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永劫回帰

永劫回帰という哲学の用語を使っていますが、小難しい哲学を語りたいわけではありません。なんとなく中二心を誘う、ロマン溢れる言葉だという程度でお楽しみ頂ければ幸いです。

 偉大なる(G K R=)ネズミの王(リロイ・ブラウン)が消え去った後、一行はまず、その地下階に残された無数の繭を調べた。

 ディオゲネスの考えでは、繭は内部の人間の生命維持の役割を果たしており、そこから伸びる管状の構造物は単純な生命力というよりは、人間のもっと根源的な部分、文字通り魂から読み取ったある種の情報を伝達していたのであろうということであった。

 そこで繭の中にいる人間は、ちょうど眠っているような状態であり、健康状態になんの異変も見られないという。

 ただ、最初にグィードが繭を切り開いた者も、その後自力で繭から出て来ることはなかった。

 それは繭の内壁から生命維持に必要な養分とともに、ある種の麻酔薬のようなものが分泌されており、それが内部の人間の皮膚から浸透しているためであろうということであった。

 結論として、繭の中の人々はひとまずこのままにして、後日オーデンセから回復職(ヒーラー)を中心とした大規模の救助隊を派遣して貰おうということになった。

 続いて一行は、魂の錬金器プリティ・ヘイト・マシーンを破壊することにした。

 ディオゲネスがその構造を一通り調べたところ、装置の基幹部に魔神兵(モーターヘッド=)(アザゼル)の額にあったのと同じ水晶体を発見した。

 恐らくその水晶体に妖精の指輪(フェアリーリング)を収めることで、初めて装置が作動するのであろうということであったが、こんなに危険なものをそのまま放置することはできないというのが一行の考えであった。

 ディゲネスがもう一度良く調べ、どうやら繭の生命維持効果と魂の錬金器プリティ・ヘイト・マシーンには直接係わりがないことがわかると、まずはその基幹部だけを破壊した。

 繭の中にとらわれた人々の救助が終われば、改めて完全に破壊する必要があるだろうとディオゲネスは考えていた。

 またディオゲネスは、オーデンセからの救助隊を即座にオートヴィルに送るために、オートヴィル城の中庭にも時空の扉(ザ・ドアーズ)を設置することにした。

  

 一行がオーデンセの冒険者ギルド地下に設置された時空の扉(ザ・ドアーズ)に帰還したのは、その日の昼過ぎであった。

 それから一行は、すぐにギルド支部長(ギルドマスター)ハンネスの執務室を訪ねた。

 「まさか、そんなことが」

 一行の報告にハンネスは顔を青くした。

 「俺は思うんだが、ギルドの上層部は魔王(アルヴァーン)復活の兆しがあること自体には、すでに気付いているだろう。あるいは、それに気付いているからこそアルフォンスたちを使って、俺を表舞台に引っ張り出したのかもしれない」

 グィードがハンネスにそう話した。

 「だから今回のことは、すべてギルド本部に報告し貰って構わない。ギルドの人間も馬鹿じゃあない。それをそのまま世間に言い広めたりはしないだろう」

 「わかりました」

 ハンネスは短く頷いた。

 それから一行は、ハンネスと今後の行動計画を打ち合わせした。

 オートヴィルへの救助隊は、ギルド専属の回復職(ヒーラー)チームと創造主(ル・カイン)教会の祭司(プリースト)たちを合わせて、およそ50人ほどが明日にでも出発できるとのことであった。

 そこで、時空の扉(ザ・ドアーズ)での移動のためにディオゲネスが付き添う必要があることや、念のための護衛として一行も同行することで話がまとまった。

 それから一行は、行きつけの宿屋炎の蛙(ファイヤーフロッグス)で昼食を取った後、オリハルコンの秘密について教えを請うためにヴォルカスの店に向った。

 ディオゲネスがオートヴィルでの出来事を話すとヴォルカスは神妙な顔で応じた。

 「そうか、そんなことがあったか。確かにオリハルコンの製錬技術は、超古代文明スーパー・ハイエンシェント遺産(レガシー)として、ミスリル工匠(マイスター)の中でもごく限られた者たちにだけ伝えられている秘術じゃ。そしてそれは、一種の錬金術だとも理解されておる」

 「錬金術ですか?」

 「ああ、一般に錬金術と言えば、様々な卑金属から貴金属やその他の稀少金属、あるいは魔法物質を製錬しようとする試みじゃと理解されておるが、その本来の目的は、その研究を通して術者の肉体や魂をより完全な存在に錬成することにある。そしてわしは若い頃、鍛冶職人としてより高みを目指すために、錬金術にも傾倒した時期があるのじゃ」

 ヴォルカスはそこで、昔を懐かしむように一息の間を置いた。

 「わしは願望(ウィッシュ)を鍛えることで、一段上の存在に成れると信じておったんじゃが、結果はこの通り、なにも起きんかった。それでわしは創作意欲をまったくなくしてしまっていたんじゃが、そこへおまえさんたちがやって来た。そうしてわしは、再び創作意欲に燃えているというわけじゃ」

 「錬金術と言えば、妖精の指輪(フェアリーリング)については、巨匠(マイスター)はどのようなご意見をお持ちですか?」

 ディオゲネスが尋ねた。

 「妖精の指輪(フェアリーリング)か。おまえさんたちの話を聞くまでは、単なる魔力を強化する装身具程度に考えておったが、どうやら錬金術とも深い関わりがありそうじゃな。あるいは、オリハルコンが素材として使われたことで錬金術との関わりが深まったのかも知れんが」

