 それなのに、何故?本当に?嘘ではなく?


 私はウィリアムを見つめ返す。

 するとウィリアムは少しだけ頬を赤くして、私から視線を反らしてしまった。


「あまり見ないでくれ。

 俺は今……正直に言って、自分の気持ちに戸惑ってる。

 本当は覚悟してたんだ。君は俺のことを絶対に許さないだろうと思っていたから。あの日夜会でした誓いを破ってしまった俺のことを、君が許すはずがないと。俺は、君が……この婚約は破談にすると言うと思っていた。だから今……心から安堵している」

「――っ」


 ――破談?今彼は、破談と言ったか?

 夜会での誓いを……私を絶対に愛するなという誓いを、ウィリアムが破ったと?


 ウィリアムは驚いている私に再び視線を戻し、今度は真剣な顔を向け、続ける。


「安心して欲しい。俺は……アーサーとは縁を切った。もう彼は二度と君の前に姿を現すことは無い。

 もし万が一彼が君の傍に現れるようなことがあっても、俺が必ず君を守ると誓う。だから……」

「――!」


 その内容に、私は言葉を失った。

 ようやく今までの経緯を理解して。


 そう――そうだったのだ。

 ルイスは昨日言っていた。アーサーの目を手に入れる、と。

 そしてその布石に、今回のことを利用したのだ。


 ウィリアムをけしかけアーサーを(おとし)め、私の声が出ないのを良いことに、全てを上手く(まと)めてしまった。


 本当に……なんて男だろう。

 けれど私は、もうそれを何とも思わない。


 ウィリアムは私を見つめる視線を一瞬も放さず、力強い眼差しで私を見つめ続ける。


「だから、君を守る為に……王都に戻ったら君のお父上にお願い申し上げようと思っているんだ。

 君を我が侯爵家の屋敷に迎え入れたいと。結婚はまだ先だが――前例がないわけではないし、先に我が家に慣れて貰う為だと考えれば問題ないかと思ってな。

 実はもう、私の父には昨日の内に了解を取ってある。後は君と――君のお父上のお許しが貰えればと、考えているんだが……」

「――!」


 私と、ウィリアムが一緒に住む?本当に?


 そんなの、本当に千年ぶりだ。

 エリオットと一緒に過ごしたあの懐かしく愛しい日々――それ以来、一度だってエリオットの魂を持ったその相手と、結婚まで漕ぎ着けられたことは無かった。


 それなのに結婚前に……ウィリアムと一緒に過ごせるなんて。


 それはなんて夢物語。けれどそれが、今現実になろうとしている。


 私はその衝撃に、返事も出来ぬままただ呆然としてしまった。


 ウィリアムはそんな私に、少し意地悪な笑みを浮かべ、尋ねる。


「俺と一緒に過ごすのは、嫌か?」

「――!」


 まさか!

 そんなことあるわけがない。


 私はウィリアムの問いを否定する様に、精一杯に首を振った。


 嬉しすぎて言葉が出ない。

 いや、そもそも声は出ないけれど、本当に、何だか胸がつかえて、全身が熱くて――。


 ライオネルやアーサーには悪いが、私はルイスに感謝しなければならない。


 期限付きでも、束の間の幸せと決められていても、もう一度彼と、エリオットの魂と愛し合うチャンスをくれたルイスを。


 私はもう、多少のことなら彼以外の誰が傷つこうと後悔しないだろう。

 もう、後戻りは出来ないから。私はもう知ってしまったから――。

 

 私はウィリアムを見つめ、微笑み返した。

 精一杯の、愛を込めて。


 するとウィリアムも、私に微笑み返してくれる。

 とても柔らかい、優しい顔で。深い森の色を映し出したような、瞳で。


 私の中から、ウィリアムへの熱い想いが溢れ出す。

 熱くて、熱くて、もうどうにかなってしまいそうな程に。


 ――?いや、違う……。この、熱さは……?


 自覚した瞬間、ぐらりと傾く視界。

 私の身体は傾いて、ウィリアムの身体とぶつかった。


「アメリア!大丈夫か?」


 ウィリアムが焦ったように私の肩を抱く。

 そしてルイスが、はっとしたように私の額に手を当てた。


「……これは、熱がありますね」

「熱!?」

「傷のせいでしょう。一昨日は川を流されてもいらっしゃいますし……体力が落ちていたのも理由かもしれません」


 そのルイスの言葉に、私は妙に冷静な頭で思い出す。

 確かに、先程から傷が痛んでいたなと。


「ウィリアム様、もう少し隅に寄って下さい」

「……何故だ?」

「決まってるでしょう。あなたって時々本当に抜けていますよね。こうする為ですよ!」


 ルイスは語尾を強めると、ウィリアムの身体を無理やり隅に追いやり、そして何も応えられないままの私の身体を――。


「失礼致しますよ、アメリア様」

「――!?」


 半ば無理やり、横に押し倒した。


「――ル、ルイス!こ、これは……」


 そのルイスの行動に、一番動揺したのはウィリアムである。

 それはそうだろう、だってこれは……。


「ひ、膝枕じゃないか!」


 や、嬉しい、私はこれ……かなり嬉しい状況である。ウィリアムに膝枕をされるなど……。思い出してみよう。過去にエリオットに膝枕をしてもらったことがあっただろうか。


 否、無い。したことはあっても、してもらったことは一度として……。

 あぁ、何という至福だろうか。ルイス、素晴らしい判断である。


 けれど、ウィリアムはわなわなと肩を震わせていた。

 膝枕がそんなに嫌なのだろうか、怒っている訳では無さそうだけれど。


「そうですよ、膝枕です。お嫌ですか?

 このスペースでアメリア様に横になって頂くにはそれしか無いでしょう。何なら私が代わって差し上げても宜しいですが」


 ルイスはウィリアムに、淡々とそう述べる。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