空中大決戦③
グィードはウァサゴの凶刃輪転乱舞を見て、すぐにそれが自らの闘技、死神の大鎌・輪舞の模倣であることに気づいた。
「面白い」
そう言って、グィードは古代語魔法の詠唱を開始する。
「大いなる教導者よ、忘却の彼方より来たりて、汝の剣を我に示せ!」
グィードの手の中で黒い虹が二つに分かれ、さらに闘気を受けて剣身が巨大化する。
死神の大鎌・狂詩曲が発動したのだ。
グィードはそのまま、黒い竜巻のように戦場を翔けるウァサゴを追うように飛翔した。
「死神の大鎌・輪舞!!」
グィードの身体も高速旋回を開始する。
その時一行は、二つの黒い竜巻が戦場を席巻するのを目撃した。
グィードの死神の大鎌・輪舞とウァサゴの凶刃輪転乱舞が完全に同調し、連携攻撃が発動する。
その連携攻撃をグィードは黒い饗宴と名付けた。
黒い饗宴は空中における集団戦において、絶大な威力を発揮した。
その二つの黒い竜巻に巻き込まれるように、100体近いレッサーデーモンとガーゴイルの群れがほんの数秒で消滅させられ、なんとか二人の進路を遮ろうとした屍飛竜でさえ、一切の反撃を許されず消滅させられてしまった。
戦場では、レーナとスオウの二人による心臓を一突きの競演もまた、続いていた。
ヒューゴはそこに王殺しの速弾きの追奏曲で加わる。
その時、三人の連携攻撃、善良なる隣人が圧倒的に攻撃に特化した別のものに変化した。
三人の陽気な駆逐者たちが互いに競い合うように、戦場に死を撒き散らす。
華麗なるレース、それが三人の新しい連携攻撃の名前となった。
チグリスとユーフラテスの手には、今は機関銃、塵から塵へが抱えられ、毎秒約15発もの魔弾が掃射され続けている。
その殲滅力は絶大であった。
バキエルは今も酸化還元反応弾発射器、化学的修道士を駆使して屍飛竜を駆逐していた。
カルラは戦いながら、グィードたち一行の圧倒的な戦力に驚嘆していた。
渡鴉もまた、予想以上の戦力を発揮していた。
戦闘が開始して十分と経過していないはずであったが、あの夥しい魔物の群れが、今や完全に駆逐されようとしていた。
戦闘が討滅戦に移行しつつあることを実感しつつ、グィードは渡鴉の中の一人の騎士から、目を離せないでいた。
その騎士は、13人の渡鴉の中でもザムジードと並んで、圧倒的な剣技を発揮していた。
そしてその剣技に、グィードは見覚えがった。
グィードの記憶の中で、その黒騎士の姿に美しい赤毛の女騎士の姿が重なる。
「まさか」
グィードがつぶやく。
「スカーレット!」
今度はグィードは叫んでいた。
しかし黒騎士は、その声にまったく反応を示さない。
反応したのはザムジードであった。
とは言え、その反応は大きなものではなくグィードはそれに気づかない。
討滅戦は、なおも続いていた。
「スカーレット!」
ヒューゴはグィードの口から発せられた、その言葉を確かに聞いた。
そして、その声が向かっている先に渡鴉の一人である黒騎士の姿があることも、すぐにわかった。
レーナもヒューゴに釣られて、その黒騎士の方を見る。
黒騎士は何事もなかったかのように戦闘を続けている。
グィードがヒューゴに近づく。
「まずはこの戦闘を終わらせよう」
ヒューゴは黙って頷く。
その時、万魔殿から、さらにいくつかの巨大な影が戦場に向けて飛翔してくるのが一行の目に入った。
「リロイとゴーモトか」
バキエルが呟いた。
それは4体の魔神兵装であった。
1体は一行がオートヴィル城の地下で最初に遭遇した、偉大なるネズミの王が乗り込んでいるであろう魔神兵装アザゼル、他の3体のうちの2体はゴブリンの王とオークの王が乗り込んでいるであろう魔神兵装ソドムとゴモラである。
残る1体は、恐らくコボルトの王が乗り込んでいるであろう、一行が初めて遭遇する魔神兵装であった。
4体の魔神兵装はどのような機構によるのかは不明であるが、魔法で飛翔している一行と同じように、空中を自在に飛翔できるようであった。
バキエルだけは、第四の魔神兵装の名前を知っていた。
なぜなら、それは自分がコボルトの王に与えた玩具であったからである。
魔神兵装マハザエル、それが、コボルトの王に与えられた魔神兵装の名前であった。
魔神兵装は武器を持たない代わりに、その両腕から繰り出される強力な魔神の鉄拳に加え、超破壊魔法に相当する魔神光線砲を備えている。
魔神兵装と魔神兵装は、それぞれ巨大な斬馬刀と連接棍棒を手にしている。
