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飛翔魔法伝授

いよいよ主人公たちが空を飛びます。ワクワクしますね。お楽しみいただけましたら幸いです。

 「空中戦か」

 トイフェルスドレックの問いにグィードがつぶやいた。

 「確かに、今回は旧王都(オプシディアン)上空にある万魔殿(パンデモニウム)を攻撃することになるからな。敵も飛べるやつらをガンガン投入してくるだろう」

 「でも俺たちは飛べないし、そんな乗り物だってすぐには用意できないよね?」

 ヒューゴがグィードに尋ねた。

 「ああ。普通に考えて、最も手っ取り早いのは飛翔系の魔法だな。ディオゲネス、おまえは飛翔魔法は使えるのか?」

 「じつは賢者の学院時代に理論は学んだのですが、その頃にはあまり興味が持てなかったもので」

 ディオゲネスが心苦しそうに答えた。

 「確かに、君ほどの実力があれば、わざわざ飛翔することに膨大な魔力を割かなくても、上空の敵を殲滅する方法はいくらでもある。飛翔魔法を効率的ではないと考えた気持ちはよくわかる」

 トイフェルスドレックがディオゲネスの考えを代弁した。

 「しかし、それは君個人が敵と戦う場合に限る。パーティー全体で飛行する大群の魔物と戦闘するためには、自分自身も、そしてパーティー全員も飛翔して戦うのが最も効率がいい。というよりは、それができなければパーティーメンバーは君にとって単なるお荷物に過ぎないということになってしまう。いかにも天才が陥りやすい失策だな」

 トイフェルスドレックはディオゲネスの認識の甘さを、はっきりと指摘した。

 「仰る通りです。導師(グル)

 ディオゲネスも自らの誤りと未熟さを素直に認める。

 因みに導師(グル)とは、賢者の学院における教師に対する尊称である。

 「素直でよろしい。では私がこれから、君にとっておきの飛翔魔法を伝授しよう」

 「感謝してお受けいたします。導師(グル)

 それから一行はトイフェルスドレックに導かれて街の外へと出掛けた。

 そこは街の西の街道であり、禍々しい万魔殿(パンデモニウム)の姿がよく見えた。

 「よし、この辺りでいいだろう。まずは君の魔法書を見せてくれたまえ」

 街からしばらく離れるとトイフェルスドレックがディオゲネスに言った。

 「はい」

 そう答えてディオゲネスはローブの中から自らの手で編み上げた特製の魔法書、仕立て屋の仕立て直し(サーター・リザータス)を取り出した。

 「ほう。それが君の魔法書かね?やはり私の魔法書と同じコンセプトのようだな。さすがはディオゲネスだ」

 そう言ってトイフェルスドレックはディオゲネスを称賛した。

 魔法書のコンセプトには大きく分けて三つの系統(タイプ)がある。

 一つ目の系統(タイプ)は使用者の魔力そのものを増大することを目的とするもので、その場合、特殊な素材を用いたり、場合によっては特殊な魔法生物と融合させている場合などもある。

 二つ目は限られた属性や、ある場合にはただ一つの魔法に特化した魔法書であって、その縛りによって所有者に強力な加護を得る系統(タイプ)である。

 そして三つ目がディオゲネスやトイフェルスドレックが用いている目録(リスト)型の魔法書である。

 目録(リスト)型の魔法書は、ある意味では最もシンプルな魔法書であるが他の二つの系統(タイプ)のように手軽には使用者にメリットをもたらさないため最も不人気な系統(タイプ)とも言える。

