英雄確定
物語的には一つの山場を迎えています。今後ともお付き合いのほど、宜しくお願いします。
「まずは現在の状況から整理しましょう」
オーデンセの冒険者ギルド支部長ハンネスの一言で話し合いは始まった。
「その前に、トイフェルスドレック。なぜおまえがこのタイミングで、ここにやって来たのかを聞かせてもらおう」
グィードが提案した。
「それもそうだな。まず私の現在の立場から言えば、単なる一介の冒険者に過ぎないということをお断りしておこう。つまり今、私がここにいるのは、私の個人的な意思であり、冒険者ギルドや、その他一切の組織的な意思によるものではない。また私は、グィードの古い個人的な友人であり、その古い友人のグィードに、今こそ私の助けが必要だろうと思ったので、転移魔法を使って先ほどここにやって来たところだ」
トイフェルスドレックが、そこまで話したところでディオゲネスが口を挟んだ。
「そもそもあなたは何者なのですか?私の知る限りでは、あなたの名は賢者の学院の初代総長として、およそ400年前に、突如として歴史上に登場しています。そしてその後、王国の危機的状況を救ったという様々な英雄譚の中に、あなたの名前は度々登場していますが、どれもおとぎ話のような荒唐無稽なものばかりで、正直に言えば、私はあなたのことを架空の人物だとばかり思っていました」
グィードはディオゲネスの話に、興味深そうに耳を傾けていた。
「おまえがそんなに有名人だったとは知らなかった。ただの変態魔導士だと思っていたんだが」
グィードが茶化すように言った。
「それにしても400歳とはな。やっぱりおまえは人間じゃなかったのか」
そのこと自体、本来はもっと驚いてもいいはずであるが、一行の中にはエルフのアーシェラもいるし、人狼のアルフォンス、人鬼のスオウ、魔族のバキエル、ウァサゴやグレモリー、双魚宮のチグリスとユーフラテスといった精霊たちもいるので、そういう人外の存在と思えば、400歳という年齢だけでは驚くに値しないと、グィードは思っていた。
「変態魔導士とは酷い言われようだが、私も自分が普通の人間ではないことは認めよう。しかし私は、まぎれもない人間だよ。亜人種でも古き血の一族でもない、人間。ただ私は、ある出来事をきっかけに烙印から解放されたのだ。このことの意味が、今の君たちにならわかるだろうね?」
ハンネスだけが、その意味を理解できなかったが、黙って一行の話に耳を傾けていた。
「つまり、魂への制約が解除された人間だってことか?」
「ああ、そういう意味では、そこにいるバキエルと同じ状態であると言えるが、私は彼ほど長くは生きていない。ディオゲネスが言った通り、私はおよそ400年前に普通の人間として、この世界に生を受けたんだ。さあ、私の特殊な体質についてはこのくらいにして、グィードの最初の質問に答えるとしよう。なぜ私がこのタイミングで、ここに現われたのか。それは私が、ハンネスとギルド本部との魔法通信機のやり取りを盗聴して、現在の状況を知ったからだ」
トイフェルスドレックが、あまりにもあっさり盗聴という言葉を使ったので、一行は一瞬、呆然とした。
「魔法通信機でのやり取りが、そんなに簡単に盗聴されてしまうものなら、ギルドはその利用方法を改めなければなりませんね」
ディオゲネスが言った。
「その心配はない。通常の利用方法で、私以外の者がそれを盗聴することなどできないからね。なにしろ、魔法通信機を開発したのは私なのだから。開発者である私が言うので間違いない。安心してくれたまえ」
トイフェルスドレックが自信満々に請け合った。
「またとんでもない人が出て来たわね」
レーナが隣に座るヒューゴにだけ聞こえる声で囁いた。
ヒューゴはレーナに苦笑いを返した。
「よし、おまえの事情はわかった。今度は俺たちの状況を話そう」
そう言ってグィードは、これまでの経緯を説明した。
グィードはすでにハンネスを仲間と認めていたので、バキエルが魔族であることも隠さずに、すべてを話した。
「君たちのことについては、もうなにが起こっても驚くのは止めにするよ」
ハンネスが苦笑いしながら、そう答えた。
「それでこれからのことだが、先ほどの通信で、ギルド本部は直ちにこちらに魔族討伐隊を送ると言ってきた。そしてその討伐体のリーダーは最高師範の一人であるカルラ様が担われるそうだ」
王都の冒険者ギルド本部には、創始者である六英雄に因んで、常に6人の最高師範が定められている。
