復活ゴグとマゴク
総力戦後半がスタートです。今後ともよろしくお願いします。
修練場の冒険者もどきは、ほぼ一掃されようとしていた。
その時、一行によって開かれたままになっていた扉から、複数の巨大な影が修練場に乱入してきた。
それはオートヴィル城の中庭で一行が遭遇した邪妖精可能態であった。
しかも以前はゴブリンとオークとコボルトが各1体であったのが、今回は各3体、総勢9体の可能態の群れである。
そしてその背後に、一行は信じられないものを目にした。
そこにはコボルトの王と、以前の戦闘において完全に焼却し尽くしたはずのゴブリンの王とオークの王の姿があったのだ。
「あれはゴブリンの王とオークの王、彼奴ら本当に不死身なのか?」
グィードが思わず口にした。
「やあゴーモト、元気にしていたかい?」
グィードの傍らから、バキエルがコボルトの王に、いかにも暢気に声を掛けた。
「バ、バキエル様、どうしてここに?」
コボルトの王が驚いたようにバキエルに尋ねた。
「ああ、いろいろとあってね。僕はこの人たちと一緒に行動することにしたんだ。申し訳ないけど、おまえとはこれから敵同士ということになるね」
バキエルがあっけらかんと言った。
「なんと!」
そう叫んで、コボルトの王はショックを隠しきれない様子であったが、数秒後には邪悪な笑いを見せて言った。
「左様でしたか。では私もこれからは、あなたを魔族の敵と看做してお相手させて頂きます。手加減は致しませんぞ!」
「いい覚悟だね、ゴーモト。その覚悟に免じて、おまえに与えた僕の加護は、そのままにしておいてあげるよ」
バキエルはやはり、世間話でもするかのように穏やかに、微笑さえ湛えて口にした。
しかし、コボルトの王は次の瞬間、意外にもと言うべきか、予想通りと言うべきか、身を翻して逃げ去った。
「ゴグ!マゴクよ!生まれ変わったおまえたちの力を見せつけてやれ!」
それがこの時、コボルトの王が残した最後の言葉であった。
ゴブリンの王とオークの王は、互いに顔を見合せ首をかしげたが、やがて仕方がないという様子で一行に向き直り、可能態たちに一斉攻撃の掛け声を掛けた。
「行け!力ある者どもよ!」
「あの人間どもを蹂躙せよ!」
その言葉を聞いて、グィードはゴブリンの王とオークの王が以前とまったく同じ存在ではないことに気付いた。
以前のゴブリンの王とオークの王は、人語を発することはなかったからである。
また、可能態たちに命じるにしろ、本来であればわざわざ人語を使う必要はない。
つまり、ゴブリンの王とオークの王は今、グィードたちに対する威圧のために、わざわざ人語で可能態たちに命じたのだ。
だがもはや、それ以上考えている余裕はなかった。
グィードが一行を振り返って叫ぶ。
「奴等の自己再生能力は凄まじい!まずは完全に戦闘不能にするんだ。そして焼き尽くせ!ディオゲネス!アーシェラ!準備を頼む!」
ディオゲネスとアーシェラが黙って頷く。
「バキエル!おまえは燃やすのは得意か?」
グィードが尋ねた。
「はい!任せてください!」
バキエルが優等生のように答える。
「よし!いい返事だ!任せたぞ!」
そう言ってグィードは、双剣を携えたまま可能態の群れに向かって走り出した。
人狼もまた、グィードを追うように走る。
4人の分身も、鬼人も、グィードたちに続く。
その時、最後の冒険者もどきがヒューゴとレーナの連携攻撃によって撃破された。
「レーナ!俺たちも行こう!」
レーナがヒューゴに黙って頷く。
2人が走り出す。
グィードが最初に接触した可能態は、ゴブリン型であった。
右手に大剣を持ち、左手には大盾を装備していた。
「死神の大鎌・交響曲!!!」
グィードの身体が4人に分かれた。
超高速移動と静止を繰り返すことによって生まれる残像であったが、それを目撃している誰もが、実際に4人のグィードが存在しているように錯覚する。
4人の分身が同時にゴブリン型に攻撃を仕掛ける。
「「「「死神による速弾きの追奏曲!!」」」」
4人の分身が8本の死神の大鎌と化した黒い虹を持ってゴブリン型に殺到する。
グァァァァァァァァァァ!!!
ゴブリン型は狂ったように大剣と大盾を振り回し、分身たちを払い除けようとするが、分身たちはさらに加速して回避と攻撃を繰り返す。
気が付けば分身は8人に増えている。
16本の死神の大鎌がゴブリン型を斬り刻む。
ゴブリン型の身体は早くも肉塊となっていた。
ディオゲネスとアーシェラの視線が交わり、静かに頷く。
「「風精炎獄陣!!」」
先程までゴブリン型であった肉塊を結界が覆い、その中に地獄の業火が満ちる。
肉塊は消し炭となり雲散霧消した。
その様子を眺めながらバキエルが傍らに立つ双魚宮のチグリスに声を掛ける。
「チグリス!これを!」
バキエルが機関銃、塵から塵へをチグリスの方へと放る。
チグリスは頷くと同時に、自分の持っている小型拳銃、優しい悪魔をユーフラテスに放る。
「ユーフラテス!」
チグリスが塵から塵へをキャッチし、ユーフラテスは優しい悪魔をキャッチする。
ユーフラテスは2丁の拳銃を両手で巧みに操り構え直す。
同時にバキエルは、すでに野蛮の園を展開して、新たな兵器を取り出している。
それは未知の金属で造られた、小型化した攻城砲のように一同の目には映った。
超古代兵器、酸化還元反応弾発射器。
アルミニウムと酸化鉄のナノ粒子に数種の特殊溶剤を混合したテルミットと呼ばれる焼夷剤を封入した小型爆弾を発射し、化学反応によって極小範囲に最大で約6000度の超高熱を発生させる対魔神用焼夷兵器である。
バキエルはそれを、化学的修道士と名付けた。
バキエルたち3人にオーク型が接近しつつあった。
チグリスの塵から塵へが火を吹く。
ダダダダダダダダダ……
オーク型の胴体に全弾が命中して巨大な穴が空くが、早くも塞がり始める。
ユーフラテスはオーク型の懐に飛びこみ、2丁の優しい悪魔の銃口を頭上に向けて、立て続けに引き金を引く。
ヴォン!ヴォン!ヴォン!ヴォン!ヴォン!
本来の小型拳銃は単発式であるが、使用者の魔力によって瞬時に装填される魔弾を用いる優しい悪魔は、連射が可能なのだ。
5発の魔弾がオーク型の顎から脳天に突き抜ける。
のたうち回るオーク型の懐から、ユーフラテスが素早く退避する。
チグリスの塵から塵へが再び火を吹く。
ダダダダダ、ダダダダダダダダダ……
掃射された無数の魔弾がオーク型の両足を削り取り、オーク型の身体が沈む。
魔弾の掃射は止まらず。
オーク型の上半身もグズグズの肉塊に変わる。
「良し、もう充分だ!」
バキエルが叫ぶ。
肉塊はなおも再生しようとしていた。
バキエルが化学的修道士の引き金を引く。
ボシュン!
酸化還元反応弾が発射され、肉塊に命中する。
瞬時に化学反応が始まり、超高温の火柱が肉塊を焼き尽くす。
一行は戦闘を続けながらも、その光景の凄まじさに目を見張っていた。
なお7体の邪妖精可能態と、ゴブリンの王とオークの王が健在であったが、一行はすでに自分たちの勝利を疑っていなかった。




