規格外の転職
とにかく頑張ってみました。お楽しみ頂ければ幸いです。
会議室を出て、早速1階の職業登録窓口へ向かおうとした一行を、ハンネスが引き留めた。
ハンネスには、ある予感があったのだ。
「ちょっと待ってくれ、恐らく君たちの職業やランクは規格外のものになるだろう。通常の窓口では混乱を引き起こしかねん。今からここに冒険者台帳を準備させるから、ここで手続きをさせてくれ」
ハンネスの言葉に、一行は互いの顔を見合わせる。
「確かにそれは言えてるな」
トイフェルスドレックが、ハンネスに同意した。
「そうか?それなら面倒を掛けるがよろしく頼む」
一行を代表してグィードが答えた。
それから一行は、会議室に戻ってもとの席に着いた。
しばらくすると、ハンネスの秘書と思われる若い女が冒険者台帳を運んできた。
ハンネスは女に短く礼を言うと、すぐに下がらせた。
こうしてオーデンセの冒険者ギルド支部長直々に、一行の職業情報の確認、及び転職の手続きが開始されたのである。
転職手続きでは、まず登録者の現在の職業情報を確認し、その情報をもとに冒険者台帳に表示される選択可能職業を選んで再登録を行うことになる。
「まずは発案者の俺からやってみよう」
そう言ってグィードが、ハンネスが開いた冒険者台帳の空白のページに右手を翳す。
グィードが冒険者台帳から手を挙げると、これまで白紙であったページに、次のような文字が浮かび上がった。
名前:グィード
職業:暗殺者
ランク:LE
グィードは前回の確認時のランクがSSであったことを思い出し、自分が確実に力をつけていることに満足した。
続いてハンネスは、転職手続きのための暗号を古代語で唱える。
するとページの空白部分に、ずらりと選択可能職業のリストが表示された。
そしてそのリストの一番上には、偉大なペテン師という文字が虹色に輝いていた。
「予想通り、固有職への転職が可能なようだ」
ハンネスが平坦な声で答えた。
内心では驚いているのだが、それを無理やり押し殺しているのだ。
固有職とは、一時代に一人にしか発現しない特殊な職業の総称である。
じつはハンネスは、固有職持ちに会うこと自体は、初めての経験ではなかった。
固有職と言っても、すべてが規格外に強力なわけではなく、生れつき特殊な才能に恵まれた者が、時として固有職に目覚めることはあるのだ。
ただグィードのように、もともと上位職の者が固有職に目覚めることは非常に稀であり、そのような場合には、その時代全体の命運を左右するほどに強力な職業であることがほとんどであった。
「おお、これが噂の固有職か?それにしても偉大なペテン師とはな。どうも聖霊は俺のことを誤解しているようだな」
グィードが美髯を撫でながら口にした。
それを聞いて、トイフェルスドレックが口を開いた。
「偉大なペテン師とは、自分の望む者を自由に王位につけることさえできる者のことです。グィードにぴったりの固有職だと思いますよ」
「それでグィード、固有職、偉大なペテン師に転職するかね?」
引続きハンネスは、冷静さを装って手続きを進めようとする。
冒険者ギルド支部長のプライドというところであろう。
「ああ、当然そうする。これでまた冒険者として大きな力を持つことができるわけだからな」
「承知した。では冒険者グィードはこれより、偉大なペテン師としての道を歩むことになる。創造主と聖霊の祝福が、豊かにあらんことを」
そう言ってハンネスは、開かれた冒険者台帳のページの上に独特の仕草で指を滑らせた。
するとグィードの職業情報が書き換えられる。
名前:グィード
職業:偉大なペテン師
ランク:SLE
SLEなどというランクが存在していること自体をハンネスはこの時、初めて知った。
しかし、ハンネスは冷静を装い、一行に事務的に尋ねる。
「次はだれにするかね?」
「じゃあ、次は俺が」
そう言って、ヒューゴが名乗り出た。
ヒューゴが冒険者台帳に右手を翳すと、そこに職業情報が表示される。
名前:ヒューゴ
職業:盗賊
ランク:LE
「凄い!俺って本当にグィードと同じくらい強くなっているんだぁ」
ヒューゴが興奮して、心から感動しているように言った。
ハンネスが先程と同じ古代語の暗号を唱えた。
ページの空白部分に選択可能職業のリストが表示される。
「まさか!」
ハンネスが思わず叫んだ。
「おお!」
それを覗き込んでいたトイフェルスドレックも声をあげる。
リストの一番上には、無限の魂という虹色の文字が浮かんでいた。
「またもや固有職、しかも無限の魂とは」
トイフェルスドレックが、驚きを隠せない様子で思わず口にした。
無限の魂とは、もはや職業ではなく、通常の人間を超えた新しい存在様式である。
後にトイフェルスドレックが語った言葉によれば、そもそも職業とは、人間の名前や外見の違いなどと同様、魂の形を定める外装のようなものであるということだった。
つまり、人間がある職業につけば、その人間の魂は、その職業に相応しい形に変化するのだという。
もちろんそれは、あくまでも比喩的な表現であり、ことの実態を完全に表している言葉ではないのであるが。
いずれにせよ、ヒューゴも当然、転職することにした。
名前:ヒューゴ
職業:無限の魂
ランク:SLE
しかし、ハンネスが本当に驚くのはこれからであった。
結論から言えば、パーティー全員が固有職を発現した。
さらに、本来は冒険者登録されていないスオウとバキエルまでもが、面白そうだという理由で職業登録をして、登録と同時に固有職持ちと判定された。
結果は以下の通りである。
名前:アルフォンス
職業:破壊王
ランク:LE
名前:ディオゲネス
職業:愛智者
ランク:LE
名前:アーシェラ
職業:精霊たちの女王
ランク:LE
名前:レーナ
職業:神仙
ランク:LE
名前:ムスターファ
職業:風纏う鷹
ランク:LE
名前:スオウ
職業:鬼武者
ランク:LE
名前:バキエル
職業:魔族大公
ランク:SLE
当然のことながら、この職業登録によって、スオウとバキエルにも聖霊の加護が与えられることになった。
こうして一行は、無事転職と職業登録を終えて、冒険者ギルドを後にした。




