飛竜強襲
なんとか更新できました。誤字などは後で修正する予定です。蛇足ですがザ・ウォールはピンク・フロイドのアルバムから取りました。ロック・オペラという響きからはロマンしか感じませんよね。
オートヴィル城地下の横穴から一行が辿り着いたのは、やはり深淵であった。
そこはいわゆるカルデラ状の岩地であって、一行が今辿ってきた洞窟は、その外輪山の一画に大きく口を広げていた。
そして一行は、その岩だらけのカルデラ盆地の中央に、人工的に整えられた森があるのが目に入った。
また一行から見て、向かって右側の外輪山の一点から、一本の滝が流れ落ち、その滝から繋がる一本の川が、カルデラ盆地を右から左に横断しているのがわかった。
カルデラ中央に造られた森は、その川の水を利用してのものであることはすぐに想像できた。
それにしても、果たして魔物が、そのようなことを考えるであろうか。
ディオゲネスはそこに、人間的な意図のようなものを感じ取っていた。
果たして深淵に、人間が住んでいるのであろうか。
また住んでいるとすれば、それはいったいどういう人間なのであろうか。
そんな取り留めもない考えが、ディオゲネスの頭の中でぐるぐると回っていた。
「ひとまずはあの森を目指すしかないようだな」
グィードが一行に声を掛けた。
「はい」
アルフォンスがそう応じて歩き出した。
その時、一行の足元を巨大な鳥の影のようなものが横切った。
一行が一斉に頭上を見上げた。
それは飛竜であった。
飛竜は、いわゆる魔王の眷属としての魔物ではなく在来の生物である。
この世界において、最も稀有な存在の一種である竜種の中では比較的個体数も多く、文字通り伝説級の存在である四本足のドラゴンと比べれば亜種とも理解されている二本足のドラゴンである。
しかし、もし大陸のどこかにその目撃証言があれば、最低でも百人からの討伐隊が派遣されるのが通例である。
その最大の特徴は、胴体との比率においては竜種の中で最も大きな翼を持つことであるが、蛇のように長い尻尾の尖端に猛毒のトゲを持つことも忘れてはならない。
そして、飛竜との戦闘において最も警戒すべきは炎の息吹である。
一行が見上げていると、一行の頭上を通過して、一端、遥か上空に飛び去ったかに見えた飛竜は旋回して、一行に狙いを定めて滑空を開始した。
「どうやら俺たちを餌だと認識したようだな」
グィードは暢気につぶやきながら愛剣、黒い虹を構えた。
アルフォンスもまた偉大なる破壊者という名を持つ大剣を構える。
ムスターファは二本一組の三日月刀、戦火と火焔を構える。
それは今回、初めて実戦で用いられる武器であった。
スオウもまた、初めて使う専用の籠手、憤怒の聖者を腰のホルダーから取り出して装備する。
それから何度か両手の拳を握り直して装着感を確かめる。
アーシェラもまた、脆刃の剣と名付けられた細身の剣を抜く。
レーナは、もはや自分の身体の一部のようによく馴染んでいる刃を持つ専用の籠手、駆逐者の爪を装着して構える。
そしてヒューゴが、新生したオリハルコン製の愛剣、永劫回帰を構えた。
その時、一行の構えた武器が、各自の手の中で共振するのを全員が自覚した。
そして、特別な力が自らの身体の中に流れ込むことをも一同は自覚した。
この現象を、後にグィードは英雄波動共振と名付けた。
とは言え、その具体的な効果は徐々にこれから検証されていくのではあったが。
ディオゲネスは炎の息吹に備えて警戒体勢を取る。
飛竜は一行を餌だと認識しているため、いきなり炎の息吹を仕掛けて来ることはないだろう。
それがディオゲネスの予測であった。
案の定、飛竜はまず、鋭い爪で攻撃を仕掛けてきた。
狙いはレーナとアーシェラであった。
レーナは駆逐者の爪の刃を交差して飛竜の爪を防いだ。
アーシェラも同じく脆刃の剣で爪を受け流した。
ギャオォォォォォォン!
飛竜は自分の第一撃が躱されたのではなく、防がれたことに怒りを覚えた。
脆弱で矮小な生き物だと思っていた獲物が、自らの爪を持って対抗してきたのだ。
上空で旋回して、再び一行に向けて滑空を始める。
今度は巨大な顎を開いて一行に襲い掛かる。
一行はいよいよ息を合わせて反撃の機会を窺う。
「死神の大鎌!!」
グィードの愛剣の剣身が巨大化する。
その剣身であれば、飛竜の牙を受け流すだけでなく、充分にダメージを与えられそうであった。
グィードは飛竜を待たず、自らその眼前に走り寄った。
そのまま、飛竜の頭の横を走り抜けざまに死神の大鎌を垂直に走らせる。
ガキンッ!
グィードの死神の大鎌が飛竜の牙もろとも口角を斬り裂く。
その傷口から赤い血が吹き出す。
ギャオォォォォォォォォ!!
悲鳴を挙げつつも飛竜は止まらない。
「王殺し!!」
グィードに続いて走り出していたヒューゴが跳躍して愛剣、永劫回帰を水平に振るった。
永劫回帰の剣身が巨大化する。
ヒューゴの狙いは飛竜の左目であった。
ギャオォォォォォォォォォォン!!
眼球を斬り裂かれた飛竜が苦痛の叫びを挙げる。
痛みに身を捩らせながら、飛竜は大地に墜落した。
一行は飛び退いてその巨体を躱した。
飛竜が起き上がる間に、一行はその回りを取り囲む。
飛竜の尻尾が一行を威嚇するかのように持ち上げられる。
次瞬、その先端のトゲがヒューゴ目掛けて襲い掛かる。
しかしヒューゴは、その一撃を愛剣で容易く払い除けた。
飛竜はもはや、一行を獲物とは見なしていなかった。
この小さな生き物の群れは危険な敵である。
ならば焼き尽くしてしまわなければ。
飛竜が大きく息を吸い込んだ。
「今だ!絶対防壁!!」
ディオゲネスが両手を前に突き出しつつ唱えた!
絶対防壁とは万魔殿において、一行がグレーターデーモンと戦闘した際に用いた防護結界をもとにディオゲネスが開発した最新の防御魔法であった。
その効力は、継続性を犠牲にすることで、発動後ほんの数秒に限って、あらゆる物理・魔法攻撃を完全に遮断する結界をパーティー全体に付与するというものである。
その圧倒的な防護力を発揮するために、ディオゲネスは絶対防壁発動の前後しばらくは、その他の行動を制限されるが、それだけのリスクを負ってもなお、戦況を一気に好転させるだけの可能性を秘めた、言わば切り札的な魔法であることをディオゲネスは確信していた。
飛竜が怒りに任せて吐き出した炎の息吹は、一瞬にして一同を焼き尽くすかと思われたが、絶対防壁の効力によって、だれひとり軽い火傷さえ負うことはなかった。
次瞬、勝負は決した。
「死神の速弾き!!」
「王殺しの速弾き!!」
「餓狼爪襲乱舞!!」
「剣舞、迅雷風烈!!」
「鬼功法、百鬼繚乱!!」
「駆逐者の速弾き!!」
六人の卓越した戦士による圧倒的な連携攻撃が飛竜の肉体を破壊し尽くす。
「風精火炎放射!!」
そしてその残骸は完全に焼き尽くされた。
亜種とは言え、竜種の一画を占める飛竜を、こうもあっさりと滅ぼしてしまうとは、もはや一行の戦闘能力は単なる冒険者の範疇を遥かに超えていると、グィードは改めて感心していた。




