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鏡の君と僕。  作者: 真城夢歌
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 重い足取りで学校に着いた。

 僕より少し高い下駄箱の一番上の右から二番目の小さな扉を開く。

 開けた途端鼻にくるなにか嫌なにおいがした。いつもとは違って上履きは、ご丁寧にトイレの水で水浸しとかプールの中で死んだ虫の死骸入りの水ではなく、どこかのご家庭の生ごみが上履きが見えなくなるくらいまでかけられていた。

 この大量のごみを自分の家やゴミ捨て場から持ってきたのだな、と想像すると、無駄なことによくこれだけ時間と労力を使うなと思うと同時に、これくらいしか生きがいがないのかと思うと哀れに思えてきた。

 多分、あいつらー相馬、相澤、澤見、久保田ーが実行し、その案を出したのはきっと隼人だろうな。実行するのはあいつら。隼人は案だけ出して下々の者たちが実行に移すのをただ眺めているだけのようだ。

 僕は上履きを取って、生ごみを近くにあったごみ箱に捨てた。

 これが先生に見つかって問題にならないように、他のティッシュや掃除で出たごみ、この近くで宣伝してる選挙のチラシなどで隠した。

 僕は上履きを、カバンから取り出したレジ袋に入れて来客用のスリッパを借りることにした。いつも水浸しにされていたから常にレジ袋は持っていた。

 スリッパは歩きづらく、階段を上がる途中でも何回も脱げたりするので面倒だった。

 三階のフロアには他クラスの生徒と話してる話している人でにぎわい、「すみません。」といいながら人をかき分けながら歩くと、ようやく三年五組の札がかかる教室にたどり着いた。

 静かにドアを開けると、さっきまでうるさかった教室も静まり返った。

 あいつらは、「来たよ。」と言ってニヤニヤこちらを見ている。あいつらを囲む女子たちもこっちを見て笑い出した。

 この教室のメンバーをグループで分けるなら、中心のグループは隼人、久保田、澤見、相馬、相澤のごにんであろう。それを取り巻く狩野舞香というイマドキって感じの女子グループ四人と、黒磯雷人率いる同じくイマドキって感じの男子はセットで、いつも中心グループを取り巻いいているが、女子狙いは隼人だろうな。黒磯雷人たちはただ女子にモテたいっていうだけの理由だろうな、僕が言うのもあれだけど全然冴えてないと思う。

 別枠で、成績優秀スポーツ万能とかな男女のグループやオタクグループ、僕はその三つの部類にも属さない蚊帳の外状態だった。

 僕は、久保田たちを無視して自分の机にカバンを置いた。

 いつもなら机の上にどこから持ってきたのか菊の花が置かれていたり、虫の死骸が置かれていたりしたのに…と思って机の中をのぞいた。

 何かの腐敗臭がした。その正体は腐った牛乳の匂いだった。

 僕は、それを全て取り出して机の上に並べた。一、二、三、四…十三個もの飲みかけの牛乳パックが腐った状態で机の中に入れられていた。

 すべて裏にあるロッカーに置くと、久保田はここぞとばかりに「くっせぇー、誰かと思ったらあいつかよ。」と大声で言うと、取り巻きたちは「やだー」とか「臭いから何とかしてよ。」とくすくすとわらいながら便乗した。

 すると、一人の女子がスタスタとこちらによりロッカーの上の牛乳パックを全部抱えてごみ箱に捨てた。「これでいいよね。」と言って笑って見せた。

 彼女、安西由梨葉は可愛いというより美人よりの顔で黒髪ショートの彼女は、身長が高くスラっとしていてバレー部の元部長で最優秀選手にも選ばれている。その容姿から何回もモデルにスカウトされたが全部断っているらしい。そのうえ成績優秀スポーツ万能、優しいところもありサバサバした男勝りな性格な彼女は、男女ともに人気がある。僕の唯一話す女子だった。

