魂の錬金器
明けましておめでとうございます。とりあえず今年最初の更新をします。誤字脱字などは後で修正する予定です。本年もよろしくお願い致します。
可能態人鼠兵の弱点は頭部であった。
人鼠兵もある程度の自己再生能力は持っていたが、頭部を一撃で粉砕されるか、頭を切り離されると瘴気を拡散させて消滅した。
刀剣を武器とするものは次々と人鼠兵の首を切り落としていった。
鬼人は拳や蹴りで人鼠兵の頭を粉砕するとともに手刀で首を飛ばした。
ディオゲネスは三位一体による頭部への直接攻撃や真空の刃による頚部切断によって死をばら蒔いた。
そうして、可能態人鼠兵は掃討された。
「弱点さえわかれば、大したことなかったな」
グィードは一行に語りかけた。
だが、そのような敵の弱点だけを狙う一方的な戦い方は、一行の戦闘者としての力量が相手を遥かに上回っていためには初めて可能となったものであることをグィードは理解していた。
つまり、これから可能態人鼠兵がもっと量産されることになれば、人類にとって恐るべき敵となることに変わりはなかった。
なんとしても、それは阻止しなければならない。
オートヴィル城の中庭が静まり返っても、もう偉大なるネズミの王の声は語り掛けては来なかった。
「さあ、この城にはなにか秘密があるようだ。探索してみるか」
そう言ってグィードは中庭の奥の扉に向かって歩き出した。
城内はやはり無人であった。
一行はまず玉座の間を始め地上階全体を探索したが、特に変わったところは発見できなかった。
残るは地下の倉庫と捕虜や罪人を収監するための地下牢のみであった。
一行が地下へと続く階段を下ろうとした時、これまで一行の最後尾に白猫の姿で従っていたグレモリーが、人間の姿を取って一行の前に立った。
「どうしたグレモリー、なにかあったのか?」
ムスターファが尋ねた。
「ええムスターファ、また預言が降りてきたのよ」
グレモリーが答えた。
「預言?ですか?」
ディオゲネスが尋ねた。
「そういえばあなたは、そういうのが得意でしたね」
いつの間にか人間の姿を取って現れたウァサゴが口を挟んだ。
「どういうことだ?」
グィードがムスターファに尋ねる。
「俺にも詳しいことはわからないんだが、グレモリーには時々、どこからともなく預言の言葉が与えられるらしい。じつはグィードたちとコーサラで出会った時にも、直前に預言が与えられていたんだ。新たなる運命と出会うだろうとな」
「ほう、それは興味深いですね」
ディオゲネスが興味津々にグレモリーに目を向ける。
「今回はヒューゴ、あなたに対する預言みたいね。あなたはこの先で、新たなる運命に出会うわ」
「ずいぶん大雑把な預言だなぁ」
ヒューゴか答えた。
「預言ってそういうものよ」
グレモリーが無垢な少女のように答えた。
「そっか、よしわかった。じゃあ、心に留めておくよ。ありがとう、グレモリー」
ヒューゴが屈託なく答えた。
「ど、ど、どういたしまして」
グレモリーが顔を真っ赤にしながら答えた。
やっぱり精霊は訳がわからないなとヒューゴは思った。
それから一行は地下へと続く階段を下った。
ディオゲネスが猫の目をパーティーに付与する。
そこには異様な光景が広がっていた。
「これはいったい何なんだ?」
グィードが叫んだ。
オートヴィル城の地下階は、偉大なるネズミの王によって完全に改造されていたのだ。
そこには無数の巨大な繭のようなものが、ところ狭しと並んでいた。
そして、その一つ一つの繭から植物の根や血管を思わせるような管状の構造物が、地下階の奥へと繋がっていた。
一行にはすぐに思い当たることがあった。
「まさかこの中には?」
そう言ってアルフォンスがグィードを見た。
「開けてみるか?」