 しかし、この系統(タイプ)は使用者の能力が卓越していればしているほど、その効力を発揮するものであることをディオゲネスは理解していた。

 すなわち、圧縮詠唱や詠唱破棄など高度な技術を低魔力(コスト)で使うことができるのである。

 そして、それが最も生かされるのは、もともと強力な魔法を使いこなすことができる術者や強力な魔法を連発するだけの高い魔力を持っている術者の場合なのだ。

 「それでは特別に、君たちにも私の魔法書、英雄崇拝論アイ・ウィル・フォローをご披露しよう」

 そう言ってトイフェルスドレックは新品のように鮮やかな深緑(ダークグリーン)のローブから、自らの魔法書を取り出した。

 それは革張りのどこにでもある古びた魔法書のように見えた。

 しかしその中には、恐らく一行が見たことも聞いたこともないような大魔法の数々が記録されているに違いないとディオゲネスは想像していた。

 トイフェルスドレックは英雄崇拝論アイ・ウィル・フォローのページを静かにめくる。

 「よし、これが私の集団飛翔魔法、鳳翼飛翔陣スプレッド・ユア・ウィングスだ」

 そう言いながら、トイフェルスドレックはまず英雄崇拝論アイ・ウィル・フォローの開かれたページに右手を滑らせた。

 それからその手を、ディオゲネスが開いている仕立て屋の仕立て直し(サーター・リザータス)の空白のページへ移す。

 するとそこに集団飛翔魔法、鳳翼飛翔陣スプレッド・ユア・ウィングスの術式が浮かび上がるのを一行は目撃した。

 「こういうことができるのもディオゲネスの実力が、すでにこの魔法に相応しいところまで成長しているからだ。本来であればこれは、そうだれにでも容易く使いこなせる魔法ではない。ともかく無事伝授は成功したようだな。それでは続いて模擬戦に移ろうか」

 「模擬戦?」

 ヒューゴが尋ねる。

 「ああ。たとえ君たちが魔法の力で飛ぶことができたとしても、そこで戦う技術がなければ敵に対抗することはできないからな。模擬戦の相手は私が用意しよう」

 そう言ってトイフェルスドレックがグィードの顔を見る。

 「そうだな。ではディオゲネス、早速、鳳翼飛翔陣スプレッド・ユア・ウィングスを発動してくれ」

 そう言ってグィードがディオゲネスに顔を向ける。

 「承知しました」

 それからディオゲネスは開かれたままの仕立て屋の仕立て直し(サーター・リザータス)に右手を乗せて詠唱を開始した。

 「解き放て大地よ。友よ、時は来たれり。その翼を広げて、遥か天空に舞い上がれ!鳳翼飛翔陣スプレッド・ユア・ウィングス!!」

 詠唱の完了と同時に仕立て屋の仕立て直し(サーター・リザータス)から一同の身体に魔力が流れ出て、不可視の翼を与えた。

 とは言え、その翼自体も被術者の心を飛翔へ導くイメージ上ものであって、実際にその翼の力で飛ぶわけではないことは一同にもすぐにわかった。

 「さあ、あとは各々が願うのだ。天翔ける鷲のように、自由に空を翔け巡りたいと」

 トイフェルスドレックが言った。

 まずはグィードの身体が浮かび上がる。

 グィードはかつての冒険者時代、飛翔戦闘の経験があったのである。

 続いて浮遊したのはアーシェラであった。

 じつはアーシェラは、風精霊(シルフ)の力を自らに宿すことによって単体でも飛翔は可能であったが、これまではその必要がなかったため、そうして来なかっただけであった。

 バキエルもまた単体での飛翔も可能であったが、敢えてそのことを一行に告げる必要は感じなかった。

 グィードとアーシェラに続いてバキエルも飛翔する。

 「よし、面白そうだ!俺も行くぞ!」

 そう言ってヒューゴが上昇を願うと、その身体が一気に遥か上空まで急上昇を開始した。

 グィードとバキエルがそれを追うように急上昇を開始する。

 それを見て、一行がそれに続く。

 ヒューゴはそのまま街道の上空を翔け巡った。

 加速と減速、急停止と急発進、方向転換を繰り返す。

 一同もそれぞれ、そのようなことを繰り返してしばらくの時間が経過した。

 トイフェルスドレックは独り、一行のほぼ中央に浮遊して、その様子を眺めていた。

 「皆、そろそろ慣れたようだな。では模擬戦の相手を呼び出すぞ。準備はいいか!」

 トイフェルスドレックが叫んだ。

 「よし、全員武器を構えろ!」

 グィードも叫ぶ。

 その声に従い一同が戦闘態勢に入ったことを確認すると、トイフェルスドレックが詠唱を開始した。

 「深紅の牢獄より来たれ、我が(とりこ)よ!永遠の苦痛より解き放たれたくば、我が意を果たせ!赤き王軍キング・クリムゾン・レッド!!」

 詠唱が終わるとトイフェルスドレックの頭上に時空の歪みが出現し、そこから巨大な翼を持った赤い魔物が次々に出現した。

 それを見てバキエルが愉快そうに笑う。

 「人間が悪魔種を召喚するのか。なかなか愉快だ!」

 「レッサーデーモンか!」

 グィードが叫ぶ。

 「私の蒐集物(コレクション)だ。通常のものの数倍は強力と思ってくれたまえ」

 トイフェルスドレックが涼やかに答える。

 見るとレッサーデーモンの数は全部で13体であった。

 こうして一行の飛翔魔法を用いた初めての戦闘(模擬戦)が開始されたのであった。

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