 「気にするなよ悠斗。」

そういうと彼女は思いっきり僕の肩をたたいた。「いて」と小さく声を上げると「ごめんごめん」といってわらった。

 「そうだよ、あんまり気にするなよ。」

と言って隼人も近づいてきた。

 あれから隼人とも何事もなかったかのように話していた。面倒なことは避けたかったからだ。

 黒磯たちは僕をにらみ、狩野たちは由梨葉をにらんだ。

 誰が狙いかよくわかる光景だが、僕も由梨葉も無視をした。

 そこへ、チャイムと同時に先生が入ってきた。

 また今日の始まりであった。


 僕は帰ってきた早々ベッドの上に倒れこんだ。

 あの後も散々な嫌がらせにあい、体力は限界を迎えていた。

 鏡のほうをちらっと見た。

 美音にあってから約一ヶ月、僕は彼女のこともあの空間についても聞き出せていなかった。何も言おうとせず、聞いても「答えたら来なくなっちゃうでしょ。」と言って、笑ってスルーされてしまう。

 ベッドのすぐ横にある本棚からマンガを取り出した。小さなころから読んでいる体の小さい探偵のマンガだ。最新刊をまだ途中までしか読んだことがなかったのでまた再開した。この探偵すごいなって思いながら、急激に睡魔が襲った。

 マンガを閉じて、僕は眠りに落ちたのだった。


 冷たい風が強く僕を打ち付けた。春のような爽やかな野原の匂いがする。

 起き上がるとそこはあの空間だ。この前までと違って今は夜で、夜桜も美しい桜吹雪が待っていた。裏の紅い鳥居は、提灯で照らされていた。

 「おっそいよー」

美音の声だ。彼女は木の上から降りてくると「もう十時ですよ。」と言って呆れた顔ををした。

 「ごめん」というと「次からはちゃんと来てよね」と言って笑った。

 「君って誰なの。」

 僕の言葉に美音の動きが止まった。

 「この空間も、何なの?僕の家の鏡にいた理由とかも気になるし。」

 そういうと美音は振り向いて「前にも言ったけど、いったらこなくなっちゃうでしょ。」といった。僕は「そんなことない。」と言い返すと「絶対来ない」と言い返された。

 「絶対来る!だから少しずつでもいい、教えてほしい。」

 美音は黙り、少し間を置いた。少し間をとってから「じゃあ、少しずつね。」としょぼしょぼしながら言った。

 「じゃあ、まず君は何で鏡の中にいたの?」

 「私は、悠斗を見守りたいって思ったからだよ。」

美音は静かにそう答え、鳥居のほうを見た。一組の老夫婦が鳥居に入っていった。

 「私は何年も前に死んじゃったんだけどね、悠斗のことが気になって四十九日を過ぎても鳥居の中を入ることはできなかった。だから、そんな私に神様は期間を与えてくれた。」

 美音は立ち上がると大木のほうへ寄り、大木を見上げた。美音の顔に大量の桜吹雪がかかった。

 「期間はもうすぐで終わるの。三月十二日、私の命日でここから去らなきゃいけないの。」

 美音の言葉に心が痛んだ。三月十二日を迎えれば彼女とは会えなくなる。あと五ヶ月を切っていた。

 「鏡にいた理由はね、四十九日を過ぎていたから悠斗の暮らしてる世界では暮らしていくことが不可能だったの。幸いゆうとの部屋に鏡があったからよかったけど。」

 そういうと「今日はこれだけね。」といった。

 僕は「ありがとう。」というと今日は帰ることにした。手を振る美音に初めて手を振り返した。

 あと約五ヶ月…。彼女に何かしてあげられることはないか、ベッドに入りながらそう考えた。初めて彼女を意識した。もう生きてはいない彼女の願いをかなえてあげたいと思った。

 次の日、ぼくはかがみにむかって「いってきます。」と小さくつぶやくと、美音は驚いたように慌てて出てきて「いってらっしゃい。」といった。

 僕の中には「死にたい。」という気持ちは少なくなっていたのだった。


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