陰鬱な勝利
主人公一行が強力に成りすぎたので、敵も成長させました。宜しければ今後もぜひお付き合い下さい。
炎の壁が消失したのを合図に、一行は駆け出した。
走りながらアルフォンスの獣人化は完了している。
「餓狼剣疾風乱舞!!!」
人狼の音速の斬撃が正面からオーク型に襲い掛かる。
オーク型はそれを大盾で防ぎつつ、人狼の脇腹を目掛けて鉄鎚を水平に振るった。
人狼は一瞬早くそれを察して飛び退く。
グィードはその瞬間オーク型の右横に踏み込み、愛剣を下段から一気に斬り上げた。
「死神の大鎌!!」
鉄鎚を振り切った腕の肘から先が見事に切断された。
グォォォォォォォ!
叫びながらもオーク型はグィードに向き直り、左手の大盾でグィードを殴り付ける。
グィードの身体は後ろに吹き飛ばされる。
グィードは同時に自分でも後方に飛び退いてダメージを半減している。
その時には、すでに人狼が体勢を立て直し、オーク型の左横に踏み込む。
「餓狼剣疾風乱舞!!!」
人狼の音速を超えた初撃がオーク型の左腕を肩から斬り落とす。
ギャァァァァァァァァァ!
オーク型は、それでもなお傷が塞がりつつある残された右腕上腕部で人狼を振り払おうとするが、その腕は音速剣で削り取られるように失われていった。
「止めだ!死神による速弾きの追奏曲!!!」
やがて人狼の音速剣とグィードの超高速の連撃が完全に同調する。
「「人狼のための狂詩曲!!」」
ヒューゴとレーナとスオウの三人はゴブリン型に同時攻撃を仕掛けた。
スオウは走りながら鬼人化していた。
鬼人化したスオウはゴブリン型とほぼ同等の体格を有している。
鬼人の初撃は上段のまわし蹴りであった。
ゴブリン型は大盾でそれを防ぐが、鬼人の蹴りは重くゴブリン型の身体は大きく傾く。
同時にヒューゴは跳躍して、ゴブリン型の頭頂目掛けて愛剣を振り下ろす。
ゴブリン型は咄嗟に大剣を振るって反撃する。
「王殺し!!」
ガシンッ!
ヒューゴの王殺しとゴブリン型の大剣が激突する。
ゴブリン型は片膝を着く。
レーナがゴブリン型の懐に飛び込む。
「心臓を一突き!!」
レーナの駆逐者の爪がゴブリン型の心臓を貫く。
ギャァァァァァァァァァ!!
驚くべきことにゴブリン型は、心臓を貫かれてなお大剣と大盾を振り回して、ヒューゴとレーナを吹き飛ばした。
鬼人は両手でゴブリン型の頭を掴むと、その顔面に右膝蹴りを叩き込んだ。
ゴブリン型の鼻はひしゃげ、歯が折れて飛び散る。
レーナによる胸の傷も、顔の怪我もすぐに回復したが鬼人は構わず、膝蹴りを立て続けに叩き込む。
鈍い音とともにゴブリン型の顔面はひしゃげ続ける。
いくら傷が回復しても痛みを感じない訳ではない。
鬼人の膝が顔面に叩き込まれる度にゴブリン型の心には、痛みと恐怖が刻み込まれる。
やがてヒューゴが体勢を立て直してゴブリン型の背後から斬りつける。
「王殺しの速弾きの追奏曲!!!」
レーナもまた、新たに斬撃属性も加わった駆逐者の爪の刃で斬りつける。
「駆逐者の速弾きの追奏曲!!!」
ヒューゴとレーナの斬撃が完全に同調する。
「「恋人たちの二重奏!!」」
ムスターファは走り出すと同時に有り余る戯言を発動する。
四人の分身がコボルト型を取り囲む。
コボルト型は、双刀を無造作に垂らして、目を閉じている分身に目をつけて双剣で斬り掛かる。
コボルト型は、その分身には隙があると判断したのだ。
だが現実には、明鏡止水と呼ばれるその構えこそ、完全防御と回避を可能とする最も隙のない構えなのであった。
分身の身体が一瞬揺らいだかと思うと、コボルト型の斬撃は空を切っていた。
分身は静かに、ほんの少し上体を反らすことでコボルト型の斬撃を躱していたのだ。
同時に分身の双刀がコボルト型を捉える。
コボルト型の右手首が切断され、大剣を握ったままの手が地に落ちる。
同時にコボルト型の左腿からどす黒い血飛沫が上がる。
ギャァァァァァァァァァ!!
叫びながらコボルト型が左手で大剣を振るった。
分身は双刀を交差して、その斬撃を防ぐ。
ガシンッ!
その時、コボルト型の背後から三体の分身が同時に攻撃を仕掛ける。
一体はコボルト型の両腕を肩から斬り落とした。
一体はコボルト型の両足の膝下を切断した。
コボルト型の身体が足からずり落ちる。
ギャァァァァァァァァァ!!
そして、残る一体は双刀を巨大な鋏のように使ってコボルト型の首を切断した。
コボルト型の頭が叫びながら地面に転がる。
ディオゲネスは三組の闘いを観察していた。
いち早く決着が着いたのはムスターファとコボルト型の戦闘であった。
もはや炎獄陣を使うまでもなかった。
ディオゲネスは地面に転がるコボルト型の頭を、少し大きめに展開した隔離室で覆った。
その隔離室に手を翳し、詠唱破棄による爆裂を五発撃ち込んだ。
隔離室の中でコボルト型の頭は完全に破壊され燃え尽きた。
残された身体の各部分も、それにともない雲散霧消した。
さすがに頭が完全に破壊されれば再生できないのだ。
続いて決着が着いたのはグィードと人狼のコンビとオーク型との戦闘であった。
オーク型はグィードと人狼の斬撃に斬り刻まれて、もはや単なる肉塊に過ぎなかった。
しかし、それでも再生を続けようとしていた。
ディオゲネスはその肉塊をすっぽりと覆う結界を発動する。
「アーシェラ、後は頼みます」
ディオゲネスは、もはや何の関心もなさそうに口にする。
「ええ」
アーシェラもまた、淡々と応じる。
「風精炎獄陣!!!」
結界内は地獄の業火に満たされ、肉塊は消し炭となって消滅した。
ヒューゴとレーナの斬撃、そして鬼人による圧倒的な暴力によって、ゴブリン型もまた肉塊と化しつつあった。
「さあ、後は任せて下さい!」
ディオゲネスがヒューゴたちに声を掛けた。
三人がその場を飛び退ると同時に肉塊が結界に覆われる。
「風精炎獄陣!!!」
三体の新種の魔物は跡形もなく消え去った。
確かに通常の邪妖精とは比べ物にならないほどに強い魔物であった。
だが、それを認識した上で落ち着いて対処すれば、まったく手に負えない相手ということはなかった。
だがそれは、その数が一行よりも少なかったためである。
もしこのクラスの魔物が十体、あるいは百体存在しており、今後も一行に挑み続けて来るとしたらどうなるのであろうか。
そのことを思うと、今回の勝利だけを諸手を挙げて喜ぶことはできない一行であった。




