原初の精霊
今回もとりあえず更新。誤字などは後で修正する予定です。こんなんばっかりですみません。今後ともよろしくお願いいたします。
飛竜を撃破した一行は、予定通りカルデラ中央にある森を目指すことにした。
森に向って歩きながら一行が気付いたことは、同じ深淵でありながら、このカルデラを照らす光が、以前訪れた暗い森周辺の地域よりも強いということであった。
やはり、どこか人工的な光であることには変わりはないのであるが、その明るさが強いのだ。
言うなれば、暗い森周辺の明るさは冬の曇天であり、いま一行がいるカルデラは春の晴れた朝を思わせる爽やかな明るさを持っていた。
そこで一行は、危うく自分たちが地下世界にいることを忘れてしまいそうであった。
森が近づいて来た時、グィードが口を開いた。
「周りが岩地だというのに、あそこにだけあれだけの木が密集しているということは、誰かが管理をしているんだろうな?」
「ええ。じつは私もそれが気になっていました」
ディオゲネスが答える。
「ではこの森には人間が住んでいるということか?」
アルフォンスが尋ねる。
「あるいは、人間と同じような嗜好を持つ魔物か」
ムスターファが答える。
「そんな魔物がいるの?」
ヒューゴがディオゲネスの方を見ながら尋ねる。
「さあ、ただ魔王はもとは人間でしたし、魔族の中にも、もとは人間だった者がいるということですから」
ディオゲネスが答える。
「そもそも魔族って何なの?普通の魔物とどう違うの?」
ヒューゴが重ねて尋ねる。
「創世神話によれば、」
そう言って語り出したのはレーナであった。
レーナは幼い頃から祭司になるための備えとして、母アーデラから聖典を学ばせられていた。
「もともとは魔王と共に創造主に反逆した者たち、つまり神話時代の人間たちの一部が魔族の始祖であると言われているわ。因みに、その時魔王に与しなかったのが神話時代後の人類の始祖となる輝けるイマとその一族よ」
「さすがは祭司の卵だ。詳しいんだな」
ヒューゴが感心したように言う。
「まあね」
レーナも満更でもないという顔をする。
「でも、じゃあ魔族っていうのは、みんなもとは人間なんじゃ?」
ヒューゴがまた疑問を口にする。
レーナは沈黙する。
そこまでのことは聖典には書かれていないのだ。
「そう言えば、このまえ偉大なるネズミの王が、自分は魔族大公から男爵の称号を拝領したと言っていましたね。確かどこかの本に魔族は皆、爵位を持っているといったことが書いてあったと思います」
ディオゲネスが記憶を探るように言った。
「つまり彼奴は魔族だってことだな」
グィードが確認する。
「ええ。あの口ぶりからすると魔族というのは、魔物たちの中の階級を現わすもののようですね」
ディオゲネスが答える。
「ねえ、そういうことはウァサゴに聞けば何か知っているんじゃない?」
ヒューゴが何気なく言った。
一行は成る程という顔をして、レーナの荷物袋から顔を出している黒猫の顔を見た。
すると黒猫がぴょんと荷物袋から飛び出して、人間の姿を取った。
「やっと私のことを思い出してくださったようですね」
そう言って、ウァサゴが美しい微笑を浮かべた。
「おまえもずっと話を聞いていたんなら、自分から会話に入って来いよ」
グィードはそう言って、ウァサゴを責めた。
「尋ねられてもいないことを自分から話すなんて、そんな恥ずかしいことはできません」
ウァサゴはしれっと答えた。
それを聞いて、一行は互いの顔を見合わせる。
やっぱり精霊の考えはよくわからんと、呆れるグィードと一行であった。
「それで魔族というのは、簡単に言ってどういう存在のことを言うんだ?」
グィードが改めてウァサゴに尋ねた。
「そうですね、私が知る限りでは、魔族とはもともと、魔王であるアルヴァーンの一族を指す言葉でした。それがやがて魔王から特別な加護を受けた魔物たちも同じく魔族と呼ばれるようになり、さらには爵位などの制度が確立されたようですね。下位の者では爵位の順位と能力の高さは必ずしも比例しないようですが、公爵以上の者は原初の魔族であり、能力も別格だと言われています」
ウァサゴはここまでをすらすらと答えた。
「ところで、これから私たちが向かう森の奥には、どうやら高位の魔族が住んでいるようです」
ウァサゴのその言葉を聞いて、一行の間に緊張が走る。
「どうしてそんなことがわかるんだ?」
グィードがウァサゴに尋ねた。
「はい。じつは私たち精霊は、相手が故意に気配を消したりしていない場合、ある程度近づくと互いの存在を感じ取ることができるのです」
「つまり、この森の奥には精霊がいるという訳か?」
「はい。そして深淵に精霊がいるからには、その契約者は、まず魔族で間違いないでしょうね」
そう言ってウァサゴはムスターファの荷物袋の中で、すまし顔をしている白猫に目を向けた。
ミャオー
白猫はひと鳴きしてから荷物袋を飛び出して、人間の姿を取った。
「そうね。これは多分、私が知っている精霊だわ」
「ほう。私には心当たりがありませんが、よろしければ詳しくお伺いできますか?」
ウァサゴが興味深げにグレモリーに尋ねる。
「黄道十二宮の双魚宮、それがこの先にいる精霊の名前よ」
「ほう、まさか原初の精霊と呼ばれる黄道十二宮に会えるとは」
「原初の精霊?黄道十二宮?俺たちにも詳しく説明してくれ」
グィードがすかさずウァサゴに尋ねる。
「これは失礼しました。私としたことが珍しい名を聞いたものですからつい、興奮してしまいました。黄道十二宮とは、この世界に最初に召喚された十二体の精霊の総称であると聞いたことがあります。私自身はまだ一度も会ったことはありませんが、確かこちらに召喚されて以来、一度も精霊界には帰らず、魔族に仕えているのだとか」
グレモリーがウァサゴの説明に言葉を継ぐ。
「黄道十二宮は皆一人ひとり、魔王の十二人の子どもたちに仕えているのよ。そして双魚宮が仕えているのは確か、バキエルという魔王の末子。あのネズミの化物は、そのバキエルから爵位を拝領したとか言っていたわね」
「それで一応、話は繋がりましたね。つまり、偉大なるネズミの王を影で操っていた黒幕が、この先にはいるということです」
ディオゲネスが言った。
「だが、いきなり黒幕とご対面とはな。偉大なるネズミの王さえ、まだ仕留めてはいないというのに」
アルフォンスが口にした。
「今ならまだ引き返せるんじゃないか?」
ムスターファが冗談混じりに言った。
「向こうがどういうつもりかによるな」
グィードが答えた。
「どういうことだ?」
ムスターファが聞き返す。
「ウァサゴがさっき言ってただろ。精霊はお互いに存在を感じ取るんだ。つまり、向こうもすでに、こっちに気付いているということだ」
「さすがは我が婿どの。ご名答です」
グィードの答えを聞いて、ウァサゴがニヤリと笑いながら言った。




