魔神兵装
魔神兵装の元ネタは、わかる人にはすぐにわかると思いますが、オマージュと理解していただければ幸いです。とにかく自分が楽しんで、書きたいものを書きたいように書かせて頂いています。今後ともよろしくお願いします。
一行の目の前に現れたのは金属で造られた巨人であった。
恐らくそれは純粋なコボルダイト製なのであろうと、ディオゲネスは判断した。
「魔道人形か!」
グィードが叫んだ。
「魔道人形?ふふ、これは魔道人形などではない。これは我が鎧、魔神兵装アザゼルだ!」
偉大なるネズミの王が精神感応で答えた。
次の瞬間、偉大なるネズミの王の身体が光の球体に包まれて浮き上がる。
やがて召喚された巨人、魔神兵装アザゼルの胸部が光球に包まれた偉大なるネズミの王を招き入れるかのように開き、その内側に光球を収納すると静かに閉じた。
「まさか、これが魔王戦役において魔族が駆り、一機で一万の兵を壊滅させたという巨人型破壊兵器の正体なのか?」
ディオゲネスが驚嘆とともに、自らの推測を口にした。
「下等な人間どもよ!死ぬがいい!魔神の鉄拳!!!」
掛け声と同時に魔神兵装の巨大な拳が一行に襲い掛かる。
一行は一斉に飛び退いて、その攻撃を辛うじて躱す。
一行が一瞬前まで立っていた位置の床石が粉砕されて飛び散る。
一瞬遅れて、ディオゲネスが一行に夢見る兵士を付与する。
「なんて破壊力だ。あいつの直撃を受けるのはまずい!」
アルフォンスが叫ぶ。
「ちっ、すばしっこい奴等め!ではこれならどうだ!魔神光線砲!!!」
その声と同時に魔神兵装の右手首が反り返り、そこに攻城砲の発射口のような筒状の構造物が露出する。
「ヤバそうな気がする!避けろ!」
グィードが叫んだ。
一行が再びその場から飛び退いた。
次の瞬間、飛び退いた一行の間の空間を超高温の光線が走り、その先の床石をどろどろに溶かした。
「こいつはまさか、超古代文明の魔法か?」
グィードがつぶやいた。
それを傍らで聞いていたディオゲネスが尋ねる。
「そんなものが実在しているんですか?」
「さあな。昔の仲間がそんな話をしていたのを思い出しただけだ。おっと、悠長に話をしている暇はないらしい」
そう言って、グィードは魔神兵装の方を顔で指し示した。
魔神兵装が再び光線砲の発射準備をしているのが、ディオゲネスにもわかった。
「監禁者よ!行け!」
ディオゲネスが右手を魔神兵装に向けて翳した。
次瞬、魔神兵装の右腕を捕らえようとした監禁者が、展開しようとした直後に消滅した。
「なにっ!監禁者が打ち消された!」
魔神兵装の装甲の表面には監禁者よりも強力な不可視の防護幕が施されていたのだ。
「今度こそ喰らうがいい!魔神光線砲!!!」
その時、ディオゲネスがもう一度、右手を魔神兵装に向けた。
「隔離室!!」
光線砲の発射口の先に隔離室が展開した。
光線砲のエネルギーは、見事に隔離室に吸収された。
「なんと、光線砲を防いだのか?」
偉大なるネズミの王の驚いたような声が、一行の頭の中に響く。
ディオゲネスはそのまま、隔離室を魔神兵装の頭部付近まで移動させて解放した。
隔離室から解放された光線砲の熱線が魔神兵装に向かって放出されるが、やはり不可視の防護幕に弾かれてしまった。
「あの防護幕をどうにかしなければ、こちらの攻撃は届きそうにありませんね」
ディオゲネスが言った。
「死神による速弾き!!!」
グィードが死神の大鎌による超高速の連撃を放つが、すべて防護幕に弾かれてしまった。
アルフォンスもまた、即座に獣人化して攻撃を開始する。
「餓狼剣疾風乱舞!!!」
しかし、人狼の音速剣もまた、防護幕に弾かれる。
「こいつは厄介だぞ!」
グィードが叫んだ。
その時ヒューゴが愛剣、願望を両手で振り上げて魔神兵装の右足に垂直に振り下ろした。
「王殺し!!」
バシッ!
