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幕間の物語 ~ザムジードの過去~

やっとここまで来ました。この後、物語は大きく動く予定です。あくまでも予定ですが。

 そこは大陸(アルヴァニア)南部の辺縁にあるファールーシと呼ばれる小国であった。

 ファールーシは神聖王国エロールを宗主国として仰ぐ都市国家群の一つであって、現在はアッサフ3世の治世の第13年である。

 ザムジードはこの秋で10歳になる。

 それは突然やって来た。

 創造主(ル・カイン)への信仰厚く、心から平和を愛する人々の住む国ファールーシをその日、突如として暗黒の嵐が襲った。

 突如として現れた黒い魔物の群れが王国を蹂躙し、街を焼き尽くしたのだ。

 ザムジードは王兄ザムバードの第三子であり、王族であったから、その日も王宮の中庭で幼馴染の少女と遊んでいた。

 少女の名はユリアナ、時の国王アッサフの一人娘、すなわち王女である。

 ユリアナはザムジードの二つ下の8歳であるが、母親である王妃によく似た整った顔立ちは、後に美姫と呼ばれるべき片鱗を見せていた。

 そして何よりも、燃える炎のように美しい赤い髪と瞳の色が、ユリアナに人知を超えた美しさと雰囲気を与えていると、ザムジードは考えていた。

 将来、自分は女王となったユリアナの騎士として生涯の忠誠を誓おうと、ザムジードは密かに決心していた。

 その時、王直属の親衛隊の隊長が20人ほどの兵士を伴って現れ、ユリアナを連れ去った。

 謎の魔物の一群が、王国に襲撃を開始したということであった。

 ザムジードは、その報告の不吉さに心を曇らせながらも、自分の身には深刻なことは、何も起こらないだろうと考えていた。

 それは全く根拠のない、子ども染みた推測であったが、事実子どもであったのだから仕方のないことである。

 しばらくして、ザムジードの元にも護衛役の年配の兵士が一人やって来た。

 ユリアナには親衛隊の隊長と20人の兵士、なんという扱いの違いだろうとは思ったが、ザムジードはそれを不満とは思わなかった。

 なぜならば、ユリアナは王女であり、それだけの価値と資格を持っていることを、ザムジードは知っていたからである。

 ザムジードは護衛の老兵に導かれて王城の地下倉庫に身を隠しながら、今頃ユリアナは、どこでどうしているのだろうかと考えていた。

 それからどれほどの時間が過ぎただろうか。

 やがて倉庫のすぐ近くでも戦闘が始まった。

 ザムジードは、宮廷司祭から教えられた創造主(ル・カイン)への祈りを繰り返し唱えた。

 すると心が平安になった。

 近衛兵たちの悲鳴ばかりが耳につき、戦況は芳しくないのではないかとザムジードが考え始めた時、老兵がザムジードを空の木箱の中に押し込み、ここから決して出ないようにと言い付けて倉庫の外へ出ていった。

 今思えば、あの老兵はあの時すでに、死を覚悟していたのであろう。

 永遠のように長く感じる時の間、ザムジードは祈っていないときにはユリアナのことを考えていた。

 やがて辺りが静まり返った。

 不安が押し寄せて来るが、ユリアナはいつも、ザムジードのためにもお祈りをしてくれていたことを思い出した。

 そしてユリアナのことを考えていると、また心が平安に満たされた。

 ザムジードも祈りを口にした。

 「どうかユリアナが無事でありますように」

 その時、倉庫の扉が開いて誰かが入って来る気配があった。

 「その木箱の中に隠れているのはわかっている。もう大丈夫だ出て来い。お前を迎えに来たんだ。」

 それは聞きなれない、若い男の声だった。

 ザムジードがゆっくりと木箱から顔を出すと、そこには美しい若い男が立っていた。

 それがザムジードと魔族大公ガムビエルの初めての出会いであった。

 それからザムジードは、王国が滅亡したこと、そして生き残ったのはザムジードただ一人であることを聞かされ、どこかも知れない城に連れて行かれた。

 しかしザムジードは、ユリアナは逃げ延びているに違いないと確信していた。

 それからザムジードは、ガムビエルとその召使のような青い髪の美しい女グラと三人で生活することになった。

 ザムジードにとってはガムビエルは兄であり父親のような存在となった。

 グラは姉のようでもあり、母親のようでもあった。

 その時にはすでに、ザムジードはガムビエルの魔性によって精神支配を受けていたので、ガムビエルとグラを、恐れずに受け入れていたのであると今は理解している。

 だとしても、事実、家族として生活した期間の記憶が消えるわけではない。

 ザムジードが16歳になった時、グラから真実が告げられた。

 ファールーシを滅ぼしたのはガムビエル配下の魔物であること、ガムビエルは魔王(アルヴァーン)の息子の一人であること、グラはガムビエルに仕える宝瓶宮(アクエリアス)精霊(ジン)であること、そしてザムジードが魔王(アルヴァーン)の依代になるべくして選ばれた存在であることが。

 ザムジードはそれを静かに受け入れた。

 ガムビエルとグラが人外の存在であることや、ファールーシを滅ぼしたのが彼らであろうということは薄々気づいていたことであった。

 しかし、だからと言っていったい、ザムジード一人に何ができるというのだろう。

 それよりも、自分が魔王(アルヴァーン)の依代に選ばれたということが嬉しかった。

 魔王(アルヴァーン)とはすなわち、この世界(ザラトゥストラ)の正統な王ではないか。

 そして自分が王になれば、ユリアナを見つけ出し、王妃に迎えることができるのではないか。

 それもまた、少年らしい短絡的な妄想であるが、ザムジードはその妄想に縋った。

 もはや自分には、その妄想に縋る以外に道はないことを知っていたからである。

 それから数年後、ガムビエルの指示で王都(アラヴァスタ)の冒険者ギルド本部に潜入していたザムジードは、大神殿を守護する聖騎士団の中に、美しく成長したユリアナの姿を見つけた。

 スカーレットと名前を変えていたが、あのユリアナをザムジードが見間違えるはずはなかった。

 ガムビエルにそれを報告すると、どうやらガムビエルには別の思惑もあり、喜んでいるようであった。

 そうしてザムジードは、ガムビエルの指示に従い、深淵の牢獄(コーキュートス)探索の計画を立てたのである。

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