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【初稿版】愛しのあの方と死に別れて千年~今日も私は悪役令嬢を演じます~《第1幕》  作者: 夕凪ゆな
第5章 ユリアと少年

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06



「――……え?」


 予期せぬ彼の言葉に、私の心臓が高鳴る。



「……けっ……こん?」


 私と――あなたが?



 私が彼を見上げると、彼は頷く。


「そうだよ。結婚しよう」


「え、でも……私たち、まだ……」

「うん。だから、来年の君の誕生日が来たら、すぐにでも」


 彼は、とても真面目な顔をして、私を抱きしめる腕に力を込める。


「本当……に?」

「勿論だよ。嘘なんてついてどうするんだ」

「……」


 ――あまりの急展開に、私の頭はついてこれない。


「……夢、見てるのかしら」

 私が茫然と呟くと、彼は眉を寄せる。


「おいおい、僕の決死のプロポーズを夢にしないでくれよ」

 そう言って、彼はくすりと笑った。


「……そう。――夢じゃ、……ないのね」

「夢じゃないよ。もしかして――嬉しすぎて言葉が出て来ない?」


 彼はかすかに、いじわるな笑みを浮かべる。

 その表情に、私はいつもの彼の姿を確認して、ようやく我に返った。



「――嬉しい、わ。……私、とてもとても嬉しいわ!」


 私は彼の首に手を回す。


「私、――本当にあなたを愛しているわ、エリオット!」

「僕もだよ、ユリア」


 そして私たちは、お互いを強く強く、抱きしめ合った。


***



「あぁ、もうお腹いっぱいだよ」


 エリオットは満足そうに自分のお腹をさすっている。


「ふふ、凄いわ。あんなに作ったのに、全部に食べきったわね」

「あぁ、さすがにもう入らない。本当に美味しかったよ、満足だ」

「口にあったなら良かったわ」


 私はきれいに片付いた料理に満足感を感じながら、食器を下げ始めた。

 エリオットはその間、ずっとツリーを眺めている。


「どうしたの?ツリーなんて珍しくもないでしょう?」

 食器を下げ終えた私が尋ねると、彼は感心したように答えた。


「いや、本当に器用だなと思ってさ」

「オーナメントのこと?慣れればそんなに難しいことないのよ」

「そうかな。多分、僕には真似できない」

 彼は続ける。


「ユリアは本当に凄いよ。何でも自分でやっちゃうし、いつだって僕に笑いかけてくれる。――僕は、本当に幸せ者だよ」

「……」

 そう言った彼の横顔が、私には何だか少し寂しげに見えて、私は口をつぐんだ。


 ――急にどうしたのかしら。


 私は少し考えて、ソファーのクッションの下に隠しておいた、赤いマフラーを手に取る。そして、ツリーを見つめたまま動かない彼の背後に、ゆっくりと近づいた。


「……もう、どうしたのよ。まさかさっきのプロポーズ、後悔してるんじゃないでしょうね」

 私はわざとらしくそう言って、彼の首にふわりとマフラーをかける。


「――……ユリア、――これ」

 彼はそう呟いて、振り向いた。――私は、微笑む。


「メリークリスマス、エリオット」

「――っ」

 驚いたように彼は目を見開く。――けれど、何故か直ぐに目を伏せてしまった。


「気を……使わせちゃったね、ごめん。……なんだかこのツリー見てたら、本当に君の相手が僕でいいのかなって急に思えてきちゃって。――でも」


 そう言って彼は、床に置いてあった自分の荷物をガサゴソと漁ると、何かを取り出す。

 そして彼は、ぐいっと私の目の前にその手を突き出した。私はそこに視線を移す。


「……これ――」


 ――彼の手に、握られたそれは……。


「髪飾り……?」

 彼の手の中には、青い宝石が花のように散りばめられた、可愛らしい銀色のバレッタがあった。


 瑠璃色の、透き通った星空のような――深い青。


「エリオット……これ――」

 私が彼を見上げると、彼は少し照れくさそうにうつむく。


「ラピスラズリ――九月の……君の誕生石だよ。本当は誕生日に渡したかったんだけど、上手く出来なくて……」

「――!あなたが、作ったの……?」


 ――私の、為に……?


 私の視線に、彼は顔を赤くして、小さく頷いた。


「――っ」


 刹那、私の心の底から沸き上がる、熱い思い――。


 あぁ……なんて、嬉しいの。誰かにプレゼントを貰うのって、こんなに嬉しいことだったかしら。

 いいえ、違うわ。彼が……エリオットが私の為に作ってくれた――それがとても、嬉しいんだわ。


 ――けれど彼は、私の気持ちとは裏腹に不安げに瞳を揺らす。


「君だったらきっともっと上手く作れるだろうから……気に入らないかもしれないけど……」

「――っ」


 私はそんな彼の表情に――愛しくて、愛しくて、どうしようもない気持ちになる。

 けれどそれを上手く言葉に出来ず、もどかしい。


 ――だから私は、精一杯、声を張り上げた。


「そんなことないわ!素敵よ、本当にきれいだわ!私、とても気に入ったわ!」

「……そう、かな」

「そうよ!私、今、とても嬉しい。あなたが私のことを想って作ってくれた……それが、とても嬉しくてたまらない。――私、このバレッタ、毎日つけるわ!ずっとずーっと、寝るときだって!」

「……さ、流石に寝るときは外した方が」

「例え話よ!それだけ、嬉しいってことよ!」


 そう言って私は、彼の胸に飛び込んだ。


「私……本当に幸せだわ、エリオット」

「僕も、ユリアが喜んでくれて嬉しいよ」


 エリオットの表情が、優しくなる。


「ずっと、私と一緒にいてくれる……?」

「勿論だよ。さっきそう約束したじゃないか」


 彼の声が、柔らかくなる。


「他の女の子に目移りなんてしちゃダメよ?」

「それを言うなら君だって、僕以外の男と口をきいたら許さない」

「――え、話すだけで駄目なの?」

「そりゃあそうさ。僕は嫉妬深い男なんだ」

「ふふっ。あなたの嫉妬してる姿、見てみたい気もするわ」

「――。そんなことしたら、相手の男を殺してしまうかもしれないよ」

「まぁ、物騒ね!……でもあなたが捕まってしまったら困るから、やめておくことにする」

「そうしてくれ」


 私たちはそんな冗談を言って笑い合う。




 ――日が暮れて、薄い雪雲の向こうに月が昇る時間になっても、私たちはそうやってずっと二人で過ごしていた。





「寒くない?」


 微かな月明かりだけが部屋に降り注ぐ――。

 そんな中、私の背中から響くエリオットの甘い声。


「平気よ」


 背中に感じる私より少し高い彼の体温。それがとても、心地いい。


「愛しているよ、ユリア。――決して君を放しはしない」

「――私もよ、エリオット」



 そうして私たちは二人、日が昇るまで――狭いベッドでお互いの熱を感じながら、深い深い眠りについた。


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