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グィードの記憶とウァサゴの思惑

 グィードがザムジードと初めて会ったのは今から20数年前、グィードが冒険者たちの間で尊敬と畏怖を込めて死の天使(アズラーイール)と呼ばれ始めていた頃のことであった。

 グィードはその頃、トイフェルスドレックからも離れ、孤高の冒険者として多くの危険な依頼(クエスト)(こな)していたが、時折、悪徳冒険者や、ならず者などと衝突することとなり、その際の圧倒的な強さと冷酷さが、死の天使(アズラーイール)という呼び名のもとになったと言われている。

 ただグィードに言わせれば、グィードが相手を殺めたのは、本気で自分の命を狙ってきた者に対してだけ、しかも、手加減する余裕がなかった時だけであり、それは冷酷さなどというものではなかったということになる。

 いずれにせよ、それはグィードの若さゆえの無鉄砲にも端を発するものであり、その後スカーレットと行動を共にするようになってからは、人を殺めることはなくなったと、後にグィードはヒューゴに語った。

 本当に強い者は、相手を殺さずに無力化することができるものであるし、それができない場合には退くことを覚えたとも、グィードは語った。

 そしてザムジードは、その頃すでに冒険者ギルドの幹部であり、深淵の牢獄(コーキュートス)を探索するためのパーティーを組織しようとしていた。

 そこで当時、名うての冒険者であったグィードにもお声が掛かり、若く無鉄砲なグィードは深淵の牢獄(コーキュートス)という大陸(アルヴァニア)で最も危険な迷宮(ダンジョン)の冒険に心惹かれて、そのパーティーに加わったのである。

 そしてグィードは、そこでスカーレットと運命の出会いを果たす。

 スカーレットもまた当時、名うての聖騎士(パラディン)として名を馳せていた。

 スカーレットは幼い時、祖国を失って以来、精霊(ジン)のウァサゴによって王都(アラヴァスタ)を中心とした放浪者のような生活の中で育てられた。

 因みに、ウァサゴが料理に関心を持ったのはその頃のことである。

 そして14歳になった時、ウァサゴはスカーレットを修道女として王都(アラヴァスタ)の大神殿に入らせることを思い立った。

 それは、自分だけではスカーレットに人間としての良識や常識を身につけさせることに限界を感じ始めたためでもあったが、そもそも彼女の祖国は創造主(ル・カイン)に対する信仰に熱心であったことを思い起こしたためでもあった。

 つまり、ウァサゴとしては、ただスカーレットの幸せを願ってそのようにしたのである。

 もちろんその後も、ウァサゴは陰ながらスカーレットを見守り続けた。

 そして修道女には護身のためや、その後の働きのために基本的な戦闘訓練が施されるのであるが、スカーレットはそこで、めきめきと頭角を現し、16歳になった時、大神殿を守護する聖騎士団に入団を許されたのであった。

 グィードとスカーレットが出会ったのはグィードが24歳、スカーレットが20歳の時であった。

 ザムジードはその時、深淵の牢獄(コーキュートス)探索パーティーとして、すでに自分を含めた4人のパーティーを組織していた。

 リーダーが騎士(ナイト)ザムジード、王宮からのお目付け役として宮廷道化師(ジェスター)見習いのファルークと宮廷司祭(コートプリースト)のバルサラ、そして大神殿を代表して聖騎士(パラディン)のスカーレットである。

 ザムジードとしては、そこに迷宮(ダンジョン)の探索に長けた冒険者を一人加えたいと考え盗賊ギルドに問い合わせたところ、盗賊(スカウト)スキルにも長け、戦闘能力においても申し分ないグィードに白羽の矢が立ったのであった。

 そうしてザムジードをリーダーとした5人のパーティーは深淵の牢獄(コーキュートス)の探索に向かい、生還した。

 そこでは様々な危険や不思議や、興奮する出来事に遭遇したが、グィードにとって最も重要な出来事は、スカーレットとの出会いであり、その冒険を通して互いに惹かれ合った二人は、それからバディを組んで冒険者として活動することになった。

