1ー3 過去
俺が子供の頃、親父はとてもかっこよかった。
いろんな所へ行き、様々な写真を撮って俺に見せてくれた。
「望、これはアコンカグアって山の写真だ。俺はまだ登山の技術がないが、ここからの景色はきっとどんな宝石よりも美しいぞ。お前が大人になったら一緒に写真を撮りに行こう」
「うん!僕も絶対お父さんみたいな写真家になる!」
「おっ!俺も負けないように頑張らないとな!」
成長するにつれ親父が家にいないことが多くなって、あまり話をすることはなくなった。たまに顔を合わせることはあっても目すら合わせない始末。
家庭内の空気も次第に悪くなって行った。
母さんはいつも親父を心配していた。それなのに、親父は母さんを蔑ろにして外に出てばっかりだった。
そんな親父が許せなくて俺はいつのまにかカメラに触れることすらなくなった。
でも母さんは強かった。寂しいはずなのにそんな素振りは見せることなくいつも明るく振舞ってくれた。
そしてある時、親父は居なくなった。帰ってくることも連絡を寄越すこともなくなって、一年が経った。
それでも母さんは「あの人はそういう人だから。でもいつか帰ってくるわ!」と言って悲しむことはなかった。
でも俺は知っていた。
夜、俺と妹の一花が寝静まった頃になると時々一人ですすり泣いていることを。
どうしても許せなかった。
大好きな母さんを悲しませる親父が。
俺たちから父親を奪ったカメラが。