すると、ヒューゴの王殺しは、魔神兵装の防護幕を突き破って、その右足の装甲を大きく斬り裂いた。
だが次の瞬間には、その裂け目もまた、みるみる塞がる。
しかし、手応えを感じたヒューゴは止まらない。
「王殺しの速弾きの追奏曲!!!」
ヒューゴの亜音速の連撃が、魔神兵装の右足の装甲を斬り刻んだ。
ズシン!
右足の膝から下を失った魔神兵装の身体が、大きく傾き沈む。
「オリハルコンの力か!」
ディオゲネスが閃いたように叫んだ。
「どういうことだ?」
グィードが訪ねる。
「恐らくオリハルコンも、超古代文明の産物なんです」
「そうか、それでヒューゴの願望なら、あの防護幕を破れるってことか!」
グィードがディオゲネスにそう確認した瞬間、魔神兵装の巨大な拳が二人を襲った。
「魔神の鉄拳!!!」
グィードとディオゲネスは素早く飛び退いて、それを躱す。
粉砕された床石の破片が、グィードとディオゲネスを襲う。
グィードはその破片をすべて愛剣で弾き、ディオゲネスは自身を覆う物理結界によってそれを防いだ。
「ヒューゴ!その巨人のどこかに、結界を展開するための機構が存在しているはずです。それを破壊してください!」
ディオゲネスがヒューゴに叫んだ。
「わかった!」
ヒューゴは一端、魔神兵装から離れて、その全体を観察する。
しかし、それらしいものを発見することができなかった。
数秒が経過すると、先ほど失われた魔神兵装の右足は完全に復元していた。
偉大なるネズミの王も願望の危険性を悟り、ヒューゴに集中攻撃を始めた。
魔神兵装の右足が持ち上がり、ヒューゴを踏みつけようと襲い掛かる。
「魔神の足踏み!!!」
ヒューゴはその攻撃を跳躍して躱す。
その時、アーシェラが叫んだ。
「あの巨人の額に、水晶体が露出しているわね!その中に指輪のようなものがあると風精霊が言っているわ」
アーシェラは風精霊に魔神兵装の全身を探査させていたのだ。
「よくやった!アーシェラ!」
グィードが叫ぶ。
「ヒューゴ!その指輪が妖精の指輪に違いありません!その水晶体を狙ってください!」
ディオゲネスが叫んだ。
「よし、わかった!」
「恐らくそれで、防護幕が解除されるはずです。その時には全員で、最大火力の攻撃を仕掛けましょう!」
ディオゲネスが続けて叫ぶ!
「任せろ!」
そう答えて、グィードは古代語の詠唱を始める。
「大いなる教導者よ、忘却の彼方より来たりて、汝の剣を我に示せ!」
グィードの愛剣が二本に分かれる。
「了解した!」
ムスターファもまた、答えると同時に有り余る戯言を発動した。
ムスターファの身体が一瞬揺らぎ、すぐに四体に分かれる。
アーシェラもまた、目を閉じて詠唱を始める。
「偉大なる爆炎の支配者よ、契約に基づき我が前に姿を現わせ、我が名はアーシェラ。炎の魔神よ!」
アーシェラの目の前に炎の魔神が現れた。
炎の魔神は、以前現れた時よりもさらに一回り大きく、より凶暴そうな容姿をしていた。
「味わわせてやるぞ!俺の鬼人の宴を!」
スオウの鬼人化が始まる。
レーナは片膝をついて祈りを捧げている。
ヒューゴは魔神兵装の猛攻を回避しながら、その身体に取り付く隙を狙う。
魔神兵装の鉄拳がヒューゴを襲った。
ヒューゴはそれを垂直に跳躍して躱すと、その振り下ろされた拳の上に着地した。
ヒューゴはそのまま、魔神兵装の右腕を肩まで一気に駆け上がる。
魔神兵装の左手が、ヒューゴを払いのけようと右肩に伸びるが、もう遅かった。
ヒューゴは再び跳躍して願望を振り上げる。
「王殺し!!!」
ヒューゴの王殺しが魔神兵装の額にある水晶体を打ち砕いた。
飛び散る水晶体の欠片に混ざって、妖精の指輪もまた宙に舞い、やがて床に転がった。
