派閥の誕生と信者の拡大 消えたノート
ある休み時間、哲平の席で珍しい事態が発生した。
美咲も晴奈も来ないのだ。帰宅やトイレ等の事情もなくそうなる事は今まではなかった。
美咲は偶にいなくなる事もあるが、晴奈まで来ない事はなかった。
哲平が気になって晴奈の方を見ると、ショタ君と班目さんと森迫さんと話をしている……というより言い争いをしている。
「これはただ事ではないな。揉めるのは女の子の胸やお尻だけにして欲しいね」
そう言いながら哲平が晴奈の方へ移動する。
晴奈と森迫さんが口論しているので、哲平はショタ君に声を掛ける事にする。
「ショタ君。どうしたの?」
「僕のノートが行方不明なんだ。マンガを描いたノートなんだけど知らない?」
「あれなら、一時間目の休み時間に僕が読んでハルハルに渡したんだけど」
「それが、晴奈さんは森迫さんの机にノートを置いたらしいけど、森迫さんは机の上に僕のノートはなかったって言うんだ」
「一旦最初から確認しよう。ショタ君は誰に渡したの?」
「班目さんに渡したよ」
「班目さんは、誰に渡したの?」
「貴方に渡したでしょ」
「ああ、そうだったね。それじゃ、僕は誰に渡したの?」
頓珍漢な質問をする哲平に、僅かに間があってショタ君が困った顔で
「哲平君。自分に聞いてどうするの?」
と慣れないツッコミを入れる。
「それもそうだね。僕は美咲さんに……」
「ストップ。主人公君はさっき晴奈さんに渡したって言ってたじゃないか。
それじゃ今は美咲さんが持っているんだね?」
「え? ハルハルが森迫さんの机の上に置いたと言っているのだからそれはないと思うよ」
「じゃあ美咲さんは晴奈さんに渡したんだね」
「いや、僕は美咲さんに渡そうとしたんだけど、見ないから要らないって拒否されたんだ。
それでハルハルに渡したんだよ。
ハルハルは僕に……じゃなかった、ハルハルは森迫さんの机の上に置いたと言っていて、森迫さんは机の上にはなかったというのなら、問題はそこじゃないか?」
「美咲さん……マンガ嫌いなのかな?
ところで、さっき言い間違えた様だけど、本当に心当たりはないの?」
「授業のノートをハルハルから返して貰った事を言いそうになっただけだよ。
それにそんな事を僕とハルハルで共謀する意味はないでしょ?」
「エロ神の件がある……って程でもないし、今回のマンガはエロ神は関係ないし、そこまで疑うのも失礼か」
哲平とショタ君が会話をしている間に、晴奈と森迫の状況は危険な状態になっていた。
森迫が晴奈の机を斜めに倒し机の中身をぶちまける。
森迫は嫌がる晴奈を無視して、落ちたノートを一つずつ確認している。
「晴奈さんの持ち物を全部見てみたけど、見当たらないわ」
森迫の乱暴な行動と言動に、晴奈は涙目で
「酷い」
と言うだけだった。
哲平は晴奈の仇を取るべく、森迫に口撃を仕掛けてみる。
「じゃあ犯人は森迫さん以外いないじゃないか。森迫さんの机も調べよう」
「何言ってんのよ変態。そんな訳ないでしょ。もし出てこなかったら、どう責任を取るのよ」
「う、うーん。困ったな責任なんてとれないぞ」
反撃にあい、あっさりと引き下がってしまう情けない哲平。
ショタ君が、森迫に微笑みながら
「疑っている訳じゃないけど、良かったら見せて欲しいのだけど」
と言うと、
「ショタ君の頼みなら喜んで」
と快諾する。
ショタ君が森迫の机を調べるが、ノートは出てこない。
途方に暮れるショタ君の肩に哲平が手を掛けて言う。
「残念ながら、この事件は迷宮入りだ。
ハルハルは机の上に置いただけだから、その間に第三者に取られたとしか思えない」
「ううっ、辛い。けど、ノートに描いた落書きでしかない。
原稿を失くしたという訳じゃないんだから、また新しく描く事にするよ」
美咲がいつの間にか哲平の隣にいた。今の話は聞かれていた様だ。
「私の知らないところで、面白そうな話してるじゃん」
美咲がもめ事に首を突っ込んでくる。それに対して森迫が不満をぶつける。
「面白そう? ショタ君が辛そうにしてるのに、美咲さんには人の心はないの?」
「まあまあ、とりあえず話を聞かせてよ」
「かくかくしかじか」と哲平が説明する。
そしてある可能性を閃いた美咲が語りだす。
「成程。森迫さんとハルハルの持ち物は確認済みな訳ね。
確かに話を聞く限りでは第三者の可能性が高いわね。
でも、第三者を疑う前に哲平に聞きたい事があるんだけどいい?」
「なんでも聞いてよ」
「哲平は、ハルハルにノートを同時に2冊渡さなかった?
マンガのノートともう一冊は哲平のノート」
「そうだよ」
「どうやら犯人が分かったわね」
「「ええ!! 誰が犯人なの?」」
美咲が指差したのは哲平だった。
それに対して哲平が
「ええええ!!」
と驚く。
「犯人が一番驚いてるってどういう事よ!!」
森迫の口撃が哲平を襲う。哲平は混乱していて反撃する事も出来ない。
素早く動いたショタ君が哲平の机からノートを発見。
ショタ君はノートを突き付けて哲平に詰め寄る。
「どういう事か説明してよ。哲平君」
混乱して動けない哲平とショタ君の間に美咲が割り込んでくる。
「驚くのは無理もない。そんなつもりはないのだから。
まず、哲平がハルハルにノートを2冊渡す事から間違いが生じた。
ハルハルは一冊のノートを哲平に返し、もう一冊を森迫さんの机に置いた。この時、ノートを取り違えたのよ。
そして、哲平は自分のノートかどうかを確認する事なく机に仕舞った」
哲平は美咲の後ろで
「はい。仰る通りです」
と縮こまりながら言う。
その言葉を振り返る事なく聞いていた美咲は、その場の全員に
「だから誰も悪気はないのよ」
と哲平と晴奈を擁護した。
ショタ君は美咲の話に納得し、
「そうだったのか。それじゃ仕方ない」
と言い普段の笑顔に戻る。
美咲は振り返り哲平の顔を見る。
哲平は未だに困惑しながらも、感謝から美咲に軽く頭を下げる。
「美咲さん。無事事件を解決してくれてありがとう」
「無事? 本当に?」
「え? 嫌だな。他になにか問題でも?」
「哲平のノートは今、何処にあるの?」
「え……なくなった?」
「森迫さんは机にあったはずのノートを何処にやったの?」
「誰のノートか分からなかったし、汚い字だったからゴミ箱に捨てたわよ」
哲平は
「酷い。あんまりだー」
と言いながら、ゴミ箱からノートを回収したが、ノートは暫くの間、臭かった。