空中大決戦②
アーシェラもまた転職と妖精の指輪の力によって、自分の魔力が爆発的に増大していることを認識していた。
そこでアーシェラは、これまでは最後の切り札と認識していた炎の魔神を、開戦直後に躊躇なく召喚した。
「偉大なる爆炎の支配者よ、契約に基づき我が前に姿を現わせ、我が名はアーシェラ。炎の魔神よ!」
飛翔するアーシェラの正面に現われた炎の魔神は以前よりもさらに一回り大きく、また巨大な黒い翼を持っていた。
精霊の形態は召喚者のイメージを具現化したものとなる。
炎の魔神はそもそも精霊であるから、外見上の翼を持たなくとも空中を飛翔、或いは遊歩することが可能である。
ただ今回は、アーシェラの空中戦に特化した炎の魔神というイメージを具現化した姿となったのである。
「最近、よく俺を呼ぶじゃないか、アーシェラ」
炎の魔神がアーシェラに向って笑いながらそう言った。
相手を威圧するような、太い、低い声である。
「しかも、驚くほど強大な魔力を身につけたな」
炎の魔神がさらにアーシェラに語り掛ける。
「おしゃべりをするために貴方を呼んだわけではないわ。さっさと貴方の使命を果たしなさい」
アーシェラは、突き放すように炎の魔神に答えた。
すると炎の魔神は再び、ニヤリと笑った。
「そうだな」
そう言って振り返ると、炎の魔神は真っすぐに1体の屍飛竜に向って飛んで行った。
炎の魔神の行く手を妨げようと十数体のレッサーデーモンやガーゴイルが殺到したが、炎の魔神は羽虫でも払うように、片手の一振りで魔物たちを払い除けた。
一瞬後、炎の魔神によって払い除けられた魔物たちの全身が炎に包まれる。
並ぶと炎の魔神と屍飛竜はほぼ同等の体格であった。
炎の魔神は、一瞬にして屍飛竜の背中に取り付き、頭を掴んで捻じり、頭突きを叩き込んだ。
屍飛竜は脳震盪を起こし、墜落を開始する。
炎の魔神は、それでも屍飛竜の頭を離さず、むしろさらに降下を加速させ、ボールを地面に叩きつけるように、屍飛竜を頭から地面に激突させた。
屍飛竜は動かない。
炎の魔神はそのまま立ち上がり、ものすごい勢いで屍飛竜の胴体に拳を叩き込み続ける。
炎の魔神の膂力は圧倒的であった。
やがて屍飛竜の全身が燃え上がり、瘴気を撒き散らして雲散霧消した。
それを見届けもせず、炎の魔神は次の獲物を求めて、再び飛翔した。
アーシェラはその間に、いつも通り三体の風精霊とミスリルの精霊を召喚し、自らは脆刃の剣を蛇体化して振るい、舞うようにレッサーデーモンとガーゴイルたちを死に導いていた。
その姿は、あたかも蛇体化した連接剣を振るいながら踊る美しい四姉妹のようであり、その美しい演舞を何者も妨げることはできないようであった。
バキエルとチグリスとユーフラテスは、それぞれに小型拳銃、優しい悪魔を二丁ずつ持ち、空中を自由自在に翔け回りながら、魔物たちを次々に葬っていた。
彼らの戦闘方法は、非常に単純であり、神速移動を繰り返し、突如として魔物の懐に飛び込み、至近距離から魔物の核に向けて魔弾を撃ち込む、その繰り返しであった。
その時、1体の屍飛竜がバキエルに接近しつつあった。
バキエルはそれに気づくと、二丁の優しい悪魔をいつの間にか腰に装着している専用の拳銃嚢に納めた。
「野蛮の園!!」
バキエルの叫びと同時に、バキエルの目の前に魔法陣が出現し、バキエルはそこから機関銃、塵から塵へを取り出した。
「くらえ!」
バキエルが引き金を引くと、毎秒約15発もの魔弾が掃射され、屍飛竜の翼や胴体に無数の弾痕を刻む。
それでも突進を止めない屍飛竜をバキエルは神速で躱し、背後に回り込む。
バキエルは再び、無言で野蛮の園を発動し、塵から塵へに換えて酸化還元反応弾発射器、化学的修道士を取り出す。
「Bye bye!」
バキエルが無邪気に言って、引き金を引く。
ボシュン!
酸化還元反応弾が発射され、屍飛竜の胴体に命中する。
瞬時に化学反応が始まり、超高温の火柱が発生し、屍飛竜の全身を焼き尽くした。
チグリスとユーフラテスは神速の死を撒き散らし続けている。
トイフェルスドレックは戦闘開始と同時に超高度まで上昇して一行の戦いを俯瞰していた。
そして一行の目の行き届いていない魔物を発見すると、そちらに手を翳して必殺の魔法を発動する。
「雷神の鉄鎚!」
トイフェルスドレックの詠唱と同時に、標的の魔物には、凄まじい雷鳴と共に、文字通りの落雷が命中する。
時には複数の魔物に、同時に雷神の鉄鎚が下された。
落雷は、トイフェルスドレックの意のままに魔物に襲い掛かる。
その強烈な雷撃の前では、如何なる生物や魔物も一瞬にして消し炭と化す他なかった。
数体のレッサーデーモンがトイフェルスドレックの存在には気づき上昇を開始するが、目的を達する前に雷撃に撃たれて雲散霧消した。
一行は戦場に、見慣れない巨人の出現を認めた。
そしてその巨人の右肩には、グレモリーが優雅に腰掛けていた。
その巨人は、どうやら砂でできているらしく、どのような魔物の攻撃を受けても、一瞬にして再生を繰り返していた。
そしてその巨人の拳は、魔物に接触する瞬間に異常に巨大化したり、槍のような形に変形したりと自由自在に形を変えて、常に致命傷を与えているようであった。
いずれにせよ、その戦闘能力は圧倒的であり、グィードは炎の魔神と同等か、それ以上であると分析していた。
その光景を見てヒューゴは、結局のところグレモリー自身は戦わないのだと苦笑いをした。
またよく見ると、その巨人の顔はムスターファによく似ていたが、後にグレモリーが語った言葉によれば、巨人の名は輝ける者であり、そのモデルは「私のイブラヒーム」、つまりムスターファのご先祖さまであるらしい。
ウァサゴは超高速で身体を旋回させながら、その戦場を縦横無尽に翔け巡っていた。
そしてその両腕には、前腕部の側面に沿うように漆黒の刃が突出していた。
その刃はウァサゴの纏う黒衣の一部が変質したようでもあり、あるいはウァサゴの肉体自体から生じているようにも見えた。
ともかく、ウァサゴの前腕部から突出した漆黒の刃の切れ味は凄まじく、触れるものすべてを軽々と斬り裂いた。
その闘技は外見上、グィードの死神の大鎌・輪舞によく似ていた。
それはグィードに対するウァサゴの敬意でもあり、多少のからかいのニュアンスも含まれていたが、同時に、合理的に考えてその戦場に最も相応しい闘技でもあった。
ウァサゴはその闘技を凶刃輪転乱舞と名付けた。
ウァサゴの凶刃輪転乱舞が戦場を翔け巡る。
カルラと渡鴉の奮闘もまた、続いていた。
今や魔物の群れは当初の半数以下にまで、その数を減らしていた。




