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04



 ウィリアムはアメリアを真剣な表情で見つめる。


「アメリア嬢、私と結婚してください」


 アメリアはそれに応え、微笑む。


「はい。私で宜しければ――喜んで」




***



 夜会も佳境(かきょう)に入った。



 アメリアとウィリアムは――ワルツを踊っていた。



 先ほどの騒ぎはお互いの両親によって上手く収められ、ウィリアムの父であるロバートと、アメリアの父であるリチャードは両家の繁栄を願い固い握手を交わした。アメリアとウィリアムは、正式な婚約に至ったのである。


 そしてロバートとリチャードはそれぞれの仕事について、またそれぞれの妻は、結婚までの行事をどのように行うかについて話を咲かせていた。必然的にウィリアムとアメリアは二人にされる。


 ウィリアムはアメリアが誰かとダンスを踊っているところをただの一度も見たことがなかった。アメリアは性格に難ありとされ、誰にもダンスを申し込まれなかった為である。そしてまた、アメリア自身もそれを望んでいた。アメリアはいつだって、進んで壁の花と化していた。――けれどルイスは言っていた。アメリアは八歳で全てを完璧にこなして見せたと。それはダンスも例外では無い筈である。


 ウィリアムは少し考えて、アメリアにダンスを申し込んでみた。断られるだろうかと思ったが、アメリアはふわりと微笑んでウィリアムの左手を取った。――そういうわけで、今二人はワルツを踊っているのである。



 二人はフロアの中央でホールドし、軽やかにステップを踏んでいた。ワルツの三拍子に合わせ、複数のステップを組み合わせながら回転を繰り返す。二人の息はぴったりで、長年パートナーとして寄り添ってきた間柄のような優雅さと安定感を(かも)し出していた。


 ウィリアムの燕尾服の裾と、アメリアの深紅のドレスがテンポよく広がる。――確かにアメリアのダンスはウィリアムから見ても目を見張るものであった。難しいステップも難なくこなし、スイングも大きく美しい。そして何より、アメリアはウィリアムの動きの先を読みぴったりと息を合わせてくる。


 ウィリアムは目の前のアメリアの、そのはにかんだような表情を見つめ、考える。――今ならば、周りに声が聞こえることもあるまい、と。



「……ダンス、お上手なのですね」


 ウィリアムはわざと、アメリアの右手を握る自分の左手に、少し力を込めてみせた。


 するとアメリアはそれに気付き、ウィリアムを見つめる顔をほんの少し曇らせる。


「私なんて、まだまだです。ウィリアム様こそ本当にお上手ですわ」

「アメリア嬢ともあろう方が、ご謙遜なさるとは……。よもや本当に私に好意を寄せている訳ではあるまい?」


 ウィリアムはニヤリと口角を上げる。――しかしアメリアが(ひる)むことはない。アメリアは再び顔に笑みを張り付ける。


「あら……。そのお言葉、そのままお返ししますわ」


 ――ウィリアムはアメリアのその言葉に、悟った。



「やはり――。何故、あなたは急に縁談を受ける気になったのです」

「変なことをお聞きになるのね。私はただお受けしただけ。理由など無いわ」


 二人は足を止めることなく踊り続ける。


「だが、あなたは私のことを嫌っておいでだったのでは」

「あら……何故?ルイスがそう言ったの?」

「――ッ」


 ウィリアムの顔が一瞬曇る。アメリアはそれを見逃さない。


「――驚いたのは私の方よ。私のことを調べさせるようにルイスに指示したのはあなた?」

「……いや」


 ウィリアムは言葉を詰まらせる。まさかアメリアがルイスについて知っているとは、そしてルイスがアメリアの周辺を調査したことに気付くとは思ってもみなかった。けれど、アメリアはそれに気付いた。そしてその上でこの縁談の話に乗ったというのか。



「……本当に素直な方」


 アメリアは呟く。そして同時に音が止んだ。終曲だ。――人が入れ替わっていく。


 アメリアはウィリアムの右腕に乗せていた自分の左腕を放した。ウィリアムもアメリアの背中に回していた腕を下ろし、半歩離れる。


 アメリアはウィリアムの表情を伺い、やはり今日の夜会に参加したのは間違いでは無かったと確信した。ルイスもいない……そして、ウィリアムにとってはまさかの不意打ち。


「ウィリアム様、少し夜風に当たりませんか?私少し――暑くなってきましたわ」


 アメリアの言葉に、ウィリアムはその顔から笑みを消し、瞳に猜疑心(さいぎしん)(つの)らせる。


「あぁ――、そうだな、そうしよう」



 ――ウィリアムの返答にアメリアは満足げに微笑み、二人は先客のいないテラスへと向かった。



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