そして魔神兵装が持つ大剣が、超音波振動によって触れるものすべてを切断する超振動剣であることをバキエルは知っていた。
「なんだあれは!」
カルラが叫ぶ。
冒険者ギルドの最高師範であり、多くの修羅場を経験してきたカルラであったが、魔神兵装と遭遇するのは初めてのことであった。
「魔神兵装、魔王戦役において魔族が駆り、1機で1万の兵を壊滅させたという巨人型破壊兵器です」
いつの間にかカルラの傍らに移動していたディオゲネスが淡々と答えた。
「貴公らは、あの化け物と戦ったことがあるのか?」
カルラが興奮したように質問を重ねる。
「ええ、あの4体のうち3体は、以前確かに破壊したはずですが、恐らく再生能力でも持っているのでしょう。何しろあれは、超古代文明の遺産ですから」
ディオゲネスの「以前確かに破壊した」という言葉を聞いて、カルラは少し安心した。
「あれにも通常の攻撃が効くのか。では恐れることはないな」
「いいえ、最高師範。あれは特殊な防護幕に覆われていて通常の物理攻撃も魔法攻撃も、一切通用しません」
それを聞いてカルラが目を剥いた。
「ではどうやって破壊したのだ」
「ヒューゴが持つオリハルコンの剣、永劫回帰だけが唯一あれに傷をつけることができます。だからまずはヒューゴを援護して、頭部にある防護幕を発生させている装置を破壊させるんです。そうすれば、私たちの攻撃もあいつらに届くようになります」
「そうか、わかった」
カルラとディオゲネスが話している間にも、ヒューゴとレーナとスオウの三人組は4体の魔神兵装を目指して飛翔を始めていた。
渡鴉もまた、4体を牽制するように陣形を展開している。
ザムジードが剣を構える。
「気を付けろ!ザムジード!そいつに通常の攻撃は効かない!」
グィードがザムジードに叫ぶ。
それを聞いた瞬間、冑の隙間から覗くザムジードの陰鬱な顔が、一瞬、歪んだようにグィードには見えた。
ザムジードは笑ったのだ。
次の瞬間、ザムジードの姿が消えた。
神速で移動したのだ。
見るとザムジードは突然、魔神兵装の頭部付近に出現した。
振り上げられたザムジードの剣が虹色の光を放つ。
剣が振り下ろされ、魔神兵装の額部にある水晶体に命中した。
水晶体が粉々に砕け散る。
「なに!」
グィードが思わず叫んだ。
「どういうことだ」
カルラもまた、ディゲネスを振り返って尋ねた。
それはだれも想像もしていないことであった。
すなわち、ザムジードの剣はオリハルコン、或いはそれに匹敵する特殊な力を持っていたのだ。
魔神兵装の全身を覆っていた防護幕が解除されると同時に、渡鴉が一斉に攻撃を仕掛ける。
魔神兵装は巨大な斬馬刀を振り回して抵抗を試みるが、ザムジードを含んだ13体の渡鴉の猛攻の前に、あっけなく斬り裂かれる。
魔神兵装の装甲が完全に破壊されたが、中から現れたのはゴブリンの王ではなく、オートヴィル城へ向かう途中に一行が遭遇したゴブリン型の邪妖精可能態であった。
本来であれば、その露出して傷ついたゴブリン型を、バキエルの化学的修道士による酸化還元反応弾か、ディオゲネスとアーシェラによる風精炎獄陣で焼き尽くすべきであった。
しかし今回はどちらも動かなかった。
それは彼らが突然の事態に対応できなかったというわけではなく、どちらもここは様子を見るべきであると判断したためであった。
一行が見ているとザムジード以外の渡鴉の両手がザムジードに向けて翳されていた。
それはあたかも、自分たちの魔力、或いは精神力とも呼ぶべきものをザムジードに送り込んでいるような仕草であった。
そして実際、渡鴉たちの両手からザムジードの構える長剣に向って、限りなく黒に近い紫の光が流れ込んでいるのを一行は目撃した。
ザムジードの長剣の剣身を黒紫の光球が覆う。
「破壊波動弾!!」
叫びと共にザムジードが長剣をゴブリン型に向って振り下ろす。
黒紫の光球がゴブリン型の身体に吸い込まれるように重なり、音もなく膨れ上がり、その全身を覆うと急速に収縮し、やがて消失した。
それはあたかも、光球がゴブリン型を内側から飲み込み、そのまま消失したかのようであった。
「ほう」
超高度からその様子を眺めていたトイフェルスドレックが感心したように声を漏らした。
それが高度の暗黒魔法であることに気づいたからである。
精霊たちの他にもう一人、そのことに気づいた者が一行の中にはいた。
それはバキエルである。
なぜならそれは、かつてバキエルの父、魔王が好んで用いた暗黒魔法の一つであったからである。