その瞬間、魔神兵装を覆う防護幕が消失したことを、一行は直観的に悟った。
「行くぞ!」
双剣を構えるグィードが、叫びながら魔神兵装に向って走る。
「死神の大鎌・狂詩曲!!!」
人狼も、それに合わせて走る。
「餓狼剣疾風乱舞!!!」
グィードの超高速の連撃と人狼の音速剣が同調する。
「「人狼のための狂詩曲!!!」」
四体の分身もまた、一斉にそこに飛び込む。
グィードの双剣と四体の分身の双刀が同調する。
「「放浪者のための狂詩曲!!!」」
卓越した六人の剣士による十一本の剣が、魔神兵装の下半身の装甲をズタズタに斬り裂く。
ほんの数秒で魔神兵装は下半身を完全に失い、轟音とともに崩れ落ちる。
ディオゲネスもまた、三位一体による三種の重複魔法で、魔神兵装を破壊する。
膨大なエネルギーを含んだ爆裂が頭部を吹き飛ばした。
無数の真空の刃が右腕を斬り裂いた。
巨大な氷の槍が左腕を氷漬けにして、次の瞬間、崩壊させた。
胴体だけになった魔神兵装に鬼人と炎の魔神が詰め寄って、嵐のような暴力を振るう。
その中には偉大なるネズミの王がいるはずであった。
レーナはもはや、自分のなすべきことはないことを知り、ただその様子を見守っていた。
魔神兵装はすでに、その原型を留めていなかった。
それは単なる金属の残骸の山であった。
炎の魔神が姿を消し、鬼人もその場に立ち尽くした。
その時、一行の頭の中にあの陰鬱な精神感応の声が響いた。
「まさか、魔神兵装をも打ち破るとは。やはり、恐るべきはオリハルコンの力か」
一行が周囲を見回すと上空に先ほどと同様、光の球体に包まれた偉大なるネズミの王が静かに浮かんでいた。
レーナが呆然とその様子を眺めていると、先ほど床に転がった妖精の指輪が、上空の光球に吸い寄せられるように、ゆっくりと上昇を開始した。
とっさにレーナが走り手を伸ばすが、その手が指輪に触れる寸前、激しい電撃に打たれたように弾かれてしまった。
やがて指輪は偉大なるネズミの王の右手に収まった。
「仕方がない。ここは一度、放棄するほかないようだな。だが人間どもよ、忘れるな。次に会う時こそは、おまえたちの最期だ」
それを聞いたグィードが、嘲笑うように口を開いた。
「絵に描いたように見事な負け惜しみだな!」
一瞬、偉大なるネズミの王の七つの顔が苦々しげに歪んだが、そのまま宙に溶けるように姿を消した。
しばらくの沈黙の後、ディオゲネスが口を開いた。
「ヒューゴがいなければ、やられていたでしょうね」
「ああ。よくやったな、ヒューゴ」
グィードが誇らしげに、ヒューゴに声を掛けた。
「うん。でも、今回は願望の力に助けられただけだよ。俺の実力じゃない」
ヒューゴが自嘲気味に答えた。
「そんなことはありませんよ、ヒューゴ。たぶんヴォルカスは、あなたにだからこそ、その願望を譲ったんだと思います。それはヴォルカスが、あなたの中に偉大な英雄の素質を感じ取ったからでしょう。そして、あなたは事実、その願望の力で、私たち全員の命を救ったんです。これは偶然ではなく、必然だと私は思いますよ」
ディオゲネスが、優しくヒューゴに語り掛けた。
「そして今のところ、彼奴らに対抗できるのは、ヒューゴの願望だけだということが判明したな。これがグレモリーが言っていた、新たな運命と言ったところだろう」
ムスターファが言葉を継いだ。
「つまり俺たちに、選択の余地はなくなったということだ」
グィードが再び口を開いた。
「選択の余地?」
ヒューゴが聞き返す。
「ああ、偉大なるネズミの王の野望、魔王の復活を止められるのは、もう俺たちだけだってことだ」
グィードはそう答えながら、いつものように美髯を撫でていた。




