空中大決戦①
ヒューゴとレーナとスオウの3人は、いつものようによく連携を取りながら、群がるレッサーデーモンとガーゴイルを次々と撃破していた。
英雄波動共振と善良なる隣人の相乗効果によって、3人の意思疎通は完ぺきであり、一言も発さずとも互いの次の動きが予測できた。
またスオウの上には、新しい変化が起こっていた。
それはスオウの専用籠手、憤怒の聖者に刺突属性が含まれていることが大きく影響していた。
なんと、スオウもまたレーナの闘技、心臓を一突きを発動していたのである。
レーナとスオウは空中を自由自在に飛翔しながら、レッサーデーモンとガーゴイルを次々と、一撃のもとに葬っていた。
因みに、レッサーデーモンの核は人体における心臓の位置であったが、ガーゴイルの核は胸の真ん中にあった。
レーナとスオウ、そしてヒューゴも、善良なる隣人の効果によって共有された鬼功の力で、それを視覚ではっきりと捕らえることができた。
そしてじつは、この時、ヒューゴのパーティー全体が、鬼功の力を共有していた。
後にディオゲネスが解説したところによれば、それはまず善良なる隣人によってヒューゴに付与された鬼功の力が、英雄波動共振によってパーティー全体に共有されたのであろうということであった。
グィードは自分に突進してくるレッサーデーモンとガーゴイルの群れを捌きながら、1体の屍飛竜を目指していた。
その屍飛竜がカルラと渡鴉に向って、毒の息吹を放つ予備動作に入った。
グィードはそれを悟ると、一気に速度を上げる。
グィードはその瞬間、鳳翼飛翔陣によって付与された神速を、己の意志の力で最大限発揮した。
それを目撃していた者の目にはグィードの身体が一瞬、消えたように見えた。
そして次に瞬間には、屍飛竜の顎下に現われた。
「死神の巨鎌!」
闘気によって巨大化したグィードの愛剣、黒い虹の剣身が、頭上の屍飛竜の顎を下から貫く。
傷口から赤黒い血が吹き出す。
屍飛竜は怒りの咆哮を上げようとしたが、顎下から上顎までを死神の巨鎌に貫かれているため、思うように口を開けることができず、怒りに任せて頭を振った。
グィードは素早く死神の巨鎌を引き抜き、少し距離を取る。
そのグィードの頭上から、巨大な毒針を持つ屍飛竜の尾が襲い掛かる。
グィードはそれを躱しつつ死神の巨鎌を振るった。
次瞬、死神の巨鎌は見事に尾を切断していた。
今度こそ屍飛竜が苦痛と怒りの咆哮を上げた。
「死神による速弾きの追奏曲!!!」
グィードは屍飛竜の全身に沿って神速移動を繰り返し、今や軽く音速を超えた連撃を繰り返した。
屍飛竜は全身から赤黒い血を吹き出すと同時に瘴気を撒き散らして、雲散霧消した。
アルフォンスはすでに愛剣、偉大なる破壊者の仕掛けを自由自在に操っていた。
大剣として振るい、1体のレッサーデーモンの胴体を真一文字に斬り払ったかと思えば、次の瞬間には剣を返し、蛇体化させて、頭上から襲い掛かりつつあったガーゴイルの核を貫いた。
蛇体が最大限まで伸びると、柄部の仕掛けを操作して、即座に大剣の形状に戻す。
続いて、ガーゴイルを頭から一刀両断にしたかと思うと、そのまま振り返り、蛇体化した剣身によって2体のレッサーデーモンを斬り払った。
そうしてアルフォンスは、偉大なる破壊者の二つの形態を自由自在に操って空中に死を撒き散らしていた。
ディオゲネスは、昨晩のうちに十の戒めと三位一体に新たな能力を付与していた。
それは自動制御機能であり、一度発動された十の戒めと三位一体はディオゲネスの制御を必要とせず、十の戒めはディオゲネスを守り、三位一体は、あらかじめ封じられた爆裂と真空の刃と氷の槍の魔力によって、制空権に入った敵を自動的に攻撃するのである。
三位一体には、一度の攻撃を終えると次の攻撃に備えて、一瞬にして魔力が充填される。
魔力の消費は激しいが、現在のディオゲネスは転職による聖霊の加護の増大と妖精の指輪の力によって、その状態を数時間維持できるだけの膨大な魔力を持っていた。
そしてその間、ディオゲネスは絶対防壁を適宜用いて、パーティーを致命的な攻撃から守ることができるのである。
ディオゲネスはこの十の戒めと三位一体の自動制御状態を無知の知と名付けた。
ディオゲネスの周囲には無知の知による13個のある種の宝玉のようにも見える極小の結界が展開していたが、本人は微塵も闘志を抱いていないため魔物たちには無防備に見えるのであろう。
レッサーデーモンとガーゴイルからなる十数体の群れが、一気にディオゲネスに殺到した。
まず反応したのは十の戒め、すなわち物体を空間に固定して動きを封じる10の監禁者であった。
それぞれの監禁者が魔物たちの手や足を捉え、その上で同士討ちをさせるように引きずる。
監禁者の有用性は、まさにこの一度捕捉した物体を引きずり動かすことが可能な点にある。
その同士討ち自体は魔物たちにほとんどダメージを与えない程度であるが、そのように魔物の群れを自分の願う場所に誘導できるのである。
そして一か所に集まった魔物の群れに対して、三位一体、すなわち、あらかじめ爆裂と真空の刃と氷の槍という三種の魔力を重複して封じた3つの隔離室、言わば誘導式の魔力の爆弾が攻撃を仕掛ける。
不幸な魔物たちは三種の重複魔法を浴びて、一気に消滅した。
その間もディオゲネスは、涼しげな顔で戦場全体を観察している。
ムスターファは魔物の群れとの接触と同時に有り余る戯言を発動した。
そして4体の分身が四神相応を発動する。
ムスターファの狙いは初めから屍飛竜であった。
等間隔に四方に展開する4体の分身が、飛翔を妨げる魔物の群れを捌きながら1体の屍飛竜を補足する。
屍飛竜が接近する分身たちに毒の息吹を放った。
4体の分身は飛翔しながら同時に愛用の双刀、戦火と火焔を正面で交差して防御姿勢を取る。
その瞬間、ディオゲネスの絶対防壁が発動して4体の分身を護る。
英雄波動共振による意思疎通によって、ムスターファはそのことを予測していたが、反射的に防御姿勢を取っていたのである。
4体の分身が毒の息吹をものともせずに接近してくるのを見て、屍飛竜は怒りの咆哮を上げた。
そして自らの牙と爪、そして猛毒を持つ尾によって敵を滅ぼすために、分身たちに向かって飛翔する。
両者の距離が瞬く間に縮まる。
その瞬間、4体の分身は同時に剣舞、明鏡止水を発動した。
4体の分身が、それぞれに襲い来る屍飛竜の攻撃を間髪で躱すと同時に、必殺の反撃を仕掛ける。
その一瞬の接触によって、屍飛竜は尾と右足を失い、胴体にも重傷を負った。
すかさず、4体の分身は剣舞、迅雷風烈を発動する。
屍飛竜は瞬く間に木っ端みじんに斬り刻まれ、雲散霧消した。
その間に、カルラは単身で数十体のレッサーデーモンとガーゴイル、そして屍飛竜も1体、滅ぼしていた。
また、渡鴉の戦闘能力も凄まじく、全体で100体以上のレッサーデーモンとガーゴイル、そして2体の屍飛竜を滅ぼしていた。
しかしなお、魔物の群れは当初の三分の二以上が残存していた。




