ザ・ダウンワード・スパイラル
ザ・ダウンワード・スパイラルをBGMにお楽しみください。今後とも宜しくお願いします。
アーシェラはすぐさま風精霊に命じて、妖精の指輪の位置を確認させた。
それは予想通り、2体の魔神兵装の額にある水晶体の中に発見された。
問題は、唯一自力で防護幕を撃ち破ることのできるヒューゴの愛剣、永劫回帰での攻撃を、どのようにして、そこまで届かせるかということであった。
それについては、アーシェラに考えがあった。
アーシェラは魔神兵装と魔神兵装、どちらか一方ずつであれば大地の精霊の力で動きを封じることができる。
そしてそのことが、今は英雄波動共振の効力によって、パーティー全体にイメージとして伝達されていた。
アーシェラが大地の精霊を召喚するまでの間、一行は回避と防御に集中する。
チグリスとユーフラテスはいつの間にか姿を消し、バキエルは今、機関銃、塵から塵へを手にしていた。
バキエルは魔神兵装の構造を理解しているため、操縦者であるゴブリンの王とオークの王の視界を妨げるために絶好のポイントに魔弾を掃射する。
それでもなお魔神兵装と魔神兵装は、だいたいの見当をつけて、一行に攻撃を繰り返す。
一行は飛び跳ね、飛び退き、斬馬刀と連接棍棒による猛攻を辛うじて潜り抜ける。
2体の攻撃が空振りして床石を砕く度に飛び散る岩石群を、ディオゲネスが絶対防壁で防ぐ。
アーシェラもまた、一行と共に敵の猛攻を避けながら意識を集中して詠唱を開始する。
「万物の基にして支え手なる大地の精霊よ。契約に基づき我が前にその力を現せ!!」
アーシェラは大地の精霊の力が自身に宿るのを感じた。
大地の精霊もまた、時の精霊や炎の魔神同様、最上位の精霊の一角である。
だが重力操作のためには、必ずしも大地の精霊を実体化させる必要はない。
そこでアーシェラは、今回は敢えて大地の精霊を実体化はさせず、その能力だけを借用することにした。
アーシェラはまず、魔神兵装をターゲットに定めた。
魔神兵装に右手を翳して唱える。
「重力下方螺旋!!」
ズシン!
急激に増加した自重に耐え兼ねるように魔神兵装が片膝をつく。
魔神兵装は一行に攻撃を繰り返している。
バキエルが塵から塵へで牽制を仕掛ける。
その他のメンバーは防護幕が解除される瞬間に備えて、魔神兵装の攻撃を回避しながら攻撃体制を整える。
魔神兵装はなんとか立ち上がろうと試みるが、アーシェラはさらに重力を増加させる。
魔神兵装は堪らず斬馬刀を落とし、両手を床につく。
床石が、増加した魔神兵装の体重に耐えきれずにひび割れる。
ヒューゴが永劫回帰を振り上げながら、魔神兵装の頭部目掛けて跳躍する。
「王殺し!!」
闘気によって巨大化した永劫回帰の剣身が、魔神兵装の額の水晶体を破壊する。
水晶体の破片と共に妖精の指輪が宙に舞う。
そのタイミングを待っていたように、グィードが空中で妖精の指輪をキャッチして腰袋に収める。
「今だ!」
グィードが叫び、一行は魔神兵装に殺到する。
「死神による速弾きの追奏曲!!!」
「餓狼剣疾風乱舞!!!」
グィードの亜音速の連撃と人狼の超音速の連撃が同調する。
「「人狼のための狂詩曲!!!」」
4体の分身もまた、一斉にそこに飛び込む。
グィードの双剣と4体の分身の双刀が同調する。
「「放浪者のための狂詩曲!!!」」
卓越した6人の剣士による11本の剣が、魔神兵装の全身をズタズタに斬り裂く。
魔神兵装の装甲が完全に粉砕され、ゴブリンの王自身の身体が露になる。
鬼人の虎爪がゴブリンの王の顎から下を抉り取る。
ヒューゴの王殺しの速弾きの追奏曲とレーナの駆逐者の速弾きの追奏曲がゴブリンの王の胴体を斬り刻んだ。
さらにディオゲネスの三位一体による3種の重複魔法がゴブリンの王の全身を徹底的に破壊し尽くす。
ゴブリンの王の身体が肉塊と化した時、一行は四方に飛び退いた。
いつの間にかバキエルの武器は酸化還元反応弾発射器、化学的修道士に持ち換えられている。
バキエルが化学的修道士の引き金を引く。
酸化還元反応弾が発射され、一瞬前までゴブリンの王であったものを、灰も残さずに焼き尽くした。
続いてアーシェラは魔神兵装に向き直る。
魔神兵装は危機を察知して、アーシェラ目掛けて連接棍棒による攻撃を繰り出す。
アーシェラが飛び退くより前に、目の前に鬼人が立ち塞がり、なんと連接棍棒による渾身の一撃を両手で受け止めてしまった。
魔神兵装は連接棍棒の先端を引き戻そうとするが、鬼人はそれを握って放さない。
両者の凄まじい膂力に引かれて連接棍棒の鎖が悲鳴を上げる。
その間に体勢を立て直したアーシェラが、魔神兵装に右手を翳して唱える。
「重力下方螺旋!!」
鬼人が連接棍棒の先端から手を離す。
一気に解放された連接棍棒の先端が凄まじい速度で引き戻されるが、その途中で魔神兵装の身体と共に床に沈む。
アーシェラによる重力操作が連接棍棒にも働いているのだ。
ヒューゴが魔神兵装のもとに走る。
「王殺し!!」
巨大化した永劫回帰の剣身が魔神兵装の額の水晶体を破壊する。
水晶体の破片と共に宙に舞った妖精の指輪をグィードが再び空中でキャッチして腰袋に収める。
先程の魔神兵装とゴブリンの王への猛攻が、魔神兵装とオークの王の身に再現される。
オークの王はやっと悪夢から目覚めることができることを喜ぶが、それはほんの一時のことであることをオークの王は知っていた。
コボルトの王はまた自分に新しい身体を与えて呼び覚ますであろう。
しかし、今しばらくは安らかに眠ることができる。
あの静かなフラスコの海の中で。
オークの王はコボルトの王の死を願っていた。
この人間たちが、いつかはそれを実現するであろう。
しかしその前に、自分が再びこの人間たちの前に立ちはだかることになるであろう。
次の悪夢でまた会おう。
自分の身体を焼き尽くす炎の中で、オークの王はそんなことを考えていた。