そう言ってグィードは腰のホルダーから護身用の短刀を取り出した。
グィードはそれを慎重に繭に突き刺し、縦に走らせる。
そしてグィードは、その切り口に両手を差し込んで開く。
その繭の中のものを目にした瞬間、一同の目が大きく見開かれた。
それは人間であった。
行方不明となっていたオートヴィルの住民に違いなかった。
グィードはすぐに呼吸と脈拍を確認する。
「まだ生きている。だがこれだけの数を俺たちだけでは、今すぐにどうこうすることもできないな」
一行の目の届く地下通路の範囲だけで数百個もの繭がずらりと並んでいた。
「とりあえず奥まで進んでみましょう」
ディオゲネスが提案した。
一同が無言で頷いた。
地下通路を進みながらディオゲネスが口を開いた。
「可能態の秘密は、この繭にあると見て間違いないでしょうね」
「つまり奴等は、この繭から人間の魂を吸い上げているということか?」
グィードがディオゲネスに問い掛けた。
「まあ、具体的にどのような技術なのかはわかりませんが、大まかに考えればそんなところでしょうね」
「この繭の中の人間たちを、全員助け出すことはできると思うか?」
「それはまだなんとも。ですが今はまだ彼らが生きていることは確かです」
「できるかどうかじゃなく、やるんだよグィード。俺たちは偉大な英雄のパーティーだから、きっとできるよ」
ヒューゴが穏やかに、しかし決心するようにそう言った。
「ああ、そうだな」
グィードは息子の成長に目を見張った。
ヒューゴはこの短期間のうちに、ただ冒険者としてだけではなく、人間として驚くほど成長していた。
そしてグィードは、大切なことを思い出したように、心の中でつぶやいた。
そうだった、冒険は人を成長させるのだ。
やがて一行は、繭から伸びた管が集中する部屋の前にたどり着いた。
扉は開け放たれている。
その時、一行の頭の中にあの薄気味悪い精神感応の声が聞こえた。
「とうとうここまで来おったか」
そして一行が部屋の中を覗き込むと、そこにはあの歪な形を持つ巨大なネズミの王が立っていた。
しかし一行は、その姿が以前と大きく異なっている点があることに、すぐに気が付いた。
なんと偉大なるネズミの王の七つの頭にはそれぞれ、額から頭頂にかけて縦に三本の角が生えていたのだ。
よく見ると偉大なるネズミの王の足元は、なにかの台座のようになっており、繭から伸びる管はすべて、その台座に集中していた。
そしてその台座からは、不思議な質感を持つ光が立ち昇っていた。
一行の視線に気付いて、偉大なるネズミの王の七つの顔が悦に入ったように歪んだ。
「気付いたか?これこそが我が産み出した魂の錬金器よ」
「魂の錬金器だと?」
グィードが聞き返した。
「魂の錬金器は言うなれば進化の器だ。進化した我が力、味わってみるか?」
「望むところだ!」
ヒューゴが愛剣、願望を構えながら答えた。
その時、偉大なるネズミの王の黄色く濁った十四の瞳が大きく見開かれた。
「先ほどは見間違えかと思ったが、やはりそれはオリハルコンの剣か。どうやらゴーモトは、我になにか隠し事をしているようだな。だが、今の我が進化した存在であるということに変わりはない。そう言えば、おまえたちにはまだ我が名を告げていなかったな。聞け!我が名は鳶色鼠のリロイ、魔族大公バキエル様より男爵の称号を拝領せし者。我が主、魔王様と大公様の名によって、我自らおまえたちを粛清してやろう!」
そう言って偉大なるネズミの王は両手を一行に向けて翳した。
そして偉大なるネズミの王は精神感応ではない、空気を振動させる声で詠唱を開始した。
しかし、その言葉の意味は一行にはわからない。
一行の目の前の床に巨大な魔法陣が出現する。
そしてその中心には、一行が見上げるほど巨大な人形の影が出現した。




