幕間の物語 ~魔族大公バキエル~
幕間なので短めです。次回予告的な感じでお楽しみ頂けましたら幸いです。
そこはよく管理された美しい庭園であった。
しかしその庭園を照らす太陽は、この世界には存在しなかった。
その代わりに、どこからともなく人工的な光が昼も夜もなく、その庭園を照らしているのであった。
その庭園の中央にある白亜の東屋の長椅子に、三人の人影が腰掛けていた。
一見すると母親と姉、あるいは二人の姉に挟まれた少年という風に見えなくもない。
少年の両脇に美しい女が二人座している。
しかし一際目を引くのは、両脇に座す二人の女よりも、さらに美しい貌を持つ少年の方であった。
透き通るような肌と深い水底を思わせる髪色と瞳を持った美貌の少年。
その少年の活き活きとした美しさに比べると、両脇の女の美しさはどこか作り物めいていた。
「リロイは例の冒険者たちに、またやられちゃったみたいだね。せっかく男爵の称号も与えてやったって言うのに、がっかりだなぁ」
少年が誰に対してということもなく言葉を発した。
「所詮は汚らわしい野ネズミということでしょう。バキエル様が気に掛けるほどの存在ではありません。もう忘れてしまってはいかがですか?」
少年の右側に座す女が答えた。
「そうですわ。バキエル様はここで、私たちと永遠の愛を楽しみましょうよ。ふふふ」
「そうだね。僕はもともと地上の支配とか、神々への復讐とか、そういうことには関心がないんだ」
バキエルと呼ばれた少年は無邪気に答えた。
「でもね。母さんにはもう一度、会いたいんだよ。わかってくれるだろ、チグリス、ユーフラテス」
バキエルは迷子の子どものように、目に涙を浮かべながら言った。
チグリスとユーフラテス、それが少年の両脇に座す二人の女の名前であった。
魔族大公バキエル、あのオートヴィルの地下で偉大なるネズミの王は、この少年のことをそう呼んでいた。
すなわち、この少年こそ、魔王の十二人の子の一人なのだ。
「ああ、お可哀想なバキエル様。私たちが永遠にあなたを慰めて差し上げますよ。双魚宮のチグリスと」
「ユーフラテスが」
双魚宮、それがこの二体の精霊の真の名であった。
正確には双魚宮は二身一体の精霊であることをバキエルは知っていた。
遥か昔に、魔王と呼ばれる以前の父アルヴァーンから授かった黄道十二宮の精霊、双魚宮。
この二身一体の精霊だけが、バキエルが心を許すことのできる唯一の存在なのであった。




