ソドムとゴモラ
再び巨大兵器、魔神兵装の登場です。よろしければお楽しみください。
残るはゴブリン型可能態1体とゴブリンの王とオークの王だけであった。
ユーフラテスがゴブリン型の懐に飛び込み、2丁の小型拳銃、優しい悪魔の魔弾を胸部に6発撃ち込みむ。
ユーフラテスの闘法は射撃というよりは格闘術であり、敵の至近に近づき、拳を叩き込む代わりに、優しい悪魔の魔弾を撃ち込んでいるようである。
ユーフラテスが銃口を頭上に向けて、さらに4発の魔弾を発射する。
魔弾はゴブリン型の顎下から頭頂を打ち抜く。
ゴブリン型が崩れ落ち、一切の動作を止めるのを確認すると、ユーフラテスは飛び退く。
その時を待っていたかのようにチグリスがゴブリン型に向けて機関銃、塵から塵への掃射を開始する。
どす黒い血と肉片が辺りに飛び散る。
ゴブリン型の身体が完全に肉塊と化したことを確認すると、チグリスの掃射が止み、バキエルが酸化還元反応弾発射器、化学的修道士の引き金を引いた。
酸化還元反応弾が肉塊に命中し、超高温の火柱が上がる。
「さあ、これで雑魚はすべて片付いたよ」
バキエルが微笑みを湛えながらグィードを振り返った。
ゴブリンの王とオークの王は、一行の圧倒的な戦闘能力を前に、もはや自分たちの敗北を悟っていた。
しかし、逃げ出すことはできない。
それは自分たちを生み出したコボルトの王の意志に背くことになるからである。
ゴブリンの王とオークの王とはコボルトの王が錬金術によって生み出した一種の疑似生命体であって、コボルトの王の命令には絶対に服従するように精神に呪縛を施されていた。
またゴブリンの王とオークの王は、自分たちのからだが複製可能な使い捨ての器に過ぎないことも理解していた。
彼らの本体は今も、コボルトの王の秘密の研究室のフラスコの中で夢見ているのだ。
言わば、彼らにとっては、フラスコの外での出来事はすべては夢であり、それは永遠に覚めない悪夢なのだ。
今回の悪夢では、コボルトの王から新たな玩具の使用が認められていた。
コボルトの王はその玩具を、魔神兵装と呼んでいた。
主人であるコボルトの王のために、この人間たちのうち一人でも多くを、この悪夢の道づれに滅ぼしてやろう。
ゴブリンの王とオークの王は、悪夢に酔っていた。
「出でよ!魔神兵装ソドム!」
ゴブリンの王が叫んだ。
「出でよ!魔神兵装ゴモラ!」
オークの王が叫んだ。
ゴブリンの王とオークの王それぞれの足元に、巨大な魔法陣が現れ、その中心に彼らの巨体を軽く覆うほどの巨大な鎧、魔神兵装が現れた。
そして数秒のうちにゴブリンの王とオークの王の身体が光球に包まれ、魔神兵装の開いた胸部の乗り込み口に吸い込まれる。
バキエルがそれを見て、一瞬意外そうな顔をする。
しかし次の瞬間には、嬉しそうな笑いを口元に浮かべる。
「どうやらゴーモトは、僕が与えてやった玩具から、複製を造り出したらしい」
「おまえが与えてやっただって?」
グィードがバキエルに尋ねた。
「ああ、魔神兵装はもともと、僕が野蛮の園から引き上げたものなんだよ」
バキエルはそれが、然も気の利いた洒落であるかのように、愉快そうに口にした。
その言葉を聞いてグィードは、改めてバキエルが魔王の12人の息子の一人であり、原初の魔族の一人であることを思い起こした。
「とは言え、あの2体はかなり粗悪な複製みたいだね」
「そうか」
グィードはなんとか、その一言だけを答えて、目の前に召喚された2体の魔神兵装、ソドムとゴモラを眺めた。
2体は偉大なるネズミの王が召喚した魔神兵装によく似ていたが、その外見にはそれぞれ異なる点もあった。
まずその大きさであるが、2体とも魔神兵装よりも一回り以上大きかった。
その上で、魔神兵装は魔神兵装よりも、さらに頭一つ分背が高かった。
魔神兵装の全長は二階建ての建物ほどもあり、かなり広大な空間を持つこの地下修練場にあっても、息苦しくなるような圧迫感を与えた。
そして、もっとも大きな違いは魔神兵装と魔神兵装は、それぞれに武器を手にしていることであった。
魔神兵装はゴブリンの王と同じく、巨大な斬馬刀であり、魔神兵装はオークの王と同じく連接棍棒であった。
それらの材質は、恐らくコボルダイトであろうとグィードは判断した。
そして恐らく、偉大なるネズミの王が使用した魔神兵装同様、あらゆる物理・魔法攻撃を遮断する防護幕がその表面には施されているであろうと想像した。
そこで一つの疑問が、グィードの頭に浮かんできた。
「妖精の指輪ってのはいくつもあるものなのか?」
グィードがバキエルに尋ねる。
「ああ、妖精の指輪かい?あれは材料さえ揃えば、ゴーモトはいくつでも作れるだろうね。過去にも複数の指輪が造られて、魔族に献上されたことがあるよ」
「そうか。それで、妖精の指輪は魔神兵装とも何か関係があるのか?」
「直接には関係ないはずだけど、もしかしたら動力炉の基幹部分に使われる賢者の石の代わりにはなるかも知れないね」
「賢者の石の代わり?」
グィードが質問を重ねたが、もはや会話をしている時間はなかった。
魔神兵装ソドムとゴモラが一行に向って、突進を開始したのだ。
「ともかく、もしあの複製に妖精の指輪が使われているとすれば、そこを破壊するのが一番手っ取り早いだろうね」
バキエルが早口で言った。
「やはりそうか。みんな聞こえたか?今回もまずは妖精の指輪を見つけて、そこを破壊するんだ!」
グィードが叫んだ。
「了解!」
ヒューゴが答え、他のメンバーは無言で頷いた。
その時、魔神兵装の持つ巨大な斬馬刀が一行を薙ぎ払うように振るわれた。
一行はそれを、四方に飛び退いて躱す。
一行はさらに散開して、斬馬刀の間合いの外から魔神兵装を取り囲む。
しかし、その包囲網の一画、ヒューゴとレーナたちに対して、魔神兵装の手から連接棍棒の攻撃が放たれた。
二人は跳躍してそれを躱すが、砕かれた床石が弾丸のように二人に襲い掛かる。
「絶対防壁!!」
ディオゲネスが二人に向って手を指し伸ばして唱える。
着地した二人を襲った岩石群は、すべて絶対防壁に防がれて床に転がる。
魔神兵装の手の中で連接棍棒の先端がリズムよく回転を続ける。
第二撃の準備は万端であった。
一行は、かつてない死闘を予感していた。




