04
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ルイスが湖のほとりに停めた馬車へと戻ったときには、既に日が傾き始めていた。
「ルイス!」
「彼女は!?」
森から一人で出てきたルイスに、エドワードとブライアンが駆け寄る。
「アメリア様はご無事です。――ウィリアム様はどこに」
焦る様子の二人に、ルイスはいつもの冷静な表情でそう答え、尋ね返した。
「あ――あぁ、馬車の中だ。カーラに付いててくれてる」
「……無事なら良かった。――けど、彼女は一体どこに」
「それをこれから説明致します」
――そしてルイスは、カーラだけを馬車に残し、それ以外のウィリアム、アーサー、エドワードとブライアンの四人を前に、話し始めた。
「結論から申し上げます。アメリア様はご無事です。ですが――何者かに連れ去られました」
「――何!?」
「連れ去られたって、何で!?」
「そもそも何でそんなことわかるんだよ!」
ルイスの言葉に、エドワードとブライアンがさっそく声を荒げる。しかしそれに対して、ウィリアムとアーサーの二人は、眉をピクリと寄せるのみ。
ウィリアムとアーサーは、ルイスの態度から既に感じ取っていた。ルイスが、アメリアの居所に大凡の検討はついているのであろうことに。
アーサーはエドワードとブライアンを見据える。
「お前たち、暫くその煩い口を閉じていろ」
「な――なんだよ、アーサー」
「俺たちはただ……彼女を心配して」
不満げな様子の二人に、ウィリアムも告げる。
「ルイスはもう全てわかっているのだろう。お前たちは口を挟むな。――話せ、ルイス」
そしてルイスに視線を移す。そのウィリアムの言葉に、ルイスは一つ咳払いをすると、話を再開した。
「私はこの森の地形から、アメリア様が流れ着くとしたら、森から流れ出る川と、王都からアルデバランへと続く街道が丁度ぶつかる川岸だと判断し、そこへ向かいました。確かにそれは正しかった。けれど私は一足遅く――。そこに残されていたものは、川岸から土手の上まで続く水跡と、真新しい一頭の馬の蹄の跡でした。これは恐らく、彼女が何者かに助け出され、馬で連れ去られたことを意味しているのでは――と」
ルイスは眉一つ動かさず告げる。それが大して問題でも無いと言うように――。そして、更に続ける。
「アメリア様を連れ去った者は恐らく――騎士かそれに準ずる者でしょう」
ルイスの瞳は確信を得ている様に揺るがない。
けれどウィリアムも、これには流石に疑問を持たずにいられなかった。
「……――何故、そう思った?」
真剣な表情で、そう尋ねる。
そしてその問いに答えたのは、アーサーであった。
「意識の無い人間を抱えたまま馬に乗れる人間はそういない。――そういうことだろう?」
アーサーの言葉に、ルイスは頷く。
エドワードとブライアンも、ようやく思い当たった様だった。
「――!そうか、手綱を片手で引かなければならないから……」
普通に馬に乗るだけならば、片手で手綱を引く必要も無いし、その練習もしない。つまり、人を抱えたまま馬に乗れるというのは、それ相応の訓練を積んだ者に限られるということ――。
エドワードは納得したように目を見開く。けれどブライアンはまだ納得が行かない様子。
「でも、片手手綱なら俺たちだって皆出来るよな?なんで騎士に断定出来るんだ?」
その問いに答えたのは、ウィリアム。
「確かに俺たち貴族は嗜みで狩猟をするから、片手で手綱を握れる。けれど貴族がたった一人で街道を通るなど有り得ない。普通なら馬車で移動するか、急ぎだとしても従者の一人も付けるだろう」
「……確かに」
ブライアンは今度こそ納得したように頷いた。それを確認して、ルイスは再び口を開ける。
「――ですからエドワード様。私に馬を一頭お貸し下さい」
「――え?」
「今、どこからそうなった?」
エドワードとブライアンは困惑する。ウィリアムも眉をひそめた。
「一人で行くと言うのか?」
ルイスは答える。
「はい。――お忘れですか?隣の街道の先はアルデバラン――。アーサー様の伯父上、アルデバラン公爵閣下の領地で御座います。あまり大事にはされぬ方が宜しいかと」
その言葉に、一同は押し黙った。
アルデバラン公爵とは、アーサーの母である王妃フローラの兄に当たり、非常に野心家で狡猾な人物である。公爵にはアーサーより二つ年上の一人息子、ヘンリーがいる。アーサーの従兄弟にあたるヘンリーは非常に良く出来た人物で、アーサーは昔から懇意にしてきた。けれどその父である公爵は、息子ヘンリーがアーサーと親しい間柄というのを利用して、アーサーを自分の手の内に収めようと画策しているのだ。
もちろんアーサーはそれに気付いていた。そしてアーサーと親しいウィリアム、エドワード、ブライアンもそのことを知っている。
しかしアーサーの父、この国の現国王であるアルフレッドは人が良すぎて、そのことに露ほども気付いていない。王妃フローラもまた同様であった。
もしアルデバラン公爵にこの件を知られれば、彼は喜んで協力することだろう。その権力を使って、たった一日で都中の全ての家を調べ上げアメリアを見つけ出すかもしれない。そうやって恩を売っておき、後々利用する為に。
けれど正直言ってそれは、アーサーにとって非常に不味い。
アーサーは少し考えて、口を開いた。
「確かに――この面子、この出で立ちで彼女を探し回るのは得策では無いだろうな」
「だが、ルイス一人というのも……。彼女は俺の婚約者だ、行くなら俺も一緒に――」
ウィリアムはそう言い掛けるが、ルイスはすぐさま否定する。
「いいえ、成りません。その馬車は四頭馬車です。一頭ならまだしも、二頭も減らしては馬車が進みません」
しかしウィリアムも反論する。
「それを言うなら、お前が行ってしまってはそもそも御者が居なくなるだろう」
「――……」
――二人は睨み合う。
けれど、その間に割り込むエドワードとブライアン。彼らはこのような状況にも関わらず、ニヤリと微笑んだ。
「御者なら俺たちが」
「前に街で辻馬車引いてる奴に教えてもらった」
それを聞いたルイスは、ウィリアムに微笑みかける。
「――だ、そうですよ」
「――っ」
ウィリアムはとうとう言葉を詰まらせた。そんな主人に対して、ルイスは容赦無く続ける。
「ウィリアム様は皆様と王都に戻り、サウスウェル伯爵にアメリア様の事をお伝え下さい。もう直ぐ日が暮れます。何にせよ、今日中にアメリア様を王都にお連れするのは困難でしょうから」
「……わかった」
ウィリアムは遂に、渋々と言った様子で承諾した。
エドワードが馬を一頭連れてくる。
「ほらよ。こいつの名前はメテオだ。ま、大人しい奴だから大丈夫だろ」
「メテオ……?名前と性格が相反してますね」
「まぁそれはご愛嬌ってことで」
エドワードがルイスに手綱を渡す。
「――あ、ちなみに鞍も鐙も無いけど……」
「……大丈夫、――みたいだな」
エドワードとブライアンは、既にメテオに跨がるルイスを見上げ、呟いた。
「そんなもの必要無いですよ。私を誰だとお思いですか。――あ、ちなみにアルデバランには既にふくろうを飛ばしてありますから、アメリア様の居場所は今日中にはわかるでしょう。――では」
ルイスは四人にそう告げると、メテオと共に颯爽と駆け出した。