 聖騎士団ではスカーレットの退団を惜しんだがスカーレットの決意は固く、引き留めることはできなかった。

 グィードがザムジードと会うのは、それ以来であった。

 ザムジードはその頃から黒衣の騎士として勇名を馳せており、末は最高師範(グランドマスター)かと期待されていたが、それ以来、グィードがザムジードの名を聞くことはなかった。

 因みに、ファルークとバルサラはそれぞれ正式な宮廷道化師(ジェスター)宮廷司祭長(コートビショップ)になったと風の便りに聞いた。

 ザムジードは今、意図的に気配を押さえて実力を隠しているのがグィードにはわかったが、そのようなことができること自体が、ザムジードの実力が以前よりも大きく成長していることの証拠のように感じられた。

 

 ウァサゴもまた、ザムジードを観察していた。

 精霊(ジン)アガレスの契約者(テスタメント)はザムジードで間違いないであろう。

 そして、ウァサゴもザムジードと会うのは、これで二度目であった。

 というのは、グィードたちが深淵の牢獄(コーキュートス)を探索した時、ウァサゴは姿を隠してスカーレットに同伴していたからである。

 そしてその時にはまだ、ザムジードはアガレスを伴ってはいなかった。

 それは間違いない。

 ウァサゴが知る限り、アガレスは魔王(アルヴァーン)を永遠の契約者(テスタメント)と定めて忠実に仕えているはずであった。

 つまり、アガレスが魔王(アルヴァーン)以外の人間と契約する理由は唯ひとつ、その人間が魔王(アルヴァーン)依代(よりしろ)である場合に限るのだ。

 双魚宮(ピスケス)の二人がアガレスのことをバキエルに知らせた様子はなかった。

 バキエルと言えども、気配を殺しているアガレスの存在に自力で気づくことは不可能であろうとウァサゴは判断していた。

 魔王(アルヴァーン)復活の仕組みは非常に巧みであり、幾つもの方策が同時に進行している。

 ある時にはそのうちの一つだけが結実し、またある時には、複数の方策が連続的、あるいは同時に結実して、復活の程度、すなわち、この世界(ザラトゥストラ)で行使できる力の程度に影響を与える。

 その復活の一つの形が依代を用いた復活である。

 しかし、今のところザムジードはザムジード自身として活動している。

 つまり、ザムジードから魔王(アルヴァーン)の存在を感じ取ることはウァサゴにはできなかった。

 これは面白いことになってきたと、ウァサゴは考えていた。

 ザムジードの考えは、今のところウァサゴにはわからない。

 自身が魔王(アルヴァーン)の依代であることを自覚しているのかどうかも、今のところは不明である。

 いずれにしても、差し当たりザムジードとグィード、そして自身の契約者(テスタメント)であるヒューゴは、共同戦線を張って魔族と戦うことになる。

 アガレスは、当然こちらの存在には気づいているはずであるが、とりあえずは姿を現すつもりはなさそうである。

 そしてウァサゴは、もう一つの重要な事実に気づいていた。

 ヒューゴと契約を交わすとき、一度試みて失敗したスカーレットの探索であるが、それを妨げていたのは自分と同等か、それ以上の存在であった。

 思えばそれはアガレスに違いなかった。

 そして今や、アガレス自身に近づき、その正体も見極めた今、スカーレットを探索することは容易いことであった。

 というよりも、ウァサゴはすでにスカーレットの居場所を突き止めていた。

 じつはスカーレットは今、一行の目の前にいるのだ。

 すなわち、ザムジードのすぐ横に座している黒衣の騎士こそスカーレットであった。

 だがスカーレットは、グィードやヒューゴ、そしてウァサゴを目の前にしても、なんの反応も示していない。

 つまり、記憶操作か精神操作の類いを施されているのだ。

 そして、グィードとヒューゴもまだ、スカーレットの存在には気づいていない。

 今すぐにそれを明らかにしたところで、事態が好転するとはウァサゴには思えなかった。

 ウァサゴはとりあえず、様子を見ることにした。

 ウァサゴがそのように考えているうちに、人間たちの話し合いは終わったようだった。

 一同が立ちあがり会議室を出ていった。

 ウァサゴもそれに続いた。

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