模擬空中戦
更新のペースがやや落ちていますが、最後まで楽しんで書き続けて行きたいと思っています。今後ともよろしくお願いします。
13体のレッサーデーモンは、ただちに一行を敵と見做して攻撃を開始した。
最初にそれに反応し迎え撃ったのはグィードであった。
空中戦の開始である。
グィードは群れの先頭を飛ぶレッサーデーモンに向かって飛翔する。
ギィードが愛剣、黒い虹を水平に斬り払う。
レッサーデーモンは空中で急停止して、それをやり過ごす。
同時に、レッサーデーモンが突き出した両手から巨大な火球が飛び出す。
それは人間の魔術師が使う初級攻撃魔法、火球に相当する。
レッサーデーモンは低級から中級の攻撃魔法を無詠唱で発動することが可能なのだ。
グィードはその火球を愛剣で受ける。
「ちっ」
その間に2体のレッサーデーモンが追いつきグィードを包囲しようとする。
その時、ディオゲネスがさらに上空から援護攻撃を仕掛ける。
「光よ、我が敵を貫け!ライトニング・アロー!」
グィードを包囲しつつあったレッサーデーモンたちの頭上から光の矢が降り注ぐ。
それら光の矢の一本一本は、すべて急所に向けられたものであったがレッサーデーモンたちは身を丸くして、全身を翼で覆い致命傷を回避する。
しかしその時には、グィードが再び攻撃に転じている。
「死神による速弾きの追奏曲!!!」
空中戦では初めての発動であったが、グィードの連撃の動きには高低が含まれ、より立体的な斬撃が3体のレッサーデーモンたちを翼の上から斬り刻んだ。
断末魔の叫びをあげて3体のレッサーデーモンたちが雲散霧消する。
その間にヒューゴとレーナとスオウの3人が、3体のレッサーデーモンと対峙していた。
空中ではあるが、3人はすでにいつものように見事な連携攻撃を発動していた。
ヒューゴとレーナとスオウの連携攻撃、善良なる隣人である。
善良なる隣人の効力で共有されたスオウの鬼功によって、3人にはレッサーデーモンの弱点が視覚化されていた。
興味深いことではあるが、悪魔種であるレッサーデーモンたちもその力の源を左胸、すなわち、人間で言うところの心臓の位置に持っていた。
そして、通常の人間の倍近くの身長を持つレッサーデーモンであったが、その力の源、核とも呼ぶべきものはレーナの専用籠手、駆逐者の爪の刃が十分届く位置にあることが3人には、はっきりと見て取れた。
そして、善良なる隣人の効力によって3人の思考は以心伝心に共有されている。
ヒューゴとスオウが3体のレッサーデーモンの周囲を飛び回り牽制を仕掛ける。
そこで生まれた隙を突いてレーナが止めを刺す。
「心臓を一突き!!!」
これもまた空中では初めて発動されたがレーナは自分の身体を完全に制御して、素早く相手の懐に飛び込み、正確に核を破壊した。
3体のレッサーデーモンは、次々に雲散霧消した。
アルフォンスが1体のレッサーデーモンと対峙していた。
アルフォンスは、初めての空中戦を楽しんでいた。
自分は剣士として、もはや一流を超える実力を持っている自覚はあった。
しかし、冒険者の戦闘には、まだこのような世界があったのかと、改めて心に湧き上がるものがあった。
いくら戦闘者として強くなったとしても、自分の知っている世界は、まだまだ狭いものであることを実感する。
前に進みたいと願えば、風のように自分の身体が前方へ飛翔する。
後ろへと願うだけで身体が後方へ飛び退る。
肉体の能力によるのではなく、魔法の力による飛翔ならではの感覚であろう。
そのように意志の力で自分の身体の位置を操作しながら剣を振るう。
わざと相手が反応しやすい速度で斬りつける。
案の定、相手は少し下がって回避する。
今度はもっと深く、しかし、やはり回避できる速度で切り込む。
まだ駆け出しの頃、王都の修練場で先輩の剣士と模擬戦を行っていた時のような感覚であった。
レッサーデーモンが火球を放つ。
アルフォンスはそれを素早く横に飛んで躱す。
そろそろ決着を付けよう。
アルフォンスは愛剣、偉大なる破壊者を大きく横に薙ぎ払った。
先ほどと同様、レッサーデーモンは後ろに飛んで躱す。
その瞬間、アルフォンスは愛剣の柄部分の仕掛けを操作する。
剣身が12の部分に分割され、大蛇か巨大ムカデのような姿に変わる。
そしてその剣身が突如として身をくねらせてレッサーデーモンの首に巻き付く。
アルフォンスが再び柄部分の仕掛けを操作する。
レッサーデーモンの首が飛び、剣身は巻き戻り大剣の姿を取り戻した。
レッサーデーモンの身体が雲散霧消する。
アーシェラは久しぶりの空中遊泳を楽しんでいた。