 「そうですか。じつは私も一瞬見ただけなのですが、どうやら妖精の指輪(フェアリーリング)の意匠には2匹のウロボロスが用いられていたような気がするんです」

 その言葉を聞いた瞬間、ヴォルカスの目が大きく見開かれた。

 ウロボロスとは、己の尾を噛んで環となった蛇を図案化したものであり、神秘学においては人間の魂の原型、あるいは循環性や永続性、生と死、陰と陽、無限性、完全性などを象徴するものとして、古来から用いられている意匠である。

 「そうか!2匹のウロボロスか!」

 ヴォルカスはそう言って、今度は目を輝かせた。

 「なあヒューゴ、今晩一晩、おまえさんの願望(ウィッシュ)をわしに預けてくれんか?」

 ヴォルカスの願いにヒューゴは即答した。

 「もちろん。だって願望(ウィッシュ)はもともとヴォルカスのものじゃないか。それに、願望(ウィッシュ)もグィードの剣みたいに打ち直してくれるんでしょ?」

 「ああ、そうじゃ。そして今度こそ、この世界(ザラトゥストラ)で最高の剣に打ち直してやるつもりじゃ!」

 「やったぁ!じゃあ、よろしく頼むよ!」

 ヒューゴは無邪気に、そう答えた。

 そうして一行はヒューゴの愛剣、願望(ウィッシュ)を預けてヴォルカスの店を後にした。

 

 それから一行は炎の蛙(ファイヤーフロッグス)で宿を取り、翌朝一番にヴォルカスの店に向かった。

 ヒューゴは昨夜、いったいヴォルカスが願望(ウィッシュ)をどんな剣に打ち直すのか気になって一睡もできなかった。

 店に入ると、ヴォルカスもやはり寝不足のようであった。

 しかしヴォルカスは、まるで少年のように生き生きとした表情で一行を迎えた。

 カウンターの上には、すでに一振りの長剣(ブロードソード)が置かれていた。

 一行の目は、まずその長剣(ブロードソード)の柄の意匠に引き込まれた。

 そこには見事なウロボロスの彫刻が施されていた。

 ヒューゴがその柄に手を伸ばして握った。

 それだけで、その長剣(ブロードソード)から特別な力が自分の身体に流れ込むのをヒューゴは感じた。

 そしてその瞬間、一行は同じくヴォルカスの手になる自分たちの武器が、共振するのを感じた気がした。

 続いてヒューゴは、そのを長剣(ブロードソード)を鞘から抜いた。

 なんとその剣身にもウロボロスが浮き上がっていた。

 そしてその全体を見回すと、柄のウロボロスと剣身のウロボロスは、互いにその尾を食らい合っていたのである。

 「どうじゃ、わしの最高傑作、永劫回帰エターナル・リカーランスじゃ」

 「永劫回帰エターナル・リカーランスか、最高だよ!でもヴォルカス、名前がちょと長いかも。略してエタリカってのはどうかな?」

 ヒューゴが目を輝かせながらも、そう提案した。

 「う~ん」

 ヴォルカスが納得のいかなそうな顔で考え込んだ。

 するとディオゲネスが口を挟んだ。

 「ではメタリカというのはどうでしょう?ある古代王国の言葉で金属という意味です。比類なき伝説の金属オリハルコンの剣に相応しい名だと思いますが」

 「メタリカか、それは良い名じゃな!」

 ヴォルカスが納得したように頷いた。

 「よし、それじゃあ今日から俺の愛剣は永劫回帰(メタリカ)だ!」

 ヒューゴがそう名付けた時、一行の持つヴォルカスの手になる武器が、先ほどよりもはっきりと共振するのを感じた。

 それからヴォルカスはカウンターの上に、二振りの三日月刀(シャムシール)と一組の籠手(ナックル)を置いた。

 二振りの三日月刀(シャムシール)は、どちらも柄の部分が燃える炎を模した意匠となっていた。

 またそれがムスターファ専用の武器として意図されたものであることが一同には明らかであった。

 「これはアダマンチウム製の2本一組の三日月刀(シャムシール)戦火と火焔ファイト・ファイヤー・ウィズ・ファイヤーじゃ」

 そう言ってヴォルカスはムスターファに目を向けた。

 ムスターファはそのうちの1本に手を伸ばし、まじまじと見つめながら口を開いた。

 「これは見事なものだな」

 「気に入ったか?」

 ヴォルカスが嬉しそうに尋ねた。

 「ああ、気に入った!」

 ムスターファがはっきりと答えた。

 その籠手(ナックル)は、細かい鱗のような部品(パーツ)を繋ぎ合わせた、五指すべての関節が可動可能な造りになっていた。

 「こいつは憤怒の聖者(セイント・アンガー)、アダマンチウム製の籠手(ナックル)だが、特殊な仕掛け(ギミック)が施してあってな、おまえさんの鬼人(オウガ)化に合わせて伸縮するようにできておる」

 今度はヴォルカスがスオウに目を向けながら言った。

 「お、俺にか?」

 スオウは心底驚いたように応じた。

 「そうじゃ。心配要らん。素手で戦っている感覚とほとんど変わらんはずじゃ」

 「そうか、俺の武器か」

 そう言ってスオウは嬉しそうに籠手(ナックル)憤怒の聖者(セイント・アンガー)に手を伸ばした。

 これでディオゲネスを除く一行すべての武器は、ヴォルカスの作で統一されたことになる。

 そしてそのことが特別な意味を持つことを、一行はまだ気付いていなかった。

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