最高師範とは、言わば、すべての冒険者の頂点であり、模範となる冒険者ギルドの象徴である。
「疾風のカルラか、会ったことはないが凄まじい腕らしいな」
グィードがハンネスに確認するように言った。
「ああ、4年前、若干20歳という歴代最年少の若さで最高師範となられた天才剣士だ。また、現在の最高師範の中で、最も規範を重んじる人格者としても知られている」
「アルフォンスたちは会ったことがあるのか?」
グィードがアルフォンスたち3人の顔を見ながら尋ねた。
「ええ、遠くから何度か顔を眺めたことがある程度ですが。本人は不本意そうでしたが、その可憐な容姿も手伝って、王都では偶像のようにもてはやされています」
アルフォンスが答えた。
「そうか。そいつは会うのが楽しみだなあ、ヒューゴ」
ヒューゴは同意しかかったが、レーナが自分の顔を厳しい目つきで睨んでいるのを見て、言葉を呑み込んだ。
「思春期ですねえ、ヒューゴ」
いつの間にか人間の姿を取っていたウァサゴが、ヒューゴの後ろから声を掛けた。
それを見てハンネスは、先ほどの自分の言葉を、心の中で取り消した。
そして、この一行には、これからも驚かされ続けるのだろうと、心地よい諦めのようなものを感じたのだった。
気が付けばグレモリーもまた、ムスターファの後で人間の姿を取っており、チグリスとユーフラテスの二人もバキエルのすぐ後ろに、すまし顔で立っていた。
「ところで、ここで私からの提案ですが、これからは私も戦闘に加わりたいと思います」
ウァサゴが出し抜けに言った。
「どうして急に?」
ヒューゴが驚いたように聞いた。
「もともと私が直接戦闘に加わらなかったのは、偉大な英雄になりたいというヒューゴの願いの妨げにならないためでした。それが今に至っては、私としても意外なほど早く、ヒューゴは偉大な英雄と呼ばれるに相応しい実力を身に付けていしまいました。さすがは我が孫です。加えて、私たち精霊は、そもそも契約者の能力や素養を超えて、この世界に影響を与えることは許されていません。ですが今のヒューゴには、この世界の歴史を変えてしまうだけの実力と可能性があります。つまり、これから私が戦闘において多少力を発揮しても、この世界に対するヒューゴの影響力を超えることはないのです。それは、双魚宮のお二人の戦いを見てもわかる通りです。お二人の戦闘能力はバキエルの能力の一部なのです」
ウァサゴが理路整然と説明した。
そのウァサゴの説明に、チグリスとユーフラテスは満足そうに頷いた。
「そうか、よくわからないけど、俺は偉大な英雄になれたということなんだな」
ヒューゴが意気揚々と確認した。
「正確には、その資格と可能性が確定したというところです。なぜならば、英雄とは英雄的な事業を成し遂げて初めて、そう呼ばれるものであるからです」
「それじゃあ俺は、これからなにを成し遂げればいいんだろう?」
「さあ、それはこれから徐々に、自ずから明らかになって行くでしょう。とにかくヒューゴ、あなたは私の契約者です。これから私は、あなたの剣となり盾となって戦います。是非私を頼りにしてください」
「ああ、これからもよろしく頼むよ」
グィードはその様子を自慢の美髯を撫でながら嬉しそうに眺めていた。
「じゃあ、私もそうしようかしら」
そう言ったのはグレモリーであった。
グレモリーがこれまで戦闘に加わらなかったのは、その必要性を感じなかったからである。
また、契約者には強力な加護を与えて、自分は背後でその活躍を見守るのが、長らくグレモリーのスタイルであった。
ところが今回ウァサゴと接触して、その考えが変わってきたのだ。
或いは、精霊本来の在り方を思い出した、というのが正しいのかも知れない。
そもそも精霊とは、人間に仕えることを喜びとするように、創造主によって造られているのだ。
今後の具体的な作戦は、最高師範カルラ率いるギルド本部からの討伐隊が到着してから、改めて話し合うことになるだろう。
討伐隊は準備が整い次第、特別な転移魔法を用いて、数日のうちにやって来るだろうということであった。
「ところで、ウァサゴが言った通り、ヒューゴばかりでなく俺たち全員が、ここ数日で驚くほど成長している。そこでだ、この建物の1階の登録窓口で職業情報を確認してみないか?もしかしたら職位が上がっている者もいるかもしれない」
グィードのその提案に、一同が同意した。