いつものように3体の風精霊たちも召喚している。
戦闘のために必要だからではなく、彼女たちともに空中遊泳を楽しむためだ。
その姿は、あたかも美しい四姉妹が空中で踊りを踊っているかのようであった。
しかし、そこに無粋な妨害者が現れる。
2体のレッサーデーモンが4人の踊りの輪の中に突入してきた。
1体が火球を放ち、もう1体は氷弾を放った。
アーシェラたち4人は散会して、それらの攻撃を躱す。
その様子を、もはや目の前に敵のいなくなったヒューゴが眺めていた。
ヒューゴにはアーシェラ同様、3体の風精霊たちの顔が不機嫌に歪んだように見えた。
かつてはのっぺらぼうのように表情のなかった風精霊たちが、今やまったくアーシェラの生き写しのようであり、生き生きとした表情まで浮かべているようであった。
アーシェラが愛剣、脆刃の剣の柄部分の仕掛けを操作する。
同時にアーシェラはミスリルの精霊を召喚して、蛇体となった剣身の操作を委ねる。
脆刃の剣の18分割された剣身が意志を持ったように、アーシェラの身体の周囲を覆う。
3体の風精霊たちの細身の剣もまた蛇体に変形する。
次の瞬間、4匹の蛇が2体のレッサーデーモンに殺到して、翼を引き裂き、核を食い破ったようにヒューゴには見えた。
2体のレッサーデーモンが雲散霧消した。
砂漠の鷹と渾名されているムスターファではあったが、実際に飛翔するのは、やはり初めての経験であった。
両手に持つ三日月刀、戦火と火焔がまるで2枚の翼のようだとムスターファは感じていた。
2枚の翼を駆って、このまま大空を翔け巡りたい衝動に駆られる。
そのムスターファの目の前に2体のレッサーデーモンが立ち塞がった。
「俺を邪魔するのか?」
当然、答えなどあるはずがないのだがムスターファは知らずに尋ねた。
そして、ふと好奇心に駆られた。
今、俺が4人になるとどうなるのか。
そう思うと、ムスターファは迷わず有り余る戯言を発動した。
案の定、4体の分身は皆、飛翔状態を保っている。
「剣舞、四神相応!!」
4体の分身は四方に陣取って2体のレッサーデーモンを包囲する。
2体は突然の形勢の変化に驚き惑っているようであった。
「悪いな。お前ら程度は俺の敵じゃない」
1体の分身が代表してそれだけを告げると4体が同時に必殺の構えを取る。
「「「「剣舞、迅雷風烈!!!!」」」」
4体の分身が2体のレッサーデーモンに、同時に必殺の斬撃を仕掛ける。
2体のレッサーデーモンは断末魔の叫びをあげて雲散霧消した。
バキエルは2体のレッサーデーモンと対峙していた。
もはやトイフェルスドレックによって召喚されたレッサーデーモンは、この2体を残すのみであった。
バキエルは現在の状況を心から楽しんでいた。
一行の戦いを見ているのは本当に楽しかった。
僕もこの人間の冒険者たちの仲間なのだ。
今、目の前にいるレッサーデーモンの身体を構成しているのが瘴気ではなくトイフェルスドレックの魔力であるということに、バキエルはすぐに気がついた。
恐らくあの大魔導士は、レッサーデーモンの素体をどこか別次元に封印しており、自らの魔力を媒介して、こちらの世界で自由に実体化させることができるのだろう。
まさかそのようなことが、魔族でもない普通の人間に可能だとは、バキエルにはこれまで想像もできないことであった。
この世界は驚きに満ちている。
こんなことなら何千年も引きこもっているのではなかったと、本心から後悔していた。
さあ、いずれにせよ、自分が冒険者たちの仲間である以上、彼らの力になるのは当然のことである。
どうせなら、有能な仲間として頼りにされる方が楽しいに決まっている。
そう思いながら、バキエルは小型拳銃、優しい悪魔をすでに両手の中に召喚していた。
バキエルの本気の飛翔速度は瞬間移動に近い。
2体のレッサーデーモンの視界から突如としてバキエルの姿が消えた。
気が付くとバキエルは1体の後ろに移動しており、その後頭部に優しい悪魔の銃口を押し付けている。
「BANG!! 」
強力な魔弾がレッサーデーモンの頭部を吹き飛ばす。
隣の1体が反射的にバキエルを振り返る。
頭部を失ったレッサーデーモンの身体は、すでに雲散霧消している。
もう一度バキエルの姿が消える。
バキエルは残された1体の背後に現われ、その背中に銃口を押し付けている。
「BANG!! 」
その魔弾は背中からレッサーデーモンの核を打ち抜いた。
こうして最後のレッサーデーモンが雲散霧消した。
いつの間にか一行よりもさらに上空に移動しているトイフェルスドレックが、その様子を満足そうに眺めていた。




